2017-10-28-Tottori-Morioka©J.LEAGUE

ガイナーレ鳥取を真の“強小”集団へ…森岡隆三監督が挑むJ3クラブのマネジメント

「サッカーの面白いところって、1の力だけでは勝てない相手にも、1+1なら勝てる。生まれ持ったものを覆せる。だから好きですね」

以下に続く

ガイナーレ鳥取を率いる森岡隆三監督は茨の道と知りながらも、指揮官としてのルーキーイヤーをJ3からスタートさせた。

日本代表の主将として日韓ワールドカップにも出場した頭脳派センターバックは、2008年に京都サンガF.C.で現役引退。翌年から京都で指導者としての道を歩み始めると、佐川印刷京都サッカークラブ(現SP京都FC)のヘッドコーチを経て、京都U-18の監督も務めた。

選手、コーチとして豊富な実績を持つ森岡氏の元には、J1を含む多くのクラブからコーチとしての誘いがあった。悩みながらも新天地を決め、J1のクラブへ連絡を入れようとした直前。最後の最後に連絡があったのは、鳥取の吉野智行強化部長からだった。「『もう決まっちゃいましたか? 隆三さん』って。(他クラブのコーチを引き受けるまで)あと数時間だったんですよ。それで、『これは縁だな』と思いましたね」。京都U-18を率いていた際に、一度は監督就任の誘いを断っていたが、絶妙なタイミングで届いた二度目のオファーを快諾し、監督・森岡隆三が誕生した。

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もっとも、周囲の反応は好意的なものばかりではなかった。鳥取は2016シーズンのJ3で16チーム中15位。戦力面や設備面でも十分といえる環境ではなく、クラブを支える潤沢な資金や大きな基盤もない。新米監督が初采配を振るう場としてはハードルが高く、反対する声もあった。しかし、周囲の心配とは裏腹に森岡監督がクラブに抱くイメージはポジティブだった。

「(とりぎん)バードスタジアムの空気だとか、ポジティブな面もたくさん感じていました。小さなクラブながら、チーム全体で、クラブ全体で頑張るイメージはずっとあったんですよね。難しいことは百も承知な環境だったので、ここで自分の力を試したいという思いはありました」

人に無理だと決めつけられると、それを覆したくなる――。内に秘めた闘志をみなぎらせながら、トップチームの監督としての第一歩を歩み始めた。

いざリーグ戦が開幕すると、チームは7試合で3勝2分け1敗とスタートダッシュに成功。思いのほか順風満帆に進むかと思われたが、J3はそんなに甘くはなかった。第8節から第17節まで10戦未勝利が続き、夏場を迎える頃には下位に低迷。選手としてJ1、J2通算で300試合以上に出場し、コーチとしても十分にキャリアを積み重ねてきたが、それでもJ3は予想外なことの連続だった。

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例えば移動の面。鳥取のアウェイゲームは試合会場によって長時間のバス移動をともなう。「選手の頃はホームなのか、アウェイなのかなんてあまり気にすることはなかったですけど。12時間のバス移動の後に、どうやって選手たちのコンディションを回復させるかというプログラムなんて、今までは考えたことがなかったです」。特殊な環境下でのコンディション調整や、J3特有の流れを切る試合の日程間隔、主力のケガにも悩まされた。

もちろん自らの力不足を感じた部分もあった。「選手の疲労が溜まっているのを見抜けずに、ちょっと練習をさせ過ぎちゃったのかなという思いもある。選手たちはみんな頑張ってくれるんですよ。でも、練習を頑張ってくれればくれるほど、疲労が蓄積していって試合に勝てない。心と体の疲労をどうやって取り払うか。この数カ月はずっとそればかり考えています」

これまでJ1とJ2で培ってきた経験だけでは対応できない困難と向き合ったことで、いくつも反省点が生まれた。「遠征から何から含めて、鳥取には鳥取の事情やスタイルがあるわけだから、監督としてはそこをマネジメントしなければいけない。僕の仕事はここで選手たちがよりよいパフォーマンスを出すためには何ができるかということ。そういう意味ではまだまだ予測が甘かったのかな」。J3で戦う、鳥取で戦う難しさを改めて痛感させられた。

それでも下を向いてばかりではない。試合面や戦術面についてはある程度固まりつつある。全員で攻めて、全員で守る。チームスローガンの強小(きょうしょう)を体現するような、決して大きな規模ではなくとも、一丸となって戦えるチームという完成図は見えている。それゆえに、これから勝ち星を積み上げていく上では、戦術以外の面を整えていく必要がある。チームマネジメントと並ぶ課題として挙げるのは、地元での人気が伸び悩んでいること。選手たちが成長していく上で、クラブが地元で愛されることの重要性を力説する。

「鳥取のような小さい町で選手を育てるのは僕らだけじゃなくて地域の人々でもある。(11年半在籍した)清水エスパルスがまさにそうで、サポーターに育ててもらっている感覚はありましたよ。銭湯で出会ったおじさんや、地元の番記者さんに褒めてもらえると、その一声で救われる。プラスアルファの責任感とか、試合をして人に拍手をもらう喜びとかは、やっぱりサポーターやその地域の色んな人に愛されて初めて分かること。現場としてはもっと愛されるために何ができるかを考えています。だから練習はスーパーオープンでやっていますよ」

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愛されるクラブになるためには勝つことも重要だが、ファンやサポーターが応援したくなるチームにならなくてはいけない。その大前提として「100%プレーする」、「瞬間もプレーする」、「最後までプレーする」という3つは欠かすことができない。「シーズン中でほとんどの試合ではできていたけど、やっぱり何試合かはそれが抜けてしまった。サポーターに対しても、つまらない思いをさせてしまった」と今季のここまでを振り返るとおり、選手たちが気持ちの部分で全てを出し切れていない試合がいくつかあった。

「そこは上手い、下手じゃなくて、できるか、できないか。もっと言えばやるか、やらないかの部分。そこでやれないとなるとやっぱり、一番寂しい。もちろん勝ちを目指すんだけど、やっぱ勝ち負け超えても応援されるような存在になる為に、そこはもっともっと徹底したい」

今季終盤戦で選手たちが巻き返すため、来季を飛躍の年とするためには、選手たちが気持ちの面から変わっていく必要があるだろう。

「“1”の力だけでは勝てない相手にも、“1+1”なら勝てる」

鳥取は“5”や“10”の戦力を持ったチームではないのかもしれない。クラブの規模も大きくはない。ただし、森岡監督が鳥取の“1”をまとめ上げ、チームが一丸となった時には、クラブエンブレムのように大きく羽ばたけるのかもしれない。

インタビュー・文=清水遼(Goal編集部)

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