Varane-Man-Utd-decline-2023-24Getty/GOAL

ヴァランがエヴァンズの控えに…名DFはなぜマン・Uで4番手のCBに降格したのか?

「マンチェスター・ユナイテッドは、世界のサッカー界で最も象徴的なクラブのひとつであり、ここに来てプレミアリーグでプレーするチャンスを断ち切ることはできなかった。ここでインパクトを与えたいし、クラブの輝かしい歴史の一部になるためにすべてを捧げる」

ラファエル・ヴァランは、2021年8月にユナイテッドの選手としてお披露目されたとき、輝かしいキャリアにさらに異なるトロフィーを加えたいという意欲に燃えているように見えた。レアル・マドリーでの新契約を拒否した28歳に、クラブは4000万ポンドを投資して引き入れた。

10シーズンで360試合に出場し、4度のチャンピオンズリーグ優勝と3度のリーガ・エスパニョーラ優勝を果たしたヴァランは、レアル・マドリーの伝説としてサンティアゴ・ベルナベウを去った。

移籍当初は苦しんだが、エリック・テン・ハーグ体制となった昨季に調子を取り戻したヴァランは、新加入のリサンドロ・マルティネスと強力なパートナーシップを構築。この堅固な守備の基盤は、ユナイテッドがチャンピオンズリーグの出場圏内に戻ると同時に、カラバオ・カップで成功を収め、5年間続いたトロフィーの干ばつに終止符を打つのに不可欠だった。

30代に入ったとはいえ、ヴァランは最高レベルでプレーできることを証明し、テン・ハーグの先発メンバーの一人であることは当然のことだった。しかし、わずか数カ月の間に、その流れは完全に変わってしまった。

世界王者でもあるヴァランは、ユナイテッドのセンターバックの序列で突如4番手に降格し、今夏の移籍市場でフリートランスファーでクラブに再加入した35歳のジョニー・エヴァンスの後塵を拝するまでになってしまったのだ。

  • Harry Maguire Manchester United 2023-24Getty Images

    マグワイアの復活

    先週、ヴァランがユナイテッドのメンバーから外れているのは内部的な問題があるからではないかと問われたテン・ハーグは記者団に対して、「そんなことはない。戦術的な理由によるものだ。ハリー(マグワイア)とジョニー(エヴァンス)はよくやったと思う。昨年はハリーがあまりプレーしなかったので、ラファのパフォーマンスにはとても満足していた。彼のパフォーマンスにはいつも満足している。でも今は、ハリーがとてもいいプレーをしているし、内部での競争がある」とあくまでスポーツ面が理由であると回答した。

    夏にキャプテンの座を剥奪されたマグワイアのユナイテッドでのキャリアは終わったかに見えたが、ウェストハムへの移籍を断った男はここ数週間で本来のパフォーマンスを取り戻した。マグワイアの復活により、ユナイテッドはようやく勝利を掴めるようになってきている。

    リサンドロ・マルティネスが足の手術から回復途上の中、マグワイアのパートナーとしてエヴァンスとヴィクトル・リンデロフはヴァランよりも優先的に起用されている。それは、エヴァンスとリンデロフは右利きだが左足をヴァランよりもうまく使うことができ、ビルドアップ面でのパス出しで正しい角度を作ることができることも理由に挙げられる。

  • 広告
  • Raphael Varane Manchester United 2023-24Getty

    スピードの衰え

    ヴァランがマンチェスター・シティとの今シーズン最初のダービーでテン・ハーグの先発メンバーから外れる前から、彼のプレーには明らかな衰えの兆候があった。ユナイテッドの元アシスタントコーチであるレネ・ミューレンスティーン氏は『ESPN』で「ユナイテッドにはある欠点がある。ヴァランはスピードに対応できない。プレミアリーグはダイナミックだ。すべてが時速100キロで進んでいく」と指摘していた。

    ヴァランはレアル・マドリー時代のようなスピードを失い、フィジカルのデュエルでも優位性を保てなくなっている。今シーズンは何度も相手のフォワードに簡単に背後を取られている。また、テクニカルな面でも基本的なパスミスやビルドアップ時の判断の遅れなどが散見されている。

  • Varane-France-2022-World-CupGetty

    フィジカル面の懸念

    ヴァランは、フランスが2大会連続の決勝進出を果たし、リオネル・メッシが奮起したアルゼンチンとのPK戦に敗れた2022年ワールドカップの後、選手への肉体的な負担が増すことへの懸念を初めて口にした。ユナイテッドのスターはこの大会で93キャップ目を獲得したが、その後に国際サッカー界からの引退を表明している。

    「肉体的にも精神的にも、すべてを捧げた」とヴァランは『カナル・プラス』の取材に答えた。短期的には、ヴァランはインターナショナルブレーク中の余分なオフの恩恵を受けているように見えた。しかし、シーズン終盤には足の負傷で勢いが止まり、そこからベストフォームを取り戻すには至っていない。

  • Cristiano Ronaldo & Raphael VaraneGetty Images

    移籍の選択肢も?

    1月の移籍市場が間近に迫り、ユナイテッドがヴァランを手放す可能性もあり得る状況だ。チーム残留をこれまで以上に強く決意しているであろうマグワイアと比べ、彼の状況は真逆のものとなってしまった。『The Athletic』によればヴァランはファーストチョイスではなかったことを受け入れており、モチベーション面も懸念だ。

    批評家が間違っていることを証明したマグワイアに対し、ヴァランは復活を遂げたチームメイトには及ばない。移籍の場合は、冬のサウジアラビア行きが現実的な選択肢となるだろう。現在では、アル・ナスルがヴァラン獲得を検討していると報じられている。レアル・マドリーやユナイテッドで同僚だったクリスティアーノ・ロナウドとの再会は、現在の週給を大幅アップさせることもあり、自身にとって魅力的な選択肢になるかもしれない。

    今夏のスター選手の大量加入にもかかわらず、サウジアラビアのトップリーグにおけるサッカーの水準は平凡だ。AFCチャンピオンズリーグを勝ち進むアル・ナスルにとっては重要な試合も続くが、ヴァランが常に最高のパフォーマンスを見せなければならないというプレッシャーにさらされることはないだろう。

  • Raphael Varane Man Utd 2023-24Getty Images

    復活はあるのか

    ヴァランは7月、マグワイアの後任としてキャプテン候補に挙がっていたが、最終的には昨シーズンの大半でユナイテッドの副キャプテンを務めたブルーノ・フェルナンデスに腕章が渡った。

    仮にヴァランがキャプテンを任されていれば異なる未来があったのかもしれない。いずれにせよ、現在のヴァランにかつての面影はない。レアル・マドリー時代、世界最高のディフェンダーと言わしめた卓越したポジションセンス、、スピード、そして球際でのクオリティを見せることができていない。

    ユナイテッドは、悪夢のようなシーズン開幕から立ち直るために、いつまでもかつてのヴァランを待つことはできない。ルートン・タウンに1-0で勝利し、首位シティとの勝ち点差を7に縮めたチームだが、内容面を見れば地元のライバルとの間に依然として大きな溝があるのは明らかだ。

    現在、チームはアーロン・ワン=ビサカや夏に加入したメイソン・マウントなど、ケガから復帰した主力選手を迎え入れ始めている。リサンドロ・マルティネス、そしてセンターバックも担えるルーク・ショーが長期離脱から復帰すれば、ユナイテッドは少なくともトップ4入りを狙える状態になるはずだ。チャンピオンズリーグの決勝ラウンドに進むには奇跡が必要だが、ガラタサライとバイエルン・ミュンヘンとのグループリーグ残り2試合で勝ち点を最大にするチャンスもまだ残されている。

    ヴァランは現状、テン・ハーグのプランにおいてマグワイア、エヴァンス、リンデロフの後ろに座り続けなければならない。ユナイテッドでのキャリアが急速に急落したことについては自分自身を責めるしかない。そして、マグワイアが見せているように、自身を状況を変えることができるのは自分自身だけだ。