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アーセナルがブレントフォードFWトニー獲得に145億円を支払うべき理由

夏の移籍市場が閉ざされてからまだ1カ月も経っていないのに、メディアはすでに次の犠牲者を選んでいる。ブレントフォードは、ベストプレーヤーが他クラブと噂になることを知らないわけではない。しかし、イヴァン・トニーをアーセナルかチェルシーに移籍させるという最近の報道は、特に気になるところだろう。

ビーズのボス、トーマス・フランクは最近、トニーが1月に移籍する可能性を否定しなかった。「世界中のどのクラブも、5、6クラブを除いては売り手だと思う。適切な値段がつけば、我々は売るクラブだ」と、彼は『マンデーナイトフットボール』で『スカイスポーツ』のジェイミー・キャラガーとデイヴ・ジョーンズに語った。

「もし、その選手にとって適切なタイミングであれば、私が決めることではない。最終的にはフィル(ジャイルズ、フットボールディレクター)かマシュー(ベナム、ブレントフォードのオーナー)が決めることだ。そして、もし彼らが私たちと一緒に成長し、旅を続け、トップクラブに行くのに十分な力があることが証明されたなら、適切な価格であれば、それは正しいことだと思う」

当初、トニーは6000万ポンド(約109億円)でブレントフォードを去る可能性があると言われていたが、最近の報道によると、現在は8000万ポンド(約145億8000万円)に近い金額を要求するようだ。アーセナルがその引き金を引くことになれば、史上2番目に高額な契約となる。

  • Ivan Toney Brentford 2023-24Getty Images

    プレミアリーグで実績のあるゴールスコアラーは稀少

    トニーがプレミアリーグの強豪にとって魅力的な選手であることは、驚くには当たらない。直近の夏の移籍市場で示されたように、欧州サッカー界には信頼できて使えるストライカーが深刻に不足している。

    迷走を続けた下部リーグでのキャリアを経て、トニーは2019-20シーズンにピーターボロー・ユナイテッドで爆発的な活躍を見せ、リーグ・ワンではわずか32試合で24回ネットを揺らした。

    翌年にはブレントフォードがチャンピオンシップから昇格を果たすと、31ゴール・10アシストを記録し、ビーズが初めてプレミアリーグに参戦したシーズンには12得点を挙げるなど、トップリーグでのステップアップも難なくこなした。

    この傾向は昨シーズンも続き、トニーは3月に初めてイングランド代表に選出されるほどの活躍を見せた。シーズン終了時には、35試合に出場して21ゴールを記録。もし、トニーがベッティング・ルール違反で8か月の出場禁止処分を受けなければ、もっとゴール数を伸ばせたかもしれない。この出場停止処分は1月15日までとなっている。

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  • Ivan Toney Brentford 2023-24Getty Images

    完璧なフィニッシャー

    彼のフィールド外の問題は、クラブがトニーに興味を持つのを妨げてはいない。世界で最もタフなリーグでこれだけの数字を残すには、エリート・フィニッシャーでなければならない。彼はまさにその通りで、さまざまな方法でゴールネットを揺らすことができる。

    フランクが「世界最高のPKキッカー」と評するように、彼の12ヤードからのシュートは、おそらく最も有名なものだろう。彼の特徴である、神経をすり減らすようなゆっくりとした歩みは、ジョーダン・ピックフォード、ニック・ポープ、ベルント・レノといった熟練のGKたちをも惑わす。

    昨シーズン、フラムとのダービーでPKからネットを揺らした彼は、その度胸と効果的な方法について、『スカイスポーツ』にこう語っている。「待ち時間は関係ない。長いほうがいいし、バカンスに出かけたり、くつろいだり、他のことを考えられるからね。GKは動かなかったけど、僕はいつもボールを置く場所を決めている」。

    このプレッシャーをものともしない態度はトニーらしいもので、フィニッシャーとしてのもうひとつの大きな長所である冷静さを物語っている。これまでのプレミアリーグでのキャリアでは、ワントップとしてプレーすることが多かったため、当然ながらディフェンダーからの細心の注意を払わなければならなかった。しかし、ペナルティーエリア内やその周辺での人混みを捌かなければならないときでも、トニーは一貫して明晰な思考力を発揮してきた。

    9月のリーズ戦でハットトリックを達成した一撃ほど、それを示すゴールはない。GKイラン・メリエのひどいミスの後、トニーはゴールから30ヤード付近で大勢の白いシャツに囲まれた。しかし、彼は屈することなく、繊細にボールをネットに突き刺した。

    トニーの精神的な強さは、両足と頭脳を使った最高の技術力と一致している。このことは、トップリーグに来て以来、彼がさまざまな方法でゴールを決めてきたことからもわかる。プレミアリーグでの32ゴールのうち、13ゴールはオープンプレーから得意の右足で、3ゴールは左足で決めている。トニーはまた、11本のPKと2本の見事なフリーキックを決め、さらに3度のヘディングシュートも決めている。

    このデータから導き出される結論はただひとつ、トニーにボールを供給すれば得点できるということだ。昨シーズンのシュート1本あたりの得点率0.16は、ガブリエウ・ジェズスやエディ・エンケティアのそれを上回っている。もしアーセナルが今年1月に彼を獲得すれば、彼らはトニーの控えとなるだろう。

  • Ivan Toney Max Kilman 2023-24Getty Images

    トニーはゴールをもたらすだけではない

    トニーは、典型的な、ゴールを決める9番としてだけ特徴付けられるべきではない。彼のプレーには、しばしば気づかれないほど多くのものがある。攻撃の中心として、プレミアリーグでこれ以上の選手はほとんどいないのだ。

    昨シーズン、プレミアリーグで空中戦の半分弱を制したトニーは、エアバトルで圧倒的な強さを見せるだけでなく、相手ディフェンダーとのフィジカルバトルも得意とする。これは、イングランドの下部リーグにいた頃の名残であり、過去にベン・ホワイトやリサンドロ・マルティネスのような選手を圧倒し、トニーは恐るべき評判を得ている。

    その結果、ディフェンダーは試合中、彼に特別な注意を払うようになり、昨シーズンのプレミアリーグでは90分あたり「2.26」のファウルを受けた。ディフェンス陣が彼に群がることで、チームメイトが走り込めるスペースが生まれることもある。また、ディフェンスラインのすぐ前に下がることで、トニーは背後へスルーパスを通すことも、頭でフリックすることもできる。

    また、ボールを保持しているときにも、決して手を抜いているわけではない。ブレントフォードは常に高い位置からプレスをかけるわけではないが、プレスをかけるときにはトニーが指揮を執り、オフ・ザ・ボールでカーブを描きながら走り、ディフェンスがビーズの間をすり抜けるのを可能な限り難しくする。昨シーズンは1試合おきにインターセプトを決め、アタッキングサードでのタックルも3試合おきに決めている。

  • Harry Kane Ivan Toney England 2023-24Getty Images

    アーセナルにはストライカーが必要だ

    これらを考慮すれば、トニーがミケル・アルテタの先発メンバーにシームレスに入ることは想像に難くない。アルテタは一貫して、得点だけでなく前線3人のつなぎ役も担うストライカーを起用してきた。

    ガブリエウ・マルティネッリとブカヨ・サカは、トニーのフィジカルの強さによって、彼らから注意をそらすことができるだろうし、セットプレーやクロスからの脅威は、ガナーズの得点力を向上させるはずだ。昨シーズン、ガナーズはこのような状況から6回しか得点を奪っていない。

    この大柄なフロントマンのキャリアを見てきた者なら、ノース・ロンドンでの新しい環境でのプレッシャーに苦戦するだろうなどという考えも一笑に付すだろう。たとえ下部リーグで停滞しているように見えても、トニーは常に自分自身をバックアップしてきた。2021年にオン・ザ・ジュディのポッドキャストでこう語っている

    「リーグ・ワンにいたとき、もっと上のリーグでプレーしている自分を想像していた。チャンピオンシップやプレミアリーグでやれると思っていたし、すぐに順応できたと思う」

    トニーは、ジャマイカ代表の招集を断ったときにも同じような自信を見せていた。ハリー・ケインが前線でプレー時間を独占しているにもかかわらず、イングランド代表でインパクトを与えることを信じていたのだ。

    トップレベルであることを証明した今、彼はさらなる成功を望んでいることは明らかで、ポッドキャスト『Diary of a CEO』にこう語っている。

    「誰もがトップレベルでプレーしたいと望んでいる。ブレントフォードがそうでないわけではないが、ビッグクラブでプレーし、トロフィーをかけて戦う。もしチャンスが巡ってくるなら、それをもっと検討しないのは愚かなことだ。監督は、僕が可能な限り高いレベルでプレーしたいと思っていることを知っている。いつその時が来てもいい。ブレントフォードで過ごした時間は、僕のキャリアの中でも最高の時間だったと思う」

    トニーの自分への絶大な信頼は、ビッグクラブでのメンタリティを物語っている。チャンピオンズリーグのクラブでのチャンスを辛抱強く待ち続けてきた彼にとって、今こそ誇大広告を裏付けるだけの実力を証明する時なのだ。

  • Declan Rice Moises Caicedo Arsenal Chelsea 2023-24 GFXGetty

    おかしな市場

    いくらトニーがアーセナルに適しているように見えても、8000万ポンドは1月に使うには巨額だ。ブレントフォードの査定額を正しく理解するには、ハイパーインフレのプレミアリーグ移籍市場の文脈の中に位置づける必要がある。

    フランクは『マンデーナイトフットボール』に出演した際、このことに言及してこう言った。「今日の市場では、(6番ポジションの選手の価格を考えると)ゴールスコアラーやアタッカーが最も高価な選手であることは誰もが知っている。それが変わって、ストライカーよりも6番の方が高くなったのでなければ、わからないけどね」。

    指揮官が言及したのは、デクラン・ライス、エンソ・フェルナンデス、モイセス・カイセドといった中盤の選手たちだろう。いずれも1億ポンド以上の値が付き、破格の値段を考えると、トニーは相対的にお買い得に思える。特に、イングランド市場では高額なプレミアムがつくホームグロウン・プレーヤーとして数えられているからだ。

    2022年夏に思いを馳せると、アレクサンダー・イサクとダルウィン・ヌニェスはともに8000万ポンド前後だった。それぞれニューカッスルとリヴァプールの「プロジェクト・バイ」だったが、いずれも即戦力になる保証はないままイングランドにやってきた。トニーの場合は、すでに1部リーグで実績があるため、そのような心配はないだろう。

  • Ivan Toney Brentford 2022-23(C)Getty Images

    ライスが大金を使えば報われることを証明した

    アーセナルは、この夏のライス獲得でも同じような考え方に導かれた。数日、数週間が長引くにつれ、ウェストハムはより多くの資金をかき集め、ガナーズは最終的に1億500万ポンドを支払ってナンバーワン・ターゲットを確保した。

    その値段に眉をひそめる向きもあったが、ライスのアーセナルでのキャリア第一幕は見事なものだった。中盤に必要なフィジカルの強さを加えたことで、アルテタのチームはポテンシャルをフルに発揮できないながらも、結果を残すことができた。

    おそらくここで学ぶべき教訓がある。アーセナルは、新しいストライカーをもっと遠くで探した方がお得かもしれないが、ライスのシーズン開幕戦のきらめくような活躍は、歯を食いしばってプレミアリーグで実績のある選手に投資すれば、大きな利益を得られることを示している。チェルシーも移籍戦略が迷走を続ける中、同じことを考えていることだろう。しかし、トニーにとって、アーセナルに移籍するか、ブルーズに移籍するかの選択は簡単なはずだ。

    ボールはアーセナルのコートにあり、彼らはトニーの到着を資金調達するオプションを真剣に検討する必要がありる。『タイムズ』紙は、ファイナンシャル・フェアプレーの制限により、ビーズのスター選手が移籍する前に選手を移籍させなければならないと報じている。リース・ネルソン、エミール・スミス=ロウ、そしておそらくエンケティアは、この冬に放出される可能性が高い。

    ヘイル・エンド出身の選手たちが退団するのは痛いが、アルテタがガナーズの前線を一変させる可能性を秘めたトニーとの契約を望むのであれば、それもやむを得ない選択かもしれない。