Liverpool Tottenham VAR farce GFXGOAL

VARを廃止すべき時:リヴァプール誤審問題で改めて発覚した「テクノロジーが破壊するもの」

フィルジル・ファン・ダイクは「その言葉」を使いたがらなかった。9月30日の夜、リヴァプールの主将は現在巻き起こっている論争に加担することを避けたがったが、それでもあまりに滑稽なミスについてショックを受け、VARについて「信用できなくなる」と認めている。前半のルイス・ディアスの得点取り消しについて、「ちょっと不可解だね」と明かした。

「誰がVARルームにいて、この決断を下したかはわからない。だけど、良いことではないね。見た感じも悪いと思う。だが、これが現実だ。我々は敗れたんだ」

騒動は続き、PGMOL(プロフェッショナル・ゲーム・マッチ・オフィシャルズ・リミテッド)が「人為的なミスがあった」と発表。これに対してリヴァプール側は「競技規則が正しく適用されず、スポーツとしての誠実性が損なわれたことは事実」と遺憾の意を示した。だがこの声明事態も騒動を巻き起こし、解説者ギャリー・ネヴィルは「謝罪は尊重されるべきであり、過小評価されるべきではない」とも非難している。

しかし、本当にこれで終わりでいいのだろうか? この段階では「ごめんなさい」と言うだけで問題を終わらせていいのだろうか? そう、VARの廃止を真剣に検討すべき時が来たのだ。

文=マーク・ドイル

  • Referee Tony Harrington checks VAR Jonny Evans goal Burnley Man Utd 2023-24Getty

    VARの効果性

    サッカーへのテクノロジーの導入は、“The Beautiful Game”に向け待ち遠しかった進歩だと歓迎された。審判に関するテクノロジーは、テレビ中継においてラグビーやクリケット、アメリカン・フットボールなどのスポーツで価値は証明されている。意思決定プロセスも迅速かつ透明性が高く、効果的だ。サッカー以外でそれは明らかになっている。

    そしてサッカー界でも、VARが審判をサポートするだけでなくルール適用のために客観性をもたらし、試合をより公平にするとともに、激怒したファンによる攻撃や偏向報道、馬鹿げた陰謀論を大幅に減らすことが期待されていたのだった。

    では、改めてリヴァプールが発表した声明の一部を振り返ろう。「スポーツとしての誠実性が損なわれたことは事実」。そう主張しており、これに反発する人も多くはないはずだ。

  • 広告
  • Jurgen Klopp Liverpool 2023-24Getty

    「重大な人為的ミス」

    「競技規則が正しく適用されず、スポーツとしての誠実性が損なわれたことは事実。審判が受けるプレッシャーは理解できるが、それはVARによって軽減されるはずだ。したがって、正しい決断を下すために十分な時間も与えられず、その後に介入がなかったことも満足できない。またこうした失敗が“重大な人為的ミス”とされることも理解できない。あらゆる決定は、完全な透明性を持ったレビューによって確立されるべきだ」

    ネヴィルはこのリヴァプールの声明を「危険」と主張したが、これも一定の正当性がある主張だろう。たしかに、トッテナムが有利だったとほのめかす内容があってはいけない。PGMOLが認めたように、今回は単なる「重大な人為的ミス」のケースだった。

    だが、まさにそれを避けるためのVARのはずだ。そして現在の形式において、テクノロジー自体が問題ではない。ここで問題視されているのは、それを運用している人間たちだ。

  • Luis Diaz Tottenham Liverpool 2023-24Getty

    謝罪の意味

    リヴァプールがVARによる最初の犠牲者ではない。PGMOLは2022年8月以降、すでに14回もの声明を発表して謝罪している。だがユルゲン・クロップ監督が言ったように、それらのほとんどは意味がない。結局のところ、リヴァプールはディアスの得点を取り戻すことはできないだろう。ウォルヴァーハンプトンが今季開幕戦でPKを獲得することだってもうできないのだ。

    もちろん、審判側が自分たちの過ちを認めるのは良いことだ。しかし、その結果として勝ち点を失ったチームにとって何の役にも立たない。この1点による得失点差で降格することだってあるし、この勝ち点によって優勝を逃すことだってある。リヴァプールファンは1ポイントの重要性をよく知っているはずだ。したがって、これらの判定はあらゆる意味で想像できないほどのリスクを抱えている可能性がある。

  • Jonny Evans offside goal Man Utd 2023-24Getty

    テクノロジーが破壊するもの

    もちろん、不可解なミスや物議を醸す判定は今に始まったことではない。試合中に完全にミスがないなんてことはありえないし、「重大な反則行為」を判断するにはあまりにも主観が強い。この試合でも、カーティス・ジョーンズのレッドカードを巡る議論はまさにそれだ。例えばネヴィルは「このチャレンジには悪意がなかった」のでイエローカードだと主張したが、他の専門家は度を超えたタックルなので一発退場が妥当だと主張している。こういった場面に対してのそれぞれの主張には一定の正義がある。

    だが問題は、理論的には簡単なはずのオフサイド判定が各地で怒りを引き起こしていること。さらに、判定までに時間がかかりすぎることだ。「明白で明確な間違い」を証明するためにストップした映像にラインを入れている場面がよく見られるが、こんなものは馬鹿げている。サッカーという試合の精神に反するものだ。

    多くのファンは、こうしてよくわからない方法で長い時間をかけて確認するよりも、以前のように時に審判が間違った判定を下すことを受け入れるだろう。結局のところ、どちらの場合でも間違いを犯すのは人間なのだ。だがファンが受け入れられないのは、こうして再判定の機会を得ているにも関わらず混乱した判定が下されることだ。

    例えば今回のオフサイドのようにミスがあるのであれば、あまりにも長いレビューの時間によってすでにゴールへの喜びが失われていることを考えると、テクノロジーを導入することに一体何の意味があるのだろうか?

  • Simon Hooper VAR Tottenham Liverpool 2023-24Getty

    「VARにとって恐ろしい一日」

    VARが最初に導入された時の理念は「最小限の干渉、最大限の利益」だった。しかし今では、一定の間隔で試合がストップし、そして誤った判断が起きることが確認されている。メリットがデメリットを超えていない。

    アラン・シアラー氏は『Match of the Day』で、今回の件について「理解できない。関係者にとってもVARにとっても恐ろしい一日だった。これまでも馬鹿げたミスは何度か見てきたが、今回が最大のものだ。今後の信頼性がより重要な問題になってくる」と語っている。

    すでに信用を失いつつあるのはファン・ダイクだけじゃない。他の選手やスタッフ、視聴者だってそうなっているはずだ。

  • liverpoolGetty Images

    リヴァプールの権利

    VARは関係者へのメリットばかりが強調されてきたが、実際には状況を悪化させている。今シーズンだけでもテクノロジーの効果ははっきりしている。ボールがラインを越えたかどうかを判断する時には十分な効果があるが、それ以外の場合は主観が強すぎて人為的ミスが起こりやすいことが証明された。

    確かに声明を発表して音声の公開も要求したとされるリヴァプールは、多くの批判を受けてしまうだろう。だが、今回の問題はサッカー界全体で解決する必要がある問題だ。故に彼らの行動は正しい。被害者が何もしなければ、さらにどんでもないミスが起きてしまうだろう。これは避けられない。

    そして今回の問題において、他クラブもリヴァプールをサポートすべきだ。この茶番劇には“解決策”が間違いなく必要だから。そして唯一の“解決策”は、審判や関係者が実際にどうVARを使用するか、または使用できるかの答えがはっきりとするまで、VARを廃止することにほかならない。