ヴェルダー・ブレーメンⅡからFC東京への加入が発表されたのは、1月28日。「契約は残っていた」が日本に戻り一次キャンプの終盤にチームに合流した。そこから2週間が過ぎた2月15日の明治安田J1リーグ開幕節・横浜FC戦で交代出場し、J1デビューを果たす。パリ五輪代表FW佐藤恵允に、ホーム開幕戦となる22日のFC町田ゼルビア戦に向けて、欧州での経験と日本復帰の理由、FC東京への思いを聞いた。
「すごく難しかった」ドイツでの1年半
明治大学在学中の2023年8月にヴェルダー・ブレーメンⅡに移籍。「欧州で挑戦したい」という強い気持ちを持ち続けていたなか、オファーが届いた。大学での半年が残っていたが、当時の明治大サッカー部・栗田大輔監督にも相談し、「海外挑戦してもいいんじゃないか」と背中を押してもらったという。
23-24シーズンのブレーメンIIはブレーメン地区リーグ(5部)を優勝し、昇格戦を勝ち抜くと4部である北部レギオナルリーグ昇格を決めた。そして24-25シーズン、レギオナルリーグで19試合出場1得点4アシスト。佐藤は代表招集以外ほぼ先発出場してきた。
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——ドイツでの主戦場であったレギオナルリーグはどんなリーグなのでしょうか?
すごく荒削りなリーグでした。フィジカルの強い選手、スピードの速い選手がたくさんいて、組織というより個でどうにかするようなリーグでした。すごく難しかった印象が残っています。
——ブンデスリーガのセカンドチームの役割にはトップチームとの補完関係もあります。GOALではチェイス・アンリ選手(シュトゥットガルト)と福田師王選手(ボルシアMG)にレギオナルリーグの印象を聞いたのですが、フィジカルは強いしうまい選手はいるし、本当に難しくてレベルも高いというお話がありました。
それは感じました。対戦相手にはブンデスのトップチームでやっていた経験のある選手や、ベテランの選手がいました。トップリーグでも通用するプレーを肌で感じられましたし、もうそういう選手がゴリゴリ来る感じなので。組織的な戦術といったものもあまりなく荒削りで、自分の力でどうにかするしかないリーグでした。そこが1番難しかったです。
——その環境で身につけたことと、課題を教えてください。
身につけたのは自分を示すこと、自分を表現することです。表現しないと僕がパスをどこで欲しいのかといった意図を味方に分かってもらえない。そういう意味では、より分かりやすくて味方が使いやすい選手になったと思います。あとはフィジカルとかスピードを強化したので、その点も向上したと思います。
自分はもともと荒削りな選手だったので、課題は技術面です。それとポジショニング。どこにポジションを取れば相手が嫌がるのか。そういったプレーが得意なほうではありませんでしたし、それはアンダーの代表でも口酸っぱく言われてきたことだったんですけど。
——課題を解消するために練習から何に取り組んでいましたか?
普段の練習後にストレスをかけるパスコン(パス&コントロール練習)をやっていましたが、とにかくチーム練習中にどれだけ意識を上げられるかを第一に心がけていました。ブレーメンのトップチームの練習に入っている時も、一つのミスでベテラン選手とかが激しく言ってくるんですよ。そんな緊張感の中でやったことはすごく良い経験だったと感じています。
——ドイツに行く前と行った後で、思っていたことと実際の違いはありましたか?
言葉の部分が1番大きかったですね。プレーでやってほしいことが咄嗟に言えませんでした。英語自体はできたのであまり苦労しなかったんですけど、プレー面で、日本語だったらもっとスムーズに意思疎通ができたかもしれないです。先に言ったように、プレーで自分を表現して相手に分かりやすく伝えることがすごく大事だと感じていたので。
——1番強烈だった経験を教えてください。
トップチームの練習に入っていた時に、僕はもう若手じゃありませんでした。自分より若くてすごい選手がいました。去年の夏にシュトゥットガルトに移籍したアタッカーでニック・ウォルトメイドという選手がいるんですけど、彼は強烈でしたね。年は一つ下で身長も2m近くあって(198cm)、ブンデスで試合に出ていますが、彼がボールを持つと本当に取れなかった。どんなに距離を詰めてもブロックされて取れない。「うわ、やばいなこの選手」って感じました。
速い選手の一瞬のスピードもすごかった。取れたと思ってもそこから足がのびてきて結局取れない。今、ブレーメンのトップで試合に出ているFWのユスティン・エンジンマー、彼はもうめちゃくちゃ速かったです。あと、僕はブンデスでアウェーのバイエルン・ミュンヘン戦にベンチ入りしたんですが(2024年1月21日・第18節。ブレーメンは1-0で勝利)、バイエルンの選手たちのプレー、特にアルフォンソ・デイヴィスが速くて強烈でした。
——環境から得られる経験値は大きいと思います。欧州でプレーする日本人選手と連絡を取っていましたか?
U-23代表で一緒にやっていた選手たちとはよく話していました。当時ドイツには内野貴史(デュッセルドルフ→アル・ワスル)がいましたし、ジョエル(藤田譲瑠チマ/シント=トロイデン)、ユイト(鈴木唯人/ストラスブール→ブレンビー)、ブライアン(小久保玲央ブライアン/ベンフィカ→シント=トロイデン)、みんな仲良くてオフの時に会いに行ったりしていました。
——トップで出られない中、FC東京へ移籍することに関して悩みましたか?
悩まなかったですね。ブレーメンでなかなか出場機会を得られず、これからの自分の人生、キャリアをどう運んでいくかを考えていたときに声をかけていただいて。そこは悩みなく決めました。トップチームで試合に出たいと思っていましたし、年齢的にももう若くない。日本に帰って経験を積みたかった。それに東京は僕の地元ですし、FC東京は今まで優勝していない。ここで活躍して優勝したいという気持ちが一番強かったんです。
上手くなりたいから毎日自主トレをする
佐藤はブレーメンでチャンスを得られず苦しんだ中で得られた糧として、「5大リーグの基準を肌で感じられたこと」を挙げた。Jリーグが簡単なリーグではないことも当然理解しつつ、「基準を落とさず、FC東京に還元していきたい」と決意を込める。
チームに合流以降、ドイツ同様「自分を表現すること」に向き合ってきたという。「前の推進力、ドリブル、背後に抜ける動き、前線での守備、チームを助けるようなプレスバック。自分がどういうプレーヤーかチームメートに分かってもらえるように心がけてきました」と話す。
松橋力蔵新監督のもと、選手それぞれがフラットに評価される新たなチームとなったFC東京は、開幕・横浜FC戦を1-0で勝利。佐藤も75分に投入されると、攻撃はもちろん、守備でもアグレッシブに走り回った。FC東京は来る22日にホーム開幕戦を迎える。味の素スタジアムに迎え撃つのは昨季3位の町田だ。
Hiroto Taniyama——全体練習の後も、自主トレをされていました。
自主トレは毎日しています。上手くなりたいからやっています。ただそれだけです。「上手い」と言ってもいろんな意味がありますが、僕はやはり技術が課題なので、技術面での基礎的なことや体の使い方など、ジムでフィジカルコーチをつかまえてやっています。あとはスピードの上手い使い方とか、そういった練習を続けています。
——FC東京は2月22日のホーム開幕戦に町田を迎えます。町田の印象を教えてください。
勝ちから逆算しているチームという印象です。勝つために何をするべきかを監督含めて選手たちもすごく理解しているチーム。勝ちに対して妥協がないチームだと思います。
ガンガンプレスをかけてくると思うので、そこをうまくポジション取りしながらビルドアップでいなしていければいいのですが、できなければ背後にボールを送る形もある。ハイプレスをかいくぐれば、東京ペースで試合運びができると思います。あとは決め切るところ。ここは監督からも「ゴール前にボールを運んでもシュートを外したら意味がない」と口酸っぱく言われています。
——町田にはU-23代表で一緒だった選手もいます。
藤尾翔太とは仲いいです。ほかにも結構知り合いがいます。明治大の一学年上の林幸多郎さん。ヘンリー(望月ヘンリー海輝)も同期ですし、U-23代表GKコーチの浜野征哉さんもいます。浜野コーチは代表で本当に妥協がなかった。セットプレーの守備練習がめちゃくちゃ長くて、すごく細かかったです。
——負けられないですね。
負けられないです。だから、セットプレーでもなんでもゴールを取って、試合を決めたいです。頑張りますので、ぜひ味スタに応援に来てください。
松橋監督は練習で「チームとしてのスタイルを毎日提示してくれる」という。そのうえで自身に求められているのは「自分のプラスアルファを出すこと」と語る佐藤。開幕節で町田はサンフレッチェ広島に1-2の逆転負けを喫した。今季初勝利に向けFC東京を分析し、全力で向かって来るに違いない。佐藤はホーム・味スタのファン・サポーターの前で自分を表現し、決め切ることができるか。試合は22日、15時にキックオフの時を迎える。
◎取材協力=FC東京 聞き手=吉村美千代/GOAL編集部
【試合情報】
J1第2節・FC東京 vs FC町田ゼルビア
日時:2月22日(土)15:00KO
場所:味の素スタジアム
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