バイエルン・ミュンヘンが来日する。ブンデスリーガ11連覇、通算33回優勝の王者が7月26日にマンチェスター・シティと、29 日に川崎フロンターレと国立競技場で対戦する。無類の強さを誇るドイツ王者はなぜ日本にやってくるのか? スカパーJSAT株式会社で『ブンデスリーガジャパンツアー』のプロジェクトを推進する小松利光ゼネラルプロデューサー兼プロジェクトリーダーに来日ツアーの背景を聞いた。前編は、招聘の経緯について。
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■昨年よりドロドロした調整
2018-19シーズンからブンデスリーガの放送権を保持するスカパー!は2シーズンの契約を経て、22-23シーズンから5年間の契約延長を行った。この間に、ブンデスリーガの組織も変更され、両者は「放送権ビジネスだけではなく、ともにマーケット開拓をしていく」という目的のもと、様々な取り組みを行っている。その中でも大きな施策の一つがこの『ブンデスリーガジャパンツアー』だ。
Getty Images――昨年のフランクフルトに続き、今回バイエルンが来日します。まずはツアー実施に際し、一番大変だった点を教えてください。
そうですね、文字に残せる範囲で言えば、スケジュール調整ですね。昨年のフランクフルト戦は11月でしたが、本当は夏にやりたかったんです。でも、Jリーグの中断期間とブンデスリーガの開幕前のスケジュールがなかなか合わせられなかった。そこでフランクフルトからカタール・ワールドカップ前の開催提案を受けました。W杯に招集されるかもというメンバーはいましたが、軸である長谷部誠選手はすでに代表を引退されていましたので。
フルメンバーでやりたかったのは山々ですが、スカパー!としては、まず一回ブンデスリーガのクラブを呼んで、その雰囲気を日本のファン・サポーターに体験してほしかった。ポストコロナの時期でスタジアム入場者にも制限があるけれど、少しずつサッカーを囲む環境も変わっていってほしかった。僕たちだからできることもあるということで、実行しました。
例えば、気づいた方もいらっしゃったかもしれませんが、実は選手入場時のアンセムはブンデスリーガのアンセムにしたり、コールも現地フランクフルトのMCを呼んだりしました。
あとやはり、長谷部誠選手ですね。選手としてキャリアも終盤に来ていて、「世界の最前線で活躍する長谷部誠」を日本で見られる機会を作りたかった。映像を流す以外でモーメントを作ってゆくことも、メディアとしてできることだと考えました。
ただ…今年のバイエルンの調整は、昨年よりもかなりドロドロしたところがあったのは事実です。世界有数のビッグクラブですから、引く手あまたの中でどうしたら最終的に日本を選んでくれるのか。
東京近郊におけるスタジアムや練習場などのファシリティにおいては国際基準を満たす施設が都内では思いのほか少なく(他のイベントとの兼ね合いもあり)、対戦チームの調整なども当然ありました。やはり、ビッグクラブともなると、一流の対戦チームと一流のファシリティが必須なんです。もっとも、最後は「ブンデスリーガを盛り上げたい!」という情熱で納得してもらったと思っています。
なので、実はバイエルンと来日の合意は3月上旬にようやく取れました。1月からずっとバイエルンとは日々やり取りをしていますが、これは今も続けています。冗談ではなく毎日。そういう意味では、今もまだ「一番大変の真っただ中」にいます。実務面での調整や運営に関する調整は表には見えないことが多いのですが、課題がまだまだあります。バイエルンだけではなく、国内でも多くのステークホルダーや関係者がいらっしゃいますから。その点では、具体的に「何が」と言いにくいのですが、まさに今が一番バタバタしているのは事実です。
■金額交渉とリーグの後押し
今夏のアジアツアーでバイエルンは、日本で2試合を行い、その後シンガポールでリヴァプールと対戦する。欧州の名門を招きたい国は日本だけではなく、東南アジアの複数国が名乗りを上げていた。当然、金銭面の駆け引きも行われる。その中から「日本」が選ばれたのはなぜなのか。
Getty Images――バイエルンの招聘は、いつごろから動き始められたのですか?
話を始めたのは昨年の8月です。ブンデスリーガを通じてバイエルン側からコンタクトがありました。フランクフルトのツアーの打ち合わせもあり昨年8月にドイツにいたんですが、開幕戦がフランクフルトとバイエルンで、そこでバイエルンのトップと初めて会いました。話としては「フランクフルトが日本でやると聞いた。バイエルンにそういう可能性はないのか?」ということでした。
彼らは毎年アメリカに行っていたのですが、アジアの選択肢も考えていたようです。ただそのあとしばらく間があいて、12月、1月くらいに話を戻し始めたのですが、すでに東南アジアに行くことが決まっていました。バイエルンクラスになると引く手あまたで取り合いなんです。
――ほぼ決まっていたところを一転、日本開催が決まった理由は何だったのでしょうか?
昨年の8月にフランクフルトでバイエルンの幹部に会ったときに、「日本でのバイエルンの価値はどのくらいか?」と聞かれたんですよ。そこで、「残念ながら日本のマーケットでは圧倒的にプレミアリーグが強い」と伝えました。
バイエルンは、UEFAクラブランキングでマンチェスター・シティに次ぐ2位の超名門クラブです。彼らには「バイエルンはナンバーワンでなければならない」というプライドがあります。でも、日本ではナンバーワンではない。その価値を日本で示すべきじゃないのかとそんな話をしました。話を戻し始めた12月、1月に「一緒にバイエルンを日本でナンバーワンのクラブにしたい」と彼らに伝えました。そこの熱量が伝わったんじゃないかなと思います。
事実、金銭面の交渉において、こちらはオファー額を上げませんでした。あとで聞いた噂では、東南アジアの国のほうが高かったようです。
「どうしても呼びたい」からと我々が必要以上にオファー額を上げると、それが日本での「価格」になる。そうすると、来年以降の交渉に影響をきたす可能性を危惧しました。相手方との契約条件にもよりますが、結果的にそれがチケットの販売価格に転嫁されることにもなりかねません。
あるいは、「高額オファーでなければ日本に来ない」ことが普通になると、今後日本でこのようなメガクラブを呼ぶことは困難になる可能性があります。その意味では、「どうしても呼びたい」という側面と、「今後の日本のマーケットのためにも例外的なオファーはできない」というバランスの中での調整が続きました。
そして、そのために側面的にサポートをしてくれたのがブンデスリーガ(DFLおよびBundesliga International)です。例えば、ブンデスリーガのトップがバイエルンのトップに直接連絡してくれるなど、我々だけがクラブと交渉するのではなく、「リーグ全体としてアジア戦略を考えているから、一緒にやりましょう」といった姿勢を持って一緒に動いてくれています。
このように、日本のサッカーマーケット、ファン、そしてブンデスリーガとスカパー!にとって「どうすることがハッピーなのか」を一緒に考えてくれている、とても珍しいリーグです。今までも他のリーグとも仕事してきましたが、このような考え方は非常に珍しい。もし機会があれば、また別の機会でお話しします。【聞き手=吉村美千代/GOAL編集部】
◎後編:マッチメイクと欧州クラブのアジア戦略はこちら
■川崎フロンターレvs バイエルン・ミュンヘン
7月29日(土)19:00 KO
■バイエルン・ミュンヘンvsマンチェスター・シティ
7月26日(水)19:30 KO
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