England Squad Winners & Losers.jpgGetty/GOAL

トゥヘル新監督は何を考えた?イングランド代表の勝者と敗者:驚きのベテラン招集とグリーリッシュ落選の意味

ついにトーマス・トゥヘル体制で初となるイングランド代表メンバーが発表された。

アストン・ヴィラで復活の兆しを見せるマーカス・ラッシュフォードに加え、34歳ジョーダン・ヘンダーソンの復帰やカイル・ウォーカーの招集などもあったが、最大のサプライズはやはり18歳マイルズ・ルイス=スケリーと32歳ダン・バーンの初招集だろう。60年ぶりのワールドカップ制覇を目指す新生スリー・ライオンズのメンバーについて、指揮官はこう語る。

「フットボールのすべてにおいて、チームの結束力が重要だ。全員がプレーを楽しめるチームを作り、それをファン、国民に伝えるんだ。それは若手だけで、ベテランだけで行うものではない。良いバランスと良い組み合わせが必要であり、それを目指している」

今回『GOAL』は、トゥヘル・イングランド招集メンバーの勝者と敗者を振り返っていく。

  • FBL-ENG-PR-ASTON VILLA-LIVERPOOLAFP

    勝者:マーカス・ラッシュフォード

    ルベン・アモリムが「日々100%を出していない選手よりも(63歳のGKコーチ、ジョルジ)ヴィタルをベンチに置く」と宣言してからまだ2カ月だ。マンチェスター・ユナイテッドでのキャリアの終焉を告げるあの発言は、ラッシュフォードにとってはイングランド代表復帰の扉を開くためのものだったのかもしれない。

    冬にレンタルでアストン・ヴィラに加わると、トレーニングからその態度とプレーでチームメイトを驚かせ、試合中にも失っていたエネルギーとスピードを取り戻した。現在のフォームであれば、復帰は当然だろう。EURO2016~2022年ワールドカップまですべての主要大会に参加し、EURO2024での落選を乗り越え、再びスリー・ライオンズに復帰。これはすべての選手にとって大きな意味を持つ。そのポテンシャルと長所は誰もが知るところであり、トゥヘルもある意味で起用しやすいはずだ。この2試合で最もパフォーマンスが楽しみな選手の1人である。

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  • Thomas Tuchel EnglandGetty

    敗者:トーマス・トゥヘル

    通常、新監督は新しいアイデアと新しい選手たちを連れてくるものだが、トゥヘル最初のメンバーは“過去に戻った”ような印象だ。ファンの中でヘンダーソンの復帰を望んでいた人はおそらく多くないだろうし、今季マンチェスター・シティでの前半戦で期待を裏切ったウォーカーの招集を疑問に思う人も多い。

    確かにルイス・スケリーやバーンといったニューフェイスもいるが、メンバー入りを逃した好調の選手はたくさんいる(詳細は下記)。就任から仕事開始までの期間が空いたため一部のメディアから批判も浴びていたが、それとは関係なく、最も重要であった招集メンバーについても賛否両論が巻き起こっても仕方がないだろう。

  • Kyle Walker Jordan HendersonGetty

    勝者:ジョーダン・ヘンダーソン&カイル・ウォーカー

    プレミアリーグを離れて国外でプレーすることは、イングランド代表キャリアにおいてはリスクを伴う(もちろんレアル・マドリーは例外だ)。だからこそ、復帰を果たしたヘンダーソンとウォーカーは心から喜んでいるはずだ。

    ヘンダーソンの復帰を予想していた人はほぼいない。リヴァプールからサウジアラビアへと渡り、自ら「失敗」を認めてアヤックスへと加入したが、あれ以降彼のキャリアは低迷し続けていた。アヤックスの歴史的な不振や今冬の移籍騒動など、ポジティブなニュースがほとんどない中でスリー・ライオンズに戻ってきたことは、はっきり言って理解しがたいことだ。それでもトゥヘルは「パーソナリティとエネルギー」を称賛し、この34歳が示してきたメンタル面の強さを高く評価している。

    そしてウォーカーも、マンチェスター・Cで“スケープゴート”扱いを受けた後でミランへのレンタル移籍を決断したご褒美を受けている。イタリアに渡った後は、そのプレーよりもミラノのナイトクラブでの騒動に注目が集まっていたが、再びフットボール的理由で取り上げられたことで胸をなでおろしているに違いない。

  • Jack Grealish Man CityGetty

    敗者:ジャック・グリーリッシュ

    トゥヘル新体制発足により、グリーリッシュ自身は電話がかかってくることを期待しただろう。しかし、彼のスマートフォンは鳴らなかったようだ。リー・カーズリー暫定体制のフィンランド戦ではポテンシャルを感じさせたものの、もうスリー・ライオンズでのキャリアは終わってしまった可能性すらある。

    今季は細かなケガが相次ぎ、ジェレミー・ドクとサヴィーニョの台頭&オマル・マルムシュの加入によって、マンチェスター・Cでの影響力はほとんどなくなってしまった。彼が唯一先発できるのは現状FAカップのみであり、パフォーマンスとフィットネスの低下によってこれからポジションを掴み取るのも難しいだろう。だからこそ、先のラッシュフォードを参考にし、キャリアを再起動させるためにも夏に決断しなければいけない。ヘンダーソンやウォーカーのように国外でのチャレンジも選択肢に入れるべきだ。

  • Arsenal FC v Manchester City FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    勝者:マイルズ・ルイス=スケリー

    9月のマンチェスター・C戦でアーリング・ハーランドに「お前は誰だ」と吠えられた時、おそらく多くの人が同じ感想を持っていたはずだ。しかし、そこから半年も経たない内にプレミアリーグのスター選手となり、まもなくイングランド代表デビューを果たすことになる。

    もちろん、この18歳の招集は最近の調子を見ればまったく驚くことではない。トップレベルに対応可能なフィジカルだけでなく、何よりもあの強靭なメンタリティは心強い戦力になってくれるだろう。代表チームでの貴重な経験と経験豊富なチームメイトからのアドバイスは、ルイス=スケリーの成長をさらに促すものとなりそうだ。

  • Morgan Gibbs-White Nottingham Forest 2024-25Getty Images

    敗者:メンバー外の選手たち

    ジャラッド・ブランスウェイト、ジェームズ・マディソン、モーガン・ギブス=ホワイト、アダム・ウォートン……挙げればキリがないが、プレミアリーグで絶好調を維持する選手たちにとっては悲しい一日となった。

    ブランスウェイトは復活を遂げたエヴァートンを支え続けているが、イングランド代表デビューは早くても来年9月となった。ジャレル・クアンサーが2025年のプレミアリーグで一度も先発していない状況で招集されたことを考えると、やはりこの招集外は疑問が残る。

    マディソンは自らトゥヘルと話し合ったことをメディアで明かすほど、代表復帰を強烈に意識していた。トッテナムでの活躍を考えれば、呼ばれても不思議ではなかった。本人も自信があったはずだ。そしてギブス=ホワイトは、今季最大のサプライズであるノッティンガム・フォレスト最高の選手であり、暫定体制でも好プレーを見せていたにも関わらず、トゥヘルから声はかからなかった。本人は困惑しているに違いない。さらに、長期離脱から復帰後は強烈な印象を残すウォートンも落胆していることだろう。

    今回トゥヘルは自身初の代表招集メンバーを選ぶ上で、直近の調子よりもこれまでの経験をより評価して選考したと言える。たった一度のメンバー選考ですべてが明らかになることはないが、少なくとも2026年のワールドカップ出場が決まるまではこの傾向が続いていくかもしれない。