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ザークツィーはすでにイブラヒモヴィッチに「少し似ている」が、全能力を発揮するにはホイルンドの復帰が不可欠

またしてもエリック・テン・ハーグ監督の首はつながった――今のところは。現地時間14日(土)にセント・メリーズでサウサンプトンに3-0で勝ったマンチェスター・ユナイテッドは、ホームでリヴァプールに喫した屈辱的な大敗から立ち直ることができた。得点したのはマタイス・デ・リフト、マーカス・ラッシュフォード、アレハンドロ・ガルナチョの3人で、これによりプレミアリーグの10位に上がった。

ほとんどのニュースのヘッドラインはラッシュフォードとデ・リフトで持ちきりだった。ラッシュフォードは189日ぶりのゴールだったし、デ・リフトは攻守にわたる大活躍で、マンチェスター・Uが5,000万ポンド(約94億円)をバイエルン・ミュンヘンに払ってまで彼と契約したかった理由を存分に知らしめた。だが、この重大な勝利を下支えしたのは、マンチェスター・Uへの今夏2人目の加入を果たしたオランダ出身選手の輝きであった。

ボローニャから3,600万ポンド(約68億円)で移籍したジョシュア・ザークツィーにとって、この試合はまだ2度目の先発だったが、そのチャンスを両手でがっちりつかんだ。マンチェスター・Uの素晴らしい攻撃はすべてこの23歳から生まれたものであり、サウサンプトンは何とか彼を抑えこもうとしたが、無駄だった。ザークツィーは相変わらずシュートを失敗することが何度かあったが、彼は赤い悪魔の攻撃の要として契約したのではない。

昨シーズンの大部分において、マンチェスター・Uには創造的なきらめきが欠けていた。そして、それこそがザークツィーがチームに与えられるものなのだ。間違いなくラスムス・ホイルンドは、ザークツィーの最新の動きを見ながら揉み手をしていたことだろう。雌雄を決する大事な試合でケガからの復帰を待ち望んでいたホイルンドとって、ザークツィーは最高の引き立て役なのだから。

  • Southampton FC v Manchester United FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    脅威であり続けた

    ザークツィーは南海岸での試合で背番号9のポジションで先発したが、最初の30分はサウサンプトンが試合を支配していたため、なかなかボールに絡めなかった。マンチェスター・Uに流れが傾いたのはGKアンドレ・オナナがキャメロン・アーチャーのPKを止めてからで、そのわずか5分後、デ・リフトがブルーノ・フェルナンデスのクロスをヘディングで押しこみ先制点をあげた。

    その後、ラッシュフォードがボックスの外からカーブのかかったシュートを決め、マンチェスター・Uのリードを広げたが、サウサンプトンは前半終了の笛が鳴るまで食らいついていた。ザークツィーは徐々に敵を悩ますようになり、後半もそのままの調子を維持し続けて、深い位置までボールを迎えにいくと、絶妙なパスをあげて赤い悪魔の素早いあがりに貢献した。

    バイエルンのアカデミー出身のザークツィーは、絶妙な動きでサウサンプトンのDFのポジショニングを狂わせ、テン・ハーグのチームの守備と攻撃をつなぐ中心的な役割を果たした。ザークツィーがラッシュフォードとアマド・ディアロをつなぐ働きをしたのは初めてのことであり、ザークツィーはボールを保持しつつコンビネーションを模索すると同時に、狭いスペースでも自信を持ってドリブルで相手を抜き去ってみせた。すべてがうまくいったわけではないが、ザークツィーは脅威であり続けた。

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  • Joshua-ZirkzeeGetty Images

    「僕は他と少し違う」

    『Sofascore』のデータによると、サウサンプトン戦でのザークツィーのパス成功率は82%で、その大半が前線へのパスだった。11回のデュエルに7回勝ち、ゴール期待値は1.14という高さだった。この才能ある若手がマンチェスター・Uでの初得点を挙げたのはフラム戦で、新シーズンの開幕週の試合を勝利に導いたが、マンチェスター・Uの選手であると堂々と名乗りをあげたのはセント・メリーズでの試合だった。

    この試合のザークツィーこそ、ボローニャでカリスマ的なヒーローとなった時の彼そのものだった。自分でゴールを量産しようというようなエゴイストな選手ではないのが、ザークツィーのいいところである。マンチェスター・Uが契約したのは技術的に優れたFWで、常にビルトアップに加わることを望み、チームメイトにチャンスを供給することの方に喜びを感じる選手なのだ。

    「僕は自分のことを偽のストライカーだと思っている」と、8月、『デイリー・ミラー』紙でザークツィーは語った。「背番号9でもないし、10でもない。9.5だね! それが僕のサッカーだ。多分、僕は他の選手たちとは少し違うと思う。でも違うって、いいことでしょ?」

    確かに、昨シーズンのプレミアリーグで57得点しか挙げられなかったマンチェスター・Uにとっては、いいことだ。トップ10の中で最少タイの記録だったのだから。ザークツィーはマンチェスター・Uの攻撃にまったく新しい次元を与え、重大なことに、リスクをとることを恐れない。

    「僕は純粋なサッカーをしたい」ともザークツィーは言う。「股抜き、チョップ、バックヒールはサッカーの素晴らしい技だ。そんなスタイルが僕は大好きなんだ。僕の中のサッカー小僧にとって楽しくて仕方がないプレーだ。それらをやるのにふさわしい瞬間を見極めなければならない。直感でね。僕は素晴らしいスキルをもっていると思う。子どもの頃、そういうことに多くの時間を割いた。だけど、もしボールを奪われたら、すぐにチームで取り返したいと思う。それでも、結局のところ僕にとって派手な足技もサッカーの一部なんだ」

  • Zlatan Ibrahimovic and Joshua ZirkzeeGetty Images

    ズラタンの後継者か

    ザークツィーが自分自身を表現したいと心から望むならば、いずれ必ずオールド・トラッフォードで人気者になれるだろう。サー・アレックス・ファーガソン時代の後、マンチェスター・Uには観客を喜ばす異端者が不足していた。ザークツィーのスタートは彼が望んでいたよりは遅かったかもしれないが、彼が限界に挑み続ければ、サポーターは彼を愛するだろう。

    ザークツィーが、マンチェスターにいた頃同じことをしたスウェーデン代表選手のことを敬愛していることも、彼の助けとなることだろう。「何年か経って、僕のサッカーがズラタン・イブラヒモヴィッチとちょっと似ていると言ってもらえるようになれたら、僕はとても嬉しい」と、先週、ザークツィーは語った。「フラム戦で決勝点を決められて、とても良いスタートだった。それから2敗して、マンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブは連敗すると大いに注目される。僕はこれから良くなると信じている。いつだってそう思っている。僕のサッカーは必ずうまくいくと、疑ったことはない」

    イブラヒモヴィッチは赤い悪魔にいた2シーズンでそれぞれ29得点と、非常に素晴らしい成績を残している。だが、残念なことに、彼がマンチェスター・Uと契約したのは34歳の時で、遅すぎた。イブラヒモヴィッチの全盛期はユヴェントス、インテル、ACミランにいた2004年から2012年の間で、その間のイブラヒモヴィッチは優れた司令塔であったと同時に恐るべきストライカーであった。

    ザークツィーには、イブラヒモヴィッチのようなゴール前での本能はないが、ボールを持った時の想像力は引けを取らない。全盛期のスウェーデンのスターと同じく、ザークツィーには体格の良さと、ペースを変えてDFを欺き意のままに置き去りにする能力がある。

    イブラヒモヴィッチと言えば傲慢な性格で有名だったが、ザークツィーにはそうしたところは見受けられない。むしろ過信に陥らないようにしている。サウサンプトン戦では、ザークツィーがマンチェスター・Uにイブラヒモヴィッチと同じようなインスピレーションを与えられる人物になれそうな兆候がはっきりと見られた。特にテン・ハフ監督が最強のチームを編成できれば。

  • FBL-FIRENDLY-MAN UTD-ARSENALAFP

    鍵を握るのはホイルンド

    2024年のマンチェスター・Uは見るも無残なチームであるが、FAカップ決勝のマンチェスター・シティ戦のように、チームとしてまとまっていたこともないわけではなかった。そういう時、テン・ハーグ監督はスプリット・ストライカーを起用していた。4-2-2-2のフォーメーションの赤い悪魔は、より流動的に前へ向かい、ポゼッションがない時はオープンでないように見える。ホイルンドが戻れば復活させるべきフォーメーションなのだ。

    ザークツィーとホイルンドならば、フェルナンデスや、アレハンドロ・ガルナチョかアマドのバックアップを受けて、ラインを率いることができるだろうし、コビー・メイヌーと新加入のマヌエル・ウガルテをコンパクトな形で中盤の底に配置して、相手の素早いカウンターを食らわないようにできる。そうすれば、ほとんどのチームを吹き飛ばすだけのパワーを持てるだろう。

    ホイルンドはマンチェスター・Uのデビュー・シーズンではあまり起用されなかったが、それでも16得点を記録した。ザークツィーと並んだら何ができるか、想像してみよう。ボローニャの元スターは、2023-24シーズンによくやっていように、ボールをキープしてホイルンドの後ろを賢く駆けあがることだろう。

    実際、すでに指揮官は、それこそが自身の理想のゲームプランだと認めている。夏に『Viaplay Sports』でこう言っていた。「ジョシュア・ザークツィーとラスムス・ホイルンドは同時に起用できる。お互いを補完しあうだろう」

    ホイルンドのフィニッシュの精度が不安定なままでは、それも机上の空論かもしれない。だが、適切なポジションに配置されれば、ザークツィーとともに素晴らしいパフォーマンスを見せるチャンスが増えることだろう。唯一の懸念は、ホイルンドが今後さらなるケガを避けることができるかどうかで、マンチェスター・Uには他に頼れるセンター・フォワードがいないため、ここ数週間、進歩が大きく阻害されている。

  • FBL-NATIONS-LEAGUE-NED-BIHAFP

    不当な評価

    ザークツィーにとって不運なことに、ホイルンドが戻るまで、ザークツィーは、彼がオールド・トラッフォードに来る前は彼のプレーをよく知らなかった人たちによって、ゴール数だけで判断され続けられることになるだろう。

    「私は彼が好きだ。彼には才能があるが、(アーリング・)ハーランドのように40も(ゴールを)決めるような殺し屋じゃない」と、マンチェスター・Uの元MFオーウェン・ハーグリーヴスは、リヴァプール戦で苦闘していたザークツィーを見た後、『Rio Ferdinand Presents』で言った。「私のチームにいれば、彼はおそらくチームプレーの一員として活躍しただろう。3番手か4番手だったはずだ。だけど、試合に勝つには、ピッチの最前線に冷徹な選手がいなければならない」

    直近のインターナショナル・ブレイクでのザークツィーは、ハーグリーヴスの言うとおりだった。ネーションズリーグでオランダがボスニア・ヘルツェゴビナに5-2で勝った試合で、ザークツィーは大活躍した。初めての国際試合で、開始わずか13分に見事なヘディングでオランダに先制点をもたらしたのみならず、タイアニ・ラインデルスへのアシストでチームのリードを2点に広げたのである。

    オランダのメディアでこの試合を解説していたエールディヴィジの元スターのハンス・クラーイ・ジュニアは、ザークツィーのラインデルスへの完璧な強さのパスを見て驚愕し、こう言った。「ザークツィーは頭がいい。走りながらパスを出しただけではなく、強すぎないようにラインデルスの左足にきちんと届くように出した。非常に美しいパスだ」

    マンチェスター・Uの若きスターは、他の選手では不可能なスタートを切ったが、そのことを大いに利用できるだけの才能をもっている。それゆえ、彼はチームにとって大きな財産となるだろう。ザークツィーが伝統的な背番号9ではないからといって「チームプレーの一員」としか見ないのは、まったくもって不当である。シーズンが終わるまでに、ザークツィーは自分を批判する多くの人々を黙らせることだろう――赤い悪魔をチームとして機能させることによって。

  • FBL-ENG-PR-MAN UTD-FULHAMAFP

    今後の展望

    ホイルンドがいつ復活するかは不透明で、テン・ハーグは18日にバーンズリーに7-0で勝ったカラバオ・カップの試合前、こう言っていた。「もちろん、今は多くの試合が行われる大事な時期だ。22日で7試合もある。全選手が必要だし、ケガ人が復帰してくれることを望む。次の試合では無理かもしれないが、できれば今後数週間のあいだには彼ら(ホイルンド、マウント、ショー)にチームに戻ってきてほしい」

    ショーやマウントがいなくても、マンチェスター・Uは勝ち続けることができる。だが、ホイルンドが戻らなければ、本当の意味での躍進はまったく不可能だろう。7試合のうちには、プレミアリーグでアウェイでクリスタル・パレスやアストン・ヴィラと戦い、ホームでトッテナムやブレントフォードと戦う試合が含まれる。そうした試合で最低でも勝ち点8を得ることができなければ、テン・ハーグには再び非常に大きなプレッシャーがかかることだろう。

    だがホイルンドが復帰すれば、マンチェスター・Uの見通しはかなり良くなることだろう。赤い悪魔がチャンピオンズリーグの出場権を得られる順位にあがっていくために必要な最後のピースが、ホイルンドなのだ。

    ひとりの選手に頼りすぎるのは確かに良くない。だが、テン・ハーグの計画は彼なしでは立ちいかない。ザークツィーのユニークな才能が無駄となり、大きな恥をかくこととなるだろう。ザークツィーにはワールドクラスの選手になる可能性があるが、今はその能力の75%でプレーすることを余儀なくされている。そんな状況を変えることが出来れば、マンチェスター・Uは新年を迎える前に確たる復活が期待できるようになるだろう。