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久保建英が見つけた地球上で最高の師匠:シルバの金言が与えた「結果」と特別な関係

今季レアル・ソシエダに加わったばかりの久保建英だが、キャリア最高のシーズンを送っていることは間違いないだろう。リーグ屈指の能力を有するチームの中で躍動し、ラ・リーガ日本人1シーズン最多得点記録を更新する7ゴールに5アシストと、毎試合のように決定的な活躍を見せ続けている(第32節消化時点)。

そんな21歳に最も影響をもたらしているのが、ダビド・シルバだ。スペイン代表としてEURO連覇にワールドカップ制覇、マンチェスター・シティでは4度のプレミアリーグ優勝を含む11もの主要タイトルを手にした37歳のレジェンドは、ピッチ内外で久保にとってかけがえのない存在である。

そんな2人の関係性を、スペイン大手紙『as』の副編集長であるハビ・シジェス氏が分析。ソシエダで送る「久保のキャリアにおいてかけがえのない経験」を紐解いていく。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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    久保建英とダビド・シルバ、特別な関係

    久保建英がレアル・ソシエダに移籍することが決定したその日から、いや、移籍が噂され始めたときから、皆の頭に彼の姿が浮かんだはず。

    そう、「ダビド・シルバ」だ。

    久保とシルバは特別な関係にある。それはもちろん、人間同士の個人的な付き合いの話ではなく、フットボーラー同士のピッチ上における交感の話だ。久保にとってシルバ以上にお手本となる存在はいないのではないか。まったく同じフットボール言語を話す、教科書そのもののようなスペイン人MFと過ごす日々は、日本人MFのキャリアにおいてかけがえのない経験となる。ポジショニングの取り方、プレー選択の仕方……。フィジカル的な特徴も似通う2人は、ピッチで極めて自然につながった。久保にとってシルバはおそらく、地球上にこれ以上はいない最高の師匠である。

    久保とシルバの関係性の素晴らしさは、基本的な数字を見ても確認できる。彼らが一緒にプレーするソシエダの勝率は「62.5%」。1試合につき勝ち点2を獲得している計算となり、また平均して1.4得点を記録している。その一方で2人が揃わないチームは勝率が「25%」、獲得勝ち点数が1.1、得点数が0.9まで落ち込んでしまう。クラブとして明確なプレー哲学、スタイルを有しているソシエダだが、それを機能させる、または効果性を持たせる上で2人の存在は重要だ。ソシエダの攻撃において彼らが担う部分は大きく、それは数字を超えたところでも感じられる。

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    シルバの金言

    今季、久保はフットボーラーとして著しい成長を遂げているが、シルバからも決して忘れられないレッスンを受けている。『DAZN』のインタビューで、久保が語った内容を今一度振り返ってみよう。

    「シルバはチームメートを走らせる存在なんです。彼が走っているなら、僕たちがそうしない理由なんてどこにもないですよね。ボールを失って、一番最初に走るのがダビドなんて決まりが悪いじゃないないですか。彼はすべてを勝ち取った選手で、もしそうしたいなら歩いていてもいいんです。それでも選手としてのクオリティーは余りある程なので。だけど最初に走るのはいつも彼で、だから僕たちも激しくプレスを仕掛けて、それで多くのボールを奪うことができているんです」

    「練習で彼のことは追わないです。可能性がないことは分かっているので。僕がプレスするのは彼がボールを渡す選手に対してですね」

    「ピッチ上の彼は、頼まなくてもアドバイスをくれますね。僕はいつもギアを一段上げてプレーしてしまうのですが、彼からは『止まれ、そして見ろ。スペースはいつだって存在しているんだ』と言われるんです。そう、彼の長所の一つは、スペースを見つけられるところにあるんです。シルバはいつも一人でいるように見えますが、それはスペースを見つけているからなんですよ」

    いつ止まるべきか、いつ走るべきか、いつプレスに行くべきか――久保は決定的な存在になるために必要なことをシルバから学んでいる。ゲームづくりにおける効果性という点で、シルバと比肩できる選手はいない。彼はこの世界であまりにも稀な、孤高の渡り鳥だ。通常であれば、クラック(名手)と称されるMFの影響力を高めるのはそのほかの中盤の選手たちだが、カナリア出身MFは戦略家としての頭脳でもって、逆に彼ら全員のことを支える。全員がシルバを探し、彼と繋がろうとするのだ。

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    巨大な才能を開花させるために

    選手たちがシルバを探す理由は、久保の言う通りスペースを見つけること、フリーでボールを受けることがうまいから。相手MF&DFのライン間、MFラインの脇、CBとSBの間、最終ラインの裏……シルバはボールの位置、自チームの配置、相手チームの配置からスペースを感知し、そこでパスを受ける。ずっと動き回っているわけでも縦に勢いよく走り込むわけでもなく、そのインテリジェンスによって自分をパスコースとして味方に差し出す適切なタイミングを見い出すことができる。

    久保はそんなシルバを見ること、アドバイスを受けることで学んでおり、また21番の創造的プレーの活かし方も身に付けている。「シルバは久保を活かしているが、それによって久保もシルバを活かしている」というわけだ。シルバがボールを受けるとき、久保は彼が反転して前を向くことを期待しながらSBとCBの間を駆け抜ける。シルバのサイドに攻撃を展開するか、中央から攻め続けるかという判断も瞬時に把握して、それに対応した動き、位置取りを見せる。シルバのプレービジョンと判断を絶対的に信頼しているからこそ、久保は思い切り良くプレーできている。

    加えてシルバの助言通り、久保は無闇に「ギアを一段上げてプレー」することを止めるようになった。アタッカーであることにこだわるこの日本人は、以前は猪突猛進なところもあったものの、今は足ではなく頭でも決断を下している。そしてそれはフィニッシュフェーズでの成長にも、少なからず影響を与えている。ソシエダ加入前の久保はフィニッシュへの持ち込み方やシュート精度を課題としていたが、結果を出さなければならないとはやる気持ちを抑えられるようになったことで、逆に結果が出るようになってきている。「止まれ、そして見ろ。スペースはいつだって存在している」は、つくづく金言である。

    バルセロナの下部組織出身で、レアル・マドリーにもその才能を認められた久保は、あまりに大きな期待とプレッシャーを背負ってプレーしてきた。そして今季、久保はソシエダで、あまりに過剰で性急でもあったその期待に応え始めている(選手の成長、ブレイクの時期は決して一様ではない。早熟な選手を唯一の基準にすべきではないはずだ)。

    彼が内包している巨大な才能が全貌を現すまでには、まだ何ステップも必要なはず。そして、シルバと可能な限り一緒にプレーすることこそ、そのステップを踏破するための一番の近道になるだろう。