Lionel Messi Barcelona 2021Getty Images

バルセロナはメッシを復帰させるべきではない:最高の思い出はそのままに

2021年、リオネル・メッシとバルセロナの“離婚劇”は全世界に衝撃を与えた。

バルセロナにとって、メッシという存在は前例のない不変の存在だった。約15年間も超次元的なプレーを連発し、かつてないほどのタイトルとゴールをもたらしてきた存在であり、カンプ・ノウでは常に喝采を浴び、「バルセロナそのもの」と言えるほどの存在であった。

そんなレジェンドはパリ・サンジェルマン(PSG)へと渡っていったが、ここに来てかつてないほど“再婚”が現実味を帯びてきている。先日、バルセロナ副会長ラファエル・ユステは、現在代理人らと連携し、2年前に去ったメッシの復帰へ動いていることを公言したのである。

この物語にロマンを感じないわけではない。幼い頃に恋に落ちた両者が再び結ばれるというストーリーは美しいものになるだろう。メッシ自身はそれを望んでいるかもしれないし、必要ともしているかもしれない。

だが、バルセロナはこれを全力で避けるべきだろう。元婚約者がいなくなって約2年、ようやくあの破局を乗り越えられたのだから――。

文=トーマス・ヒンドル

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    流動性の効果

    この1年半、世界中で結果を残す多くのクラブが若手選手を登用して集団的プロジェクトを優先し、陰りの見えるスターをベンチに追いやるという決定的な瞬間を迎えた。アーセナルはピエール・エメリク=オーバメヤンを、マンチェスター・ユナイテッドはクリスティアーノ・ロナウドを手放している。そしてこれらの決断は、新しい時代の幕開けをなった。

    確かにメッシは別次元の選手であり、おそらく周囲のレベルを上げる能力もより高いだろう。しかし、上記の原理に当てはまることだ。1年間荒れ果てたバルサだったが、チャビ・エルナンデスの下で新たに活気に満ちた姿を取り戻し、新プロジェクトにおけるポジティブなサインが見えてきたばかりだ。ここに36歳のメッシを迎えるという決断は、せっかく軌道に乗り始めたプロジェクトを捻じ曲げることに繋がりかねない。

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    メッシという存在を乗り越えて

    メッシを失ってから1年間、バルサは自分たちのアイデンティティに悩まされた。彼の退団は結局、様々な人間に終わりを告げている。ロナルド・クーマンは去り、アントワーヌ・グリーズマンもいなくなった。さらにジョゼップ・マリア・バルトメウ政権の崩壊、深刻な財政難というスキャンダルにもつながり、不完全な組織のネガティブな部分をすべてさらけ出すことになっている。

    クラブが認めるかどうかは別にして、「スター選手は替えがきく」という考えの下の決断だった。だが、メッシという存在は絶対に再現されないことを思い知った。新たな愛は見つけられるかもしれないが、絶対に同じにはならない。なんとか取り戻そうとしてオーバメヤン、メンフィス・デパイ、フェラン・トーレスを求めたものの、ヨーロッパリーグの敗退でチャビ自身の首も危うくなった時期もあった。

    それでも約2年間がたった今、ようやくバルサは新しい愛を手にした。才能あふれる若手選手やロベルト・レヴァンドフスキを始めとする巧みな契約により、ラ・リーガのトップを走っている。彼らはおそらく、メッシ復帰の可能性に心を揺さぶられているはずだ。過去のロマンスは魅力的に映るかもしれない。だが、今の彼らには違った形の愛があるじゃないか。

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    成熟

    このチームは、すべてのサッカーファンの夢を叶えたようだ。今のバルサは若く、勤勉で、常に向上し続けている。多くのポジションにワールドクラスを抱えているが、真のスーパースターは多くない。それでも発展してきた。そしてその理由の1つに、エゴの少なさが挙げられる。

    トッププレイヤーたちが慣れない役割を進ん受け入れ、より大きな利益のために個人的な利益を犠牲にしてきた。ジュール・クンデは自身が嫌っていた右サイドバックを受け入れたし、ガビとペドリは中盤の様々な位置でプレー。ウスマン・デンベレも活力を取り戻した。この成功に至るため、相当な準備が必要だったことは間違いない。フレンキー・デ・ヨングやデンベレ、ガビやペドリでさえも批判を乗り越えてきたのだ。

    バルサは、伝説的な存在を乗り越えるためにあらゆる努力を行ってきた。なぜ、昔に戻ろうとする必要があるのだろうか。

    確かにメッシは史上最高であり、未だに見る者を圧倒している。サッカーに魔法をかけ続けている。だが、今のバルサに必要なのは、スポットライトの中心にいるスター選手ではないはずだ。

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    不完全なユニット

    メッシは、他のスーパースターのように利己的な性格ではない。常にボールを支配するわけでもなく、すべてのゴールにこだわるわけでもない。だが、メッシは周囲の選手の調整を必要とする。彼はポジションを選ばずライン間を常に浮遊するように動く。アルゼンチンでは右よりに、PSGではより中央に漂っている。

    しかし、これは問題になる可能性が高い。ここ数カ月、バルサを支えてきたのは中盤4人のユニットだ。ガビ、ペドリ、デ・ヨング、ブスケツをピッチ上に並べ、結果的に理想的なバランスを取れるようになった。ガビとペドリが走って創造し、デ・ヨングがラインを崩し、ブスケツが優雅に巡回しながらボールを回収する。

    だが報道によると、バルサはメッシを中盤で起用する考えがあるという。ということは、今のユニットから誰かが犠牲にならなければならない。貴重なバランスを失うことになるのだ。確かにチャビは優秀な戦術家であり、メッシ復帰後のプランも作れるだろう。しかし、1年半かけて見つけた解答を壊す必要がどこにあるのだろうか。

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    考慮すべき財政事情

    さらに考慮すべきは、資金面の問題だ。不可解なことに、メッシの復帰説は現在抱える多くの財政的障害を乗り越える前提で進んでいる。ラ・リーガ会長ハビエル・テバスが「いかなる補強もできない可能性がある」と断言しているにも関わらず。

    バルサが新選手を獲得するには、より多くのスポンサーを集めるか、帳簿上の給与を大部分を精算する必要があるという。特にジョルディ・アルバのように肥大化した契約は削減される可能性があると伝えられている。実際、セルジ・ロベルトやかつてのジェラール・ピケらに行った一連の減俸は、財政難解決に役に立たなかった。

    そしてもし何らかの形で(リーグからの特例措置だろうか?)すべてが解決されたとしても、優先事項はメッシではないはずだ。チャビはブスケツに代わる中盤を必要としており、サイドバックのカバーも必要だ。レヴァンドフスキの負担を軽減するフォワードもいるだろう。また、ロナルド・アラウホとガビの正式登録も必要だ。必然的に、今夏も厳しい夏になる。

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    最高の思い出をそのままに

    この史上最高のアルゼンチン人は時が経っても、リーグ・アン制覇やリヤド・オールスターズとの親善試合で決めたゴールで記憶されることはない。悲願のワールドカップ制覇やバルサでの672ゴール、バロンドール史上最多受賞者として人々に記憶されることになる。初クラシコでのハットトリック、サンティアゴ・ベルナベウに掲げたユニフォームなど、印象的なシーンの数々とともに素晴らしい思い出とともにサッカー史に刻まれる。

    メッシは今でも、世界トップクラスだ。だが、以前と同じ姿ではない。バルサで築き上げた彼のレガシーは、歳を重ねて衰えていく姿ではなく、純粋なままで保存されるべきなのだ。現在バルサにとって、素敵な夢のままで残していくべきなのである。

    今だって、昔の写真を見ることはできる。一緒に過ごした最高の思い出を振り返ることはできる。その愛は、素晴らしい思い出とともに胸にしまっておくべきなのだ。

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