彼がピッチにいると、誰もがその一挙手一投足を固唾をのんで見守った。彼がピッチにいると、チームメイトは常に100%以上の力を発揮できた。彼がピッチにいると、対戦相手は両足から繰り出されるその予測不可能な魔法に振り回され続けた。
ヘンドリック・ヨハネス・クライフ――通称「ヨハン・クライフ」。サンドロ・チオッティが「ゴールの預言者」と称えれば、ジャンニ・ブレラは「白いペレ」と表現した。その圧倒的な技術・プレービジョンに裏打ちされた強烈なカリスマは、全世界の選手・監督・ファンの人生を左右するような影響を与えている。また指揮官としても「トータル・フットボール」を完璧に解釈した人物として、60年代末から70年代初頭にかけて新たなフットボール哲学を確立。その影響は現代フットボールにも色濃く反映されている。
おそらく「彼以前」と「彼以降」では、フットボールの世界は全く違うだろう。いわゆる司令塔の役割にとどまることはなく、中盤から前のエリアを絶えず動き回りながらチームを動かし、相手を混乱に陥れる。現代フットボールの基礎を築いたのは間違いなく彼である。
伝説的な「14番」はアヤックス、バルセロナ、フェイエノールトの歴史に名を残し、ロサンゼルス・アステックス、ワシントン・ディプロマッツ、レバンテでも活躍。。9度のオランダリーグ制覇やスペインリーグ優勝、ヨーロピアンカップ3度優勝やインターコンチネンタルカップ制覇など、選手キャリアで21個ものトロフィーを掲げた。また、世界最高の選手を称えるバロンドールも3回受賞している。
また彼のカリスマを形成したのは、ピッチ上のことだけではない。長髪をなびかせ、美しい女性への情熱も絶やさず、独特な表現を駆使してまくしたてるように会話し、強烈な自信を言葉の節々から感じさせ、一切の妥協を許さない完璧主義者。そしてタバコを吹かす姿から、誰もが彼の虜になっていた。さらに、おそらくフットボーラーで初めて「自己プロデュース」を行った人物でもある。
こうしたもののすべてが、彼を唯一無二で絶対に真似できないレジェンドへと昇華させている。
