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リヴァプールが“超”大型補強に動くのは「今のままではダメという心の現れ」…優勝争いのライバル3クラブとは?/イアン・ラッシュ独占インタビュー第1回

世界屈指の強豪リヴァプール。イングランド北西部マージーサイドを本拠とし、トップリーグ優勝20回、欧州制覇6回を誇り、世界中の至る所に巨大なファンコミュニティを持つメガクラブである。

そんなリヴァプールの歴史上、最もゴールを奪ったのがイアン・ラッシュ氏だ。通算15年の在籍で積み重ねたゴール数は「346」。2度の欧州制覇や5度のリーグ優勝に導いた正真正銘のレジェンドである。そんなイアン・ラッシュ氏が、『GOAL』独占インタビューに登場。愛するクラブの他、遠藤航や日本代表チーム、そして現代サッカーや「ゴールを奪う」ことなど、様々なテーマに言及していく。

独占インタビュー第1回は、リヴァプールが世界中で愛される理由、そして大型補強や新シーズン最大のライバルなど、愛するクラブについて語った。

インタビュアー=河又シュート(『GOAL』編集部)

※2025年7月30日実施

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    なぜ「リヴァプール」は愛されるのか?

    今回が3度目の来日だと明かすイアン・ラッシュ氏は、「(前回に来日した)2017年より、リヴァプールファンがとても増えましたね。特に若い世代のファンが多くなった印象です」と語る。実際『Football Ground Map』の2025年の調査によると、「コアで高い関与を伴うファン」の数は約1.8~2.2億人。世界100カ国以上に300を超えるオフィシャルサポーターズクラブが存在し、2023-24シーズンのプレミアリーグは計4.7億人が視聴している(リーグ最多)。

    なぜリヴァプールは世界中で愛されるのか?イアン・ラッシュ氏はこう語る。

    「クラブの歴史が大きいと思います。多くのサポーターが労働者階級であって、みんなが団結して1つになって応援することが多い。それは『You'll Never Walk Alone』という曲に表れていると思います。本当に世界中のファンを巻き込んだファミリークラブなんですよね。そして、最近は多くの成功を収めている。そういった理由が大きいんだと思っています」

    またリヴァプールというクラブを語るうえで、絶対に外せないのが本拠地アンフィールドの存在だ。1884年に開場、現在61276人を収容するこのスタジアムでリヴァプールは圧倒的な強さを誇り、プレミアリーグホーム連勝記録(24)を持つだけでなく、数々の劇的勝利を重ねている。このスタジアムが生み出す熱狂と雰囲気については、サー・アレックス・ファーガソンやジョゼップ・グアルディオラ、アーセン・ヴェンゲルといった数々の名将が「特別なスタジアム」と公言してきた。

    そんなアンフィールドを何度も熱狂させた名ストライカーは、「特別なスタジアム」である理由をこう分析している。

    「多くのサポーターがとてつもない熱量で応援をする、さらに選手との距離が近い。(相手チームが)威圧感を感じる部分もあるかもしれません。リヴァプールには長い歴史があります。ほとんどのサポーターには、選手が100%を出し切ってくれさえすれば常に応援をし続けてくれる、というカルチャーが根付いているんですよ」

    「私が1つ印象に残っているのは、アンフィールドで行われたバルセロナ戦です(※2018-19シーズン、チャンピオンズリーグ準決勝第2戦)。4-0で勝ちましたが、ここまで圧倒的な勝利を掴めるのはアンフィールドだけしかないと思います。あれはファン・サポーターの声と力、熱量が大きな要因でしたね」

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    クロップ&スロットの関係は2人の名将に近い?

    そんなリヴァプールにとって、2024年夏は大きな転機だった。

    9年間チームを指揮して数々のタイトルをもたらし、その熱狂的なキャラクターで絶大な人気を誇ったユルゲン・クロップが退任。新たにアルネ・スロットを迎えた。多くのクラブ同様、長年チームの顔だった指揮官が去ったことで苦戦を強いられると予想した人は少なくない。だが蓋を開けてみれば、第6節からほぼ首位の座を譲らず。234日間に渡って順位表のトップに立ち続け、圧倒的な強さで5年ぶり2度目のプレミアリーグ制覇を達成している。

    イアン・ラッシュ氏は、こうした強さの背景に「ファン・サポーターを含めてチーム全体が1つになってきた歴史がある」と指摘する。またクロップとスロットの関係について、リヴァプールの伝説的な指揮官の名前を挙げて説明した。

    「チームスピリットであったり、サポーターの声であったり、みんなが1つとなって戦うことが重要です。これは連勝している時は簡単ですが、苦しいときにこそ1つになり続けるのは本当に難しい。でも、みんなが1つになれば大きな結果を残すことができます。例えば、昨季序盤の試合で0-1で負けていた時、それでもファン・サポーターを含めた全員が諦めずに戦って、2-1と逆転勝利することもできました」

    「私が『1つになる』と話しているのはピッチ上の話だけじゃなくて、ピッチ外でも一致団結することが必要になります。それが具現化した時、アンフィールドは(相手にとって)非常にプレーするのが難しい場所になりますね」

    「クロップとスロットは、私の時代で言えばビル・シャンクリー(※)とボブ・ペイズリー(※)のような関係だと思います。両者ともチームスピリットや基礎を築くことに重きをおいてチーム文化を築き上げましたが、2人とも異なるコーチングスタイルを持っていました」

    「クロップやビル・シャンクリーはどちらかと言えば指示をたくさん叫んだりして、タッチラインでも熱意を全面に出すタイプでした。スロットはどちらかと言うとボブ・ペイズリーのように、落ち着いていてあまり声を荒げない。異なるスタイルではありますが、共通しているのは全員がチームスピリットを大切にすることですね。2人の名将のように、良い移行ができたと思っています」

    ※ビル・シャンクリー(1959~1974):リーグ優勝3回、FAカップ優勝2回、UEFAカップ優勝1回

    ※ボブ・ペイズリー(1974~1983):リーグ優勝6回、リーグカップ3回、UEFAカップ優勝1回、UEFAチャンピオンズカップ優勝3回

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    大型補強と新シーズンのライバル

    そんなリヴァプールだが、連覇を狙うシーズンに向けて前例にない大型補強を敢行。ドイツ代表MFフロリアン・ヴィルツなど次々に即戦力を獲得した。大きくチームが入れ替わる夏となっているが、イアン・ラッシュ氏は「もちろん、彼らには期待したい」としつつも、チームの根幹は変わらないと主張している。

    「もちろん新加入選手にも大きな期待を寄せていますが、リヴァプールでの実績と経験がある選手が中心にいるのは変わらないと思います。フィルジル・ファン・ダイク、モハメド・サラー、そしてアリソンですね。新加入選手にも期待はしていますが、まだこのチームでどうフィットするかは実際プレーしてみないとわかりません。評価は後に来るものですね。とはいえ、本当にみんなの活躍が楽しみです」

    そうして迎える2025-26シーズンを王者として迎えるリヴァプールだが、イアン・ラッシュ氏はこのシーズンこそ「さらに難しい」と予想。さらに、ライバルになり得るクラブを3つ挙げた。

    「私の時代から言われていることですが、『1度リーグ優勝するのは簡単だが、連覇することは非常に難しい』。今季はどのチームもリヴァプールを、王者を倒すために挑戦してくるでしょう。昨季以上に難しいシーズンになると思いますよ」

    「昨季重要な補強は1人だけでしたが、今季は活発に動いています。そこはクラブの『今のままではダメ。もっと強くならなきゃ』という心の現れだと思っています。とはいえ、難しいシーズンにはなるでしょうね。今季はどのチームもリヴァプールを倒すために向かってきます。それがわかっているからこそ、新しい選手を補強している。彼らがしっかりと結果を残してくれれば、期待できるシーズンになりますね」

    「ライバルを挙げるとすれば、例年通りチェルシーやアーセナル、マンチェスター・シティでしょう。チェルシーはクラブワールドカップで優勝して、中心選手たちもまだまだ若い。そういった若い選手たちがあの優勝で自信をつけて新シーズンに入ってくるのであれば、面白いチームになると思います。アーセナルも重要な補強をして、得点力も上がっている。マンチェスター・シティはいつも通り強力です」

    「どのシーズンもサプライズはあるわけですが、リヴァプールも加えたこの4チームで優勝争いをすると予想しています」

    ※第2回へ続く