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レアル・マドリーとPSGの「最大の違い」、ビジャレアルが見せた「格上相手の勝ち方」とは?CLの4大トピックを振り返ろう

2021-22シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)は、レアル・マドリーの史上最多14度目となる欧州制覇で幕を閉じた。

そんなレアル・マドリーの奇跡的な逆転劇の連続によるビッグイアー獲得の裏には、様々なドラマもあった。決勝で対戦したリヴァプール、準決勝で対戦したマンチェスター・シティは欧州最高峰のチームであることを証明したものの、いずれも僅差に泣いた。また人口5万人の街クラブであるビジャレアルのベスト4進出、そしてリオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エンバペと世界最高クラスの3トップを揃えて「優勝候補筆頭」と言われたパリ・サンジェルマン(PSG)のラウンド16敗退も注目すべきトピックの1つだ。

今回はイタリア在住ジャーナリストで、欧州フットボールに精通する片野道郎氏に今季のCLを振り返ってもらう。

  • real madrid(C)Getty Images

    「理不尽」なレアル・マドリー

    シュート24対4、枠内シュート9対1、シュートセーブ0対8、ゴール期待値2.5対0.9……。この数字が示しているように、内容で勝っていたのは圧倒的にリヴァプール。10回戦ったら8回か9回は勝っているというくらいの差があった。しかし勝ったのはリヴァプールではなく、レアル・マドリーだった。GKティボー・クルトワがビッグセーブを連発し、ヴィニシウス・ジュニオールがたった一度だけ訪れた大きな決定機をしっかり決めて1-0。通算14回目、過去10年で何と5回目というタイトルを勝ち取った。

    この決勝に限らず、今シーズンのCLにおけるレアル・マドリーの戦いは、ほとんど「理不尽」とすら思えるような展開の繰り返しだった。内容では相手に時に一方的に押され、リードを許しながらも、試合が大詰めを迎えた肝心なところで、ほんの小さな隙を衝いて攻勢に転じ、そこからじわじわと、あるいは一気に押し切って勝利をもぎ取ってしまう。

    リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エンバペを擁するPSGとのラウンド・オブ・16からしてドラマチックだった。敵地での第1レグでは、PSGに一方的に押し込まれながら、クルトワがメッシのPKストップをはじめ際どいシュートを何度も防ぎ、終了直前にエンバペが決めた1点だけに抑えて0-1止まりで凌ぐ。ベルナベウでの第2レグも守勢一方の展開は変わらず、前半またもエンバペにやられて2試合合計0-2と深刻な状況に陥った。しかし後半の60分過ぎにヴィニシウスのアシストを押し込んだカリム・ベンゼマが、試合が残り10分を切ったところからさらに2点を叩き込んでハットトリック。土壇場で形勢をひっくり返してPSGを地獄に追いやった。

    続く準々決勝の相手は前年王者のチェルシー。こちらは、敵地での第1レグを3-1で制するという有利な展開にもかかわらず、ホームに戻っての第2レグでは75分までに3点を喫し、2試合合計3-4と逆転を許してしまう。ところが時計が80分を回ったところで、左サイドに流れたルカ・モドリッチが右足アウトサイドでカーブをかけた芸術的なアシストをファーサイドに走り込んだロドリゴに合わせて同点ゴールをもぎ取ると、延長戦でベンゼマがとどめを刺して劇的な逆転勝ち。

    そしてジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティの準々決勝でも、アウェーの第1レグを壮絶な撃ち合いの末に3-4で落とし、戻ったベルナベウでも73分にリヤド・マフレズのゴールを許して2試合合計3-5という絶体絶命の状況で迎えた90分、途中出場のロドリゴが立て続けに2点を叩き込んで同点に追いつくと、延長戦でまたもベンゼマがとどめの一撃。この3カード連続の奇跡的な逆転勝ちと比べると、守勢一方の試合とはいえ1-0でリードしたまま勝利を収めた決勝は、展開のドラマ性としては物足りないくらいだった。

    どう見ても「理不尽」な勝利がこれだけ連続して続くというのは、通常ではあり得ないことだ。しかしそうであるだけになおさら、それを単なる偶然だと考えることは難しい。フロレンティーノ・ペレス会長は、決勝の試合後「レアル・マドリーとCLの関係は特別なラブストーリーだ。もともとこれは(フランスメディア)レキップがレアル・マドリーのために作ったタイトルだ」と、勝ったのがごく当たり前であるかのように平然と語り、そしてこう続けた。

    「相手が強敵揃いで大きな困難に陥ったが、それを選手とサポーターの一体感によって乗り切った。このクラブにオーナーはいない。我々はみんなソシオであり、誰もがマドリディスタだ。全員が力を合わせてこの伝説的なクラブを運営している。それがもたらす選手とサポーターの結束は、他のタイプのクラブには実現が難しいのではないかな」

    確かなのは、レアル・マドリーはどんな状況に陥っても動揺することなく平静さを保ってプレーできるということ。ラウンド・オブ・16から準決勝までいずれもベルナベウで迎えた第2レグでは、残り10分の窮地にあってもなお、レアル・マドリーの選手はもちろんスタンドを埋めたサポーターすら、敗北への不安や恐怖に乱されない自信と平常心に満ちているように見えた。それを「歴史の力」と呼ぶこともできるのかもしれない。

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  • Klopp guardiola pepgetty

    世界最高峰の完成度:リヴァプールとマンチェスター・シティ

    そのレアル・マドリーに決勝で敗れたリヴァプール、そして準決勝で敗れたマンチェスター・シティは、ピッチ上の絶対的なパフォーマンスとその土台となる戦術的な先進性、そして完成度という点では、現在のヨーロッパで(ということは世界で)最高峰と言っていいチームだ。

    リヴァプールを率いるユルゲン・クロップとシティを率いるグアルディオラは、2010年代後半から現在に至るプレミアリーグを舞台に、元々は大きくコンセプトの異なる戦術を出発点としながら、お互いの切磋琢磨を通じて相手のエッセンスを取り入れ、それぞれのチームと戦術の完成度を高め合ってきた。

    2010年代初頭にボルシア・ドルトムントを率いて、ボール保持にこだわらず、敵陣での即時奪回によって最も得点しやすい状況を作り出そうとする革新的な戦術「ゲーゲンプレッシング」で脚光を浴びたクロップは、リヴァプールにおいては、従来の縦方向に速く強いアグレッシブなスタイルに、自陣でのポゼッションによるゲームコントロールという要素を加えることで、相手に応じて戦い方を変える柔軟性を手に入れた。

    監督キャリア1年目の2008-09シーズンに、相手に対して数的・位置的な優位性を作り出す配置を活かし、シンプルなショートパスによるポゼッションで前進しながらボールと地域とゲームを支配する「ポジショナルプレー」に拠って前人未到の「六冠」を成し遂げたグアルディオラも、その後バイエルン・ミュンヘン、そしてシティへと仕事場を変えながら自身の戦術を磨き上げてきた。

    現在のシティは、センターフォワードが中盤まで下がって前線中央にスペースを作り出す「偽9番」、サイドバックが内に絞ってボランチ的に振る舞う「偽サイドバック」といった配置の流動性から、GKをビルドアップに組み込んだ数的優位を活かし、相手のプレスを誘って一気にその背後を衝く縦への志向性まで、グアルディオラの戦術的変遷の集大成とも呼ぶべきチームと言える。

    リヴァプールもシティも、戦術的な観点から見れば、レアル・マドリーに対して明らかな優位に立っていた。ボールと地域の支配はもちろん、作り出した決定機の数とその質、与えた決定機の数においても、レアル・マドリーは試合のほとんどを通じて彼らにやられっぱなしだった。10回戦えば9回勝った内容、というのはシティも同じである。その意味で2人の監督が、何か敗因につながるような過ちを犯したと考えることは難しい。おそらく2人とも「何が間違っていたのか」と今も自問自答を続けているに違いない。

    グアルディオラは、マスコミや批評家からしばしば「オーバーシンキング」と揶揄されるように、対戦相手を研究し尽くした上でその裏をかく選手起用や配置で戦う傾向がある。しかしレアル・マドリーとの準決勝は、2試合とも相手への対策より自分たちのアイデンティティを前面に押し立てた顔ぶれをピッチに送り出した。途中交代で投入したジャック・グリーリッシュが駄目押しのゴールを決められなかったのは、クルトワの奇跡的なセーブに阻まれたからでしかない。敗退の2日後、記者会見でマスコミから、チームのメンタルが弱いのでは?と質問されたグアルディオラは、こう答えている。

    「メンタルが関係するような時間はなかった。彼らは45秒後にはもう1点決めていた。落ち込む時間すらなかった。感情の問題だ。どんなデータや分析でも選手の感情はコントロールできない。選手たちはクロスを防ごうとした。ボールが誰かに当たってロドリゴのところに行ってゴールが決まった。これがフットボールだ」

    圧倒的な優位から放ったシュートを何度もクルトワに阻まれ、たった一度のチャンスを決められて敗れたリヴァプールも、立場は似たようなものだろう。決勝の内容からリヴァプールの「敗因」を探し出すのは困難だ。最強のチームが全力を尽くして戦い、打つべき手は全て打ってもなお、試合に勝てないことはある。

    ただ、試合後レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督がこう言っていたことには注目すべきかもしれない。

    「クルトワが止めてヴィニシウスが決めた。そして勝った。それだけだよ。それはさておきリヴァプールは明確なアイデンティティを持っているから、どう出てくるか予想しやすかった。意外性がない分、準備・対応は他のチームより楽だった」

    すでに見たようにリヴァプールは、アグレッシブに前に出るハイプレスとゲーゲンプレッシングという明確なアイデンティティを根幹に持ちながら、異なるタイプの戦い方もできる柔軟性を身に着けたチームである。にもかかわらずアンチェロッティにそう言われてしまうのだとしたら、求められるのはさらなる多様性、可変性なのかもしれない。おそらくだからこそグアルディオラも「オーバーシンキング」と正攻法の間で揺らいでいるのだろう。

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    ビジャレアル躍進から見る格上相手の戦い方

    ここまで取り上げてきた3チームに加えて、ベスト4に勝ち残った「今シーズンの伏兵」がビジャレアル。昨シーズンのヨーロッパリーグ(EL)覇者として特別枠でエントリーし、今シーズンも前年同様リーガではEL圏外の7位と振るわなかったにもかかわらず、このCLではグループステージ最終戦でアタランタを蹴落としてマンチェスター・ユナイテッドに続く2位抜けを果たすと、ラウンド・オブ・16でユヴェントス、準々決勝でバイエルン・ミュンヘンと格上の強豪を蹴落として、誰も予想していなかった準決勝進出を果たした。

    セビージャとビジャレアルでELを計4回制しているカップ戦スペシャリストのウナイ・エメリ監督が率いるチームは、縦横両方向にコンパクトで常に秩序が保たれたゾーンディフェンスの4-4-2で、辛抱強く相手の攻撃を受け止めつつ、試合の展開を注意深く読み続け、風向きが有利になったタイミングを逃さず攻勢に出て流れを引き寄せるという、謙虚さと老獪さを併せ持っていた。

    基本的な振る舞いは守備的だが、ボールを持った時にはGKルジを積極的に組み込んで作り出した数的優位を起点に丁寧かつ落ち着いたビルドアップで前進し、ポゼッションで主導権を握る術も持っている。ユヴェントス戦ではボール支配、バイエルン戦では待ち受け守備と異なるゲームプランを使い分け、粘り強い戦いで試合をコントロール。劣勢に立たされてもたじろがずにそれを受け入れ、反撃の機を窺うしたたかさがあった。このゲームコントロールの巧さ、冷静沈着さはレアル・マドリーのそれとも似通っている。

    ただし、純粋な戦力、チームとしての総合力という点では、ベスト4はもちろんベスト8の中でもベンフィカと並んで一番下のレベル。準決勝まで勝ち上がった最も大きな要因は、CLというコンペティションの中で勢いを掴んだこと、流れに乗ったことであり、その意味では19-20のリヨン、17-18のローマ、16-17のモナコなどと同じ、1回限りの「サプライズ枠」と見るべきだろう。こうしたアンダードッグが勢いに乗って運を掴み勝ち上がってくる可能性があるところも、ホーム&アウェイトーナメントの醍醐味のひとつである。

  • Lionel Messi Neymar PSG Real Madrid Champions League 2021-22Getty

    「がっかり賞」のPSG

    そのビジャレアルがサプライズだとすれば、21-22シーズン一番の「がっかり賞」は、メッシ、ネイマール、エンバペという超ワールドクラス3人を前線に並べながら、またもやふがいないほどにあっけない崩壊を見せたパリ・サンジェルマンだろう。

    ボールを持たせたら天下無双だが守備ではまったく計算の立たないスーパートリオを同時にピッチに立たせるという超難題を突きつけられたマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、ポゼッションによるゲーム支配を志向しながらも、守備の局面では3人を前残りさせて7人で守る状況を受け入れるという解決策を見出した。たとえ守勢に回ったとしても、一旦ボールを奪ったら彼ら3人の誰かがどうにかしてくれる状況を作り出す、という算段である。

    レアル・マドリーとのラウンド・オブ・16第1レグでは、個人能力への依存度が極めて高いという点で似たような存在と言える相手に対して明らかな優位に立ち、何度も決定機を作りながらも例によってクルトワの壁に阻まれ、終了間際にマジカルなドリブルで2人をかわしたエンバペのゴールで1-0。しかしすでに見た通り、敵地での第2レグでは後半に大崩れしてベンゼマにハットトリックを許しあえなく敗退に終わった。

    メッシ、ネイマール、エムバペはそれぞれ、ボールを持てば目を見張るようなプレーを見せて決定的な違いを作り出してくれる可能性を常に秘めている。しかしまるで3本の矢がばらばらの方向を向いているかのように組織的な連携が欠けているというだけでなく、CLのようなギリギリの勝負を戦う上で不可欠なチームとしての結束も確立できずにいる点が、PSGの最大の限界だろう。

    流れに乗って攻勢に立っている時はノリノリだが、少し大きな困難に直面するとすぐに動揺し意気消沈して結束を失い、あまりにもたやすくバラバラに崩壊してしまう。すでに言い尽くされた話であることを承知で言えば、PSGの限界は結局のところ、単なるスターコレクションの域を出ておらず、ひとつのチームになっていないということに尽きる。おそらくそこが、同じように個人能力への依存度が過剰に高いにもかかわらず、常に平静さ、そして何より結束を失わずに戦い、逆境をはね返すレアル・マドリーとの最大の違いなのだろう。

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