欧州主要リーグの移籍マーケットが日本時間2日に終了。近年のリーグ競争力の上昇が顕著なセリエAでも、強豪勢を中心に各チームが慌ただしい夏を過ごした。
今回はイタリアサッカーに精通するジャーナリストの片野道郎が、今夏の補強に関する5つの項目を各10点満点で採点。合計50点満点でランキング付けし、TOP5の評価クラブの補強を解説する。
(C)Getty Images欧州主要リーグの移籍マーケットが日本時間2日に終了。近年のリーグ競争力の上昇が顕著なセリエAでも、強豪勢を中心に各チームが慌ただしい夏を過ごした。
今回はイタリアサッカーに精通するジャーナリストの片野道郎が、今夏の補強に関する5つの項目を各10点満点で採点。合計50点満点でランキング付けし、TOP5の評価クラブの補強を解説する。
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(C)Getty Imagesオーナーの中国・蘇寧グループに当座の投資余力がなく、今夏のメルカートは実質的な補強予算ゼロどころか、年俸総額も含めたコスト削減も必要という難しい状況の中で、ミランに奪われたスクデット奪回を目指せる陣容を整えるという目標に取り組まなければならなかった。
その「切り札」となったのが、一昨シーズンのスクデット獲得に最も大きな貢献を果たしたルカクの復帰。1年前に1億1500万ユーロという高値でチェルシーに売却したストライカーを、レンタル料わずか800万ユーロのドライローンで呼び戻すことができたのは、マロッタCEOを筆頭とする首脳陣の大手柄と言える。
ルカクの復帰による得点力の向上は純粋なプラス要素。さらに、信頼できるバックアップに欠けていたチャルハノール、ブロゾヴィッチ、デ・フライ、ハンダノヴィッチという中心選手4人の控えにムヒタリアン、アスラーニ、アチェルビ、オナナを獲得し、陣容に戦力的な厚みを加えたのも、セリエAとCLという二正面作戦を戦っていく上では大きい。
そして見逃せないのは、冒頭で見た厳しい財政事情にもかかわらず、移籍の噂があったシュクリニアル、ドゥンフリースという主力クラスの放出を見送り、当該ポジションの戦力ダウンを逃れたこと。結果的に昨シーズンのレギュラー陣は、契約満了でトッテナムに去ったペリシッチを除き全員残留している。
ただ、移籍ウィンドウが開いた当初は獲得の可能性が高いと思われていたディバラ(ルカク復帰で優先順位が下がっただけでなく、余剰戦力の放出に手間取り年俸枠が確保できなかった)、ブレーメル(最後に割り込んだユヴェントスがより高額のオファーをトリノに提示)を獲り逃したのは不本意だろう。
総合的に見ると、プラス要素はルカク復帰とバックアップ陣の充実、マイナス要素はペリシッチの退団で、戦力的な収支は微増だがライバルと比べるとやや見劣りする、という評価になる。とはいえクラブの経営状況をかんがみれば、その枠内で最大限の努力がなされたことは確かであり、その点は評価できる。
(C)Getty Images春先に契約を更新しない旨が発表されていたディバラに加え、モラタも買い取りオプションを行使せずアトレティコに返却。その一方ではポグバ、ディ・マリアというワールドクラスをともにフリー移籍で獲得、さらにCBデ・リフトをバイエルンに売却してブレーメルをインテルから横取りと、派手な出入りでスタートした今夏の移籍オペレーション。
その狙いは、ピッチ上では昨冬獲得したヴラホヴィッチをエースストライカーとしてプロジェクトの中核に据え、彼の力を引き出し活かせる陣容を構築する、そして同時にピッチ外で年俸総額を削減してコストを抑え経営の健全性を高めるという2つのミッションを同時に達成することにあった。チーム最高年俸を得ていたデ・リフトの売却は後者の一環。移籍金の投下も実質ブレ-メルとコスティッチのみに抑えられ、移籍収支は6年ぶりにプラスとなっている。
戦力的に見ると、ヴラホヴィッチ、ディ・マリアの存在を前提とする3人目のアタッカー(キエーザは膝の故障でW杯明けまで長期離脱中)に、左利きのクロッサーであるコスティッチを獲得、さらに開幕後にはCFの控えとウイングが務まる「モラタ枠」として、3年前にも獲得寸前までいったミリクも加入。トータルで見れば前線の戦力収支はプラスになった勘定だ。
痛いのは、攻撃にさらなるプラスアルファをもたらす存在として中盤の中核を担うはずだったポグバが、プレシーズンに膝を故障し、キエーザと同様にW杯明けまでの欠場が濃厚になったこと。開幕後、アッレグリ監督が既存戦力をやり繰りしながらその穴を埋めるべく試行錯誤を続ける中で、自陣からのビルドアップを担えるゲームメーカーの不在がクローズアップされたこともあり(ロカテッリでは不十分と判断)、移籍期限ぎりぎりにPSGからパレデス獲得に踏み切った。
特記すべきは、そのやり繰りの過程においてアカデミー生え抜きの19歳ミレッティが頭角を現したこと。若手の起用には消極的なことで知られるアッレグリ監督にしては異例の抜擢である。クラブもそれを受ける形でアルトゥール、ザカリアの2人を余剰戦力としてリヴァプール、チェルシーにそれぞれレンタルで放出。財政的な要請(年俸の節約)もあったとはいえ、若手を活かすためにある程度計算の立つ余剰戦力を手放すのは、このクラブとしては画期的だ。
ポグバの故障離脱に加え、ミリク、パレデスという土壇場に加入した新戦力が未知数だけに評価は難しいが、ピッチ外も含めたクラブの戦略に照らした時に筋の通った補強だったことはポジティブな側面だろう。
(C)Getty ImagesNYヤンキーズやレブロン・ジェームズも出資者に名を連ねる新オーナー「レッドバードキャピタル」の下で、スクデット2連覇、さらにはチャンピオンズリーグでの躍進を狙うため、各セクションで戦力に厚みをつけると同時に鍵になるポジションのレベルアップを図るというのが、今夏のミッションだった。
それに基づき、チーム強化を担うマルディーニTDは昨シーズン中から、FWオリギ、トップ下のデ・ケテラーレ、中盤にレナト・サンチェス、CBにボトマンというターゲットを特定、移籍の基本合意まで迫った。
しかし、エリオットからレッドバードへのオーナー交代に伴う意思決定の停滞があり、スムーズに加入が決まったのは、リヴァプールとの契約満了でフリーになったオリギだけで、サンチェスはPSG、ボトマンはニューカッスルにさらわれるという難しい状況に陥り、デ・ケテラーレの獲得が決まったのも8月に入ってからだった。
とはいえ最終的には、中盤にヴランクス、CBにチャウと、マルディーニのお眼鏡に適ったU-21世代のタレントを獲得、さらに故障したフロレンツィの穴埋めにもバルセロナからデストを手当てした。4年前にアメリカ資本となって以来、伸びしろのある若手に投資し使いながら育てることでチームとしても成長を続ける、という強化戦略は不変。
すでに欧州屈指のタレントという評価を集めるデ・ケテラーレを除けば新戦力にどこまでの貢献が期待できるかは未知数だが、レオン、カルル、メニャンといった「前例」を見る限り、スカウティング能力の高さには一定の信頼が置けそうだ。
当初のターゲットを逃してもパニックバイに走らず筋の通った補強を全うした戦略性、「カカとハヴァーツの中間」と評されるデ・ケテラーレのタレントに集まる注目と期待、そして総合的な戦力の上乗せを考慮すれば、ポジティブな補強だったと評価できる。
(C)Getty Imagesインシーニェ、メルテンスというベテラン2人に加え、主力中の主力であるクリバリ、F・ルイスの退団をも許容したのは、クラブの財政を健全に保ちながら、競争力を落とすことなく世代交代を進めるという、難易度の高い課題に直面したから。
実際、後釜として獲得したのは、まだ5大リーグで実績のない無名選手(クバラツケリア、キム・ミンジェ)、そうでなくとも伸びしろを残した若手・中堅(ラスパドーリ、シメオネ、エンドンベレ)で、戦力ダウンを許容してコスト削減を進める後ろ向きのリストラ補強と受け取る向きも少なくなかった。
しかし、シーズンが開幕してみれば、クバラツケリアはインシーニェになかった縦の突破力と得点力を発揮し、4試合で3得点1アシスト。キムも高い対人能力とスピードを活かしてクリバリの穴を感じさせない堅守を(さらにはCKからの得点も)見せるなど、悲観的な予想をいい意味で裏切る活躍ぶり。
注記すべきは、前線の補強(メルテンス→ラスパドーリ、ペターニャ→シメオネ)も含めて、獲得した新戦力が揃って、スパレッティ監督が打ち出している戦術的方向性、すなわち最大の得点源であるCFオシメンの爆発的なスピードとゴールセンスを活かすべく、従来のポゼッション志向を弱めてよりダイレクトに敵陣を目指すというスタイルの変化に、きわめて適合性の高いプロフィールを持っていること。テクニカルなファビアン・ルイスをフィジカルなエンドンベレで置き換えた中盤の補強は象徴的だ。
話題性や注目度は低かったが、クリバリ、F・ルイスの売却でトータルの移籍収支をプラスにした上で、チームの戦力レベルを落とすことなく世代交代も着実に進んだことを考えれば、クラブ経営レベルとチーム強化レベル双方における戦略性、新戦力の活躍ぶりとそれを裏付けるスカウティング能力の高さなどを含めて、きわめてポジティブな補強だったと評価することができる。
(C)Getty Images就任1年目で欧州カップ戦(カンファレンスリーグ)のタイトルをもたらしたモウリーニョ監督の要望に沿い、セリエAでのCL出場権争い(4位以内)とヨーロッパリーグでの上位進出を両立できる陣容を質と量の両面で整える、というのが今夏の補強ミッション。
強化を担うティアゴ・ピントSDは、指揮官の信頼が厚いマティッチから始まって、ディバラ、ワイナルドゥム、さらに開幕後にはCFの控えにベロッティと、代表クラスの即戦力を移籍金を1ユーロも投じることなく獲得(ワイナルドゥムはレンタル、他の3人はフリー移籍)する手腕を発揮、それと並行して余剰戦力の整理も着実に進めることで、移籍収支を大幅なプラスとしながら狙い通りの戦力強化を実現した。
補強の最大の目玉は、何と言ってもディバラ。ユヴェントスとの契約を満了したこのファンタジスタは当初、インテルやミランへの移籍が濃厚とみられていた。しかしその交渉が進まないと見るや、モウリーニョ監督が直々に乗り出して説得、とんとん拍子に話を進めて加入が決定した。
フランチェスコ・トッティの引退以来何年もの間「ファンタジスタ・ロス」に耐え続けていたロマニスタたちの期待の大きさは、加入プレゼンテーションに集まった1万人を超える人々の熱狂ぶりが示す通り。そしてディバラも早速、開幕4試合で2得点1アシストという活躍でそれに応えている。
想定外だったのは、もう1人の主力候補だったワイナルドゥムがトレーニング中に脛骨骨折で長期離脱を強いられたこと。ピントSDはその穴埋めに素早く動きカマラを獲得したものの、どれだけ戦力になるかは未知数だ。
しかしそれを差し引いても、攻撃の中核を担うだけでなく新たなシンボル/アイドルとしてローマの看板を背負うディバラを筆頭に、地味ながらきわめて重要な攻守のバランサーとして中盤を支えるマティッチ、エイブラハムとCFのポジションを分け合い負担を相互に軽減するベロッティと要所に実力者を加えて、冒頭で触れたミッションは十分満足のいくレベルで達成されたと言える。
移籍収支をプラスにしながら、監督の要望とチームの戦術にマッチしたトッププレーヤーを狙ったポジションに獲得し、チームの戦力を明らかに上積みしたという点で、ここまで見てきた4クラブと比較しても、今夏最も最も充実した補強に成功したのはローマだと言うことができる。もちろんこれは、開幕から1カ月足らず、移籍ウィンドウがクローズした直後という現時点での評価。最終的な答えは、今シーズンを通したセリエAのピッチが出してくれるだろう。
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