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リヴァプール優勝のカギを握るのは「キャプテン・ケイオス」?ヌニェスという最高のエンターテイナー

「ダルウィン・ヌニェス vs アーリング・ハーランド」。2022年夏にプレミアリーグ屈指の強豪にそれぞれ加入した2大ストライカーの論争は、早々に決着を見た。ノルウェー代表FWはいきなりプレミアリーグの1シーズン歴代最多得点記録を更新すると、マンチェスター・シティを歴史的な三冠に導いてみせたのだ。

ジョゼップ・グアルディオラは「みんながハーランドの失敗を望んでいる」とメディアや現地ファンの扱いに不満を述べたが、ハーランドが自ら圧倒的過ぎる活躍でハードルを上げてしまったことは事実。しかしそのターミネーターのようにゴールを量産する姿に加え、インタビューなどで垣間見える愛すべきキャラクターにより、イングランドには多くの支持者が存在することも、また事実である。

だが、ハーランドとマンチェスター・Cはあまりにも成功を収めてきたため、ゴールを決めても少々感動にかけることは間違いない。もはやネットを揺らすことが「当たり前」の光景になってきてしまっているため、その1点が熱狂を生み出す機会はどうしても少なくなってきている。

では一方、ヌニェスの方はどうだろうか? 「熱狂を生み出す」という意味では、サッカー界最高の選手であろう。このウルグアイ代表FWに対して賛否両論あることに何ら不思議はないが、この男は常にサポーターに歓喜をもたらす存在なのだ。

文=マーク・ドイル

  • Darwin Nunez Liverpool 2023-24 Europa LeagueGetty

    ヌニェスの二面性

    彼を徹底的に擁護するリヴァプールファンも、6400万ポンドの契約をバカにするライバルファンであろうと、ヌニェスのプレーに満足しない人はいないだろう。フルタイムの笛が鳴る頃には、彼は自分の才能における二面性をいかんなく発揮してくれるからだ。

    10月26日のトゥールーズ戦と1日のボーンマス戦はその好例だ。トゥールーズ戦では巧みな先制ゴールで5-1の快勝に導いたものの、わずか10ヤードの距離からシュートをポストに当てている。さらにボーンマス戦では、驚異的なミドルシュートを叩き込んでみせたが、直前のトラップミスによって難易度を自ら上げてしまったことは否めない。

    そしてボーンマス戦後、OBで解説者のジェイミー・キャラガー氏はアメコミのキャラクター「キャプテン・ケイオスのようだね!」とヌニェスを表現した。

    そう、それがヌニェスの二面性なのだ。驚異的なシュートを叩き込む一方で、簡単なシュートを決めきれない……想像を絶するほどに賛否両論を巻き起こすのがヌニェスである。感情がどちらに振り切れるにせよ、彼を見て“楽しめない”ことはないのだ。

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  • Darwin Nunez Liverpool 2023-24Getty

    リヴァプールにふさわしくない?

    しかし問題は、ヌニェスが「本当にリヴァプールにふさわしいのか」ということだ。その意味では、OBホセ・エンリケは『Grosvenor Sport』で否定的な意見を語っている。

    「ヌニェスはワールドクラスのストライカーにはなれないと思う。リヴァプールのやり方ではね。19歳の選手ではなく、もう24歳だ。良い選手だとは思うけど、リヴァプールのスタメンにふさわしいとは思ったことがないよ」

    「プレミアリーグで優勝したなら、ダルウィンを先発ストライカーにはできないと思う。ユルゲン・クロップのスタイルには合わないね。カウンターをメインにするチームは適していると思うけど、ハイプレスには向いていないよ」

  • Jurgen Klopp 2023-24Getty

    クロップの要求

    加入後最初のシーズン、確かにヌニェスはクロップのスタイルに適応できなかった。そのスピードは相手に問題を引き起こし、だからこそ左サイドでの起用が増えた。とはいえボールがない場面でDFにプレッシャーをかけることは少なく、それに指揮官は満足できなかったのだろう。その結果として1月にコーディ・ガクポが加入し、さらにディオゴ・ジョタの復帰でヌニェスの序列は一気に低下している。

    今年夏のプレシーズンでは絶好調だったものの、それでもクロップはスタメンは保証しなかった。「ダルウィンもそれ以外のストライカーも全員同じ状況だよ」と明言し、「全員のクオリティの高さは理解している。だが、あらゆる攻撃的局面に加え、守備時にも影響を与えなければんらないんだ」と語った。

  • Darwin Nunez Liverpool 2023-24Getty Images

    序列は上げたが…

    今季開幕から3試合連続でベンチに座ったのはやや驚きではあった。それでも3試合目のニューカッスル戦、途中出場から劇的な決勝点を含む2ゴールを叩き込み、2-1の勝利に導いた。この活躍がすぐに先発に繋がったわけではなかったが、ゆっくりと、そして確実に序列を上げていったことは確かである。

    だが、やはり物足りなさは抜けないのだ。5日のルートン戦、家族が拉致されるという悲劇に見舞われたルイス・ディアスが途中出場からエモーショナルな同点弾を決めたことに注目が集まったが、ヌニェスが決定機を決めていればおそらく勝てたはずだった。結果的にこのシュートミスはSNSで拡散され、タイトルレースにおける彼の能力に疑問符がつくこととなった。

  • Mohamed Salah Darwin Nunez Liverpool 2023-24Getty Images

    リヴァプールNo.9

    リヴァプール自体も構造的な問題を抱えている。攻撃的な部分で貢献が期待されたアレクシス・マクアリスターが、結果としてNo.6で起用されているのは大きな問題だ。キャラガーが指摘したように、タイトルに挑戦するにはあと2人が必要だろう。スペシャルなNo.6と、トレント・アレクサンダー=アーノルドが動いたスペースをカバーできるディフェンダーである。

    そして、ストライカー的な選手をあまり必要としていない構造である。ロベルト・フィルミーノが今週に発売された本で書いたように、リヴァプールのNo.9は両ウイングのベストを引き出すことが最も重要だ。クロップは最近、ヌニェスについて「彼がすべてのプレーに関与できているのは良いことだ」と語ったが、求めるプロフィールとはあまり合致していないだろう。

  • Darwin Nunez Liverpool 2023-24Getty

    キャプテン・ケイオスがカギを握る?

    ヌニェスは今年2月、クロップが「恋に落ちた」ベンフィカ時代ほどのパフォーマンスを見せられていないことを認めている。我々がこの数カ月でその輝きの片鱗を見ていることは確かだが、リヴァプールのNo.9に定着するためにはがら空きのゴールを前にシュートミスすることは許されないのだ。勝ち点3を勝ち点1にすることはできないし、勝っていても得失点差を意識しなければならない。それがタイトルを目指すチームのあり方だ。その意味で、ヌニェスはまだ十分ではない。

    リヴァプールのOBであるダニエル・スタリッジは、『スカイスポーツ』でヌニェスの問題点を指摘した。「指導が必要だと思うよ。試合のテンポやペースに合わせて走り、そこからフィニッシュする練習をすべきだ。(フィニッシュフェーズで)落ち着いておらず、リラックスできていないように見えるからね」と語っている。

    ヌニェスのポテンシャルは間違いない。しかし、これはクロップも何度も提起していた問題だ。情熱的なストライカーに、ゴール前での冷静さを植え付ける……非常に難しいタスクであることは間違いない。確かに少しずつ進歩は見られるし、ゴールという結果もついてきた。とはいえ、ハーランドのような境地に達するためにやるべきことは山積みである。

    クロップは、本当にキャプテン・ケイオスに冷静さを植え付けることができるのだろうか? 予測することは、当然不可能だ。プレミアリーグ最高のエンターテイナーになりつつある男は、今後も我々を大いに楽しませてくれることは間違いない。そしてもし、リヴァプールが優勝争いに挑戦するのであれば、ヌニェスがすべてのチャンスをものにするターミネーターのような点取り屋になる必要がありそうだ……エンターテイメントは少し減るかもしれないが。