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アイデンティティも希望もなく…テン・ハーグがマンチェスター・ユナイテッドに相応しくない5つの理由

オールド・トラッフォードは、かつてイングランドサッカー界において最も恐るべきスタジアムだった。サー・アレックス・ファーガソンの27年間でこのスタジアムは劇的な勝利を生み出し続け、チームは国内最高のアカデミーと抜け目ない移籍ビジネスでワールドクラスに君臨し続けたのだ。

だが、彼の後を継いだデイヴィッド・モイーズ、ルイス・ファン・ハール、ジョゼ・モウリーニョ、オーレ・グンナー・スールシャールは、いずれも偉大な指揮官の後継者としてはふさわしくない人物だった。そしてエリック・テン・ハーグも、同じ運命をたどる可能性が高まっている。

ファーガソン時代に戦ったオールド・トラッフォードでの405試合中、敗れたのはたった「34試合」。だがその後の5人の指揮官は、196試合でその数字に到達してしまった。29日に行われた今季最初のマンチェスター・ダービー、“夢の劇場”で宿敵マンチェスター・シティに0-3と惨敗を喫している。これで開幕10試合を終えて勝ち点15、1986-97シーズン以来最悪のスタートになった。

伝えられるところによると、クラブ上層部は依然としてテン・ハーグを信頼し続けているという。しかし、彼らの忍耐もすぐに限界を迎えてもおかしくはない。現在のチームからは、前向きなものが見えてこないのだ。確かにクラブ売却騒動が決着しないことも影響を与えているだろうが、それが完全な言い訳とはならないはずだ。シーズン序盤の失敗は、テン・ハーグに責任があると言っても過言ではない。

文=ジェームズ・ウェストウッド

  • Ten-Hag-Man-Utd-Man-City-2023-24Getty

    アイデンティティの欠如

    就任初年度でトップ4フィニッシュとリーグカップ優勝を達成したことで、テン・ハーグは大きな称賛を集めた。5年ぶりのタイトル奪還でチームに自身を与えたことで、さらなるメジャータイトル挑戦への期待も大きく高まった。だが、今季は開幕からすでに5敗。シティ、トッテナム、アーセナル、ブライトン、クリスタル・パレスと、試合内容も敗れるべくして敗れたものばかりだ。

    『スカイスポーツ』で解説を務めるジェイミー・キャラガーは、シティ戦後に「彼らは弱者のサッカーを続けている。(テン・ハーグが)就任してからも同じだ」と指摘している。

    「カウンターやロングボールを多用する。そんなプレーをするトップチームはいない。テン・ハーグは練習場で彼が連れてきた選手と何をしているんだ? そして、何を求めているんだ? 見えてこないよ」

    マンチェスター・Uの伝説的なOBギャリー・ネヴィルもこの意見には同意するしかなく、「このサッカーは全く好きになれない。どんなパターンで戦おうとしているのかわからないんだ」と語った。

    他のライバルクラブを見れば、テン・ハーグを擁護することは難しい。アンジェ・ポステコグルー(トッテナム)、ロベルト・デ・ゼルビ(ブライトン)、ウナイ・エメリ(アストン・ヴィラ)は明確な戦術的設計図を選手たちへ示し、変革をもたらしている。テン・ハーグにも同じことができたはずなのだ。

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  • Mason Mount Man Utd 2023-24Getty

    移籍市場の失敗

    テン・ハーグの到着以来、マンチェスター・Uは選手獲得に総額3億3500万ポンドを費やしてきた。これは同期間のシティよりも1億ポンド以上多い金額だ。だが、彼らと比べて成功したと言えるだろうか?

    カゼミーロやリサンドロ・マルティネス、クリスティアン・エリクセンは初年度こそ活躍したが、今季は同じレベルに達していない。クラブ史上2番目に高額なアントニーは、移籍金に見合った活躍は見せていない。タイレル・マラシアもレギュラーにはなれず、ボウト・ベグホルストのレンタルは忘れたほうがいいだろう。

    2023年夏も失敗は続き、目玉補強となったメイソン・マウントは、ブルーノ・フェルナンデスの隣で迷走が続いている。アンドレ・オナナもビッグマッチでのミスが相次ぎ、ダビド・デ・ヘアを上回ることはできていない。ラスムス・ホイルンドはたしかに巨大なポテンシャルを秘めているが、求められる決定的なストライカーにはなりきれていない。ソフィアン・アムラバト、セルヒオ・レギロンも、チームの主軸を担う選手ではないだろう。

    ネヴィルは「クラブは新たな監督が来てから方針を変え、補強に関しては本末転倒な結果となった。テン・ハーグが信頼しているエールディヴィジから8人も選手を連れてきたのだ」と指摘している。指揮官の希望通り獲得した選手たちはチームを強化するのではなく、むしろ逆方向に進んだのだ。

  • Bruno Fernandes Manchester United 2023-24Getty

    キャプテン変更

    テン・ハーグがマンチェスター・Uの監督として最高の決断は、ハリー・マグワイアからキャプテンを変更することだった。この伝統あるアームバンドはマグワイアの大きな負担となっており、それがなくなってからの彼はプレッシャーから解放されて本来の姿を取り戻しつつある。

    しかし残念ながら、後任は適切な人物ではなかったのかもしれない。確かにブルーノ・フェルナンデスは副キャプテンを務めていたし、驚きの選択ではなかった。だが、もう少し考える余地はあったはずだ。

    ブルーノ・フェルナンデスが発言権を持っていること、ファイナルサードでチームを指揮することに疑いはない。だが逆境の場面でチームを鼓舞できるかというと、それは疑わしい。失点場面、ボールロスト、安易なミスが発生した場合、彼は真っ先に大きなリアクションで不満を示すだけだ。昨季アンフィールドでリヴァプールに0-7で大敗した時もそうだったし、8カ月後のシティ戦でも、その面では少しも成長していない。OBロイ・キーンは「私なら彼から100%キャプテンを剥奪する」と語ったが、そう考えるのも不思議ではない。

    現マンチェスター・Uはリーダーに恵まれていないが、ブルーノ・フェルナンデスより良い選択肢はあるだろう。チャンピオンズリーグやワールドカップを優勝するなどチーム内で最も経験豊富なラファエル・ヴァラン、チーム最古参で尊敬を集めるルーク・ショー、彼ら2人は明確な候補だ。

  • Erik ten Hag Man Utd 2023-24Getty Images

    扱いきれない重圧

    テン・ハーグは就任後から何度か権威を示そうとしてきており、クリスティアーノ・ロナウドの退団は物議を醸したものの、前進するためには必要な決断だったかもしれない。

    だがジェイドン・サンチョの扱いに関しては、正当化するのが難しくなってきた。テン・ハーグが公の場で練習態度への不満を表明した後、反発したサンチョは現在もトップチームを外れている。もう謝罪する気もなく、1月に退団するのは避けられない状況になりつつあるようだ。しかしチームのウインガーが軒並み大幅にパフォーマンスを落としていることを考えると、今の状況は表面的に意味をなしていない。起爆剤としてはうってつけの才能が欠場し続けるのは、チームにとって正しいとは言えないだろう。

    さらにスールシャールやモウリーニョも苦しんだように、テン・ハーグもまた、ロッカールームからの情報漏洩に苦しんでいる。最近では選手たちがテン・ハーグのために全力を尽くすことをやめたとも伝えられるなど、外部でも周囲が騒がしくなっている。

    もしかすると、テン・ハーグにとっては扱いきれない重圧なのかもしれない。伝説的なストライカー、ズラタン・イブラヒモヴィッチは先日『Talk TV』でこう語っていた。

    「アヤックスはタレントあふれるクラブで、最高の才能がたくさんいる。だが、ビッグスターはいない。どういう経験ができたか? 若い才能を指揮することだ」

    「ユナイテッドには違うメンタリティと違う選手がいる。そこにいるのはビッグスターであるはずだ。テン・ハーグも違う状況に置かれたわけだ。アヤックスからユナイテッドは、大きな違いだと想像できる。俺は両方のクラブでプレーしたからわかるよ」

    「異なるアプローチがあるんだ。規律の種類だって違う。だが、ユナイテッドで同じことをするというのは……同じ扱いが正しいとは思えない。彼にはもっと時間が必要だ。(トップチームを)扱う方法を経験してほしいな」

  • Erik ten HagGetty

    約束の地

    シティに敗れるまで、マンチェスター・Uは今季初めて公式戦3連勝を達成していた。では、内容も良かったのか? 決してそんなことはない。どの試合も1点差の拮抗したゲームであり、最終的になんとか白星に繋げただけだ。もはや対戦相手は全く恐れていない。

    シティ戦では改善の兆しも見られなかったが、テン・ハーグはもっと選手たちを鼓舞する必要がある。公の場で現在のパフォーマンスレベルが十分でないことを知らせるべきだ。しかし、代わりに彼は会見で「前半のプランは良かったし、プレーも非常に良かった。チャンスを見ても最初から最後まで順調だった。メンタリティもそうだ。前に向かって進んでいると思う」と口にしている。

    スタジアムを訪れたファンの中で、同じ感想を持った人は果たしてどれほどいるのだろうか? 0-1の状況下で後半にピッチに立った選手の中で、“気迫”を見せた選手はいたのだろうか? もしシティ相手にカウンターを待ち続け、自陣に引きこもることが「良いプラン」ならば、テン・ハーグの頭の中は妄想で満ちていることになる。

    カラバオ・カップのニューカッスル戦以降、マンチェスター・Uのリーグ戦の相手は下位に沈むチームが続く。ここで大幅に勝ち点を回復することが期待されるのだが、そうできなかったとしても驚きはない。

    マンチェスター・Uは、テン・ハーグの下で「約束の地」には戻れない。すでに世界最大のクラブでのチャンスを逃してしまったからだ。もはや問題は、いつ決別するかだ。これ以上続ければ、その後任も立て直せないほどのダメージを負うことになるかもしれない。