20210830_Japan2_1(C)Getty images

【森保一監督/ロングインタビュー中編】強豪国が見せた“本当の個”とは何か。日本サッカーは考え直さなければならない

 4位という「結果」を振り返った前編に続く中編は、東京五輪を通じて森保一監督が感じた「日本サッカーに足りなかったもの」についてフォーカスする。【聞き手:川端暁彦/取材日:8月19日】

■奪うことに一生懸命になっていた

――あらためて、森保監督が今大会で感じられた「足りなかったモノ」というのは技術・戦術的な部分で言えば、どういったところでしょうか? スペイン戦が一番「足りなかった」部分を感じたのだろうと思いますが。

あの試合で言えば、奪ったボールをどう保持するのか。つまりプレス回避の部分ですね。奪ったボールを即座に奪い返しに来る相手のプレスを回避し、確実にマイボールにできるかどうか。それが速攻であれ遅攻であれ、もちろん状況の違いはいろいろとありますけれど、そこでの確率というのがまずあると思います。

——スペインと言えばポゼッションプレーですが、むしろカウンタープレスのところで差を感じた?

スペインのプレッシャーをどうかいくぐっていくのかというところが第一でした。ボールの出しどころにすごくタイトに素早く来るので、そこをどうやって回避していけるかということがすごく大きなポイントだったと思っています。

実は五輪以前のロシアのW杯の時点から挙がっていたポイントでもあるんです。トレーニングでも取り組んできた部分でしたが、スペイン戦でやはりそこで課題が出ていました。親善試合とはまるで違う強度であれだけの力を持つチームがやってくる。それをかいくぐる回数が少なくて、結果的にボールを相手に渡してしまうことが増えたことで疲弊も大きくなり、最後の失点にも繋がっていると思っています。

——親善試合では体感できない強豪国の本気のカウンタープレスをどう回避するかという点が一番の課題だったということですね。

全体として攻撃の形ができることは多くなかったですけれど、決定的チャンスを作れた場面もありました。ただやはり、時間が経つにつれて相手に奪われる、奪い返されることが多くなりました。もちろん、すべて回避して繋げるとは言わないですが、その確率を上げて回数を増やせるようにしないといけない。スペイン戦で中山雄太のクロスから前田大然がヘディングしたシーンとか、プレッシャーを回避してやり直してというところから、生まれた結果です。

——個人の技術の問題でしょうか。

もちろん技術力をもっと上げることも大事ですが、予測力やグループとしての準備のところだと思います。基本的なポジショニングや動き出しのところで、それは守備でも同じだと思います。こちらが相手ボールを奪い返せるかどうかという部分ですね。

――日本がうまいこと相手を誘導して奪ったシーンもありましたが、奪われる前に奪い返しの動きが始まっているというか、そもそも奪われても奪い返しやすいポジションを取っていますよね。

奪うことに一生懸命になって、余裕を欠いたところもあったと思います。もうちょっと力が落ちる相手であれば狙って奪えて、次の準備もできていましたし、プレッシャーを回避して攻撃に繋げるということもできていたと思います。奪うことでギリギリになって、次に向けたアクションを起こせませんでした。その差を埋めるための方法が必要だというのはまずあらためて感じているところです。

■ありがちな綻びは見せなかったが…

20210830_Japan2_2(C)Getty images

——ゴールを守るという点ではいかがですか。

115分にああいう形で失点していますが、全体としてはタイトに守れていたと思っています。ブロックを作って組織的に守ることを大切にしつつ、しかし個の責任をハッキリさせて自由にやらせないこともできていました。ブロックがブロックを作るだけで終わってしまって、誰が行くのかハッキリしない、そしてやられるシーンが、日本サッカーの歴史のなかでも多くあったと思いますが、そうではなかった。ブロックを作るけれど、マッチアップの意識もしっかり持たせる。そこは上がった部分だと思っています。

——大会を通じて言うと、クロスやロングボールに対する高さ勝負でDFが勝てていた部分も一つありますが、そもそもサイドで守れていたのも大きいと感じました。酒井宏樹選手をオーバーエイジ枠で起用した理由の一つだったとも思います。破られたシーンはほとんどなかったですよね。

過去の世界大会を分析しても、日本がやられている一つのパターンでした。サイドの守備で勝てず、ゴール前に持っていって入れられてしまう。直接決められることもあれば、スクランブルになってやられることもある。そこは継続してやっていけるようにしていきたいですね。

——2度のメキシコ戦が象徴的ですが、失点が軒並みセットプレーだった点についてはいかがですか。逆にPK除くと、セットプレーからの得点はゼロでした。

やっていかなくてはいけない部分ですし、考えていることはあります。たとえばニュージーランド戦ではショートCKから決めなくてはいけないようなシーンも作れていましたし(MF遠藤航の決定機)、チャンスがなかったわけではない。ただ、その上で、セットプレーについても、時間が限られる中でどうトレーニングして、良い準備をしていくか。もう一度考えていきたいと思っています。

——ただ、逆に言えば、セットプレー以外の守備については手応えのあった大会ですよね。

スペイン戦は最後にやられたじゃないかと言われるかもしれませんし、そこに課題がないとは言いません。ただ、全部先ほどの話とつながっていくのですが、良い守備をできるようになる中で、それをどう良い攻撃につなげられるかがキーだと思います。最後に疲弊してしまったのも、そこができなかったことが大きいと考えるからです。

■ハイレベルな本気の相手が見せた強度

——疲弊で言えば、選手起用のところも議論になりました。特にグループステージ第3節で「もっと選手を休ませるべきだった」という意見はどう捉えていますか。

フランス戦の前はかなり考えました。勝ち点6を取っていましたから、そこでグループ突破が決まっていてほしかったというのは正直あります。ただ、現実として突破が決まっていなかったので、1、2戦目を戦った選手たちが基本的な先発になりました。

——結果として4-0で勝ったので「楽勝なんだから休ませろよ」と言われるのかなとも思うのですが、あの試合も疲弊し切るような内容ではなかったですしね。むしろ、トーナメントに入ってから、疲弊するゲームをしてしまったことに課題感があるわけですよね。跳ね返し続ける守備では限界がある、という。

頑張って守備をして、最後はクリアして逃げる——。それが必要なときも当然あります。世界大会のノックアウトステージで当たる相手はどこも本当に手強いですから。ただ、それだけになるのではなく、どう相手に奪い返されることなく、繋いで運び出せるか。スペインだけでなく金メダルを獲ったブラジルもそうでしたが、奪ったボールを繋げられるからこそ守備に回る時間も少なくなり、疲弊することもなくなって、結果として勝つ確率を上げられるという循環を作れていました。

■組織の中で機能できる本当の“個”

20210830_Japan2_3Screen Shot

――言うは易しで、やればいいじゃないかと簡単に言ってしまいがちですが、現場の肌感覚としてはどうでしょうか。

真剣勝負の中でスペインが見せる強度は本当に基準が違っていました。たしかに簡単ではないと思っています。スタッフミーティングでも「どうやってあのプレスを回避するのか。そのためにどういう練習をしたらいいか」ということをずっと話し合っています。代表が集まる期間内では限界もありますが、極論を言えば、やっぱり強い相手とあの真剣勝負の状況の中でやって選手たちが感じながらやるしかないのではないかと感じている部分もあります。

――選手が所属クラブでそういったハイレベルな真剣勝負を重ねられれば、自ずと代表にもつながりそうですが。

 “個”という言葉を使うと、どうしても個で曲面を打開する力という解釈が先行してしまうんですが…。

——すぐドリブルの話になってしまいますよね。

個で守れるかどうか、とか。もちろん重要なことだと思いますが、ここで言いたい“個”はそういう話ではないんです。

うまい選手は強さを持っているし、ディフェンスラインも強さがあった上で、しっかりとした個人の技術・戦術の力を持っている。日本で“個”と言ったときに、ドリブルで局面を打開する、またはそれをさせない力という解釈になってしまうところはありますが、まずそこから考え直すべきだと思っています。

——そもそも“個”というと単体の話になってしまいますが、サッカーはそういうスポーツではないですよね。

たとえばスペインの選手たちはグループで突破する術を選択肢として持っています。自分で突破できるときはしますし、その力もある。両方を常に持っていますよね。どちらかではない。常に3人目がいて、プレッシャーを受けても前向きに運んでいけるのは、個人の技術力のベースの高さは当然ありますが、それだけではない。組織の中で自分を使わせる力であり、人を使うこともできる力。組織の中で連係連動して機能できる“個”が本当の“個”なので、そこを日本はもっと突き詰めないといけないと思っています。

――個と組織を別物で勘定しがちですよね。守備は組織、攻撃は個という意識が強いのが日本なのかなという感覚もあります。

分けて考えがちですが、攻撃で言えば、“個”の中に独力で局面を打開していく力とグループとして、組織で局面を打開していく力の両面があって、選択肢を持っていて、相互に連動もできる。そこについては、ちょっと反省しなければいけないとも思っています。

――それは代表チームではなく、育成からやっていかないといけないところでは?

五輪の前から元々そうした考えはあったのですが、あらためていろいろと感じた部分はあります。組織論を謳うつもりはないですが、 “個”の中に「チームが勝つために自分がどうあるべきか」という要素が確実に入っているというのはあらためて感じましたし、グループで戦う部分については課題として持っています。代表チームとしてもより深く取り組んでいく必要があります。

——ありがとうございます。後編では、あらためて今回の活動を特徴付けていた“1チーム2カテゴリー”についての評価と、カタールW杯へ向けてのお話を聞いていければと思っています。

後編「兼任監督が得たラージグループの手応え」に続く

広告