keisuke goto(C)Getty images

【現地発】「信じて、パスを待って、決めるだけ」後藤啓介、ワールドカップを見据える20歳FWが下したSTVV移籍という決断

取材・文=林遼平

  • 1度の練習でピッチへ

    出番が訪れる10分くらい前からだろうか。ベンチ横でウォーミングアップしながら、誰よりもピッチの状況を確認している後藤啓介の姿があった。

    「早く出たい、早くチャンスが欲しいなと思って見ていました」

    ベルギーのアンデルレヒトからシント=トロイデン(STVV)への加入が発表されたのは7日のこと。そこから1度の練習を経て、迎えた翌日の試合に後藤はベンチ入りを果たした。以前からSTVVの試合を見ていたとはいえ、新たなチームのスタイルに1度の練習でフィットさせるのは簡単ではない。一般的に考えれば、起用される確率は低いと言わざるを得なかった。

    それでも80分、後藤に声がかかった。2点のリード、相手に退場者が出ている状況だったことを踏まえても、加入直後に起用されたところに指揮官からの期待がうかがえる。それに応えるように後藤は前線で身体を張ったポストプレーを見せ、背後への抜け出しやサイドからのクロスに合わせる動き出しでも見どころを作った。得点こそ生まれなかったが、“加入即出場”の中でピッチに変化を促したのはいい滑り出しだった。

    「日本人が多いからなのかわからないけど、(こっちにきてから)外国人の選手も日本語で話しかけてくれたり、声をかけてくれてすごくやりやすかった。そういうのもあり緊張もなく、自分らしいプレーができたと思います」

  • 広告
  • keisuke goto(C)Getty images

    “結果”を求めての選択

    今夏、後藤はベルギーの名門であるアンデルレヒトからSTVVへの期限付き移籍を決断した。昨季に完全移籍を勝ち取り、今季こそはアンデルレヒトでスタメン奪取を、と考えていたことは間違いない。

    しかし、今シーズンの戦いが幕を開けると、想像以上に出番が訪れない状況が続いた。この状況を前にしてプレー機会を求める後藤が、「チャンスがなさそうだなと思ったので、できるだけ早く移籍させて欲しいというのはエージェントに伝えていた」というのは理解できる。U-20ワールドカップや来年のFIFAワールドカップを見据える後藤にとって、何よりもピッチに立つ時間が欲しかったからだ。

    移籍に関してはブンデスリーガ(ドイツ)やリーグ・アン(フランス)からも声はかかっていたという。ただ「言語が変わる、環境が変わるなど、ピッチ外のストレスをできるだけ減らしたかった」後藤は、アンデルレヒトと同国リーグであり、日本人選手が多く在籍するSTVVを即決した。

    「オフ・ザ・ピッチでもオン・ザ・ピッチでも、できる限りのストレスをなくしたかった。もちろん色々な声はあると思いますけど、1年という短い中で目に見える結果を出すことが重要だと思ったので決めました」

    加えて、「日本人がたくさんいるのはわかっていたので、パスは出てくるかなと思った」という言葉が実にストライカーらしい。欧州に飛び込んだ時、どうしても周りからの信頼を得るのに時間がかかり、いいところでパスが出てこないというのはよくあること。移籍するとそうした不安も付きまとうが、さっそく伊藤涼太郎や谷口彰悟から背後への動き出しに対してパスが出てくるなど、日本人選手同士だからこその信頼がピッチから伝わってきた。

    これは“結果”を求める後藤にとっては願ってもない環境だ。

    ここ最近、「アンデルレヒトの時はベンチに入れないんだろうな、練習しても意味ないだろうな、という気持ちを持ってしまっていた。連戦が続いていたこともあり、まともに練習させてもらえなかったりもあって、練習も楽しくなかった。気持ちもネガティブになっていた」という。そういった状況から脱却し、「こっちで少なからず出られる可能性が広がっている。今日も短かったですけど楽しかった。すごくワクワクしている感じです」と話す表情からは、新たな挑戦に身を置くことでの心境の変化が感じられた。

  • “先輩”たちのように…

    来年にはワールドカップも迫る。「もちろん、そこを狙っています」と語気を強めた若きストライカーは、今季の戦いに対する覚悟を言葉で表現した。

    「ここからビッグクラブに行った冨安(健洋)選手や遠藤(航)選手、鎌田(大地)選手のように、結果を残せば多くのクラブが見てくれると思う。それがSTVVの良さだと思っている。ここで必ず結果を出して上に行きたい。もちろん、二桁というのは自分の目標でもあります。クラブにとっても、自分が二桁取ることで順位が上がると思いますし、去年みたいな残留争いをしなくて済むと思う。1年ですけど、このクラブのために全力を尽くして頑張りたいと思います」

    そして「チャンスは必ずくると思う。周りを気にせず、今いる選手たちを信じて、パスを待って、決めるだけです」と前を向いた後藤。確かなポテンシャルを秘めるストライカーが今季、新天地でどれだけのパフォーマンスを残すことができるか。その一挙手一投足に注目したい。