Diego Simeone Atletico Madrid manager GFXGOAL

シメオネの理想的な後継者?フェルナンド・トーレスがアトレティコ次期指揮官にふさわしい理由

もちろん、現地での注目はアトレティコ・マドリーのチャンピオンズリーグ・リーグフェーズ初戦、リヴァプールとの大一番(アンフィールド)に移っている。しかし、ディエゴ・シメオネの去就に関する憶測がすぐに収まることはないだろう。彼なしで今の成功がないことは誰しもが理解しているが、その影響力の低下はここ数年で何度か指摘されてきた。

2年連続の超大型補強は、現時点ではシメオネへのプレッシャーを高めてしまっている。おそらく、今季は正念場になるだろう。だが、すべてのアトレティがこう思っているはずだ。

「仮にシメオネが今季限りで退任してしまった場合、その空白を埋められる人物はいるのだろうか?」

その答えは、シメオネの元右腕であるヘルマン・ブルゴスが知っている。「フェルナンド・トーレスだ。彼にはその準備ができている」。先週『マルカ』のインタビューでこう語った。

フェルナンド・トーレスがまだトップレベルでの監督経験がないことで、彼の持論は確かに大胆に見える。しかし、彼がアトレティコで絶大な信頼を得ているのは、単に選手時代の功績だけではない。

  • 驚きだった指導者への道

    2021年7月25日、アトレティコは歓喜の中でこう宣言した。「エル・ニーニョが帰ってきた」と。

    現役時代に2度アトレティコに在籍したこのストライカーは、U-19チームの指揮を引き受けることに合意した(ただし必要な指導資格を全て取得していなかったため、当初はアシスタントコーチとして登録されていた)。そのプレーだけでなく物語の美しさから、アトレティコの育成組織が輩出した「最高傑作」であり、彼の帰還は間違いなく喜ぶべきことだ。だが1年間ユース部門で働いていたとはいえ、正式に指導者の道へと進むことに驚いた人も多かったはずだ。

    「『フェルナンドが監督になることを想像したことがある?』と問われれば、私は『ありえないね』と答えただろう」。元代理人のホセ・アントニオ・マーティン・ペトン氏は当時、『Relevo』にこう語っている。また本人も、自分が指導者の道へ進むことは考えていなかったと認めている。

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  • SS Lazio v Atletico Madrid - UEFA Youth League 2023/24Getty Images Sport

    フベニールでの成功

    トーレスは2019年8月の引退後、様々なビジネスコースを修了。そして「ナイン・フィットネス」というジムのフランチャイズを設立した。多くの人がビジネスマンとして歩んでいくことを予想していただろう。

    しかしアトレティコ復帰の機会は断れなかった。かつてユースチームで同僚だったリカルド・オルテガの誘いを受けたトーレスは、「目の前の挑戦にワクワクしているよ。僕らはクラブに貢献し続けるため、全力を尽くすつもりだ」とし、愛するクラブに戻っている。

    そしてトーレスの手腕は目覚ましい成果をもたらし、アトレティコ・フベニールは2度のリーグ優勝とコパ・デ・カンペオネス制覇を達成。さらに2021-22シーズンのユースリーグでは、ファイナルフォー進出を果たした。

    その結果として、トーレスは2024年にアトレティコBチームの指揮官に就任。これは当然の評価であるだろう。

  • 「人生を捧げるクラブ」

    セカンドチームの指揮官は、U-19チームより当然難しい任務である。トーレスは奮闘したが、初年度はプリメーラ・フェデラシオン(グループ2)のプレーオフ進出に届かなかった。それでもアトレティコの信頼は確かなもので、5月30日には新たな2年契約を提示した。2027年までの新契約にサインした彼は、こう喜びを語っている。

    「僕の人生を捧げるクラブで、指導者として成長を続けられることを本当に嬉しい。この機会を与えてくれたことに感謝し、新たなステージの開始を楽しみにしているよ」

    「僕は結果に関わらず、自己批判することは多いんだ。自分が信じるフットボールにチームを近づけ続けたいね」

  • 志向するスタイル

    トーレスが志向する戦術スタイルは、やや定義が難しい。それは戦術面での流動性を非常に重要視しているからだ。彼が様々な哲学を持つ監督の下でプレーしてきたことを考えれば、それは驚くことでもないだろう。

    彼に近い関係者は『GOAL』の取材に対し、「彼にはあらゆる要素が少しずつ備わっている。シメオネの持つモチベーション、(ルイス)アラゴネスが築いた選手との信頼関係、(ラファ)ベニテスの戦術的思考、そして(ジョゼ)モウリーニョがチームに与えるべき推進力といった要素だね」と語っている。戦術的な観点から見ると、確かにジョゼップ・グアルディオラよりはモウリーニョに近い。しかし、特定の監督に当てはめるのは誤りだ。

    現代フットボールの最先端の指揮官と同じく、彼はピッチ上で可能な限り早く、高い位置でのボール奪取を指示する。そしてファーストプレスをかわされた場合、採用することの多い3-5-2-から素早く5-3-2へと変化。自陣でしっかりとブロックを築き、再び前線から奪いに行くタイミングを探ることになる。

    だが、トーレスは特定のシステムに縛られることはない。同じ試合内で複数回システムを変更することも珍しくない。唯一決まっているのは、チームが攻撃的でハイテンポなプレーを続け、できるだけ早く前線へボールを届けることだ。トーレスがユルゲン・クロップのリヴァプールを絶賛していたことは、現在のチームスタイルに表れているのかもしれない。

  • Club Atletico de Madrid - Training & Press ConferenceGetty Images Sport

    トーレスとシメオネ

    トーレスとシメオネの現行契約は、奇しくも2027年に満了する。ここにアトレティコの開幕以降の不振、ブルゴスの発言が加わり、現地では「シメオネの後継者」としてトーレスへの注目が集まっている。

    2人の関係は、トーレスのアトレティコ在籍時の出場機会を巡って悪化した時期もあった。その後、トーレスは『Amazon Prime』のドキュメンタリーで「シメオネはアイドルであり、チームメイトであり、そして監督だった。彼にとってあの状況が少し気まずかったことは理解しているよ」と告白していた。一方のシメオネは、2018年のヨーロッパリーグ決勝勝利後に「我々の全てを体現する存在だよ。彼と個人的な問題があったことは決してない」と一貫して主張している。

  • “その時”

    トーレスがアトレティコのレジェンドであることは、監督転身において非常に重要だった。現在トップチームで活躍するパブロ・バリオスは、U-19時代に指導を受けた彼について「彼が言うことは、他の誰かが言うこととはまったく違う。彼はフェルナンド・トーレスなんだよ。彼のためにプレーできることは本当に光栄なだ」と話している。また、ダビド・ナヴァロも『Relevo』で「彼が話し出すとロッカールームは静まり返り、チーム全員が耳を傾けた。その雰囲気は言葉では表現できないほどだったね」と語っている。

    現在トップレベルで活躍する選手たちは、育成組織出身の選手たちほどトーレスへのあこがれはないかもしれない。しかし、彼はアトレティコというクラブにとっての“宝”だ。そして、「エル・ニーニョ」はすでに監督としての存在感も放っている。シメオネのようにタッチラインを歩き回り、同じような威厳を手にしつつある。試合への準備や分析のために自宅へオフィスを設け、細部への徹底的なこだわりは同僚からも絶賛されているようだ。監督として、指導者として、現役時代と同じく徹底的に頂点を目指す姿勢は、周りの尊敬を集めている。

    その結果、誰もが監督になるとは予想していなかった元ストライカーが、今や最高の指導者の一人になる運命にあるようにも感じられる。トーレスは最近、インタビューでこう語った。

    「ベニテス、アンチェロッティ、モウリーニョ、そして最近ではシメオネ。彼らから多くのことを学んだよ。それぞれ異なる強みがあったからね。でも、共通点がある。それは仕事への絶対的な献身だ。絶対的な献身がなければ、絶対にNo.1にはなれない。彼らがそれを教えてくれた」

    この考え方は、シメオネの哲学そのままだ。彼以上にふさわしい後継者は存在しない。遅かれ早かれいつか“その時”が来たら、ブルゴスの言うように「準備万端」であるだろう。そして“その時”は、予想よりも早く訪れるかもしれない。