(C)Getty images河治良幸
サッカー日本代表、カタール・ワールドカップGS突破シミュレーション。スペイン&ドイツと同居の“死の組”をどう戦う? 今後の強化ポイントは…
極めてタフなグループに
カタール・ワールドカップ(W杯)においてグループEに入り、スペイン代表、ドイツ代表、大陸間プレーオフ勝者(コスタリカ or ニュージーランド)と同居することが決定した日本代表。ライバル国のチームスタイルや、本大会でグループステージを勝ち抜くための戦い方、これからの強化で重要になる要素を、国内外のフットボールに幅広い知見を持つ河治良幸氏にシミュレートしてもらった。【文=河治良幸】
(C)Getty imagesチーム紹介:スペイン代表
3大会ぶりの世界制覇を目指す。欧州のB組でスウェーデン、ギリシャ、ジョージア、コソボと同居したスペインは第4節でスウェーデンに2−1で敗れた以外は順調に勝ち点を積み上げた。そして最後はホームでスウェーデンに1−0という僅差ながらリベンジを果たし、しっかりと首位突破を決めた。EUROでは準決勝でイタリアにPK戦負けという悔しい結果に終わり、その中からペドリ(バルセロナ)など6人が参戦した東京五輪も優勝候補と目されながら、最後はブラジルに破れて銀メダルに。それでもルイス・エンリケ監督が率いるチームは若手を随時抜擢しながら成長を続けている。
4-3-3のシステムで中盤を支配しながら、左右のウイングを起点にワイドな攻撃を繰り出して、相手ディフェンスを翻弄する。それでいて守備の意識もしっかりしており、即時回収力も高い。攻守の要となるのはピボーテと呼ばれるアンカーのセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)だ。インテリオールと呼ばれる中盤のインサイドハーフはコケ(アトレティコ ・マドリー)、カルレス・ソレール(バレンシア)、ペドリなどタレントに事欠かないが、ガイドラインを司るブスケツがいないと話にならない。中盤がしっかり機能すればアルバロ・モラタ(ユベントス)を頂点にフェラン・トーレス(バルセロナ)などが創造的なフィニッシュで相手ゴールを襲う。
(C)Getty imagesチーム紹介:ドイツ代表
2014年W杯の王者だが、2018年の前回大会はメキシコ、韓国に敗れる失態で、まさかのグループステージ敗退となった。捲土重来を図ったEUROもベスト16でイングランドに2−0の完敗。15年間のレーブ体制が幕を閉じると、後を継いだのはバイエルン・ミュンヘンを19−20シーズンのチャンピオンズリーグ優勝に導いたフリック。“ハンシィ"の愛称を持つ指揮官は第4節から率いた欧州予選を7戦全勝、しかも31得点という圧倒ぶりで、前指揮官がホームで敗れた北マケドニアにもアウェーで4−0と快勝している。
評価したいのは若手の積極起用で、守護神マヌエル・ノイアー(バイエルン) からヨシュア・キミッヒ、トーマス・ミュラー(ともにバイエルン)、ティモ・ヴェルナー(チェルシー)など経験のある選手を軸にしながら、右サイドバックのルーカス・クロスターマン(ライプツィヒ)、左サイドバックのダヴィド・ラウム(ホッフェンハイム)、バイエルンの新鋭のMFジャマル・ムシアラなどを躊躇なく起用して、親善試合が無い状況に言い訳することもなく結果、内容、世代の融合を成し遂げた。位置的優位を意識した現代サッカーのベースを大事にしながらも、ボールを奪ったら相手の守備が整う前に仕留める意識が高い。攻守両面の強度は欧州屈指だ。ただ、それだけで世界は獲れない。大型の攻撃的MFカイ・ハヴァーツや変幻自在の仕掛けを武器とするリロイ・サネなど、攻撃の中心を担うキーマンがしっかりと真価を発揮できるかにかかっている。
(C)Getty imagesチーム紹介:プレーオフ勝者(コスタリカ代表orニュージーランド代表)
北中米カリブ海4位のコスタリカは2014年W杯でイタリア、イングランド、ウルグアイと同じ組で“3強1弱”と予想されながら、粘り強い守備からスピードを生かしたカウンターを武器に首位突破し、ベスト8に躍進した実績を持つ。前回大会も1分2敗でグループリーグ敗退となったが、スイスと2−2で引き分けるなど、決してアウトサイダーではない。ただ、予選では守護神ケイロル・ナバス(パリ・サンジェルマン)を後ろ支えに守備は安定しているものの、得点力不足が深刻となっている。システムは4バックと5バックを使い分けるが、本大会に向けては後者をベースに堅守速攻を徹底させるかもしれない。
オセアニア王者のニュージーランドは東京五輪の日本戦でも見せた様に、球際の強さとハードワーク、何よりヘイ監督のマネージメントが一体感を生んでいる。常にボールを持つ側になるオセアニアの戦いとは異なり、守備から入っていく戦い方がベースにはなるはずだが、指揮官のメンタリティ的にもドン引きしてロングボールという形は取らないだろう。キャプテンで絶対的なエースのクリス・ウッド(ニューカッスル)は欧州でも知られた大型ストライカーだが、母国代表ではさらに存在感が増す。セルビアにルーツを持つ期待の新星MFスタメニック(HBキューゲ)がブレイク候補だ。
(C)Getty imagesGS突破に向けたシミュレーション
GS突破を目標に置くならば、初戦でドイツを相手に勝ち点1は取りたい。ただ、最終予選の大一番となったオーストラリア戦でも分かる通り、日本は最初から引き分けで勝ち点1を狙うチームではない。ドイツ相手にもできるだけハイプレッシャーをかけながら、一人ひとりが孤立しない様に連動性を出して前向きに戦っていく必要がある。その際に気をつけたいのは裏返しからの鋭い突破で、起点になるキミッヒ、サネ、ハヴァーツといったところをどう封じていくか。それこそ予選の終盤戦でベースになった“ボランチ3枚”の4-3-3が生命線になるかもしれない。ただ、アジアで割と多くのチャンスがありながらゴールを決めきれなかった日本が、よりチャンスが少なくなる世界での戦いで、ノイアーの牙城を崩せるかどうか。デザインされたセットプレーにも磨きをかけて得点を奪いたい。
続けてコスタリカかニュージーランドのところでは勝ち点3を確実に取っていく必要がある。ただ、確実に取れると見込んだら大きな罠に落ちる危険が大きい。特に守備を固められるとアジアですら、なかなか崩し切れない傾向があるので、実は点を取るのが一番難しい試合になる可能性も。それでもカウンターのリスクと向き合いながら、相手ゴールをこじ開けていかなければならない。
仮にドイツに勝ち点1でも取れていて、2試合目で勝ち点3が取れたら勝ち点4を持ってスペインとの3試合目に臨むことができる。ここで勝ち点1を加えて勝ち点5を取れば、突破の可能性は大きいが、3カ国が勝ち点5で並んだ場合、得失点差の勝負になる。その場合、コスタリカかニュージーランドとの結果によって日本は不利になるかもしれない。スペインにはドイツ以上にボールを支配されるかもしれないが、逆に隙は生まれやすくなる。特に最終予選で大活躍した伊東純也をはじめ前田大然、古橋亨梧、浅野拓磨という自慢のスピード系アタッカー陣が効果を発揮するかもしれない。
(C)Getty images対戦国の特徴を見極めた強化が必要
チーム力で明らかに日本を上回る列強が2つ入ってしまった。ただ、もともとベスト8以上を狙う日本としてはここを切り抜けられない様では、多少のくじ運に恵まれてグループリーグを突破できても、ベスト16で終わってしまうチームだということ。このタフな組を突破すれば、前回と同じくベルギーが来ようが、前回準優勝のクロアチアが来ようが、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督のモロッコが来ようが、しっかりと戦えるはず。そのためにも武器を研ぎ澄ませていく必要がある。
チーム全体の強度というものは一気には上がらないが、一人ひとりが強みを自覚して伸ばしていくことが求められる。そして森保監督もこれまでと違って、対戦相手を想定しながら最適解を探っていけるので、人選1つとっても道筋が定めやすい。欧州で結果を出していることや、Jリーグで活躍していること、調子が良いといったことも大事だが、ドイツやスペインを相手にどう特徴が生きるか。勝ち点3が必須になるコスタリカかニュージーランドを相手にこじ開ける力があるのか。そういったところを見極めながらリストアップとテストを重ね、チームをブラッシュアップというより先鋭化していく必要がある。
また、得点面で大きな鍵となるセットプレーはキッカーが重要になるため、そうしたことを主眼に置くならば、現在のA代表以上に良質なキッカーが揃うパリ五輪世代の若手も含めて見極めていくべきだろう。
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