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チェルシーでは「成功=安定」ではない:マレスカが漏らしたオーナー批判と権力闘争

激闘の末にカラバオカップ準決勝進出を決めた後、チェルシーのエンツォ・マレスカ監督はアウェイまで駆けつけたサポーターに駆け寄った。すると、サポートもイタリア人指揮官のチャントを歌って応えている。“悪名高い”マレスカにとって、これは「素晴らしい瞬間」だった。絶好のタイミングでサポーターから連帯を示されたのだから。

13日のエヴァートン戦(2-0)後、彼はモハメド・サラーさながらに雇用主を非難した。リヴァプールFWが「クラブの誰かが僕を追い出そうとしている」と発言したちょうど1週間後、マレスカは「過去48時間はチェルシー就任から最悪の時期だった。多くの人が我々をサポートしなかったからだ」と語っている。

サポーターへの不満はないと明言した一方で、チェルシー内部関係者を指しているのか?との問には「一般的には、だ」とだけ答えている。マレスカを悩ましているのは一体何なのだろうか? 十分なサポートを得られていないのだろうか? そして、この批判が原因で解任される可能性はあるのだろうか?

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    初日からの疑問

    カーディフ戦の勝利により、マレスカは2024年夏の就任から3度目のカップ戦準決勝進出を達成した。カンファレンスリーグとクラブワールドカップ制覇に加え、チャンピオンズリーグ復帰に導いた。彼の成果は素晴らしく、解任には程遠いように思える。しかし、スタンフォード・ブリッジはそう単純ではない。

    そもそもマレスカには、就任初日から疑問がつきまとっていた。プレミアリーグ昇格に導いたにも関わらず、レスターファンが彼の退団を惜しまなかったことは何かを意味していたのかもしれない。経験豊富なマウリシオ・ポチェッティーノですらコントロールできなかった肥大化したチームを、彼がうまくコントロールできるなど期待していた人はほとんどいなかったのだ。

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  • Everton FC v Chelsea FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    2つのタイトル

    それでも、昨年の11月下旬から12月中旬にかけて5連勝を達成し、プレミアリーグ優勝争いに参戦したことで、サポーターが「俺たちのチェルシーが帰ってきた」と高らかに歌い上げるほど支持を獲得したかに思えた。しかし試練のクリスマスシーズンは、マレスカにとって最悪の展開に。5試合でたった3ポイントしか獲得できなかったのである。

    最終的にチャンピオンズリーグ出場権を獲得したが、好調な時期でさえマレスカの「重苦しい」戦術には批判が相次ぎ、4月のフラム戦ではリードを許した直後にサポーターから直接罵倒もされている(彼の挑発的な発言が火をつけたことも事実だが…)。

    そんな彼だからこそ、カンファレンスリーグとクラブワールドカップ優勝は大きな意味を持っていた。この2つのタイトルこそが、彼の基盤を確固たるものにしたのである。

  • Chelsea FC v Paris Saint-Germain: Final - FIFA Club World Cup 2025Getty Images Sport

    実を結んだ補強戦略

    チェルシーはFIFA念願の大会で9000万ポンド以上の収益を上げたが、それ以上にパリ・サンジェルマンを撃破して優勝したことは何にも代えがたい価値があった。マレスカは優勝直後のインタビューでこう語っている。

    「3年前、マンチェスター・シティがチャンピオンズリーグで優勝したとき、私は幸運にもコーチングスタッフの一員だった。あの瞬間も体験しているが、この大会が世界最高の1つであることは間違いない。我々はこの大会をチャンピオンズリーグと同等、もしくはそれ以上に評価している。チェルシーのファンにこれから4年間。このバッジを掲げて戦う機会を与えることもできるしね」

    彼の「チャンピオンズリーグ以上」という主張の是非はともかく、マレスカとチェルシーにとって、この優勝の重要性を過小評価する理由はない。オーナー陣にとっては型破りな補強戦略を正当化するものであり、狂気的とすら思える獲得・放出の連鎖が着実に実を結んでいる証拠だった。

    しかしあれから半年が経過し、疑念は再燃している。

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  • Atalanta BC v Chelsea FC - UEFA Champions League 2025/26 League Phase MD6Getty Images Sport

    「カップ戦型チーム」

    主な問題は、チェルシーが良い意味でも悪い意味でも、フットボール界で最も予測不可能なチームで有り続けることだ。バルセロナを3-0で撃破し、10人で1時間以上も戦ってアーセナルと1-1で引き分けたかに思えば、リーズには1-3、アタランタには1-2で敗れている。

    マレスカのチェルシーは、結局は「カップ戦型チーム」である。好調時にはどんなチームにも勝利できるが、リーグタイトル争いで最も重要な安定感に欠け続けている。これにはレジェンド、ジョン・テリーもリーズ戦後にこう指摘している。

    「あの信じられないような2試合の後に、あんな試合をしてはいけないね。これで優勝争いができるわけがない。残念ながら、これが我々の命取りになるだろう。我々は未熟だ。リーズのアウェイで何が待ち受けるか理解できていないなら……あの地で闘志を見せ、あらゆる面でリーズと互角に渡り合い、戦う権利を勝ち取る必要があるんだよ」

    「しかしセットプレーの弱さ、守備での個人ミス……明らかに不十分だ。これは監督が戦力を再考する機会かもしれない。『今後ローテーションはしない。ベスト11~14は決まっている。彼らを起用し続ける。他の選手はそれを受け入れるしかない』とね」

  • FBL-ENG-PR-LEEDS-CHELSEAAFP

    ローテーションのジレンマ

    テリーはタイトル獲得のノウハウを熟知している。そして安定したチーム編成を行う利点について、彼の指摘は非常に的を射ているだろう。だが、ローテーションをし続けるのは本当にマレスカだけの責任なのだろうか?

    まず第一に、チェルシーはクラブワールドカップの影響で夏にほとんど休養を取れていない。そのため、シーズン中にローテーションさせる以外に選択肢がない。彼が既に何度もも指摘している通り、現状では数多くの負傷問題に対処せざるを得ない状況にある。コール・パーマーをはじめとする複数の主力選手について、マレスカは「現時点で週3試合をこなす体力的な余裕がない」と明言している。したがって、既に疲労困憊している選手たちにさらなる負担を求めるのは無謀かつ無責任と言わざるを得ない。

    だがより大きな問題は、現オーナー陣が投じてきた巨額の資金のうち、大部分が水準以下の補強に浪費されたこと。若き才能を集めようと焦るあまり、結局はチーム強化につながらない補強が多発している。チーム全体で見れば、アーセナルやマンチェスター・シティと戦えるだけの戦力が揃っていないのだ。マレスカが理想の先発11人を変更せざるを得ない状況では、明らかにチーム力が落ちてしまう。本人はリーズ戦後、こう語った。

    「我々のローテーションの大半は、代替選手が起用不能なためだ。だが、常に正直に言おう。フットボールでも人生でも、どんな仕事でもレベルは存在する。アンドレイ(サントス)は残念ながらモイ(カイセド)ではない。 トシン(アダラビオヨ)はウェス(フォファナ)ではない。彼らが持つスキルは異なる。彼らは別物だ。もし私が『アンドレイはモイと同じレベルだ』と言ったら、私が嘘つきだと君たちも理解できるだろう」

    「どんな仕事にもレベルがある。私自身もそうだ。私より優れた監督はたくさんいるし、そうでない者もいる。だが、どんな仕事にもレベルは存在する。だから私にとって、これが現実なのだ」

  • Chelsea v Everton - Premier LeagueGetty Images Sport

    「権力闘争」

    結局、彼の不安定なチームは絶え間なく変化するクラブの状態を反映しているに過ぎない。そのような不安定さの中で成功を収めるあために必要なのは、常に続く監視ではなく、上層部から立場を保証されることである。

    移籍市場においてマレスカの権限がないことは、8月にレヴィ・コルウィルが重傷を負った際に明らかになっている。マーケット終了2週間前、彼は「クラブは私の考えを正確に把握している。内部解決策を探しているが、繰り返し言うようにクラブは私の考えを正確に理解している。センターバックが必要だと考えている」と語ったものの、補強は行われなかった。

    マレスカは(少なくとも表向きは)その件を収束させた。だが、リーズとアタランタに連敗した後に浴びせられた批判への鬱憤が、あの土曜日に爆発したのだった。マレスカの暴言は「衝動的で感情的な反応だった」と報じられているが、その直後のカーディフ戦前の会見で彼が発言を撤回したり説明しなかった点は注目に値する。おそらく、記者だけでなくあらゆる立場の人々に対して自身の成績を擁護し続けることに疲れたからだろう。

    「私は母国語であるイタリア語、スペイン語は非常に流暢に、フランス語も非常に流暢に話せる。英語もまあまあだ。だから何か言いたい時は、かなり明確に伝わると思う。試合後には既に発言した。これ以上言う必要はない。終わったことだ」

    しかし、終わってはいない。むしろ全く終わっていない。

    彼の攻撃がチェルシー共同オーナーのベハド・エグバリ氏に向けられたとの噂が流れる中、『The Athletic』の有力記者デイビッド・オーンスタインは「グアルディオラがシーズン終了後に退任した場合、マレスカが有力候補」と報じたことで、チェルシーでの将来を巡る憶測はさらに強まっている。

    この報道は、マレスカにとってはこれ以上ないほど良いタイミングだった。彼がスタンフォード・ブリッジよりもエティハドで高く評価されていること、そして再就職先は簡単に見つかることを示唆しているからだ。

    ダニー・マーフィーとジェイミー・キャラガーという2人の解説者は、マレスカの発言をオーナーとの「権力闘争に踏み切った」と捉え、それに勝つ見込みはまったくないと指摘した。そしてこれまでのチェルシーを知るものならば、それに異論を唱えることは難しい。だが、マレスカ自身は自分のことを正確に理解していたようだ。

    この時点でより適切な質問は、「チェルシーはマレスカを解任するのか?」ではなく、「マレスカは解任を望んでいるのか?」である。

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