Victor Osimhen transfer GFXGetty/GOAL

なぜヨーロッパのトップクラブはヴィクター・オシムヘンを欲しがらないのか

ヴィクター・オシムヘンのトルコでの日々は、プレーに関してはこれ以上は望めないほど素晴らしかった。このナイジェリア代表選手は、国内二冠を達成したガラタサライで、全公式戦通算41試合に出場し、37得点を挙げたのである。

普通ならヨーロッパのトップクラブは、このように得点力のあるストライカーを獲得するために列を成すはずである。とりわけ今は、移籍市場に確かな得点力が証明されたストライカーが極めて少ない状況にある。ところが、執筆時点において、ナポリ所属のオシムヘン獲得について具体的な興味を示しているのはアル・ヒラルのみ――サウジアラビアのクラブは彼を地球で最も高給取りの選手のひとりにする気があるようだ。

では、オシムヘンに一体何が起こっているのか? プレミアリーグでプレーすることを夢見たワールドクラスのFWに、中東への移籍以外の選択肢がないように見えるのはなぜなのか。さらに、彼はなぜ、まだ移籍に消極的なのか? ヴィクター・オシムヘンの不可解なケースの真相に迫ってみよう。

  • Aurelio De Laurentiis Napoli chairman 2024Getty Images

    「レアル・マドリー、パリ・サンジェルマン、またはプレミアリーグのチーム」

    ナポリは、オシムヘンが2023年の夏から移籍を希望していることをわかっており、彼と彼の代理人と協力して、最終的な計画を打ち立てた。オシムヘンは2026年までの高額な契約延長にサインするが、実際には、2024年に1億2,000万ユーロ(約203億円)の買取り条項を満たしたクラブに移籍することになる。

    当事者双方にとって、これはウィンウィンの取引のはずだった。ナポリはセリエA優勝に貢献したストライカーをもう1シーズン保有して巨額で売却できる一方、オシムヘンは長年夢見ていたヨーロッパのトップクラブへの移籍のチャンスを遅ればせながら手に入れたのだから。

    1月23日、オシムヘンは、アフリカネイションズカップの代表戦のさなかに、『CBSスポーツ』に対し、すでに自身の未来は決まっていると明かした。「決心したんだ」と、彼は述べた。「計画があるんだ。何をしたいか、どういう一歩を踏みだしたいか、心を決めた」。

    「僕に関する噂の60%はプレミアリーグのチームに関するもののようだし、プレミアリーグは世界最大のリーグのひとつだ。だが、僕はナポリを強くしてシーズンを終えたい。それから、すでに決めた決断を実行に移す」

    そのわずか3日後、ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は、オシムヘンが2023-24シーズン終了後にクラブを離れることを事実上認めた。さらに興味深いのは、映画プロデューサーでもある会長が、オシムヘンの行き先を「レアル・マドリー、PSG、またはプレミアリーグのチーム」だと明かしたことである。

    実際のところ、デ・ラウレンティス会長としては、前シーズンのセリエA得点王(32試合で26得点)に対して9桁の移籍金を支払うクラブが現れることを疑っていなかった。しかし、それから18カ月経った今、ナポリは、ほぼ半額の価格で買い手を探し続けている。

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  • Florentino Perez Kylian MbappeGetty

    ベルナベウとパルク・デ・プランスに空きなし

    ナポリとオシムヘンにとって、昨夏はまさに泣きっ面に蜂だった。レアル・マドリーはキリアン・エンバペの獲得が決まるとすぐにオシムヘン獲得レースから撤退した。フランス代表キャプテンにとってはサンティアゴ・ベルナベウへの移籍という夢が実現したかもしれないが、スペインのクラブは、彼をカルロ・アンチェロッティの先発メンバーに押しこむため、センターフォワードとして起用する目的で莫大な資金を投入した。その結果、レアル・マドリーには、報酬の面でも、すでに攻撃陣が充実しているという点においても、オシムヘンを受け入れる余地がなくなったのである。

    パリ・サンジェルマンの方も、安定性を欠くゴンサロ・ラモスがシーズン序盤に負傷したにもかかわらず、ルイス・エンリケ監督は正統派の背番号9はこれ以上必要ないと判断した。この元バルセロナ監督はウイングを、それも多数の選手を望んでいたため、夏にはオシムヘンを獲得するチャンスに背を向け、2025年の冬、オシムヘンとナポリで同僚だったフヴィチャ・クヴァラツヘリアを遅ればせながら獲得した。この選択が正しかったことは、PSGの素晴らしく流動性のあるFW陣が大活躍してチャンピオンズリーグ初優勝を果たしたことで証明された。

    一方、長く囁かれていたプレミアリーグ移籍の噂は、移籍市場の終了間際に実現寸前までいっていた…

  • Victor-OsimhenGetty Images

    最後の最後で破談に

    選手獲得に10億ポンド(約1,983億円)以上を投じたにもかかわらず、チェルシーには信頼できるストライカーが不足しており、最後の最後にオシムヘン獲得に向けたオファーをしたことは極めて理にかなった判断だった。この移籍は、このナイジェリア代表選手の幼少期のヒーローにして、スタンフォード・ブリッジのレジェンドであるディディエ・ドログバの足跡をたどるチャンスにもなったはずだった。しかし、報道によると、この取引はオシムヘンが法外な報酬を要求したことが原因で破談になった。ほぼ同時期に、アル・アハリもオシムヘン獲得をもくろんでいたが、それは決して簡単なことではなかった。

    2023年11月、クヴァラツヘリアの代理人が「オシムヘンは来夏サウジアラビアに移籍する」と公言すると、オシムヘンは激怒して反論した。「親愛なるマムカ・ジュゲリ、お前はゴミで恥さらしだ」と、インスタグラムに書きこんだのである。「お前の論理のセンスはとんちんかんだ。く*たれ! 二度と俺の名前を口にするな!」

    オシムヘンの怒りの主な原因は、彼の個人的なことに赤の他人が首を突っ込んだからのように思われたが、同時に、チャンピオンズリーグ出場チームではなくサウジアラビアのチームに金目当てで移籍すると言われたことにも苛立っていた。この疑いは、彼の代理人であるロベルト・カレンダが「ヴィクターにはヨーロッパで、まだやるべきことがたくさんある」と述べたことでさらに強まった。

    しかし、2024年夏の移籍市場の終わりが近づき、選択肢が急速に狭まる中、オシムヘンはアル・アハリからの巨額のオファーを受け入れたと報じられた。ところが、噂によると、ナポリが最後の最後に要求額を引き上げ、サウジ・プロリーグのチームが取引から撤退。このことにオシムヘンは怒り狂った。

    この時点で両者の関係は完全に破綻し、オシムヘンがスタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナに残る可能性は皆無となった。少なくとも、ナポリは、彼の後任としてアントニオ・コンテのお気に入りであるロメル・ルカクを獲得していた。このように対立した状況下で、ガラタサライへの1シーズンのレンタル移籍は、選手とクラブの双方にとって受け入れ可能な解決策となり、両者は長期的な解決策を探すための時間を確保できたはずだった。

    しかし残念なことに、オシムヘンとナポリの状況は、その後ほとんど変わっていない。

  • Galatasaray A.S. v Tottenham Hotspur - UEFA Europa League 2024/25 League Phase MD4Getty Images Sport

    そして今

    オシムヘンのガラタサライへのレンタル移籍は月曜、正式に終了した。そして彼は依然として宙ぶらりんの状態にある。要するに、トルコの王者は彼を雇う余裕がなく、イタリアの王者は彼が欲しくないのだ。

    ナポリはオシムヘンなしでスクデットを獲得し、クラブの誇り高き熱狂的なサポーターたちは、自分たちの一員として迎え入れたにもかかわらず街を出ていった裏切り者のような選手に、もはや見向きもしない。だが現状では、彼は、クラブがプレシーズンのプログラムを開始する前に必須となるメディカルチェックを受けるため、2週間以内にナポリに戻らなければならない。これは少なくとも気まずい状況であると言えるだろう。

    今後数週間で多くのことが起こる可能性は当然あるが、解決策が早急に見つかることが望まれる。というのも、ガラタサライと締結した契約の中には、以前の1億2,000万ユーロ(約203億円)から7,500万ユーロ(約127億円)に減額されたとは言え、買取り条項が存在するからだ。ナポリは、オシムヘンを売却しやすくするため、この契約条項を減額したが、現在も買い手は現れていない。これはやや不可解な状況である――トルコでのオシムヘンの得点力やプロ意識に疑問が呈されたことはなかったのだから。

  • FBL-ENG-PR-LIVERPOOL-ARSENALAFP

    プレミアリーグのチームに具体的な動きなし

    オシムヘンがヨーロッパの5大リーグのチームのどこかに移籍したいと思っていることは明らかであり、どこからも――特にイングランドから―ーオファーが来ていないというのは、まったく不可解である。

    実際、ヨーロッパのトップチームにはほとんど空きがない一方、プレミアリーグのチームには現在、背番号9を探しているチームがいくつかある。

    リアム・デラップとジョアン・ペドロを獲得したチェルシーが、オシムヘン獲得競争から手を引いたように見えるのは当然だが、ブルーズがオシムヘンへの関心を再燃させなかった理由が気になる。オシムヘンは、確実に、新たに加入した2人のストライカーの合計得点よりも多くのゴールをイングランドのトップリーグで決められたはずだ。

    アーセナルがオシムヘンに関心を示さないことはさらに不可解である。ガナーズは現在、ベンヤミン・シェシュコかヴィクトル・ギェケレシュのどちらに莫大な金額を支払うべきかを検討中だが、両選手はオシムヘンほどの経歴や才能を持っていない。

    一方、リヴァプールは、この夏すでに多額の資金を投じており、オシムヘンが要求する報酬を支払うことに消極的である可能性がある。とは言え、ダルウィン・ヌニェスの退団が見込まれ、ディオゴ・ジョッタの悲劇の死が懸念材料であるリヴァプールには、フロリアン・ヴィルツを偽の背番号9として起用するかどうかに関わらず、新たなストライカーが必要なはずである。

    オシムヘンは、その契約が夢であるアレクサンデル・イサクの半分、あるいはそれ以下の移籍金で、プレミアリーグの王者の攻撃に新たな次元を加えることは間違いないだろう。

  • Galatasaray v Kayserispor - Turkish Super LeagueGetty Images Sport

    大混乱の夏、再び

    移籍市場の関係者の間では、一部のヨーロッパのクラブがオシムヘン自身と同様、様子見の姿勢を取っているとの見方が広がっている。要求額のみならず、オシムヘンが自身の才能に見合ったクラブへの移籍を希望しないという事実もあり、金額だけを考えれば、結局はサウジアラビアに移籍する可能性が高いままである。

    しかし、オシムヘンは、選択肢を残すべく、クラブワールドカップ開幕前にアル・ヒラルへの移籍を拒否した。また、彼の契約にある、海外クラブ向けの買取り条項は7月15日に期限切れとなるため、その前に動きがあれば、ナポリはオシムヘンへの報酬額をできるだけ早く帳簿から外すため、さらに低い移籍金を受け入れざるを得なくなる可能性がある。

    このような状況下では、オシムヘンはヨーロッパの強豪クラブにとって、より魅力的なオプションとなりうる。また、ナポリのコンテ監督がリヴァプールのヌニェス獲得に意欲を示している点も注目すべきで、現時点では選手と現金を合わせての取引も可能性の範囲内にある。

    ユヴェントスも同じようなものだ。ナポリの宿敵であり、ジョナサン・デイヴィッドをフリーで獲得したばかりではあるが、オシムヘンには以前から関心を示しており、高額報酬ながら不必要なストライカーであるドゥシャン・ヴラホヴィッチを放出する可能性もある。

    移籍市場が閉まるまでに何らかの妥協案が成立する必要があることは間違いない。ナポリもオシムヘンも、昨夏の混乱を繰り返すことを望んでいない。ナポリに現在の膠着状態を続ける余裕はないし、オシムヘンも自身の黄金期を無駄にしたくないのは明らかだ。

    今こそ、少しの謙虚さと常識が必要だ。だが、両者は、つい最近まで同じ計画を持っていたにもかかわらず、今では自分たちが何をしているのか、わかっていないように見える…