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PSGはシャビ・シモンズの買い戻し条項を発動すべき。昨季PSVで目覚ましい活躍

「僕は毎日世界的スターとともに練習していたけど、試合に出ることも大事だ。ああいう選手たちから学ぶことは多いけれど、僕はまだ19歳だから、成長するためにこういうステップを踏まなければならないと思う。本当に素晴らしかった。二度とあんなすごいチームには出会えないと思う」

昨年の夏、PSVに移籍するためにパリ・サンジェルマンとの契約更新を断ったことを説明したシャビ・シモンズは、実に堂々としていた。2019年、バルセロナを離れてパルク・デ・プランスに向かったときのシャビ・シモンズは、将来のスターともてはやされたが、その後3年間でトップチームの試合に出たのは、わずか11試合だけだった。

リオネル・メッシ、キリアン・エンバペ、ネイマールが揃って在籍しているかぎり、シモンズはPSGで二軍扱いされつづける運命にあった。母国に戻ることは勇気ある決断だったし、見事な結果を残した。

昨シーズン、オランダのスーパーカップであるヨハン・クライフ・スハールとオランダ・カップを制覇し、エールディヴィジでも2位となったPSVにあって、シモンズは傑出した選手であった。20歳のシモンズは、主に左ウイングでプレーしながらリーグ得点王に輝いた。そのスピードとトリッキーな技で、オランダのディフェンダーたちを翻弄し、全公式戦で22得点12アシストを記録すると、初めてオランダのフル代表にも選ばれた。

PSGがダイヤモンドを指から滑り落したことは間違いないが、その間違いを修正できる特異なチャンスがある。移籍市場に精通する記者、ファブリツィオ・ロマーノによると、シモンズとPSVとの契約には買い戻し条項が記載されており、リーグ・アン王者はたった600万ユーロ(約9億4,000万円)で彼と再契約できるというのだ。

だが、PSGは急いで行動しなければならない。というのも、問題の条項は7月の1カ月間しか発動できないのだ。シモンズは現在、長かったシーズンを終えて当然とるべき休暇に入っているが、エイントホーフェン市に戻ってからでは、引く手あまたになってしまうだろう。

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    ファン・ニステルローイ監督効果

    現役時代はマンチェスター・ユナイテッドとレアル・マドリーでストライカーとして活躍したルート・ファン・ニステルローイは、昨シーズン、PSVで監督業をスタートさせたが、その最初の仕事のひとつが、シモンズに、フィリップス・スタディオンは自身の成長に最適な場所だと確信させることであった。

    「僕と監督はとてもよいつながりがある。それは僕にとって、とても大事なことだ」と、PSVと5年契約を交わした後、シモンズはファン・ニステルローイ監督の影響について語っている。

    「監督は、どれほどこのチームや僕と仕事をしたいと思っているか、とても丁寧に説明してくれた。僕の方のことでいうと、僕は、攻撃的ミッドフィルダーか、中盤の中央にいるミッドフィルダーとしてプレーしたい。そこなら僕は走って、得点して、アシストもできる」

    ファン・ニステルローイ監督は、あっという間にシモンズの良いところすべてを引き出した。シモンズはエールディヴィジに出場した最初の5試合で6得点2アシストを記録したのである。PSVはこの10代の選手をあがめるようになり、昨年9月、監督は『Voetbal International』でこう語っている。

    シモンズはトップに立つためにできることすべてをしている。彼にとってのトップだが、それが最終的にどこであれ、素晴らしい挑戦である。彼のメンタリティ、考え方は前代未聞だ。たった19歳の少年なのに、シャビはあの年齢で考えられるよりずっと先に進んでいる。見事なプロ意識をもっていて、ゴールに向かってプレーし、自分の能力を最大限活用したいと思っている」

    シモンズはシーズン終了までずっと、目覚ましいプレーをし続けたが、ファン・ニステルローイ監督はシモンズのキャリアの次の章を見ることはなさそうだ。46歳の監督は5月末、クラブに対して「サポート不足だ」と不満を表明し、PSVを去った。このニュースにシモンズは大きなショックを受け、SNSにファン・ニステルローイ監督への最後のお別れの言葉をアップした。「僕をよりよい選手に育ててくれて、ありがとう。僕の夢のひとつである代表選手に選ばれるという夢をかなえさせてくれて、ありがとう。永遠に感謝します。監督の未来に幸あれ!」

    直後にピーター・ボスがPSVの新監督に就任したが、ファン・ニステルローイ監督が出て行った後のシモンズの未来は、かなり漠然としている。PSGがこの混とんを利用するなら、オランダのカリスマに特別な感謝をしなければならなくなるだろう。シモンズの試合を勝利に導く才能を最終的に解き放った人物なのだから。

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  • Lionel Messi PSG 2022-23Getty Images

    メッシが抜けた穴

    昨シーズンのPSGは、またしてもチャンピオンズリーグに関する期待に応えることに失敗し、不安定な守備を露呈して、やっとのことでリーグ・アン優勝にたどりついた。シモンズの才能を利用すべきだったことは明らかだ。バロンドール7度受賞のメッシのパフォーマンスは劣化し、カタール2022でアルゼンチンがワールドカップ制覇を果たした後は、ガス欠を起こしているようだった。

    メッシは41試合に出場して尊敬に値する21得点を挙げ、アシストも20だったが、チャンピオンズリーグのベスト16のバイエルン・ミュンヘン戦の2試合で活躍できず、PSGのウルトラスから痛烈な批判を浴びた。フランス王者は合計0-3で敗退し、メッシはネイマールとともに、PSGがまたしてもチャンピオンズリーグで勝てなかったことへのスケープゴートにされたのである。

    シーズン終了後、メッシが契約を延長しないという報道が流れたことは驚くべきことではない。元バルセロナのスーパースターは、5月に、『ムンド・デポルティーボ』と『スポルト』のインタビューで、次の移籍先について答えていた。36歳のメッシはMLSのインテル・マイアミにフリーで完全移籍することとなり、フランスでの呪われた生活に終止符を打った。

    メッシがいなくなったことで、チームにシモンズの居場所ができたと言えるかもしれない。PSGはメッシの代わりとしてマンチェスター・シティのベルナルド・シウヴァと契約しようとしているが、このポルトガル代表選手は、現在、サウジアラビアへの高額移籍が強く取りざたされている。

    シモンズにベルナルドと同等の経験は望むべくもないが、メッシがいたにもかかわらずまとまりのなかったPSGの攻撃陣に、新次元をもたらすことはできるかもしれない。PSVでの1シーズンで記録した数字を見てみれば、よくわかる。シモンズは90分で平均1.06回、得点に関係する動きをしており、これはエールディヴィジで2位の数字。プログレッシブ・ボール・キャリアの合計(148)も、シモンズより優れている選手はリーグに1人しかいなかった。

    シモンズは、ゴール前で真に冷静な動きを見せることもあり、これは全盛期のメッシに匹敵しないでもない。来シーズンのステップアップに向けた準備ができているようなのも確かだ。

  • Mikel Arteta Arsenal 2022-23Getty Images

    虎視眈々と狙うアーセナル

    シモンズを戻さなければPSGは後悔するというのは、とりわけ、シモンズが再び、他のヨーロッパのトップクラブのいくつかのターゲットになったからである。PSVでの評判に興味をもって近づこうとしているクラブの中にはアーセナルもいる。ミケル・アルテタ監督は、前線のオプションを増やしたいと熱望しているのだ。

    『レキップ』によると、ガナーズは、PSGが買い戻し条項の発動にぐずぐずしているようなら、シモンズをかっさらう準備ができているという。すでにアルテタ監督は、先発イレブンの左ウイングにガブリエウ・マルティネッリを当て、レアンドロ・トロサールをリザーブに置くつもりでいるが、シモンズはマルチな才能の持ち主であり、他の攻撃的ポジションに当てることもできる。

    シモンズは、エミレーツ・スタジアムへの移籍の可能性に容易に心動かされるだろう。だからこそPSGはこの状況に手をこまねいている余裕はない。ボルシア・ドルトムントも、ここ数週間、シモンズとの話が取りざたされており、こちらも魅力的な選択肢である。

    ドルトムントは、ジェイドン・サンチョ、クリスチャン・プリシッチ、ジュード・ベリンガムなど、才能ある若手の育成に関して強い実績があり、ヴェストファーレンシュタディオンでスキルを磨いた若手たちが、移籍先ではるかに素晴らしい選手となっている。PSGは、シモンズが別のクラブへ移籍することの是非を秤にかけ始めることのないようにしなければならない。

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    イメージチェンジが必要なPSG

    PSGのカタール人のオーナーたちは、2012年にパルク・デ・プランスでクラブ取得を完了して以来、新しい選手たちに10億ユーロ(約1,570億円)を超える投資をしてきた。エディンソン・カバーニ、アンヘル・ディ・マリア、マウロ・イカルディ、アクラフ・ハキミといった選手たちが、みな、とてつもない額で契約した。

    2017年にも、エンバペとネイマールで合わせて4億ユーロ(約630億円)という大盤振る舞いをした。頭にあったのは、チャンピオンズリーグ優勝という、究極の目標だ。ところが2019-20シーズンに決勝にたどりついた以外、PSGは逃げ足の速いトロフィーに近づくことすらできていない。

    メッシが加入しても、事態は変わらなかった。PSGにはようやく、新しい方法が必要だと気づいたようである。さらに失望の1年が過ぎ、セルヒオ・ラモスがフリーでクラブを去ることとなり、ネイマールも移籍すると報道されている。PSGは今や、スーパースターを獲得するという方法から離れたようで、夏の移籍市場の早い段階で、スポルティングCPから守備的ミッドフィルダーのマヌエル・ウガルテとの契約に同意した。

    次にPSGの門をくぐるのはマルコ・アセンシオのようで、6月30日の契約満了をもってパルク・デ・プランスにフリーでの移籍を完了することになっている。インテルのミラン・シュクリニアルとマジョルカのスター、イ・ガンインも、新シーズンを前にしてPSGに加入することが期待されている。チームの全体的なバランスを改善できる選手に、よりフォーカスを当てているわけである。

    シモンズもそうした選手たちのひとりだろう。特に、依然としてエンバペがレアル・マドリーに移籍するという報道が乱れ飛んでいる中、PSGはアタッキングサードにもうひとり破壊力のある選手を必要としている。昨年、当時のクリストフ・ガルティエ監督はシモンズをパリに引き留めておくことができなかったが、監督という重責をガルティエが担う時代はもう終わった。PSGは今後、ガルティエの解雇を確定することになっており、その代わりにルイス・エンリケが就任することになっている。バルセロナとスペイン代表で監督を務めたエンリケは、常にはっきりしたプレースタイルを持ち、PSGの新時代の先導役を務めるのに理想的な人物であると言える。

    ここ数年、PSGは無秩序な状態に陥っており、ピッチの外での騒ぎや更衣室での対立が、結局はチームの進歩を阻害してきた。人寄せパンダ的な選手たちを減らし、シモンズのように若く才能ある選手に経験を積ませれば、最終的には全体のイメージをよりよいものに変えることもできるにちがいない。

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    エンバペの完璧な引き立て役

    今のところ、レアル・マドリーが最終的にPSGからエンバペを獲得できる可能性は高い。24歳のエンバペは、契約が満了する2024年以降に契約を延長することはないと明言している。つまり、この夏は、PSGにとって財産を現金化する最後のチャンスとなりそうなのだ。

    レアル・マドリーはエンバペの移籍を気にしていないと公言しているが、PSGはエンバペが来年、フリーになってクラブを去ることはさせないと強く主張している。両クラブが最終的に同意に至ることは間違いないと思われ、レアル・マドリーは、エンバペにフランスの最後の1年を過ごすことになる前に、エンバペの加入を確定させるための前払いすることができると報道されている。

    2023-24シーズンにエンバペが残留するなら、シモンズとの魅惑的な連携が見られるかもしれない。シモンズが初めてPSGにいたときは、ピッチ上での強い関係を築くチャンスはまったくなかったが、今回は違う展開となるだろう。

    昨シーズン、メッシの熟達したプレーに助けられ、エンバペは5年連続でリーグ・アンの得点王となったが、シモンズも同じようにエンバペの役に立つパートナーとなりうる。シモンズは、これまで、自分の前にゴールを狙うワールドクラスの選手がいないにもかかわらず、PSVで12アシストを記録しているのだ。

    エンバペは常にディフェンスの背後に走りこみ、たいていの場合、好機と見ればゴールを奪おうとする。シモンズはワールドカップ優勝者の完璧な引き立て役になりうる。特に、年上のチームメイトからの重要なアドバイスのいくつかを身に着けていければ。

    4月、シモンズはエンバペとの関係について、オランダの朝刊紙『テレグラーフ』にこう語っている。

    「彼とはたくさん話をした。彼は僕にいつも、『サッカーに年齢は関係ない』と言ってくれた。21歳が25歳よりもうまいなら、21歳はただプレーするだけでいい。この言葉はいつも僕の頭の中にある」

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    第2のチャンスを求めるシモンズ

    シモンズの復帰が確定すれば、PSGはこれまでにない利益を得ることになるかもしれないが、いずれは決定的な別れが訪れるだろう。シモンズ自身がパルク・デ・プランスへ戻ることを望まないならば、そうする必要はない。だが、彼はすでに、自分の心はパリにあるとほのめかしたことがある。2月、『NoS Sport』にこう語ったのだ。

    「フランスが恋しい。パリという街は素晴らしくて、本当の都会だ。エイントホーフェン市は静かすぎて、少しパリが恋しいことがある」

    バルセロナのアカデミー出身で将来性豊かなシモンズは、自分の株がかつてないほど高騰していることも自覚している。報道によると、PSVはシモンズがフィリップス・スタディオンに残ってくれるなら、喜んで新キャプテンに任命するという。だが、彼はすでに去ることを決めているようだ。ファブリツィオ・ロマーノによると、インターナショナル・ブレークの最中に「今や、たくさんのことが変わったことは明らかだ」と、語ったという。「まだ新しい監督に会っていないし、話もしていない。新監督と話して、PSVと交渉して、それから自分の未来を決めるよ」

    シモンズはPSGへの復帰の可能性も語った。「PSGとの買い戻し条項のことは知っている。だけど、僕の知る限りPSGもまだ新監督が決まっていない」。この言葉は、自分を連れ戻してほしいという希望を言っているに等しいかもしれない。PSGは返事をしなければならない。さもなければ、同世代を導く力となりうる能力をもった選手を逃してしまう危険がある。今や、世界中がシモンズの良さを知っており、フランス王者が彼に背を向けるのは間違いであろう。

    シモンズがPSGでやり残したことがあるのは明らかだ。PSGのユニフォームを着て先発出場した試合はたったの3試合。1得点も挙げていない。だが、来シーズン、エンバペの隣でプレーすることで、どれだけ多くの得点をあ挙げられるか、想像してみるがいい。PSGは次のサイクルのために新しい広告塔を必要としており、シモンズは準備万端で待っている。