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England Slovakia ratings gfxGetty

なぜイングランド&フランスは「つまらない」のか?EUROを支配する“恐怖心”とスペインの“希望”

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先月ドイツで開幕し、決勝トーナメント1回戦までが終了したEURO2024。開催国ドイツやスペインはファンを魅了する戦いを続けている一方で、優勝候補と注目されたイングランドやフランスは勝ち進んだもののそのパフォーマンスは酷評されることに。さらに前回王者イタリアやクロアチアといったチームが期待を裏切り、反対に初出場のジョージアに加えオーストリアやトルコの躍進は目を見張る物があった。

いよいよ準々決勝に突入するEURO2024だが、現地記者はどのように今大会を見ているのだろうか。スペイン大手紙『as』の副編集長を務めるハビ・シジェス氏は「ほとんど面白みのない大会」と断言する。その上で、「優勝すべきはスペインだ」とも語っている。その理由はどこにあるのだろうか? 「フットボールの未来」を占う今大会を分析する。

文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎(Shinichiro Ema)

■慣性と惰性

EURO2024はその名声に相反するように、ほとんど面白みのない大会として決勝トーナメント1回戦まで消化した。開幕前、見かけの上ではとても華やかだったのに、まったく嘆かわしいことだ。

そうなった要因の一つは、もちろん強豪国の体たらくにあるだろう。ここまでに敗退したのはイタリアのみだが、実際はほとんどのチームが期待外れだった。最もタレントに恵まれるフランスとイングランドは“フットボール”をまったくプレーしておらず、ポルトガルもわずかに絞り出す程度。オランダはロナルド・クーマンに連れられて何もない砂漠を横断しているが、対戦相手に恵まれてきた。彼らは保守的かつアスリート能力だけに頼った、現在のフットボール界の慣性と惰性を反映している。

だがそれでも、このスポーツの魅力がすべて失われたわけではない。今大会ではドイツ、スイス、そして何よりスペインが、それぞれに刺激的な提案をしているのだから。

■スペインの魅力と迫力

スペインはポゼッション一辺倒のスタイルから逸脱し、魅力と迫力が詰まったフットボールでEURO2024の主役に躍り出ている。彼らが“ティキ=タカ”と称されたスタイルから距離を置いたのは、絶対にそうすべきという確信があったためにほかならない。ラミン・ヤマル&ニコ・ウィリアムズという強力無比な両ウィングはスペインが持っていなかったサイド攻撃という強みをもたらし、そのゲームモデルを決定的に変化させている。

現代フットボールで相手の守備組織を破壊するためには、「スピード」、「プレーリズム」、「深みを取るプレー」、「個人技による均衡の打破」が必要となるが、現在のスペインはそれらを余りあるほど備えている。ロドリのゲームメイク、ファビアン・ルイスの気の利いたポジショニング、ペドリ&ダニ・オルモのライン間での動きから、ヤマル&ニコの両翼に届くべきときにボールが届き、そこから迫力満点のドリブルショーが始まる(ルイス・デ・ラ・フエンテは両翼に「勝負を仕掛けろ。自分らしくプレーしろ」と指示している)。スペインはサイドから逆サイドに向けてスピーディーにプレーを展開させ、中央とサイドのどちらでも優位性を生み出す。

彼らのポジションチェンジは目まぐるしい。サイドバックが中に入ればウィングが外に張り出し、インサイドハーフはボールを前へとつなぐためにそれぞれ異なる高さに位置して、1トップ(アルバロ・モラタ)はボールに触れるか、ウィングやインサイドハーフのためにスペースを空けるかを判断しながらペナルティーエリアを出入りする。デ・ラ・フエンテ率いるスペインはトランジションを制すること、相手の閉じたシステムをこじ開ける手段を持つことが求められる今日のフットボールを、本当に見事な形で解釈しているのだ。

スペインはスピーディーなプレーと創造性あるプレーを両立させ、継続的に相手の守備に穴を空けることができる。ボールを奪われたらすぐさま奪い返して、相手陣地で試合を進めようとするのはこれまでと変わらないが、両翼にとって優位な状況をつくり出して彼らの個人技を生かす(相手DFが彼らに引っ張られれば中央からの飛び出しやミドルも生きる)新たな攻撃のビジョンを獲得した。彼らはこれまでと異なるアプローチでもって、かつて欧州や世界を席巻した頃の姿を取り戻しつつあるのかもしれない。

■好印象を与えた国は?

スペインには劣るが、ドイツのパフォーマンスも目覚ましい。ドイツもスペインと同様にアタッキングサードで攻撃を加速させ、ジャマル・ムシアラらのドリブルから相手の守備を切り崩し、フィニッシュの手段も豊富に有している。そして、そこまでにあるトニ・クロースのゲームメイクと針の穴を通すパス精度はまさに絶品だ(なぜ今季限りで“過去の選手”にならなければけない?)。ドイツがホスト国の体面を守っているのは、クロースの代表復帰とユリアン・ナーゲルスマンのイノベーション精神のおかげだろう。ベスト8でスペインと対戦して、どちらかが消えなければならないのは寂しいばかりだ。

彼らに加えてスイスも素晴らしいチームである。マンマーク戦術などフィジカルを生かした規律あるプレーで、どのような相手とも競うことができている。さらにオーストリアとトルコは悪く言えば向こうみず、よく言えば勇敢なチームで、それがベスト16の対戦でよく表れていた。開幕前の期待値こそ低かった両チームだが、前評判を覆して大会に彩りを与えてくれた。

■「眠気を誘う」強豪国

さて、ここまでに挙げた称賛すべきチームと対照をなすのが、フランスやイングランドといった強豪国である。彼らが擁する選手たちの名前を見れば、夜も眠れないほどに胸が高鳴ったが、実際にプレーする彼らはただ眠気を誘うだけだった。

フランスを率いるディディエ・デシャンは、彼の伝統を頑なに守り続けている。今回も相手の攻撃を通さないチームをつくり上げたが、しかし自分たちの攻撃はあまりに臆病で見え透いている。プレーリズムなんてものは、まったく意識していないようだ。イングランドも同じことが言え、ジュード・ベリンガム、ブカヨ・サカ、フィル・フォーデンら多くのスター選手たちを抱えているにもかかわらず、相乗効果は一切見られない。ベリンガムが輝くのは、あの超加速からのヘディングシュートやオーバーヘッドキックのゴールなど、抜群の嗅覚と反応速度を生かした単発のプレーだけにとどまる。じつに、もったいない使い方だ。

そのほか、ポルトガルは右肩下がりでベスト8まで到達。ロベルト・マルティネスはお気に入りの選手たちに執着し、たとえ精彩を欠いていても代える気がない。レアル・マドリー時代の面影がどんどん遠ざかるクリスティアーノ・ロナウドのためにプレーするやり方も、もはや違いを生み出せるものではなくなってしまった。またオランダはルーマニア戦が一番良かったが、行き詰まったようなプレーを見せていることは変わらなかった。彼らが準々決勝までたどり着いたのは、やはり単発のプレーの効果性によってだ……ああ、ここまでの3段落は、書いているだけで眠気覚ましのコーヒーが飲みたくなってくる。

■フットボールの未来のために

「重要なのは勝つこと。勝てるならば、どんなプレーをしても許されるのだ」。フランス、イングランド、ポルトガル、オランダはそうした考えた方に価値を見出しているようだ。しかしピッチ外はともかくとして、ピッチ内におけるエンターテインメント的要素は、決して無視してはならない。EUROは今後のフットボールの成り行きを占うとも言われるが、今回は「野心」や「意欲」、「創意工夫」よりも、「慎重さ」、「用心深さ」、「失点する恐怖心」が大会を支配している。

フィジカルが極限化する現代フットボールは、選手個々の才能や技術を犠牲にしているとも指摘される。だがフィジカルと技術は、二項対立の関係にない。とりわけ現場において、このスポーツの本質と進化をそんな風に捉えている人間がいるとすれば、それは利己主義で、あさましい考えの持ち主である。

現代フットボールというものはむしろその逆であり、秩序を見失うことなく、質(フィジカルも技術も)と動きを巧みに組み合わせることで成り立っている。「質」、「動き」、「秩序」の3つのコンセプトをバランスよく結びつけられれば、チームは人々を魅了する形で機能するのだ。だからこそ、イングランドやフランスが結果を手にすることだけをプレーの哲学としているのは、あまりにやるせない。

この面白みのないEUROがどのような結末を迎えるかは、決して些細なことになり得ない。優勝したチームが今後のフットボール界のトレンドをつくるならば、スペインこそがトロフィーを掲げるべきだ。

別に私は自国の優勝を願う排外的なジャーナリストではない。そうではなく、ただフットボールを愛する者として言わせてもらう。かつてスペインがEURO2008、南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012で優勝を果たしたとき、“ティキ=タカ”は世界のドグマ(教義)となった。そのドグマの炎は、ジョゼップ・グアルディオラ(やほかの監督たち)がそこに縦の速さやフィジカル、運動量を付け加えながら、いまだ保ち続けている。

スペインは再び道を指し示すべきなのだ。自分たちのためではなく、フットボールの未来のために。

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