Mikel Arteta Roberto Firmino Serhour Guirassy splitGetty Images

アーセナルはなぜ「深刻な決定力不足」に悩まされるのか?“支配”への偏重と解決策になり得る補強を探る

FAカップ3回戦のリヴァプール戦(0-2)、試合終了後の本拠地エミレーツ・スタジアムの記者席近くのファンは苛立ちを隠せなかった。「ストライカーを獲得しろよ!」、そう叫んだファンは1人や2人ではない。

しかし、ミケル・アルテタ監督のコメントはその期待に応えるものではなさそうだ。『beIN Sports』で「現時点では(ストライカー獲得は)現実的ではない。私の仕事は(今いる)選手たちを成長させ、その選手たちで良い結果を出すことなんだ」と語っている。

確かに、アーセナルは昨年末まではこの考えだったのだろう。しかし衝撃の公式戦3連敗で、エドゥSD(スポーツディレクター)が何らかのアクションを起こすことは間違いない。決定力不足は深刻であり、サッカーにおいて最も重要なゴールが欠けている状況では、希望を抱いたアーセナルのシーズンは終了してしまうのだ。

文=マット・オコナー=シンプソン

  • Arteta-Arsenal-2023-24Getty

    深刻な決定力不足

    アーセナルに冷酷なフィニッシャーが必要だということを浮き彫りにしたのは、何もリヴァプール戦だけではない。直近の公式戦3連敗中、彼らは61本のシュートを放ち、xG(ゴール期待値)は「6.74」を記録している。しかし、ネットを揺らしたのはたった1回だけだ。対象を直近7試合に広げてみると、xGは「11.6」。奪ったのは5ゴール、白星は1回しかない。昨シーズンの彼らがファイナルサードでどれほど効率が良かったかを考えると、「調子/コンディションが悪かった」で済ませていい問題ではないのである。

    リヴァプールに敗れた後、アルテタは記者に「決定力不足は心理的な問題なのか?」と聞かれている。指揮官は「おそらくね。特に今日は、フラムやウェストハム戦より調子が良かったんだ。だからこそ、リセットする必要がある。このブレイクは良い時期に来たね」と語っていた。

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  • Mikel Arteta Gabriel Martinelli Arsenal 2023-24Getty

    なぜゴールが奪えないのか

    アーセナルの不振が複雑になっている理由は、驚異的なペースでチャンス自体は作り続けているということ。マルティン・ウーデゴール、ブカヨ・サカ、ガブリエウ・マルティネッリらはファイナルサード付近で際どい場面は作り出している。しかし、彼らはゴール前で“キラーとしての本能”を失ってしまったようだ。

    ウーデゴールは昨季、プレミアリーグで15ゴールを奪ってみせた。しかし、現在は6試合連続ゴールなし。今季はここまで4ゴールしか奪っていない。マルティネッリも、直近のプレミアリーグ12試合でわずか1ゴール。サカでさえ、7試合で1ゴールのみだ。

    では、なぜそういった事態に陥っているのか? 1つは『arseblog』が指摘している通り、アーセナルがより試合をコントロールするためにボール保持を優先し、リスクの高い攻撃を避けていることが原因だ。その結果、サカとマルティネッリは早い段階でボールを受け取ることになり、タッチライン際でプレーをスタートさせることになる。アルテタが最近語ったように、「支配」への欲求がゴール不足に現れている可能性が高い。リヴァプール戦でも、リース・ネルソン、カイ・ハヴァーツ、ウーデゴールがボックス内でのタッチが多すぎてシュートチャンスを逃してパスを選択し、ファンにブーイングを浴びせられている。

    これはストライカー陣も同様で、エディ・エンケティアは10月のシェフィールド・ユナイテッド戦でハットトリックを達成して以降、リーグ戦では一度もネットを揺らしていない。リーグ戦15試合で3ゴールのガブリエウ・ジェズスも、自身のxGを「1.8」と大きく下回っており、これはリーグでも下から数えたほうが早い深刻なスタッツである。

  • Kai Havertz Arsenal 2023-24Getty Images

    6500万ポンドの頭痛の種

    そしてハヴァーツもまた、ゴール前で苦難を抱えている。リヴァプール戦では前半だけで4度の絶好機を逃したが、アーセナルにとってはこの憂鬱な光景は見慣れたものとなってしまったかもしれない。

    確かに、リヴァプール戦のパフォーマンス自体は悪くなかった。彼のリンクプレーとフリーランは問題を引き起こし、チャンスメイクには貢献している。しかし、たとえストライカーではなかったとしても、6500万ポンドの費用を費やした攻撃的な選手があれほどチャンスを逃すのは問題だろう。

    夏の移籍市場で大型補強を敢行したことで、アーセナルに1月に費やせる資金はほとんどない。もし可能であればストライカー獲得を試みることは明らかだが、そうできる見込みはあまりないのだ。だからこそ、ハヴァーツの奮起は必要だ。

    シーズン開幕前、アーセナルは「信頼できるストライカーが必要」と何度も指摘されていた。その予言通りになっていることは言うまでもない。

  • Ivan Toney Brentford 2023-24Getty Images

    トニーは完璧だが…

    ハヴァーツらの獲得に大金を費やしたアーセナルは、今月イヴァン・トニーを獲得する資金は残されていないだろう。そもそもブレントフォードの要求額は1億ポンドで、そんな額を支払えるクラブはほとんどない。そしてGKダビド・ラヤをレンタルしていることで、買取オプション付きのレンタルで加える可能性もなくなっている。プレミアリーグのルールでは許されないからだ。

    アーセナルにとってはフラストレーションの溜まる状況だ。トニーはプレミアリーグでの価値を証明済みで(68試合32ゴール9アシスト)、得点力に加えてオールラウンダーとしての才能にも溢れている。そして、本人もアーセナル移籍に前向きだと伝えられている。しかし実現は夏以降になることは間違いなく、今季後半戦に戦力として数えることはできない。

  • Firmino Al AhliGetty Images

    別の候補は?

    トニー獲得が厳しい中、アーセナルは1月のマーケットでストライカーを探すという最も困難な問題に直面している。マンチェスター・ユナイテッドが過去に獲得したオディオン・イガロ、ワウト・ヴェグホルストを見れば、いかに難易度の高い移籍市場であるか理解できるはずだ。この2つの例が示す通り、アルテタが語るように自チームの選手たちの改善を目指すほうが結果的には良いのかもしれない。

    だが、レンタル可能な1つのオプションがあるかもしれない。報道によると、ロベルト・フィルミーノがアル・アハリからの移籍を模索しているとのこと。これまではプレミアリーグの下位クラブとの関連が噂されてきたが、昨季はリーグ先発13試合ながら11ゴールをマーク。トップレベルで活躍できることは証明済みで、ゴール以外にもサラー&マネの能力を最大限引き出したように、サカ&マルティネッリをさらに飛躍させる力になるかもしれない。

    アル・アハリ側は残留を希望しているようだが、仮にアーセナルが今冬に1~2選手を売却する場合、半年間のレンタルは可能だろう。

  • Serhou-Guirassy.(C)GettyImages

    プレミアリーグ外からも?

    そして、過去に獲得へ動いたストライカーも候補になる可能性はある。報道によると、アーセナルはドゥシャン・ヴラホヴィッチへの関心を再燃させたようだ。最終的にユヴェントスを選んだセルビア代表FWは、長い苦しみに耐えながらも、かなり守備的なチームで今季は7ゴールを奪っている。スタイル的にアーセナルの方がより適していることは明白で、買い取り義務付きのレンタルであればユヴェントスを誘惑できるかもしれない。しかし彼らもまた、セリエAのタイトル争い中。交渉は難しくなるだろう。

    この他にはペドロ・ネト(ウォルヴァーハンプトン)、マルコス・レオナルド(ベンフィカ)の名前も伝えられてきた。そんな中、より安価で魅力的な候補がいる。シュトゥットガルトでブンデスリーガ17ゴールを奪う、セール・ギラシだ。これまでは全く考えていなかった候補だろうが、確実に得点力が上がることは間違いない。さらに、契約解除金が1750万ユーロと安価なことも大きなプラスとなる。

    兎にも角にも、アーセナルは今のままでは夢にまで見た20年ぶりのタイトルを逃す可能性が非常に高い。補強という意味では難しいオペレーションを強いられるのは間違いないが、少なくともトライする姿勢は見せたほうが良い。今季のチャンスを逃すのは、あまりにも惜しいのだ。