Transfer Target - Cristhian Mosquera (Arsenal).jpgGetty/GOAL

クリスティアン・モスケラ:なぜアーセナルが獲得に動く?バスケに魅せられた少年がサッカー界期待の次世代スターに【NXGN】

移籍専門記者ファブリツィオ・ロマーノによると、アーセナルはクリスティアン・モスケラと個人合意に達した模様。バレンシアへの最初のオファー(1200ポンド)は拒否されたが、1700万ポンドで決着すると見込まれている。ミケル・アルテタは、新シーズンに向けて将来有望な若手センターバックを確保することに成功したようだ。

移籍市場開幕直後にディーン・ハウセンの獲得に動いていたアーセナル。スペイン代表DFはレアル・マドリーとの争奪戦に敗れる形となったが、モスケラほど彼の代替案にふさわしい選手もいない。多くの名選手を輩出してきたバレンシア育成組織の最新作であり、過去2年間でラ・リーガを見ていた人間であれば誰しもがそのポテンシャルを認めるだろう。今回は、アーセナルが狙う大器を紹介する。

  • すべての始まり

    アリカンテでコロンビア人の両親の元に生まれたモスケラ。幼少期はバスケットボールに熱狂しており、ラ・リーガではなくNBA観戦に明け暮れていた。しかしいとこが所属していたチーム、サン・ブラス・カナバテ・フットサルへの勧誘を受けると、フットボールに転向。長いストライドと強靭なフィジカルで頭角を現し、SCDカロリナスとヘラクレスを経て、12歳だった2016年にバレンシアへとスカウトされている。

    育成の名門でも急成長を見せたモスケラは、その5年後にはリザーブチームデビュー。そして2022年1月、ホセ・ボルダラス監督のもとでトップチームデビューを飾った。17歳6カ月23日でのデビューは、センターバックとしてはクラブ史上最年少。ボルダラスは「間違いなくチーム最高の選手だった」と絶賛している。だがその後、指揮官解任によってレギュラー確保まではやや時間を要すことになった。

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    ブレイクのきっかけ

    ボルダラスの後を継いだのは、イタリアのレジェンドであるジェンナーロ・ガットゥーゾ。しかしモスケラは、彼の下ではラ・リーガでわずか3試合しか出場できず。7カ月後には指揮官交代、就任したルベン・バラハにもアピールできず、リザーブチーム降格を言い渡されている。

    だが、チームメイトの不幸が彼の運命を変える。2023-24シーズンの開幕戦、主力を務めてきたガブリエル・パウリスタがケガで欠場することに。バラハはモスケラを抜擢すると、このチャンスを最大限に活かすことに成功した。同シーズン、彼はラ・リーガで3075分間出場(2011-2012シーズンのティボー・クルトワ以来、10代選手最多出場)、デュエル勝率も95%を記録。チームの9位フィニッシュの立役者となった。当時のことをモスケラはこう振り返る。

    「去年はひどい状況だったね。そして、今年にかけて劇的な変化があった。過去数年間は継続的にプレーできなかったけど、今年は神に感謝だ。ルベンが信頼してくれたおかげでチャンスを得ることができた。嘘は言わないよ。メンタル的にも大変だったけど、我慢強く自分のタイミングを待ったんだ。それが来るのはわかっていたしね……バレンシアだけに集中しているよ。周りの噂は無視している」

  • Cristhian Mosquera Spain U21(C)Getty Images

    ステップアップ

    バレンシアでブレイクを果たしたモスケラは、パリ・オリンピックに挑むスペイン代表チームにも選出。出場は1試合だったが、金メダルを手にしてクラブへと復帰する。しかし2024-25シーズンはバレンシアにとっては非常に厳しいものとなり、開幕17試合でわずか2勝。バラハは解任され、カルロス・コルベランが監督に就任する。システムは3バックへ変更となり、スタイルも大幅に変化したが、モスケラはそこでも強烈な存在感を放った。

    コルベランの下でよりボールを持つプレーが求められたが、モスケラは完璧な適応を見せ、トップチーム初ゴールを奪うなど攻撃力も劇的に向上。シーズン後にはU-21スペイン代表にも選出され、U-21 EUROでも印象的な活躍を見せている。

  • Cristhian MosqueraGetty Images

    選手としての長所

    元バレンシアのユースコーチ、ミゲル・アンヘル・アングーロはモスケラを「身体的に優れているだけでなく、技術的にも確かだ。そして、年齢の割に驚くほど成熟しているよ」と評価した。ひと目見てわかるフィジカル的な長所だけでなく、彼のポジショニングからはそのフットボールIQの高さが伺える。一対一の強さは抜群だ。

    そして同世代のセンターバックと一線を画すのは、ボールを持った時のクオリティにある。最終ラインからボールを持ち出すことも怖がらず、両足で精度の高いパスを通すことが可能。仮にアーセナルに加わった場合、アルテタのシステムにもスムーズにフィットするだろう。

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    改善点

    だがもちろん、モスケラはまだ完成された存在ではない。特に190cmを超える長身を活かす方法をまだ身につけておらず、空中戦では相手の下に入り込んでしまうシーンも目立っている。

    また長所とは表裏一体だが、彼が積極的に攻撃参加することで、後方に広大なスペースを明けてしまうのも事実だ。ボール保持と手放すタイミングをより見極めることに加え、左足でのタックルを躊躇する癖も改善すべき部分だろう。ガブリエウ、ウィリアン・サリバなどから学ぶことは多いはずだ。

  • Arsenal FC v Paris Saint-Germain - UEFA Champions League 2024/25 Semi Final First LegGetty Images Sport

    Next パチョ?

    そんなモスケラだが、ガブリエウとサリバと同じ特徴を有している。前者と同じくスペースを守るタイプであり、『The Athletic』の分析では「真のタックル成功率」が「72.6%」とラ・リーガでもトップクラスだ。一方で、ボール保持時は後者のように堂々とした姿から自信を感じられる振る舞いを見せる。

    しかし、現トップクラスのDFで最も近いのは、パリ・サンジェルマンのウィリアン・パチョだろう。まだ彼ほどの判断力・決断力は手にしていないが、驚異的なリカバリーと予測力、ゲームコントロール力は、チャンピオンズリーグ王者に近いものを感じさせている。

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    アーセナルでの期待

    ロマーノ記者は、先週の『Here We Go』ポッドキャストで「私の理解では、彼はアーセナル移籍を熱望している。キャリアにおける絶好のチャンスと捉えているようだ。もちろんガブリエウやサリバと競う必要があるが、本にはまったく怯んでいないようだ。世界最高レベルの2人と近い場所でプレーしたいと聞いている」と語っている。

    「彼はアーセナルが過密日程を戦うことを理解しており、さらにアルテタの下で若手選手にとって最適な環境があることもわかっている。だからこそ、アーセナル移籍を選んだんだ」

    絶対的な出場機会を優先するのではなく、世界最高レベルの選手と近い距離かつ成長に最適な場所を選ぶことに、彼の成熟度が感じられる。彼の目標は非常に高い位置にあり、それこそアーセナルが望んでいる場所が合致しているのだろう。

    左右センターバックの他、必要に応じて右サイドバックも務めるユーティリティ性も武器であるモスケラ。冨安健洋の長期離脱に伴い、最初は右サイドバックでの出場が増えるかもしれないが、アルテタはどこかのタイミングでガブリエウ&サリバとの相性を試すはずだ。いずれにせよ、アーセナルは今後のフットボール界における最高レベルのディフェンダーを確保することなりそうだ。