10試合、9勝、勝ち点27。アーセナルはプレミアリーグにおけるクラブ史上最高のスタートを切った。この時期にこれほどポイントを積み重ねたことはない。アーセン・ヴェンゲルが指揮した偉大なチームでさえ、ここまでは到達できなかったのだ。
では、なぜ今季のアーセナルはクラブ史に残るスタートを切れたのだろうか?『GOAL』のアーセナル番記者チャールズ・ワッツが分析する。
Getty/GOAL10試合、9勝、勝ち点27。アーセナルはプレミアリーグにおけるクラブ史上最高のスタートを切った。この時期にこれほどポイントを積み重ねたことはない。アーセン・ヴェンゲルが指揮した偉大なチームでさえ、ここまでは到達できなかったのだ。
では、なぜ今季のアーセナルはクラブ史に残るスタートを切れたのだろうか?『GOAL』のアーセナル番記者チャールズ・ワッツが分析する。
Getty Imagesこのブラジル代表FWが加入した影響は、やはり無視できない。王者マンチェスター・シティから移籍すると、現チームの攻撃システムを完全に変えてしまったのだ。
昨季から最前線中央に入る新たなアタッカーが必要なことは明白だった。モビリティやペナルティーエリア付近での脅威に欠けており、そのためにブカヨ・サカやエミール・スミス=ロウらへの依存度が深刻なものとなっていたのだ。
だが、その問題はジェズスが完全に解決している。プレミアリーグ10試合で5ゴール3アシスト。さらにゴールへの貢献度だけでなく、そのワークレートとプレッシングはチームの起点になる。またDFを背負ってのポストプレーや中盤まで下がってビルドアップに貢献するなど、常に相手DFを混乱に陥れている。さらに、彼の持つ勝者のメンタリティも大きい。マルティン・ウーデゴールやグラニト・ジャカとともに、若きチームの重要なリーダーだ。
Getty今季のアーセナルはサウサンプトンについで2番目に平均年齢の低いチームであり、今季の24ゴール中9ゴールが21歳以下の選手が奪ったもの。さらにミケル・アルテタ監督就任以降、21歳以下の選手によって55ゴールを奪っている。これは彼の在任期間中、他チームよりも23ゴールも上回る記録である。
確かに、こういった若さはシーズン終盤に仇となる可能性だってある。昨シーズン、トップ4争いで圧倒的に優位なポジションに立っていながら、最後の最後で失速したことからもわかるだろう。
だが、今のところこの若き力はガナーズ首位快走の大きな原動力となっていることは間違いない。
Getty Imagesそしてもちろん、監督の手腕は見逃せない。今季の彼はいくつもの重要な決断を下してきたが、そのほとんどが実を結んでいる。
まずウーデゴールのキャプテン任命、グラニト・ジャカへの揺るぎない信頼。ジャカは今季全く新しい選手に変貌した。
そして守備陣。アルテタは難しい選択を迫られたが、センターバックにはウィリアム・サリバとガブリエウを選択。そして信頼はできるがケガに苦しんでいた冨安健洋に替え、ベン・ホワイトを右サイドバックへ移している。イングランド人DFが冨安の果たしてきた役割を担えるかどうかは疑問の声も上がっていたが、今となっては主役の1人だろう。
さらにベンチに座る機会が増えた冨安を、リヴァプール戦(3-2)で本職ではない左サイドバックで起用した慧眼もお見事である。近年のプレミアリーグを代表するアタッカー、モハメド・サラーを封じ込め、ユルゲン・クロップはまだ20分を残した段階でエジプト代表FWを下げざるを得なかった。
チームと同様に、アルテタもまだ若く、経験も浅いほうだろう。だが、今季はその判断の多くが正しいものであることが証明されている。
Getty今夏の移籍市場は大成功だった。
王者マンチェスター・Cから引き抜いたジェズスとオレクサンドル・ジンチェンコは、大きなインパクトを与えている。ファビオ・ヴィエイラもなぜアーセナルが3000万ポンドを投じたのかを証明しつつあり、サリバの復帰も新たな補強のようなものだ。過去3シーズンをフランスのクラブへレンタルさせた決断には批判もあったが、今季を見ればそれが正しかったこともわかるはずだ。
アルテタは今シーズン、初めて「自分のチーム」と感じていることだろう。これまでクラブの重鎮と化していた選手たちは退団し、高額な給与を受け取る選手たちもクラブを去った。そして新たな、若く野心溢れるチームが編成されている。その効果は、ピッチ上のパフォーマンスや結果を見るだけで十分だ。
Getty昨シーズンの終盤はアーセナルにとって痛恨の極みであると同時に、若いチームにとって素晴らしい学びの場でもあった。
最終節でチャンピオンズリーグ出場権を逃した心理的ダメージは耐え難く、新シーズンに影響してもおかしくはなかった。それでも選手たちはポジティブに受け止め、今季の成功の原動力としている。アーロン・ラムズデールも、トッテナム戦の勝利後に「昨季終盤の経験がチームスピリットにとってプラスになった。この勝者のメンタリティは新加入選手の影響だけじゃない。昨季終盤に起きてしまった出来事が、僕らの中にある炎を燃やすんだ」と語っている。
アルテタは失意に終わった昨季以降、チームに新たな自信と信念を植え付けるために懸命に働いてきた。あの失望を経験した選手たちに、その気持ちを忘れてほしくなかったのだろう。あの気持ちを忘れずに、二度と同じことを繰り返さないように。
そしてあの経験が、アーセナルを生まれ変わらせたように見えることは確かだ。

今のアーセナルの団結力を示す指標として、ファンのサポートほど雄弁に語るものはない。ホームでもアウェイでも、チームのすぐ後ろで戦い続けている。
アルテタは常々、ファンがどうして重要なのかを公の場で発信し続けていた。選手たちも度々それに言及する。彼が監督に就任する前の数年間、ファンとチームのつながりは失われていた。だからこそ、その関係を回復させる決意をしたはずだ。
そして信頼関係の回復が、アルテタの最大の成果とも言える。
チームが失点した場面でも、ミスをしても、オウンゴールをしても(レスター戦)、ファンは拍手を送る。難しい局面でも、ファンが選手の背中を押してくれるようになったのだ。
これは、本当に大きな違いなのだ。
Getty Images今季のアーセナルで特筆すべき1つが、逆境へどう立ち向かうかという姿勢だ。たとえ失点しても、すぐに自分自身を取り戻して反撃できるようになっている。レスター戦、アストン・ヴィラ戦、フラム戦、リヴァプール戦でそれは証明済みだ。
唯一の敗戦となったマンチェスター・ユナイテッド戦でも、その戦いぶりは印象的であった。オールド・トラッフォードでの敗戦後に落ち込んでいくのは簡単だったが、その代わりに以降の公式戦で8連勝だ。
あの伝説的な無敗優勝以降、アーセナルは一貫して「メンタルの弱いチーム」とみなされてきた。だが、どうだろう。今季のアーセナルは、本当にそう見えているだろうか?