Gyokeres can make Arsenal champions again.jpgGetty/GOAL

アーセナル優勝への“ラストピース”?ギェケレシュという「ただの点取り屋」ではない待望のストライカー

「ケガ人の状況を考慮しつつ加入した選手を見ると……みんながストライカーを求めていた時に、彼らは(ラヒーム)スターリングを獲得したんだ。ストライカーを獲得する時間もあったと思う。でも、私は監督じゃないし、どんな話し合いがあったかはわからない。でも、誰もが求めていたのはストライカーだったと思うよ」

アーセナルが3シーズン連続プレミアリーグで2位に終わった後、伝説的なストライカーであるティエリ・アンリは『The Stick to Football』ポッドキャストでこう語った。

アンリの言う通り、アーセナルのファンは昨夏の移籍市場を通じて確かに「叫び続けていた」。リッカルド・カラフィオーリとミケル・メリーノの獲得は評価すべきだ。だが移籍市場最終盤、必要なストライカーではなく、スターリングを加えたことに関しては未だに疑問符がつく。ケガ人続出があったにせよ、リヴァプールの独走を許すのは当然の結果だったかもしれない。

しかしそうした教訓を、ミケル・アルテタと幹部たちはしっかりと活かして今夏の移籍市場に臨んだ。マルティン・スビメンディとケパ・アリサバラガの獲得を早々に決め、次は経験豊富なクリスティアン・ノアゴールの加入も迫っている。そして誰もが切望し、チームを確実に前進させるストライカー、ヴィクトル・ギェケレシュの移籍交渉も最終段階に突入したのだ。

  • Viktor Gyokeres Sporting 2024-25Getty Images

    「世界最高の選手」

    パリ・サンジェルマン(PSG)、バイエルン・ミュンヘン、リヴァプール、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッドなど、欧州中のビッグクラブから関心を集めていたギェケレシュ。しかし選手はアーセナルへの移籍を「最優先」としており、すでに5年契約で条件面も合意済みであるようだ。現在はスポルティングCPと移籍金の交渉を行っており、一時は選手サイドと衝突していたフレデリコ・ヴァランダス会長も移籍を容認する構え。先週『A Bola』でこう語っている。

    「彼が世界最悪のエージェントを雇っていない限り、移籍できると思う。だが、彼は世界最高の選手の1人。そんなエージェントを雇っているとは思えないよ」

    会長の評価は、数字を見れば当然だ。昨季スポルティングCPで奪ったゴール数は、公式戦52試合で54ゴール。2年間で奪った得点は「97」だ。リーグ戦と国内カップ戦のダブルに貢献したスウェーデン代表ストライカーは、現代フットボールにおける最高峰の点取り屋である。

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    ギェケレシュ>ハーランド?

    確かに、ギョケレスはスポルティングでチャンピオンズリーグの8試合で6得点を挙げ、新フォーマットで拡大されたトーナメントのノックアウトステージ進出に貢献した。そのうちの3得点は、マンチェスター・シティを4-1で破る驚異的なホーム勝利で記録され、ギョケレスはスカンジナビアのストライカー対決でエルリング・ハーランドを完全に凌駕した。

    チャンピオンズリーグの成績も8試合で6ゴール。特に圧巻だったのは、ホームでマンチェスター・シティを4-1で破った一戦だ。アーリング・ハーランドの眼前で、ハットトリックを達成している。このパフォーマンスについて、レアル・マドリーやトッテナムで活躍したラファエル・ファン・デル・ファールトは『Ziggo Sport』でこう語った。

    「少々クレイジーに聞こえるかもしれないが、私はギェケレシュがハーランドをアップデートした選手だと思っている。当然ハーランドも素晴らしいが、ギェケレシュはもっと別のものを持っている」

    またオランダのレジェンド、マルコ・ファン・バステンも同じく「彼は本物のフットボーラーだ。強靭でいてゴール前では冷静、いとも簡単にゴールを決める。GKをかわす技術もあるね。見ていて楽しいよ。本当に良いストライカーだ」と絶賛している。

    おそらく、ファン・デル・ファールトの発言は試合の興奮もあってのことだろう。現代フットボールにおいて、ハーランド以上のストライカーは存在しない。過去3シーズンの得点記録がそれを物語っている。

    だが彼とファン・バステンが指摘するように、ハーランドには持っていない武器を持っているのは確かだ。これこそ、アーセナルに欠けていた資質である。

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    新たな次元へ

    アーセナルが獲得するのは、単なる“ゴールマシーン”ではない。ネットを揺らすだけでなく、自らチャンスメイクもできるダイナミックなストライカーだ。また驚異的な運動能力を備えており、ワークレートも強烈。アルテタが目指すハイプレッシングなスタイルに完璧に適応できるだろう。プレミアリーグのフィジカル的な要求にも楽々と応えられるはずだ。

    そして彼のゴールへ直接的に向かうスタイルは、アーセナルの攻撃を新たな次元に引き上げる。深い位置まで下がってボールを受けることは稀で、常に相手DFに張り付きながら背後のスペースを狙うか、マークをサイドへ釣り出してボールを受け取り、自ら突破を狙い続ける。動き出しのタイミングは絶妙で、一度走られてしまえば止めることは非常に難しい。『The Athletic』によると、ギェケレシュは昨季DFラインを突破するスプリントを「85回」記録。これはポルトガルリーグではダントツで、プレミアリーグでも最多を記録したニコラス・ジャクソン(チェルシー)の「24回」を大幅に上回っている。

    対峙するDFは一瞬の油断も許されず、フィジカル的にもメンタル的にも相当な消耗を強いられる。こうしてDF陣が疲弊することで、ブカヨ・サカやマルティン・ウーデゴールのゴール&アシストも必然的に増えていくはずだ。

  • Viktor Gyokeres Sporting 2024-25Getty

    “トランジション・モンスター”

    唯一の懸念材料は、やはりポルトガルリーグからプレミアリーグへの適応だ。他リーグで得点を量産しながらも、イングランド最高峰の舞台で苦しむ選手は多い。

    ギェケレシュの場合は、引かれた相手に対して狭いスペースでいかに勝負できるか。そしてスポルティングCP時代にリーグ戦で一度もヘディングゴールがないことも、セットプレーを武器とするアーセナルにとっては懸念すべきポイントになるだろう。空中戦の活用法は学ばなければいけない1つだ。

    だがやはり、もたらす変化はポジティブなものが多い。昨季14試合でドローに終わったアーセナル(トップ11で最多)だが、トランジションのチャンスを活かせずに一度作り直す場面が散見された。ギェケレシュはこうした場面こそ輝く選手である。彼はスペースがあればあるほど相手を破壊するタイプの選手だ。またそのフリーランで陣形を間延びさせ、チームメイトの活きるスペースも生み出せる。両足を使えることも大きな武器であり、一瞬の隙でネットを揺らすことができる。これらの要素を見ると、今のアーセナルにとって完璧なストライカーと言えるだろう。

  • Viktor Gyokeres Coventry 2023-24Getty Images

    シェシュコではなく…

    そんなギェケレシュだが、若くしてイングランド・フットボールを経験している。2018年にはブライトンへ移籍を果たしていた。しかし出場は8試合、プレミアリーグの出場は一度もなし。そこからザンクト・パウリ、スウォンジーへのレンタル移籍を経験したが、インパクトを残すことはできなかった。

    しかし、2021年に加わったコヴェントリーで当時指揮官を務めていたマーク・ロビンスは、「彼の才能は間違いないし、レンタル期間中も素晴らしい態度で示した。自信もついてきたし、この活躍を続けて欲しい」とし、翌年には完全移籍で獲得。その期待に応えるように、チャンピオンシップでの2シーズンで合計46ゴールに絡んでいる。これを見たスポルティングCPは、当時のクラブ記録となる1700万ポンドを支払って獲得していた。

    ブライトン時代はトップレベルで通用するフィジカルが備わっていなかったが、コヴェントリーで成長し、スポルティングCPで才能を爆発させたギェケレシュ。アーセナルはRBライプツィヒのベンヤミン・シェシュコと最後まで迷っていたようだが、すでにイングランドを経験し、肉体的にも精神的にもピークにある前者を選んだのは正解だったと言っていいはずだ。

  • Viktor GyokeresGetty

    ラストピース

    また、ギェケレシュの強烈な野心もタイトルを目指すには絶対的に必要なものである。スポルティングCPでのデビューシーズンを終えた後、彼は『Sport Bladet』ですでにこう語っていた。

    「最高レベルでプレーしたい。1億ユーロの移籍条項は高すぎたかもしれないね。結局何も起きなかったから。でも、良いシーズンだったと感じている。スポルティングCPが僕をこう評価しているのだから、それはリスペクトしないと。ストレスはないよ。もちろん、より高いレベルに挑戦したいけどね」

    現在のギェケレシュの価値は、契約解除金と同じ額だと見積もられている。しかし“紳士協定”の存在により、アーセナルは8000万ユーロ前後で取引をまとめる可能性が高い。現在の市場に彼ほどのストライカーは並んでおらず、それを評価額以下で獲得可能であるならば、これ以上ない取引になるだろう。

    「誰も俺のことなんか気にもかけなかった。マスクをつけるまではな」

    ギェケレシュは昨年11月、自身のゴール集とともにこうキャプションをつけた。これは『ダークナイト ライジング』の名キャラクター、ベインのセリフを引用したものである。もちろんジョーク交じりではあるだろうが、彼の心情と絶対的な自信を伺わせる一文だ。これからはプレミアリーグを舞台に、ベインのように相手に恐怖を植え付け、あのおなじみのマスクパフォーマンスを何度も披露していくのだろう。

    アルテタ体制後の成長は高く評価されながらも、主要タイトルが取れずに多方向から批判を浴びたアーセナル。だがギェケレシュこそが、真の王者へと導くラストピースになるかもしれない。