20210830_Japan3_1(C)Getty images

【森保一監督/ロングインタビュー後編】「1チーム2カテゴリー」を可能にした横内コーチの存在。W杯から逆算する兼任監督の手応え

 前編・中編に続く最後となる今回は、この代表活動を特徴づけていた “1チーム2カテゴリー”についての評価と、カタールW杯へ向けての強化策に迫る。【聞き手:川端暁彦/取材日:8月19日】

■「五輪経由のA代表」では遅すぎる

——最後は絶対に聞いておきたかった話になるんですが、あらためてA代表との兼任監督をされた感触を聞かせていただきたいと思っています。「1チーム2カテゴリー」と謳って、A代表と五輪代表が一体になって強化してきたことを、いまどう捉えていますか。

最終的に結果が出なかったので否定的な意見もあるかと思いますが、代表チームの強化を考えたときには今後もこうした考えでやったほうがいいと思っています。これは自分がやったから言うとか、そういうことではありません。また、あくまで私個人の考えになります。

どちらにしても最後は五輪という大会を戦うというところに特化していく流れになるわけですが、選手たちの意識は五輪世代ではなく、A代表に向けておくべきだと思います。力のある選手には上のカテゴリーを積極的に経験させながら、タイミングを見てアンダー世代での真剣勝負を経験させる。そういう考え方でやったほうがいいと思います。固定させるのではなく、その時々の状況に応じて行き来させながら、どちらの代表チームの強化にも繋げていけばいいのではないかと感じました。

——A代表に今後伸びてくる若い世代の代表選手を混ぜてラージグループを作って、通常は五輪の2年後にあるW杯へ繋げる考え方ですよね。

これは監督が一人であることがすべてではないかもしれませんが、「1チーム2カテゴリー」の五輪世代も含めたラージグループを作ってA代表の強化をしていくことは大事だと思います。切り離して考えるのではなく、ですね。一体にすることで、選手の成長と代表の強化の両面に繋げられると思います。

例えば、銅メダルのメキシコも今回監督は別の方がやられていましたが、同じような発想でやっていたと思います。A代表に若い選手も積極的に呼んで成長を促しつつ、最後は五輪という真剣勝負の場で勝負させて結果を出し、大会を通じたさらなる成長にも期待するという考え方ですね。それが後々でA代表にも繋がるということだと思います。

要するに、W杯を考えるなら、「五輪経由のA代表」は遅すぎるということでもあります。ブラジルはちょっと例外的な選手層を持つ国なのでまた違う考えでしょうけれど、銀メダルのスペインもそうでしたよね。A代表の経験者が、強烈な戦力となって五輪に来て戦う。それが下の世代の刺激にもなりますから、五輪でメダルを獲るという意味でもそうですし、日本サッカーの強化という意味にも繋がると感じています。

――この1チーム2カテゴリーの成果は、五輪だけでなく、この後のW杯に向けて効いてくるように感じます。

五輪が終わって、「さあA代表に行くか」という感じではないですからね。

――「どうも初めまして。五輪から来ました」みたいな(笑)

五輪前からすでにA代表でやっている選手ばかりですし、経験していない選手たちも五輪という世界大会を通じてオーバーエイジを含めてA代表の選手たちと一緒に戦い、その基準が分かっています。だからスムーズにどんどんA代表に移行していけるだろうし、すぐに馴染んでいけるだろうということも分かっています。慣らす時間みたいなのは必要ないだろうという感覚で、引き上げることができますから。五輪が終わってから、W杯最終予選を戦うA代表へスムーズに移行していけるのは、「1チーム2カテゴリー」の形で活動ができたからこそと思っています。

■横内昭展コーチの存在

20210830_Japan3_3Screen Shot

――あらためて、その1チーム2カテゴリーを機能させるために、森保監督不在時に五輪チームの指揮を執った横内昭展さんの存在は大きかったのではないでしょうか。

これはもう、本当に大きいですね。間違いありません。横さんとはいつも密にコミュニケーションを取って、選手をどうやって成長させられるか、チームをどうやって強化していくかと常に話し合ってきました。チームを立ち上げてからずっとです。

当然、細かいところで意見がぶつかり合うこともありましたけれど、それも互いに本気でやっているからで、同じ絵を描きながら選手の成長とチームの強化を目指すことができました。横内さんの存在なくして1チーム2カテゴリーを機能させることはできなかったでしょうね。そもそも監督としての力をすごく持っている方ですし、選手を伸ばす力も高い。常にプレーヤーズファースト、そしてチームファーストで考えて行動できるし、決断もできる方でしたから、心の底まで全部さらけ出した上で、安心してすべてを預けることができる人です。

——お二人の強い信頼関係は、外から見ていても感じるところでした。

横さんあってのオリンピック代表チームでしたし、やっぱり横さんのチームだったとも思っています。僕よりずっと長く五輪世代の選手たちと過ごしていますからね。

――五輪期間中も森保さんは横内さんにかなりの部分を任されていたのかなと思いましたが。

おっしゃる通りです。監督の訳語にマネージャーとヘッドコーチがありますけれど、自分自身はマネージャーのタイプかなと思っていますから。

今回のチームに関して、もちろん私自身も報告は受け続けていますし、練習も試合も映像で全部観ていましたが、普段の選手の日常の様子までは見えません。大会前最後の事前キャンプから合流させてもらう形でしたから、横さんはじめ、直接選手たちを見てきたコーチの考え方や意見は最大限尊重しようと思ってやっていました。それはもう当然のことだと思います。ほとんどの遠征は横さんが監督でやったチームですからね。

——逆に言うと、そういった二人の強い信頼関係がないと成立しようがない部分もあるのではないでしょうか。1チーム2カテゴリーというのは。

まずは選手の個人昇格を一番に考えて、それを承諾できる関係性が必要だろうな、とは思います。

——選手を抜かれる下の世代のチーム目線で言えば、結果を出しづらくなるわけですからね。しかも開催国でなくなる次回以降は予選もありますし。

そうですね。代表で国際経験を積んで刺激を受けることも必要なことで、国際舞台での真剣勝負で得られるモノは本当に大きいと思います。その上で、選手たちの経験とそれによる成長を考えたときに、どちらを優先すべきか、ということだと思います。より上のカテゴリーで受ける刺激はやはり大きいとも感じました。

E1選手権やコパ・アメリカのA代表の試合には、五輪世代の選手たちも多く出場しました。それができる環境であったというのは大きかったと思いますし、五輪世代の選手たちにA代表基準の刺激を与えることにもつながりました。すごく大切なことだと思っています。

■W杯予選へ。あらためての感謝を

20210830_Japan3_2(C)Getty images

――1年半後にはカタールのW杯です。この東京五輪で得たものを踏まえて挑む舞台になるとは思いますが、「いやその前にまだ関門があるだろう」という話になりそうですね。

最終予選は決して簡単な戦いにならないと思っています。非常に厳しいグループに入ったと思いますし、世界大会とはまた違った戦いになります。加えて、このコロナ禍でもうすでに予定が二転三転しつつありますので、そうしたスケジュールの部分や試合をする環境の変化へ柔軟な対応をすることも重要になります。

コロナ禍で、いろいろな国でプレーしている海外組と国内組の選手がいる中でのチーム編成の難しさも出てきます。ただ、日本代表のラージグループを考えたときに、不測の事態がいろいろと考えられる状況にあっても戦力ダウンすることなく予選を戦っていけるとは思っています。

――そうした意味でも、五輪代表の活動を通じて得られたものを、W杯予選、そして本大会へ繋げたいところですね。

そうしなければいけないと思っています。そしてこの場を借りて、東京五輪を戦った日本代表へご声援を贈ってくださった皆様に感謝の気持ちを述べさせていただければと思います。本当にありがとうございました。

メダルを獲るという結果を出せず、本当に悔しく思っていますが、選手たちは本当に最後まで戦い抜いてくれましたし、この悔しさを次の舞台へと繋げてくれると思っています。あらためて、ありがとうございました。

——ここで得たモノが、実際に戦った選手・スタッフはもちろん、次世代へとフィードバックされていくことによって日本サッカーはまた一つ歩みを進められると思っています。大変お忙しい中でお時間をいただき、ありがとうございました。

広告