コナー・マクレガー対フロイド・メイウェザー・ジュニアのプロボクシング最強の一戦が、8月26日に行われることが決定した。これは史上最大の注目すべき試合だ。アメリカ合衆国の総合格闘技団体（UFC）に君臨するアイルランド人のマクレガーにとっては、総合格闘技の戦い慣れた舞台を離れて戦う自身最大のチャレンジになるだろう。
果たして、ボクシング界に初めて足を踏み入れる総合格闘技の王者は、5階級を制覇しているボクシング界のレジェンド、メイウェザーを倒すことができるのであろうか。
マクレガーは格闘技界では名を馳せているものの、ボクシングの戦いは全くの別物である。
もっとも、別の競技だからといって全く勝負にならないかといえば、決してそうは言えないだろう。実際のところ、総合格闘家がボクシングルールでボクサーと試合をした際の戦績は芳しくない。だが、すべての試合でボクサーが勝っているかと言えば、それも違う。ましてやマクレガーは総合格闘技のチャンピオンだ。総合的な能力でメイウェザーに劣っているなどと、簡単に言うことができるだろうか？
もう一つ例を挙げてみよう。例えばマクレガーは過去にサッカーをたしなんだことがある。そして周囲の人々の証言を聞けば、ピッチの上でもその才能を示していたというのだ。
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マクレガーのサッカー選手としての才能
2015年、格闘技ファンはUFC189でのチャド・メンデス戦で28歳のマクレガーの能力の一部を垣間見た。彼はこの試合のプロモーションビデオの中で、足でサッカーボールを器用に操った後、大げさな回し蹴りでそのボールを吹っ飛ばしてみせたのだ。
この映像は格闘技ファンたちにとっては驚きであったかもしれない。しかし、マクレガーはUFCのライト級およびフェザー級のチャンピオンになるずっと以前、アマチュアの優秀なサッカー選手であったのだ。
マクレガーは生まれ故郷のアイルランドのダブリンで、ユナイテッド・チャーチイズリーグのスリーブナモン・ユナイテッドとレンスター・フットボールリーグのイエローストーン・セルティックに所属し、「ゴール製造機」という異名があった。かつてスリーブナモン・ユナイテッドでマクレガーを指導していたロビー・ビークハースト氏は、屈強なストライカーであったマクレガーがゴール前で実に見事なプレーをしていたことを覚えているといい、格闘家を目指していなかったらサッカー界で活躍していただろうと断言する。
「マクレガーは毎年、得点王になるストライカーだったんだ。私はマクレガーとともにイエローストーン・セルティックに移ったんだけど、そこでも彼は毎週、面白いように得点していたね。いつもチームメイトに『とにかく俺にボールをよこせ。俺が全部やってやる』と言っていたんだ。彼は素晴らしい選手だったが、残念ながら我々はそこまで強豪チームという訳ではなかったんだ。だから彼は総合格闘技に熱中し、サッカーに気が乗らなくて練習に来なくなってしまったね」
Yellowstone Celticまたマクレガーがイエローストーンにいた時の監督、デイビー・グレノン氏も彼のことを『ヘラルド』紙でこう評価している。
「コナー（マクレガー）はチームで一番の選手だったけど、いつもサッカーより総合格闘技に興味を持っていたんだ。彼とは2年ほど一緒にサッカーをしていたと思うけど、最初の年はたいてい毎日一緒に練習していたのに、2年目になると週に1度会えればラッキーというようになってしまったね。他の選手たちには彼の状況を説明したけれど、コナーはチームで上手な選手の一人だったからみんなコナーとサッカーがしたかったんだ」
Yellowstone Celticマクレガーはつい最近スコットランドのサッカーリーグ、リンカーン・シティからキルマーノックFCに2年契約で移籍したミッドフィルダーのアラン・パワーと一緒にプレーしていたことがある。アイルランドの元U21代表であるパワーは、リンカーン・シティではリーグ戦250試合以上に出場した。マクレガーとは全く別の道を歩むこととなった彼だが、マクレガーと同じように成功を収めた選手の一人として、『テレグラフ』紙のインタビューにこう語っている。
「少年時代、僕らは近所の友達と仲間を作ってよく一緒に遊んでいたね。でも日曜になると僕はマクレガーとサッカーの試合に出るんだ。実際、彼は悪くない選手だったよ。でもマクレガーはサッカーとは違う道を選んだんだ。けど、その選択は正しかったんじゃないかな。だってサッカー選手としてよりも、格闘家のほうが合っていたと思うからね。僕は同じ道を進まなくてよかったけど（笑）」
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マクレガーはマンチェスター・Uファン？
Getty Images多くの人たちが認めるように、マクレガーはサッカーのピッチで活躍していた。しかし、彼の心の中を覗いてみると、決してサッカーが大好きだったわけではなかったようだ。それが、彼が格闘技の道を志し、サッカーの世界に飛び込まなかった理由かもしれない。
彼がマンチェスター・ユナイテッドを応援していることは広く知られている。もっとも、その理由のほとんどを占めているのは、彼の家族がユナイテッドファンであるからということだ。
そもそもマクレガーは、アイルランドの人々が他国のリーグであるプレミアリーグのチームをアイドル視して熱狂的に応援しているのに、自国のアイルランド・リーグを顧みないことを奇妙に感じている。それは『アイリッシュ・インデペンデント』紙のインタビューで、彼が残した言葉から読み取ることができる。
「子どもの頃はサッカーが好きだった。だけど、プレーするより見ているほうがよかったな。応援しているチームは強いて言うならマンチェスター・ユナイテッドだけど、それはうちの家族が代々そうだったからというだけさ。アイルランドの人たちはリヴァプールかマンチェスター・ユナイテッドのどちらかのファンなんじゃないかな。熱中しすぎて応援しているチームのことを『俺らのチーム』なんていうヤツらもいる。そういうヤツらの熱狂と献身には頭が下がるが、俺に言わせればそれは少し滑稽だよ」
マクレガーはそれを皮肉ってか、SNSでマンチェスター・ユナイテッドのニックネームである「赤い悪魔」の愛称をわざと間違え、茶化したこともある。この事実はいずれはっきりさせなければいけないが、これはマクレガーが自国のサッカーファンに疑問を投げかけていることの表れだ。
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サッカーとの関係性は？
このようにサッカーと距離を置いて久しいマクレガーだが、完全にサッカー界との関わりを絶っているかというと、必ずしもそうではない。
多くのフットボーラーが別の競技のスーパースターと交流があるように、マクレガーもまた、フットボーラーと関係性を築いている。
例えば7月にはネイト・ディアスとのUFC202の試合の前に4度のバロンドールに輝いたクリスティアーノ・ロナウドに会いに行っている。それ以来、2人は親しい関係になり、SNSには一緒にいる写真を掲載することもある。マクレガーはジェニファー・ロペスの誕生日パーティーにロナウドとともに堂々と招かれていたりもした。
それにマクレガーはロナウドに対して「『フォーブス』誌の金持ちランキングで負かしてやる」とも言っているのだ。これはその場を盛り上げるためのいわゆるリップサービスだったものの、ロナウドを大いに崇拝しているという解釈もできる。
「ロナウドは驚異的なアスリートだ」と、マクレガーは言う。
「ロナウドのスピード、立った姿勢からのスタートダッシュ、トップスピードでもボールを操れる能力は感動ものだ」
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■まだ見ぬ結末への期待を膨らまそう
ここまで、マクレガーとサッカーの関わりに関して見てきたが、決してマクレガーが「サッカー選手として間違いなく成功していた」と書くつもりはない。ましてやサッカー選手としての才能があったからといってメイウェザーに勝てると主張するつもりもサラサラない。
ここで書いておきたいことがあるとすれば、可能性から目を背けて“世紀の一戦”とまで言われる戦いを冷笑する意味など何もない、ということだ。一部では、49戦無敗というキャリアを誇る絶対王者のメイウェザーに挑むのは「無謀」「茶番」と揶揄されているが、必ずしもその声が正しいと言いきれるだろうか？
人は様々才能を持っている。ボクサーとして一度も負けたことがない者、総合格闘家としてどんな条件でも勝利を手にしてきた者、サッカー選手として世界中の人々を魅了する者……。そして、まだ見ぬ才能を眠らせているかもしれない。私も、あなたも、そしてマクレガーも。
どのような結末が待っているか今の段階では知る由もない。
しかし、一つ確かなことは“世紀の一戦”へ向けて思いを膨らませ、どのような戦いになるのか、今から心をときめかせていたほうが、この戦いをより楽しめる……ということだ。
どの道、8月26日の夜、世界中が注目する戦いの答えは出る。それまではメイウェザーの強さに、マクレガーの可能性に心を踊らせながら、眠りにつくのも悪い時間の過ごし方ではないはずだ。
文＝ロナン・マーフィー／Ronan Murphy
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