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久保建英が見せつけた“格”:サッカー界の伝説的「14番」の教えを体現するソシエダの「14番」【現地発】

ラ・リーガ第34節、レアル・ソシエダは本拠地アノエタでジローナと対戦。2-2で引き分けている。

だがこの試合で先発した久保建英は、圧巻のプレーを見せつけた。まずは開始直後に右サイドでしかけてPKを獲得し、ミケル・オヤルサバルの先制点を生み出す。すると今度は24分、再び右サイドでしかけて正確なクロスを送り、ダビド・シルバの追加点をアシストしてみせた。チームは追いつかれたとはいえ、久保のパフォーマンスはスペインメディアで衝撃をもって伝えられ、各紙が絶賛を送っている。

そんな日本代表MFについて、バスク出身でソシエダの取材を続けるジャーナリストは、サッカー界の伝説的な存在、故ヨハン・クライフ氏の姿を重ねている。偉大な「14番」の考えを体現するソシエダの「14番」について綴る。

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    ソシエダ理想的な選手

    レアル・ソシエダは13日のラ・リーガ第34節、本拠地アノエタでのジローナ戦(2-2)で勝ち点1を獲得し、来季カンファレンスリーグの出場権を手にした。 彼らの目標はあくまでもチャンピオンズリーグ出場権獲得だが、とりあえずは4シーズン連続での欧州カップ出場を決めたわけである。ラ・レアルが4年連続で欧州の舞台に立つのは、ラ・リーガ連覇などを達成した彼らの最たる黄金期、1980年代以来のことだ。

    降格や昇格で涙を流したこともあるラ・レアルのサポーターからすれば、チームが安定した強さを発揮している現在はこの上なく幸せだ。そして、その強いチームの中心には、日本人の久保建英がいる。ラ・レアルの14番はこの記念すべきジローナ戦で圧倒的なパフォーマンスを披露した。昨年10月、リーガ前半戦のジローナとの試合(5-3)でも1ゴール1アシストの活躍を見せた久保は、その一戦の直後に「これ以上は何も求められません。僕は理想のチーム、居場所を見つけたんだと思います」と語っていたが、今や彼は私たちにとっての理想的な選手でもある。これ以上は、もう何も求められない。

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    クライフの「14番」

    このジローナ戦、ソシエダの右サイドはまさに久保のテリトリーだった。彼と同じ背番号を付けていた……というよりも、フットボール界で「14」という数字を特別なものとした故ヨハン・クライフは、かつてこんなことを語っていた。「サイドの選手はボールを持って相手に勝負を挑んでも、ボールを持たないでタッチライン際に張り出していても、どちらの場合でも重要な存在になり得る。サイドに張っていれば内側にスペースが生まれるからだ」。バルセロナの下部組織出身選手はその考え方を完璧に理解し、状況が求める最善のプレーを選択し続けていた。

    キックオフから2分後、久保はまずボールとともに輝いた。ペナルティーエリア内右でボールを持ってドリブルを仕掛けると、相対していたロドリゴ・リケルメをあっさりとかわし、彼に後ろから倒されてPKを獲得。これをミケル・オヤルサバルが決め切り、ソシエダは先制した。

    久保は輝き続ける。プレーが左サイドで侵攻してるときにもサイドに張り出し、チャンスを待ち続けながら味方選手たちにスペースを供給。そして24分には2点目もお膳立てした。再び右サイドでボールを持った14番は、左足で少しボールを蹴り出して対面するハビ・エルナンデスのマークをずらし、素早く、もう一度左足を使ってクロス。折り返されたボールはスピード、落下地点とともにまさに完璧で、ダビド・シルバが左足で合わせて枠内に押し込んだ。

    久保が特別な才能を持っていることは誰もが知るところだが、この試合中にもその“格”を上げたように思えた。2点を導いてからというもの、ジローナは彼のことを本当に警戒するようになった。14番がボールを持てば必ず2選手がマークに付く。だが、そうした状況でも久保は慌てなかった。ボールを足元に置きながら与える圧は凄まじく、2選手は容易に飛び込めない。そこから鋭利なドリブルを仕掛けたり意表を突くスルーパスを出したりと、ジローナにとっての脅威になり続けた。

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    バスクのメンタリティ

    惜しむらくはチーム全体が守備面で統率を欠き、同点に追いつかれて前半を終えたことだ。ただ久保はそのことについて、『DAZN』とのフラッシュインタビューで「僕たち前線は前からプレスを仕掛け、でも後ろの方はあまり明確ではなくて、もっとちゃんとコミュニケーションを取るべきでした。前から行かないなら行かないようにするべきですし、2-0という大きなリードを失ってしまいました」と発言していた。こういった場合、大体の選手が自分たちの責任を感じさせないような発言に終始するものだが、久保は逃げることなく、まるでチームの全責任を背負うように自分たちの足りなかった部分、改善しなければいけな部分をはっきりと口にする。バスク人のメンタリティーにも通じる生真面目な性格であり、彼のことを好きにならない理由はない。何よりこの日本人が流暢なスペイン語を駆使して発するコメントは、テンプレートのような内容が皆無で、いつも興味深く面白い。

    後半も久保の格と威圧感は変わらなかった。右サイドで、一度ドリブルを仕掛けたら止めることはできず、師匠でもあり相棒でもあるシルバのさらなる決定機もお膳立て……シュートはGKガッサニーガのセーブに阻まれたが、あれが決まらなかったのはもはや奇跡と言っても良かった。直後には久保自身も鋭い切り返しからフィニッシュに持ち込んだものの、こちらもジローナ守護神の好守に阻まれている。

    終盤に彼のCKからカルロス・フェルナンデスがクロスバー直撃のシュートを放つところまで、この試合はずっと久保が主役だった。当然、またもマン・オブ・ザ・マッチにも輝いている(もう何度目だ)。

    今日、彼に足りないものがあったとすればそれはゴールとなるのだろうが、ラ・レアルのサポーターにとってそんなものは難癖以外の何物でもない。言われなくとも自分に厳しい、この若き日本人に対して向けるべき気持ちは、深い愛情や称賛であるべきだ。