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物議を醸す冨安健洋の退場…「2枚目のイエローカードにVARが介入しない」ことは正しいのか?

プレミアリーグ第2節クリスタル・パレス戦(1-0)で、2枚のイエローカードを受けて退場したアーセナルDF冨安健洋。有力メディア『The Athletic』のニック・ミラー記者は、この退場を例に上げてVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)への提言を行っている。

開幕戦でもユリエン・ティンバーの負傷を受けて途中出場していた冨安は、第2節は先発出場。しかし60分、スローインの際に遅延行為を取られて1枚目のイエローカードを受けることに。そしてその7分後、相手FWジョルダン・アイェウと接触したシーンで2回目の警告を受け、そのまま退場となっている。なお、アーセナルは1-0で勝利した。

この退場は現地イギリスでも物議を醸しており、1枚目のイエローカードにミケル・アルテタ監督が「(かけた時間は)8秒ぐらいだったと思う。これからはストップウォッチ持ってこないとね」と皮肉を漏らすと、解説者ジェイミー・キャラガーも「冨安が気の毒。時間を無駄にしているとは思わなかった」とコメントしている。

そうした中で『The Athletic』のミラー記者は、「大人気のVARは2019年からプレミアリーグに導入された。時が経つのは早い。彼らは急速に成長している」としつつ、ある提言を行っている。

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    VARが介入する4つのシーン

    ミラー記者は「VARは横暴で試合全体の流れを乱すものと感じることもあるが、審判が間違った判定を下した数々の場面を覚えている人は多いはずだ。我々はそれに大人になって対処してきたが、VARの範囲は限られたものである」とし、以下の4つの場面で主審に判定の再考を勧告できると指摘している。

    1:ゴール判定

    2:PK判定

    3:判定の対象選手が間違っていないか

    4:一発退場判定

    しかし同記者は「決定的に重要なのは、2枚目のイエローカードによる退場は入っていないこと」とし、「4番目は修正する必要があるのか? VARは、2枚目のイエローカードでも介入すべきだろうか?」とし、冨安の退場を例に上げた。

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    冨安健洋の退場

    「冨安健洋はこのルールの抜け穴の最新の被害者」と断言。デビッド・クート主審に最初は遅延行為で、2回目はアイェウへのファールで警告を出されたことに「ここで主審の判断が正しかったかどうかを詳細に分析することはないが、両方の警告は少なくとも議論の余地がある」とし、日本代表DFの退場を検証している。

    「最初に、冨安はスローインに時間がかかり過ぎと判断された。実際に彼がボールを持ったのは8秒だったが、アーセナル全体でそれよりも長い時間かけていたため、冨安個人が罰せられた。そして2枚目では、クート主審はシャツを引っ張ったジェスチャーを見せており、一部のリプレイではわずかにそうした可能性も見えた。しかし、2枚目は良く言えば『厳しく』、悪く言えば『バカバカしい』という議論も容易に成り立つだろう」

    その上で「重要なのは、クートにもう一度判断する機会があれば容易に異なる結論を出し、冨安の退場を撤回できたかもしれないこと」とし、「『一発退場は検証できるが、2度目の警告は再考できない』というのは不思議でしょうがない。どちらも即座に試合根本の流れを変え、場合によっては出場停止処分も同じ長さになる可能性すらある」と指摘した。

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    現状のルールへの提言

    ミラー記者は、現状のプレミアリーグのルールで2枚目のイエローカードにVARが介入しない理由を説明しつつ、ある提言を行っている。

    「(現ルールが採用されている)理由は、1枚のイエローカードは試合を変えるほど重要な出来事として審査されるほどではなく、理論的には各イエローカードが独立した事象として判定されている。審判は、あらゆる場面でそう判断する必要があるからだ。理論上は、2枚のイエローカードに異なる基準を適応すべきではない」

    「だが、必ずしもそうとは限らない。すでに警告を受けている選手がカードの対象となるようなファールを犯したにも関わらず、主審がおそらく無意識のうちに退場させない判断を下した場面は何度も見てきた。女子ワールドカップの決勝戦、スペイン代表サルマ・パラジュエロがボールを蹴り出した場面もそれだ」

    「2枚目のイエローカードのほうがより重要なことは明らかであるので、それを審査対象としない場合、VARは不完全で一貫性のないようなものに感じられる。試合に根本的かつ重大な影響を与える事象に対して、すべての例にテクノロジーを使用すべきではないだろうか? なぜ異なるミスは審査対象となり、また異なるミスはそうならないのだろうか?」

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    今後イエローカード2枚による退場は増える?

    今季からプレミアリーグは、遅延行為や審判員への異議に対する新たな基準を作成。その結果、同場面でより厳しく判定を下す形となり、第2節終了時点ですでに計32枚(遅延行為14枚、異議18枚)のイエローカードが提示されている。ミラー記者は「上記のような場面はどんどん増えていく」とし、以下に続けた。

    「この夏に導入されたルール変更だが、VARプロトコルは一切対象とならず、むしろ些細な事象が対象となった。理論的には、その罰則によって試合が改善するとされている。そうなると、必然的に遅延行為や異議に対する警告は増えていき、2回の警告による退場や一発レッドも増えていくだろう」

    そして「データは少ない」としつつも、第2節終了時点での今シーズンの判定のデータを紹介。平均4.8試合ごとに2枚のイエローカードで退場者が出たこと(昨季は29.2試合)、1.4試合ごとに遅延行為によるイエローカードが出されていること(昨季は4.3試合)を挙げている。

    「アーセナルファン以外は今回の事件を“グーナーの泣き言”と片付けるかもしれないが、比較的軽い違反の積み重ねに対するレッドカードは今後もどんどん発生するだろう。プレミアリーグ全体に広がる可能性は高い」

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    IFABで検討すべき?

    ミラー記者は「すべてのイエローカードを見直すのは愚かだし、さらに“試合の再審判”という最悪の事態は責任者全員が避けたいと考えている。だが、遅延行為や軽くシャツを引っ張る行為が、PGMOL(審判協会)の責任者ハワード・ウェブが主張する『高いハードル』に当てはまるのだろうか?」と疑問を呈した。そして最後に、「おそらく最も根本的なことだが、明らかな間違いがいつ発生したかを確認できなければ、実際に問題を解決できない可能性がある」としつつも、以下のように締めくくった。

    「すべての注意点を念頭に置いたとしても、VARがこうした試合を左右するような事象を再検討できないというのは滑稽に感じられる。次にIFAB(国際サッカー評議会)が話しあいを行うとき、少なくとも検証されるべきだろう」