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“アレクサンダー=アーノルド問題”再び:ベストポジションは右SB?中盤?最高のタレントを活かすには…

先月行われたプレミアリーグの天王山、マンチェスター・シティがリヴァプール相手に取った戦術は、以前ほど複雑ではなかった。トレント・アレクサンダー=アーノルドを明確なターゲットと定め、ジャック・グリーリッシュよりもスピードとスキルに優れるジェレミー・ドクを左ウイングに起用。そして、プレミアリーグにおける過去2年間のどの選手よりもドリブルを成功させた(11回)。

しかし、結果的に試合に最も影響を与えたのは、狙われたアレクサンダー=アーノルドだった。ドクを封じるためにはチームメイトの助けが必要だったかもしれないが、ゴールもアシストも許さなかったのは事実。そして攻撃時には絶対的な存在感を放ち、同点弾を叩き込んでいる。そして、このイングランド代表が人差し指を口の前に立ててホームファンを黙らせたシーンが、試合を象徴する場面として人々の記憶に残ったのだった。

激動の2022-23シーズンを経て、リヴァプールは復活を遂げた。第14節終了時点では2位につけており、今季の優勝候補の一角であることは間違いない。8カ月前にエティハド・スタジアムで1-4と惨敗したチームとは全く違う。そしてそれは、アレクサンダー=アーノルドも同じだ。両者とも今季成長した姿を見せつけている。

文=マーク・ドイル

  • Trent Alexander-Arnold Liverpool Arsenal 2023-24 Premier LeagueGetty

    キッカケ

    今季リヴァプールが生まれ変わったの要因の1つは、劇的な中盤の変化であることは明らかだ。しかし、アレクサンダー=アーノルドの役割の変化も大きな要因だろう。地元出身の副キャプテンは、右サイドバックからより中盤に入って自由が与えられている。この起用法の変化は、リヴァプールが前回エティハド・スタジアムを訪れた翌週からスタートした。

    4月9日、リヴァプールはアンフィールドで当時首位を走っていたアーセナルと対戦。この時点でリヴァプールのトップ4入りの可能性は大きく下がっていたため、ユルゲン・クロップはアレクサンダー=アーノルドを“インバーテッド・フルバック”として起用するという「大きな一歩」を踏み出さざるを得なかった。守備時はいつも通り右サイドバックだが、ボール保持時には3-2-2-3のボランチに入っている。そしてこの賭けは見事に成功し、0-2の劣勢から追いついてみせた。この時点でリーグの大勢は決まっており、4位フィニッシュは果たせなかったものの、この新たなシステムは有効であることが明らかとなり、彼は最後の10試合で7アシストを記録している。

    本人は「右サイドバックからでも指示を出してコントロールできると思っていたけど、これは今までのゲームとは別次元だったね。どうやって進化するか? これが探していたものなんだ」と手応えを語った。

    イングランド代表のガレス・サウスゲート監督が初めてアレクサンダー=アーノルドを中盤で起用してから早2年、この25歳のベストポジションを巡る議論は再び加熱している。

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  • Jurgen Klopp Trent Alexander-Arnold Liverpool 2023-24Getty

    クロップの実験

    サウスゲートは今夏のEURO2024予選中にもアレクサンダー=アーノルドを中盤で起用し、彼も好印象を与えていた。だが、リヴァプールはその段階までにアレクシス・マクアリスターとドミニク・ショボスライを獲得。さらに移籍市場終盤には遠藤航とライアン・フラーフェンベルフを加え、中盤の陣容を完成させつつあった。

    それでも、クロップは実験を止めなかった。そしてこの決断は、ポジティブな結果として現れている。確かに守備の緩慢さは依然として続いているものの、リヴァプール(14)より失点が少ないクラブはアーセナルだけ(11)。それ以上に、3-2-2-3の攻撃手なメリットは明白である。

    3日のフラム戦、チームが苦戦していた状況でクロップはジョー・ゴメスを投入。アレクサンダー=アーノルドを正式に中盤の選手として起用した。そして終了間際、彼はボックス内から劇的な決勝弾を突き刺している。試合後、クロップは交代について「チームを向上させるために変えようとするだけ。それに、相手にトリッキーな対応を迫るためだね。今日はうまくいったよ」と話している。

  • Liverpool Man City Erling Haaland Trent Alexander-Arnold 2023-2024Getty

    サイドバック?中盤起用?

    ここで生まれる疑問が1つ。「アレクサンダー=アーノルドを常に中盤起用することは、リヴァプールにとって最適な解決策になり得るのか」ということだ。今のシステムであれば、彼は守備時には右サイドバックの位置まで戻る必要がある。カウンター時にはこれまで以上に困難な対応を強いられるのだ。もしこのタスクから解放されれば、彼はリヴァプールを新たな次元に引き上げてくれるかもしれない……そう考える人は少なくない。

    リヴァプールのOBスティーブ・マクマナマン氏は、『GOAL』に「トレントには、間違いなく中盤でプレーする才能がある。あのパスレンジは信じられないよ。プレミアリーグでも最高峰だと思う」と語っている。また『スカイスポーツ』のギャリー・ネヴィル氏も、「デイヴィッド・ベッカムやケヴィン・デ・ブライネが右サイドバックにいるようなものだ」と表現している。

    「右サイドバックにベッカムがいる」、これはメリットなのだろうか? それとも「無駄」なのだろうか?当の本人は、中盤でのプレーは「楽しい」と語りつつも、自分のベストポジションがわからくなってきていると認めている。以前のインタビューでは、以下のように語っていた。

    「過去5~6年、リヴァプールではサイドバックとしてプレーしているけど、タッチラインからクロスを送ってチャンスを作るのも、中央エリアに入り込むのも、自由が与えられているんだ。でも、イングランド代表では監督がサイドバックに求めるものが違うんだよね」

    「2つとも異なるポジションだけど、技術的にはどちらのシステムでも同じようなことができると思う。ボールを持ち、試合を動かし、テンポをコントロールする。僕のような選手にとっては最も重要なことだね。だから、サイドバックか中盤かはあまり大切じゃない。僕はボールを持ち、ゲーム全体をコントロールしたいんだ。まさに今、リヴァプールではそれをやっているんだよ」

  • Trent Alexander-Arnold Liverpool 2023-24Getty

    最高の武器の使い方

    アレクサンダー=アーノルドは今季すでに2ゴールを奪っており、過去3シーズンの数字に並んだ。しかし、フラム戦のGKベルント・レノのオウンゴールは、彼の美しい直接FKによるゴールと言っていい。また公式戦での4アシストは、モハメド・サラーとダルウィン・ヌニェスに並んでチームトップである。とはいえ、右サイドからのクロスという点では、ここ数年と比べると頻度が下がっているのも事実。クロップ自身、彼を内側に移動することで右サイドの幅を使えなくなる可能性を認めている。そのため、フラム戦ではジョー・ゴメスに右サイドを駆け上がるように指示し、それが効果的だったことを明かしていた。

    マクマナマンは、「リヴァプールが優勢だが相手のブロックに苦しんでいる時、トレントは間違いなく中盤へ動かすべきだ。最高のパサーの1人にブロックを壊すチャンスを与えることを意味するからね。特定のチームに、特定の時間帯で数的優位をもたらすものであり、ピッチの最重要エリアで最高の武器になるよ」と分析している。

    その意見には、クロップも同意だ。「彼が中央でプレーできるのはわかっているよ。だが、彼を常にそこで起用してしまうと、我々は世界最高の右サイドバックの1人を失うことになるんだ。それは忘れちゃいけないよね」と断言した。

  • cafu(C)Getty Images

    守備力の不安?

    アレクサンダー=アーノルドを批判する人間は、彼らの意見には同意しないだろう。「世界最高の右サイドバックの1人」とされるほどの守備力はないと主張するはずだ。実際に、ポジショニングや集中力には課題も多い。今季はすでに2つ、失点につながるミスも犯した。だが、彼の守備貢献は見逃されていることも事実だ。アレクサンダー=アーノルドは今季開始以降、アンフィールドでインターセプト数とタックル成功数で4位にランクインしている。上回るのはショボスライだけだ。

    「史上最高のサイドバック」との呼び声高い元ブラジル代表DFカフーは、昨年のカタール・ワールドカップでアレクサンダー=アーノルドの出場時間がほとんどなかったことを疑問に思っている。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューでこう語った。

    「(批判は)全く理解できないよ。彼にはクオリティも、ドリブルも、スピードも、すべてがある。だが、いつも同じストーリーだ。『ディフェンスができないから先発から外れている』とね。僕とロベルト・カルロスも同じように言われていたよ。それでも、僕らは一緒に素晴らしいものを勝ち取ったよね。違うかい?」

  • Trent Alexander-Arnold Liverpool 2023-24Getty

    「サイドバック」の進化

    マンチェスター・ユナイテッドで数々のタイトルを勝ち取ったギャリー・ネヴィルは、自自身がプレーしていた頃のサイドバックと現代では役割が違うと分析。だからこそ、周りの見方も変わらなければいけないと主張している。アレクサンダー=アーノルドの守備に対して改善の必要があることを指摘しつつも、『スカイスポーツ』のポッドキャストでこう語った。

    「私の時代は『すぐにポジションへ戻れ』だったんだ。だが、彼は今でも自分の仕事を遂行して守らなければいけないが、役割は大きく変化した。彼が最初に考えるのは『どうやってボールの前進を止めるか』だ」

    クロップも、サウスゲートも、両者とも同じ疑問について自問自答し続けているのは確かだ。この最高の才能を持つ選手から、どうやってベストを引き出すか。答えは異なるかもしれないが、やろうとしていることは同じである。イングランド代表にとっては、デクラン・ライスとジュード・ベリンガムと3センターで並べることが最適かもしれない。

    だが、リヴァプールでは現状、2つの役割を担うことがベストかもしれない。クロップはサウスゲートほど保守的ではないし、右サイドバックのオプションに恵まれているわけでもない。もちろん、守備者には大きな負担がかかる。横に立つイブラヒマ・コナテは特にそうだ。ミスによる失点も起きるだろう。だが、それ以上のリスクも報われる可能性がある。現状では、アレクサンダー=アーノルドのポジションに悩まされているのは相手の方なのである。

    アレクサンダー=アーノルドは右サイドバックなのか? それとも中盤なのか?――その答えは「両方でプレーする」ではいけないのだろうか。