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ヴィニシウスが「新たなネイマール」となるために:ブラジル代表を導くカギはハフィーニャに?

20日に行われた2026年ワールドカップ南米予選、ブラジル代表とコロンビア代表の一戦は、終了間際に劇的なドラマが待っていた。後半アディショナルタイム9分、左サイドからカット・インしたヴィニシウス・ジュニオールが右足を一閃。強烈な勝ち越し弾を突き刺し、2-1の勝利に導いている。

そしてドリバル・ジュニオール監督は決勝弾直後、時間稼ぎのためレアル・マドリーのスター選手に交代を命じた。するとヴィニシウスはたっぷり時間を取りながらピッチを去ろうとし、激怒した相手選手に詰め寄られている。

この時、ヴィニシウスのチームメイトの1人が介入した。それは彼をかばうためでなく、物理的に引き離すためだ。ハフィーニャは、ヴィニシウスが出場停止にリーチがかかっていることを熟知しており、処分を免れるためにも何度もヴィニシウスをタッチラインへ向かって突き飛ばしてた。

この一連の出来事で、2つのことが明らかとなっている。1つ目は、ハフィーニャが現ブラジル代表で絶対的な地位を築いていること。そして2つ目は、ハフィーニャはヴィニシウスが「新たなネイマール」になるために重要な鍵を握っているということだ。

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    レジェンドの嘆き

    昨年のコパ・アメリカ開幕直前、ブラジルのレジェンドの1人、ロナウジーニョは『インスタグラム』にこう投稿した。

    「もうたくさん。ブラジルサッカーを愛する者にとって、悲しい瞬間である。もう彼らの試合を見る気力を維持するのが難しくなってきた。おそらく、ここ数年で最悪のチームだ。尊敬できるリーダーはおらず、大半が平凡な選手ばかりだ」

    ブラジルの選手たちにとっても憧れの存在であった彼から発せられた言葉は、間違いなくチームへ影響を与えた。そしてコパ・アメリカの惨憺たる結果も、ロナウジーニョの言葉を否定できるものではなかった。ネイマールを欠く中で、グループリーグは1勝のみ。準々決勝もウルグアイとスコアレスに終わり、PK戦の末に姿を消している。

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  • 「敗退は僕のせいだ」

    ネイマールに代わるエースとして期待されたヴィニシウスは、この悲惨な結果の責任を真っ先に認めた。カタール・ワールドカップでもクロアチア戦で66分に交代を命じられ、チームがPKで敗退する姿をベンチで見守るしかなかった彼は、あのウルグアイ戦も出場停止によってスタンドでの観戦を余儀なくされていたのだ。

    「コパ・アメリカは終わった。今こそ振り返り、敗北とどう向き合うかを考える時だ。またも悔しい感情が襲ってくる。PKの場面もそうだ。僕は2枚のイエローカードを受け、再び外から敗退を見守った。今回は僕のせいだ。そのことについて謝りたい」

  • Brazil v Colombia - CONMEBOL Copa America USA 2024Getty Images Sport

    活躍できない要因

    この悲惨なコパ・アメリカは、彼のバロンドールに大きな影響を及ぼしたのだろう。2023-24シーズンのチャンピオンズリーグ優勝へ導いたものの、結果的に受賞を逃すことになり、歴史上最大のヒステリーを起こすことに繋がっている。確かにあのシーズンのパフォーマンスは世界最高のものだっただろう(ロドリも間違いなく受賞に値した)。だが、代表レベルでの活躍が乏しかったことは認めざるを得ない。

    ここまでヴィニシウスがセレソンで活躍できなかった理由は様々だ。絶対的な顔であるネイマールとポジションが被っていることは、常に不利に働いている。ピッチ上でも使いたいスペースやプレーが常に重なり、その関係性は現在まで決してうまくいっていない。さらにロナウジーニョが言うように、チームの総合力はこの23年間で徐々に低下している。

    そうした影響はヴィニシウスに降りかかり、相手チームは彼を抑えるために多くの選手を割くことが可能に。コパ・アメリカのコスタリカ戦(0-0)後、本人も「セレソンで試合に出る度に、3~4人の選手にマークされるんだ」と漏らしている。

  • FBL-WC-2026-SAMERICA-QUALIFIERS-VEN-BRAAFP

    ハフィーニャというロールモデル

    とはいえ、この38試合で6ゴール5アシストという数字は明らかに物足りない。そして逆サイドでハフィーニャがそれを上回る活躍を見せていることを考えると、なおさらだ。そしてハフィーニャには、ヴィニシウスが持ち得ない強烈なキャプテンシーが備わっている。

    件のコロンビア戦もそうだが、ヴィニシウスの振る舞いに関しては世界中で物議を醸している。その“幼稚”とも取れる態度は批判を浴びても仕方がないだろう。だが、彼を取り巻く環境については理解しなければならない。ラ・リーガでは毎試合のように人種差別的な罵声を浴び、それに対処するために単独で当局とやり取りしながら、サンティアゴ・ベルナベウでの厳しい戦いを強いられている。ハフィーニャも『RAC1』で理解を示す。

    「ヴィニシウスの幼少期に何があったのかはわからない。幼い頃に何を聞かされたのかもね。こうしたことは、人を限界まで追い込んでしまうんだ。ヴィニシウスは非常に悩んでいるよ」

    「ヴィニシウスはとても笑顔の多い子で、いつも冗談を言っているよ。そんな彼を悩ませる唯一の問題がこれ(人種差別)だ。彼の怒りは理解できる。しかし僕は同じ立場にいないので、自分だったらどうするかは言えないよ。僕らはとても仲が良いし、よく話すよ。そして、彼にはピッチ上でやるような振る舞いはしなくていいとも伝えている。それでも人それぞれだし、彼はそういう人間。それがピッチ上での自信につながっているんだと思う」

    「例えば、ピッチ上のガビはクレイジーで厄介だ。でも、ピッチ外では愛情深くて思いやりがある素晴らしい人物だ。ヴィニシウスも同じだよ。でも、特定の場面だけを見た人にそう説得するのは難しい。一緒の時間を過ごさないと、わからないことではあると思う」

  • Brazil v Colombia - FIFA World Cup 2026 QualifierGetty Images Sport

    学ぶべきこと

    ハフィーニャの意見はもっともだ。だがヴィニシウスは、そんなハフィーニャから見習うべきことがたくさんある。

    ピッチ上でのプレーにおいても、彼は現在世界最高の選手である。バルセロナでの活躍は圧巻で、3冠の可能性を残す彼らにおいて最も重要な選手と言って過言ではない。そしてブラジル代表でも、ネイマール不在の中で最も効果的なアタッカーとして輝いている。疑いようもなく、バロンドールの有力候補だ。

    そしてハフィーニャは、その勝利への強烈な意思と様々な事象をフラットに見る力によって、チームメイトへ大きな影響を与えることができる。現代らしい「キャプテンのあり方」を体現しているのだ。外部からのプレッシャーの差はあるかもしれないが、ヴィニシウスは彼の振る舞いから学び取っていかなければならない。

  • Brazil v Colombia - FIFA World Cup 2026 QualifierGetty Images Sport

    「新たなネイマール」として

    ヴィニシウスへの重圧がすぐに和らぐことはない。それでもあのコロンビア戦は、彼にとってセレソンにおけるターニングポイントになる可能性がある。むしろチームにとってはそうならなければいけない。

    現在南米予選では2位につけ、過去5試合は無敗だ。だが、そのパフォーマンスは説得力を欠き続けた。バランスがなく、特に攻撃陣は、ネイマール不在によって未だに中心選手が決まっていない。

    だからこそ、ヴィニシウスが「新たなネイマール」として母国の期待に応えることが必要だ。そして彼がその役割に集中するためにも、ハフィーニャのサポートが不可欠である。コロンビア戦のように、時に厳しくも愛のある助言をそばでしてくれる世界最高レベルの選手が必要なのだ。