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【徹底分析】「今の日本代表なら道は作れる」…ドイツ代表“明確な”2つの弱点と狙うべき攻撃を西紙分析担当が紐解く

いよいよ開幕したカタール・ワールドカップ。異例の11月開催となった4年に一度のサッカーの祭典だが、連日熱い戦いが繰り広げられている。

7大会連続7度目のワールドカップ出場となる日本代表だが、ドイツ代表やスペイン代表、コスタリカ代表と同居する今大会屈指の厳しいグループに所属。23日の初戦では、2014年大会の覇者ドイツと激突する。

そんな初戦へ向け、ドイツに弱点はあるのだろうか? 森保ジャパンはなにを警戒し、どこに突破口を見出すべきなのだろうか? これまで日本代表の試合を長く分析し続けてきたスペイン大手紙『as』のハビ・シジェス氏は、「渡り合えるポテンシャルは備えている」と断言する。先日には副編集長まで昇格した分析担当者が、カタール・ワールドカップ初戦に向けて提言する。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

  • 20221120 Germany national teamGetty Images

    直前のオマーン戦で苦しんだドイツ

    ドイツの扉は開いてる。

    日本にとって、いつものワールドカップではない。ドイツ、スペインと同居する極めて困難なグループステージで、自分たちの価値を証明しなくてはならないのだから。しかし、それでも私は、森保一率いるチームにこのワールドカップの単なる盛り上げ役、やられ役になる以上の価値があると信じてやまない。とにかく初戦、ドイツとの試合が彼らにとっての試金石だろう。

    それというのもドイツは、大会前最後の調整試合オマーン戦で示していた通りに、良いところと悪いところが極端に表れているチームだからだ。彼らは対戦する相手に対して扉を開けている。その攻撃のボリュームは本当に凄まじいものがあるが、その反対に守備に問題を抱えている。日本は自分たちのアイデンティティーを保ち、ドイツの弱点をしっかりと突くことで、勝機を見出すこともできるだろう。

    ドイツを率いるハンジ・フリックは、1-4-2-3-1のシステムを使用してチームに明確なプレーを実践させている。ポゼッションによるゲームコントロール、攻撃における三角形の形成、高い位置でのブロックづくり、エネルギッシュなプレス……しかしながらオマーン戦のように、彼らのプレーはときに緩慢になることがある。ドイツはオマーンに1-0で勝ちはしたものの、プレーリズムが遅く、バーティカル(垂直)の要素がないホリゾンタル(水平)な攻撃一辺倒となって、望ましい試合展開にできなかった。

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    警戒すべきサイド攻撃

    ドイツと相対する日本は、中央もサイドもしっかり守らなくてはならない。ドイツの選手は技術レベルが非常に高く、サイドバック、ウイング、ボランチでつくり出す三角形から優位性を生み出してくる。ドイツは相手のDF&MFのライン間に位置するジャマル・ムシアラ、サイドハーフのセルジュ・ニャブリ&トーマス・ミュラーを中心に、とても機動力が高いチームだ。彼らのほかカイ・ハヴァーツは前線から下がってあらゆるところに顔を出し、ヨシュア・キミッヒとイルカイ・ギュンドアンの2ボランチは低い位置から創造性を発揮して攻撃を構築する(フリックがフィジカルを重視して、ゴレツカをボランチに起用する可能性も拭えない)。

    日本はドイツの各ラインを分断すべく、ピッチ中央で守備ブロックをつくるべきだ(ボールを奪うタイミングなどの基準をつくるのは遠藤航の役割となる)。そこで何よりも気をつけるべきは、DFラインと中盤の間にスペースを空けないこと。加えて、伊東純也、南野拓実、久保建英らサイドアタッカーは、ドイツのサイドバックの攻撃参加、とりわけ左のダヴィド・ラウムのオーバーラップに常に気を配らなければならない。

    なぜなら、ドイツはサイドからクロスを上げることに執着し、ペナルティーエリア付近に選手たちを集中させてくるからだ。日本は世界でも高クラスの両センターバック、そしてカバーリングに入る遠藤が彼ららしく対応しなくてはいけない。オマーンも過去のイングランドやイタリアと同様に、ドイツの厚いサイド攻撃に苦しんでいた。

    ドイツは厚みのあるサイド攻撃から的確な壁パスなどでチャンスをつくり出し、様々な選手がフィニッシュの局面に絡んでいく。ここで日本の選手たちが特に慎重に対応しなければならないのは、ムシアラ、ニャブリ。彼ら相手に無闇にタックルを仕掛けてボールを奪おうとすれば手玉に取られる可能性が高く、繰り出してくるアクションを冷静に見極めて、適切な対応を見せたいところだ。

    攻めるドイツは波状攻撃を狙い、持ち前のインテンシティーでもって相手陣地でボールを奪おうと試みる。両サイドバックもかなり前に位置して仕掛けられる、このプレッシングへの力の入れようは相当なもので、日本を彼らの自陣から逃すことなく致命的な状況に持ち込もうとしてくるはず。だがしかし、森保のチームが有するクオリティーを考えれば、ここでドイツに打撃を与えられる可能性がある。

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    明確な2つの弱点

    ドイツには明確な長所があるが、それと同時に短所だってある。そう、彼らに弱点があるのは目に見えて明らかなのだ。とりわけ大きな問題は攻撃から守備へのトランジションで、オマーンも速攻から彼らの包囲網を打ち破ることに成功した。あまりにアグレッシブなドイツの両サイドバックの背後には広大なスペースが広がっており、日本はそこに活路を見出すことができる。

    鍵を握るのは、伊東がその縦の速さを生かしてドイツのセンターバック&サイドバック間に生じる亀裂を突くこと。また久保、南野、鎌田大地はどこにチャンスがあるかを理解していることだろう。ドイツは一方のサイドに集中しているとき、もう一方のサイドが裸となるチームで、片や日本はサイドチェンジを得意とするチームである。片方のサイドでプレーを進めていき、一気に逆サイドに舵を切れば、目の前には大海原が広がる。ニャブリがサイドバックのサポートに回ることはほぼなく、ドイツは“代償不全”に陥るというわけだ。

    ドイツのもう一つの弱点は、ロングボールの守備である。日本はこの試合で、ポゼッションのほかダイレクトな攻撃も使っていくべきだ。深い位置へのロングボールはドイツに後退を余儀なくさせるとともに、サイドのレーンを閉じることを難しくさせる。ただし、ロングボールはスペースを狙って出すべきであり、間違えても空中戦を仕向けてはいけない。空中戦で競り勝つ可能性は雀の涙ほどなのだから。それとセットプレーもドイツの弱みと言える。ハンガリーやイタリアのニアサイド狙いの攻撃を、ドイツはうまく守ることができなかった。日本の選手たちは前述のように身長の低さから空中戦は強くない。だが、セットプレーはフィジカル的特徴よりも、入念な準備と集中が物を言うものだ。

    今回のグループステージの組み合わせで、日本は確かにツイていなかった。まあそれはそうなのだが、自分たちの長所をしっかり手に取り、相手の弱点をうまく突くことができれば、彼らは十分に戦えるチームとなる。ドイツもスペインもフットボールの著名性でははるかに優れているのかもしれないが、完璧などではまったくない。逆に日本はあきらめる必要などまったくなく、彼らと渡り合えるポテンシャルを備えている。もちろん、負ける可能性も十分にある。だが今の日本はもう、情けないプレーを見せて国民に言い訳できるチームではないはず。彼らは道をつくり出せるのだから。