ユヴェントスの国内10連覇をインテルが阻止した昨シーズンを経て、今シーズンのセリエAは稀に見る大混戦に。残り5節、第33節を終えた段階で首位ミラン(勝ち点71)、2位インテル(勝ち点69)、3位ナポリ(勝ち点67)が4ポイント差にひしめいている。今週末の第34節でインテル対ローマ、ラツィオ対ミランなど、上位勢が正念場の戦いを迎える中、イタリア在住ジャーナリストの片野道郎氏が大混戦のセリエA最終盤、TOP4現状を解説する。
(C)Getty Images稀に見る激戦。ミラン、インテル、ナポリ…大混戦のセリエA優勝争いを制すのは?
(C)Getty Imagesミラン(1位、勝ち点71、得失点差+29)33試合消化
- 第34節:vsラツィオ(A)
- 第35節:vsフィオレンティーナ(H)
- 第36節:vsヴェローナ(A)
- 第37節:vsアタランタ(H)
- 第38節:vsサッスオーロ(A)
代表ウィークでリーグ戦が中断した3月末の時点では、インテル、ナポリに実質勝ち点3差をつけて首位を走っていたミランだが、その後の3試合で中位のボローニャ、トリノとスコアレスドローを重ねて勝ち点を取りこぼし、3連勝したインテルに追いつかれた。
現時点での勝ち点上は首位に立っているが、最終的に到達可能な勝ち点は残り試合がひとつ多いインテルを「1」下回っているため、2010-11以来11年ぶりのスクデットを手に入れるためには、少なくともインテルがひとつは取りこぼすことが最低条件となる。
失速の原因はいくつかある。まず、優勝争いのプレッシャーを経験したことのない若い選手が多く、チームの振る舞いから好調時に見られた突き抜けた積極性、思い切りの良さが消えていること。チームの精神的支柱としてピッチ上でリーダーシップを発揮してきたイブラヒモヴィッチが、40歳という年齢もあって故障がちで欠場が多く、レオン、ブラヒム・ディアスといった若手に、攻撃の最終局面で大きな責任がのしかかっている。
しかし、前半戦で際立った活躍を見せて攻撃を担っていた2人は、ここに来て明らかにパフォーマンスを落としている。レオンは焦りからの強引なプレーが目に付き、ディアスもシーズン前半に違いを作り出していた明晰な判断力を失って、プレー選択とプレー精度の両面でミスが目立つようになった。チーム全体として過去6試合で5得点、過去10試合で2得点以上挙げたのは3試合のみという決定力の低下も、その結果という側面が小さくない。
終盤戦に向けてポジティブな材料として挙げられるのは、攻撃に苦しんでいる反面、守備に関しては直近6試合連続クリーンシートと高い安定感を誇っていること。トモリ、カルルという若いCBペアが的確な読みと連携、そして爆発的なスピードでピンチを防ぐだけでなく、彼らがシュートを許してもその背後には加入1年目からセリエA最高のGKという評価を固めたメニャンが控えている。
残り5試合の難易度は相対的に高い。とりわけここからの2試合は、EL出場権争いのまっただ中にいてまだ高いモティベーションを保っているだけでなく、チーム状態も悪くないラツィオ、フィオレンティーナが相手。まずここを2連勝、最悪でも1勝1分で乗り切ることが、スクデットに望みをつなぐ最低条件となるだろう。
その上で迎える残り3試合は、おそらくインテルとの神経戦という様相を呈するはずだ。対戦相手のヴェローナ、アタランタ、サッスオーロはいずれも中位の無風地帯に落ち着き、欧州カップ戦出場権にもほぼ手が届かないため、強いモティベーションは持っていないはず。とはいえもちろん楽に勝たせてくれる相手ではない。
シーズン最後の1カ月、ピッチ上のプレーはもちろん、ちょっとした身振りやコメントの言葉尻までをあげつらって議論や論争を巻き起こすマスコミやSNSのノイズとプレッシャーに晒されながら、勝ち点1を巡るつばぜり合いを制するというのは、この若いチームにとって並大抵のことではないだろう。しかし、若いチームだからこそ一旦勢いに乗ったらそのまま最後まで突っ走る可能性もある。いずれにしても、戦術やフィジカルコンディション以上に、メンタル的な側面が最も大きく命運を左右する要素になるだろう。
(C)Getty Imagesインテル(2位、勝ち点69、得失点差+43)32試合消化
- 第34節:vsローマ(H)
- 第20節:vsボローニャ(A)
- 第35節:vsウディネーゼ(A)
- 第36節:vsエンポリ(H)
- 第37節:vsカリアリ(A)
- 第38節:vsサンプドリア(H)
チームの絶対的な戦力と現在の調子、残り試合の難易度、どの観点から見ても最も有利な立場にいるのがインテルだ。とはいえ、ここまでの歩みは決して順調なものではなかった。
2位ミランに勝ち点4差をつけて前半戦を首位で折り返した時点では、このまま独走体制を確立するかにも思われたが、2月初めのミラノダービーを逆転負け(1-2)で落として以降、2~3月の7試合でわずか1勝(4分2敗)。3月末の代表ウィークによる中断時点では逆に首位ミランと勝ち点6差の3位にまで後退して、インザーギ監督の手腕に対する疑問や批判が高まった。
しかし中断明けに首位戦線への生き残りを賭けたユヴェントスとの直接対決を制して息を吹き返すと、続く2試合も格下のヴェローナ、スペツィアに順当な勝利。ミラン、ナポリの躓きにも助けられる形で、順位表上では2位ながらひとつ多い残り試合を全勝すれば自力で2連覇を達成できる位置まで盛り返してきた。
インテルの強みとしては、昨シーズンのスクデットを経たチームとしての経験値から、プレッシャーへの耐性がライバルに比べて明らかに高いこと、そして元々の戦力が高い上に主力に故障者がおらず、さらにチームとしての戦術も確立・定着しているがゆえに、陣容の厚みを活かして終盤戦を戦い抜く体制が整っていることが挙げられる。
例えば、スクデット争いの指標としても大きな注目を集めたコッパ・イタリア準決勝第2レグのミラノダービー(4月19日)では、今シーズン故障が多く調子が上がらなかったFWコレアがジェコに替わってスタメンで出場して1アシストを記録、2得点を挙げたラウタロ・マルティネスと共に前線を活性化し3-0という完勝の立役者となった。そのラウタロもこの試合では、前半戦の11得点に対し後半戦はここまで4得点止まりという不振を振り払うようなパフォーマンスを見せている。
このミランとのコッパ・イタリア準決勝は、両チームのマッチレースとなった感があるスクデット争いの行方を占う試金石になると見られていた。その重要な一戦に文句のつけようがない完勝を収めたことは、今後の戦いに向けて大きな自信をもたらしたはず。チームは明らかに上り調子だ。
終盤戦のカレンダーも、今週末のローマ戦さえ乗り切れば、その後はボローニャ、ウディネーゼ、エンポリ、カリアリ、サンプドリアと下位チームとの対戦を残すのみ。この6試合を取りこぼしなく勝ち切れば2連覇が達成できる。もちろんそれは簡単ではないが、残り試合すべてを勝ち切る勢いを持っていないのは直接のライバルであるミランも同じ。総合的に見てタイトルに一番近い位置にいるのは間違いなくインテルだろう。
(C)Getty Imagesナポリ(3位、勝ち点67、得失点差+32)33試合消化
- 第34節:vsエンポリ(A)
- 第35節:vsサッスオーロ(H)
- 第36節:vsトリノ(A)
- 第37節:vsジェノア(H)
- 第38節:vsスペツィア(A)
故ディエゴ・マラドーナを擁してクラブ史上2度目のスクデットを勝ち取ったのは1989-90シーズンのこと。それから30余年、ナポリは栄光の座から遠ざかり、一度の破産とセリエCからの再出発(2005年)を含む決して平坦とは言えない道程を歩んできた。セリエA定着を果たしたこの10年あまりは、ワルテル・マッザーリ監督の下で2010年代前半に上位定着を果たし、マウリツィオ・サッリ監督に率いられた17-18シーズンには、魅力的なポゼッションサッカーを武器に、当時7連覇中だったユヴェントスをあと一歩のところまで追い詰めている。
それから4年、ルチャーノ・スパレッティ監督の下で再び悲願のスクデットに大きく近づいているのが今シーズンだ。開幕から10月末までの11試合を10勝1分というハイペースで駆け抜け、ミランと首位争いを展開しながら、11~12月の8試合で2勝2分4敗と急ブレーキ。一時は優勝戦線から脱落したようにも思われた。しかし後半戦に入ってじわじわと盛り返し、残り7試合となった4月第1週の第31節終了時点で、首位ミラン(勝ち点67)にわずか勝ち点1差の2位(勝ち点66)にまで詰め寄って、スクデットへの夢が大きく膨らんだ。
しかし、文字通りの正念場となった続く第32節(4月10日)、ホームのスタディオ・マラドーナでフィオレンティーナに2-3で敗れて一歩後退。とはいえ首位ミランも同日トリノと1-1で引き分けたため、勝ち点差はひとつ開いただけに留まった。残り試合は6とまだまだ射程圏内である。
そして続く先週末の第33節、再びホームに今度はローマを迎えたナポリは、後半アディショナルタイムまで1-0とリードしながら最後の最後に同点ゴールを許し、致命傷にもなりかねないほどに痛い取りこぼし。ライバルのミラン、インテルが共に勝ったため、首位ミランから勝ち点4差、消化試合がひとつ少ない2位インテルと2差の3位に転落してしまった。
試合終了直後、スタンドに挨拶に向かった主将インシーニェが涙にくれている姿が象徴するように、数字の上ではまだ可能性が残っているとはいえ、ナポリのスクデットへの夢はほぼ消え去ったと言っていい。残り5試合に全勝した上で、ミランとインテルの双方が少なくとも勝ち点5以上を取りこぼさない限り、スクデットが「転がり込んでくる」ことはないというのが、ホームでの決戦2試合で勝ち点1に留まったナポリが直面する現実である。
今シーズン就任したスパレッティ監督は、サッリ監督時代から大きく変わっていないチームの骨格を維持しつつ、爆発的なスプリントでDFをぶっちぎり裏のスペースに抜け出すCFオシメンという武器を最大限に活かす戦術を構築した。11~12月の失速がそのオシメンの怪我(顔面骨折)による離脱と重なったのは偶然ではない。
そのオシメンが復帰した後半戦に大きく盛り返し、首位の座に手をかけたところまでは申し分なかった。しかしそのフィオレンティーナ戦、ローマ戦で見せたあっけないほどの脆さは、4年前に一度は首位に立ったところから見せた失速とイメージが重なるものだ。成功体験の不在とそれがもたらすプレッシャー耐性の不足という限界をいかにして乗り越えるか。今シーズンの結果にかかわらず今後もそれがナポリが直面する課題であり続けるだろう。
(C)Getty Imagesユヴェントス(4位、勝ち点63、得失点差+21)33試合消化
- 第34節:vsサッスオーロ(A)
- 第35節:vsヴェネツィア(H)
- 第36節:vsジェノア(A)
- 第37節:vsラツィオ(H)
- 第38節:vsフィオレンティーナ(A)
10連覇という前人未到の大記録をインテルに阻まれて、マッシミリアーノ・アッレーグリ監督を呼び戻すと同時に、チームの看板だったクリスティアーノ・ロナウドに別れを告げて新たなサイクルを立ち上げた今シーズンのユヴェントス。
開幕4試合で1勝もできないという予想外の躓きに始まり、前半戦のほぼ全てをチームの基本形を固めるための試行錯誤に費やした末、1月の移籍マーケットで1億ユーロを超える資金を投下してヴラホヴィッチとザカリアを獲得(同時にクルセフスキとベンタンクールをトッテナムに放出)するという「二度目の仕切り直し」に踏み切るという迷走を見せたことはまだ記憶に新しい。
とはいえ、そのヴラホヴィッチを中心に据えてチームを組み立て直して以降は、重心を低く構えた安定感抜群の守備を土台に、攻撃陣の即興的な連携を活かしてゴールを奪うという戦い方を徐々に確立し、クラブにとって生命線であるCL出場権を確保できる4位の座を固めることに成功。3月末の代表ウィークによる中断の時点では、首位ミランと7ポイント差の4位と、スクデットをギリギリの射程圏内に収めるところまで盛り返した。
しかし続く4月3日の第31節、勝ち点ひとつだけ上にいた3位インテルとの直接対決に接戦の末敗れたところで、奇跡的な逆転によるスクデット獲得の可能性はあっけなく萎むことになった。続くカリアリ戦は先制されながら逆転勝利を収めて小さな希望をつないだものの、先週末のボローニャ戦ではまたも先制を許した後、相手が2人退場になった後半アディショナルタイムにようやく追いついて1-1の引き分け止まり。残り5試合となったこの時点で首位との勝ち点差は8まで開いた。
机上の計算では、優勝の可能性が消えたわけではない。しかしそれが実現するためには、残り5試合を全勝した上で上位3チームが揃って大コケするという、奇跡に近い状況が起こる必要がある。現実的にスクデットは不可能になったと言い切っていいだろう。
現時点で唯一残されたタイトルの可能性は、4月20日の準決勝第2レグでフィオレンティーナを2-0で下し、2試合合計3-0で決勝に駒を進めたコッパ・イタリア。年明けに行われたスーペルコッパ・イタリアーナ(延長戦の1-2で敗戦)と同じく、対戦相手は宿敵インテルである。今シーズン通算4度目となる「イタリアダービー」で、過去3度(1分2敗)の雪辱を果たすことができれば、多少なりともポジティブな形でシーズンを締めくくることができるだろう。
とはいえ少なくとも、2019年夏にアッレーグリを解任して以来、サッリ、ピルロ、アッレーグリの呼び戻し、そして今冬の大型補強と、4度に渡って繰り返された「仕切り直し」にようやく終止符を打つメドが立ったことは確か。アッレーグリ監督の下、ヴラホヴィッチ(とキエーザ)を中核に据えた新プロジェクトをどのように進めるかが、当面最大の課題となる。
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