選手たちがシルバを探す理由は、久保の言う通りスペースを見つけること、フリーでボールを受けることがうまいから。相手MF&DFのライン間、MFラインの脇、CBとSBの間、最終ラインの裏……シルバはボールの位置、自チームの配置、相手チームの配置からスペースを感知し、そこでパスを受ける。ずっと動き回っているわけでも縦に勢いよく走り込むわけでもなく、そのインテリジェンスによって自分をパスコースとして味方に差し出す適切なタイミングを見い出すことができる。
久保はそんなシルバを見ること、アドバイスを受けることで学んでおり、また21番の創造的プレーの活かし方も身に付けている。「シルバは久保を活かしているが、それによって久保もシルバを活かしている」というわけだ。シルバがボールを受けるとき、久保は彼が反転して前を向くことを期待しながらSBとCBの間を駆け抜ける。シルバのサイドに攻撃を展開するか、中央から攻め続けるかという判断も瞬時に把握して、それに対応した動き、位置取りを見せる。シルバのプレービジョンと判断を絶対的に信頼しているからこそ、久保は思い切り良くプレーできている。
加えてシルバの助言通り、久保は無闇に「ギアを一段上げてプレー」することを止めるようになった。アタッカーであることにこだわるこの日本人は、以前は猪突猛進なところもあったものの、今は足ではなく頭でも決断を下している。そしてそれはフィニッシュフェーズでの成長にも、少なからず影響を与えている。ソシエダ加入前の久保はフィニッシュへの持ち込み方やシュート精度を課題としていたが、結果を出さなければならないとはやる気持ちを抑えられるようになったことで、逆に結果が出るようになってきている。「止まれ、そして見ろ。スペースはいつだって存在している」は、つくづく金言である。
バルセロナの下部組織出身で、レアル・マドリーにもその才能を認められた久保は、あまりに大きな期待とプレッシャーを背負ってプレーしてきた。そして今季、久保はソシエダで、あまりに過剰で性急でもあったその期待に応え始めている(選手の成長、ブレイクの時期は決して一様ではない。早熟な選手を唯一の基準にすべきではないはずだ)。
彼が内包している巨大な才能が全貌を現すまでには、まだ何ステップも必要なはず。そして、シルバと可能な限り一緒にプレーすることこそ、そのステップを踏破するための一番の近道になるだろう。