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【識者が選ぶ前半戦ベスト11:ラ・リーガ編】全能の「ライオン・キング」、摂理に反する大ベテラン、躍進の昇格組の絶対的司令塔も!

あっという間に前半戦を折り返した2021-22シーズンの欧州サッカー界。各国リーグ戦も開幕から約半年で様々なドラマが巻き起こり、熱狂的な戦いが続いている。

そして『Goal』では、折返しとなる2021年末にプレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガ、ラ・リーガの4大リーグの前半戦ベストイレブンを決定。各リーグに精通する識者の方に11人を選出してもらい、前半戦を振り返ってもらう。

第四弾はラ・リーガ。スペイン在住ジャーナリストの江間慎一郎氏が、前半戦のベストイレブンを選出した。

  • Thibaut Courtois of Real Madrid.Real Madrid.

    GK:ティボ・クルトワ(レアル・マドリー)

    彼がいるといないでは、レアル・マドリーが手にしている勝ち点数に差が出ていた。リーグ戦を勝ち取るために欠かせないものは、チームの調子が悪いときや、ピンチに陥りながらもつかむ勝ち点3。ベルギー代表GKはアスレティック・ビルバオ戦やセビージャ戦などで、そうした勝利を供してきた。的確なポジショニング、アタッカーとの距離感から猫のような反射神経で一瞬の間に手と足を出してボールを弾き、ミドルなどでは一瞬時が止まるような横っ飛びを見せる。マドリーでここまでGKのポジションが安泰だと感じさせるのは、おそらく全盛期のイケル・カシージャス以来。あまりに歯に衣着せぬ物言いのため、“聖クルトワ”と呼ぶのは抵抗があるかもしれないが。

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  • Ronald Araujo, Barcelona 2021-22Getty

    RSB:ロナルド・アラウホ(バルセロナ)

    最近、チャビ・エルナンデスに右サイドバックとして起用されているので同ポジションでの選出。今季ここまで低調のバルセロナで、一人怪物ぶりを見せつける。攻守のセットプレー含めて空中戦の強さは特筆もの。さらに188センチの巨大な体躯に似合わず足も速く、その大きなストライドで快走するアタッカーとの距離を縮め、体と腕を巧みに使って相手とボールの間に入り込んでデュエルを物にする。基本的には、誰と競り合ってもこのウルグアイ人DFから余裕を感じさせる。停滞するバルセロナで、クラブを置き去りにするような成長を見せながらも、Bチームから昇格してきたため、その年俸は最低クラス……。真っ当な年俸を支払うのは当たり前で、用意ができなければプレミアリーグの強豪クラブに渡ってしまうのも当たり前だろう。

  • Militao Real MadridGetty Images

    CB:エデル・ミリトン(レアル・マドリー)

    マドリー入団会見では緊張のため気分が優れず途中退席し、その後ラファエル・ヴァランかセルヒオ・ラモスの代わりに試合に出場しても戦犯と呼ばれる日々……。ミリトンは入団から間もなくしてメディアから期待外れの烙印を押されたが、昨年4月3日に負傷したS・ラモスの代わりに今一度出場機会を得ると、運命が変わった。いや、秘めていた驚異的な力を解放して、運命を変えてしまったのだ。有り余るフィジカルで相手のプレーの芽を潰す様は、「たとえS・ラモスがいなくてもやれる」という確信をクラブ首脳陣にもメディアにも植え付けている。実際、その4月3日以降に彼の出場した39試合でのチーム成績は27勝9分け3敗と、マドリーは基本負けることがない。

  • David Alaba of Real Madrid.Real Madrid.

    CB:ダヴィド・アラバ(レアル・マドリー)

    ミリトンがどれだけ凄まじくても、アラバがいなければ、私たちはヴァラン&S・ラモスの黄金コンビを何度となく思い出していただろう。オーストリア代表DFは加入から間もなくしてDFラインを統率。全体のコンパクトさを維持するためにラインの高さを管理し、相棒ミリトン(守備の強度は彼の方が上)に積極的に指示を出して……と、S・ラモス顔負けのリーダーシップを発揮しており、さらに足の速さを生かした守備範囲の広さやフィードの正確さでも存在感を示す。サイドバックのほか、クラシコでのゴールのようにリベロの動きでも攻撃に貢献でき、さらに必要とあらばボランチでもプレー可能と、マドリーは本当に良い補強をした。

  • acuna sevilla(C)Getty Images

    LSB:マルコス・アクーニャ(セビージャ)

    2020年9月、28歳でスポルティングCPからセビージャに加入。セルヒオ・レギロンの後釜だったが、今はビッグデータもフル活用するモンチの手腕に、やはり間違いはなかった。平凡な左ウィングやサイドハーフと比べれば格段に勝る攻撃能力を持ったサイドバック。その果敢な攻撃参加、緩急をつけたドリブル能力は、フラメンコのリズムを愛する情熱的なセビージャサポーターの大好物であり、加えて抜群のスピードによって相手のカウンター阻止にも貢献できる。もはやラ・リーガを代表する左サイドバックと言っても差し支えはない。

  • Fernando Reges SevillaGoal

    DMF:フェルナンド(セビージャ)

    2019年9月、31歳でガラタサライからセビージャに加入。指揮官ジュレン・ロペテギの「私の彼に対する評価は、もうこれ以上ないものだ。戦術、技術、メンタリティー、模範的と、あらゆるレベルで突出した選手だよ。彼を擁することができるのは愉楽以外の何物でもない」とのコメントがすべてを物語る。戦術理解度、状況判断、身体能力を基にした守備力、ビルドアップ力を有し、ボールを持っても持っていなくてもセビージャにとってかけがえのない存在。ジュール・クンデ&ディエゴ・カルロスの両センターバックとともに形成する三角形はあまりにも頑丈だ。

  • Luka Modric of Real Madrid.Real Madrid.

    CMF:ルカ・モドリッチ(レアル・マドリー)

    36歳ながらマドリーの中盤でスタメンを張り、背番号10にふさわしいプレーを見せ続ける……。今、私たちはフットボールの摂理に反することを目撃しているのかもしれない。スポーツ選手は技術と経験をどんどん深めながら、肉体の衰えにはどうしても抗えないという矛盾に苛まれるもの。しかし、ザグレブ大学のキネオロジー学科教授ヴラトコ・ヴクセティッチ氏に食事や個人トレーニングに関してのサポートを受けるクロアチア代表MFは、老い知らずの肉体で成熟の極みのようなプレーを見せている。ボールを受けるときから、観戦者、相手選手、さらにはアンチェロッティが予想するプレーの最適解をさらに上回る最適解を選択して、マドリーのビルドアップとフィニッシュワークの両方に関与。またアトレティコ・デ・マドリーとのダービーに代表されるような、懸命なダッシュからのボール奪取はサポーターの胸を熱くするものだ。あのダービーで巻き起こったスタンディングオベーションは、今季マドリーの美しいハイライトの一つである。老いていく者を容赦無く置き去りにするマドリーで、チームを引っ張り続ける果てしない成長と意欲を示す……。だからこそマドリーは、彼との契約を2023年まで延長するのである。

  • Trejo(C)Getty Images

    CMF:オスカル・トレホ(ラージョ・バジェカーノ)

    ラ・リーガ1部昇格組ながら、チャンピオンズリーグ出場圏4位でクリスマスバケーションを迎えたアンドニ・イラオラ率いるラージョ・バジェカーノ。その特徴はイラオラが選手時代に指導を受けたビエルサにも似た、あらゆる局面に対応できるようオートメーション化されたサイドからの攻撃にあるが、最も重要な役割を担っているのがトレホだ。トップ下を定位置とするこのアルゼンチン人MFは、必要に応じて2ボランチ(オスカル・バレンティン&コメサニャ)の近くまで下がり、サイド(左右どちらとも)に開き、DFとMFのライン間に入り込む。ポジショニングほかトラップ&パスを中心としたプレーの判断も淀みなく、だからこそチーム全体でも淀みのない攻撃を実現している。左サイドのアルバロ・ガルシアなどスペイン代表に呼ばれるべき逸材もいるラージョだが、トレホなくして今のような快進撃を見せるのは難しかったろう。

  • Juanmi Real Betis 2021-22Getty

    RWG:フアンミ(ベティス)

    今季ラ・リーガ得点数はカリム・ベンゼマの15得点に次ぐ11得点(12月29日時点)。もちろん、スペイン人得点王である。ラ・レアルからベティスに加わって3シーズン目、負傷による長期離脱などあって青白時代の輝きはこれまで影を潜めていたが、ようやく緑白のユニフォームでも記憶と記録に残るプレーを披露し始めた。彼はドリブルも速い選手だが、何よりも頭の回転が速い。そのために巧みな動き出しを見せることができ、誰も感知し得ないようなクロスやセカンドボールに反応してゴールネットを揺らしてみせる。ベティスの本拠地ベニト・ビジャマリンで叫ばれるようになった「フアンミ、セレクシオン(代表へ)」のチャントは、生ける伝説ホアキン・サンチェス、不撓不屈の10番カナレス、怪物フェキルに続くニューアイドル誕生を意味している。

  • Karim Benzema Real MadridGetty Images

    CF:カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)

    ジョゼップ・グアルディオラはかつて、「点を取らない偽9番など本物の偽9番ではない」と言っていた。そして今のベンゼマは、その点でも間違いなく正しい偽9番だ。相手DF陣についてくるか残るかの選択肢を与えてスペースを操り、味方にそのスペースを使わせて、自らフィニッシュワークの活路を見出す。昔は、肝心なときに点を決められないストライカーとしてベルナベウでブーイングを浴びせられていたフランス人FWだが、点も決められるようになれば、もはや攻撃的選手として全能の存在だ。レアル・マドリーで、絶対的ではない時期もあったが12年在籍してレギュラーを張り続ける……その事実だけでも素晴らしい。絶対的存在ではなくイグアインとレギュラー争いをしていた時期、モウリーニョは「犬(イグアイン)と狩りに行けず、猫(ベンゼマ)がいれば猫と出かけることになる」と話した。今のベンゼマは、ライオン・キングだ。

  • Vinicius Jr of Real Madrid.Real Madrid.

    LWG:ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)

    あれはラ・リーガ第15節、サンティアゴ・ベルナベウでのセビージャ戦の出来事だ。終了間際の87分に強烈な右足のミドルシュートで2-1とする決勝点を決めたヴィニシウスは、今一度胸のエンブレムを握りしめ、観客はそんな彼にずいぶんと長い間スタンディングオベーションを送っていた。そもそもベルナベウの観客は、いかにフィニッシュワークがお粗末だったとしても、ヴィニシウスにブーイングの指笛を吹いたことなどなかった。彼の果敢にドリブルを仕掛け、抜き去っていく姿にマドリーの選手としてあるべき理想像を重ね、喝采を送り続けたのだった。そして今季、急流のようなプレーリズムに然るべき落ち着きを加えて、ゴール(12)やアシスト(7、いずれも全公式戦での数字)と記録にも残るプレーを見せるブラジル人FWは、ベルナベウで応援される対象ではなく、信仰の対象となりつつある。一時代を代表する存在にもなり得ることを予感させる選手は、クリスマスバケーションで訪れたマイアミでこう語った。

    「もっと成長しなければならないし、その余白はまだまだある。まだ、始まったばかりなんだよ」

  • liga_fom(C)Goal

    ラ・リーガ:2021-22シーズン前半戦ベストイレブン(4-3-3)

    GK:クルトワ

    DF:アラウホ、ミリトン、アラバ、アクーニャ

    MF:モドリッチ、フェルナンド、トレホ

    FW:フアンミ、ベンゼマ、ヴィニシウス