23試合を終えて16位。降格圏に位置していたこともあった。今季のFC東京は、さまざまな面で噛み合わなかった。しかし夏に入り確かな手応えとともに上昇気流に乗り始めた。システム変更、新戦力の台頭、そして戦う姿勢の復活――。夏の大一番・明治安田J1第24節・浦和レッズ戦を前に、青赤軍団の現在地と期待を探る。
取材・文=青山知雄
©Getty Images23試合を終えて16位。降格圏に位置していたこともあった。今季のFC東京は、さまざまな面で噛み合わなかった。しかし夏に入り確かな手応えとともに上昇気流に乗り始めた。システム変更、新戦力の台頭、そして戦う姿勢の復活――。夏の大一番・明治安田J1第24節・浦和レッズ戦を前に、青赤軍団の現在地と期待を探る。
取材・文=青山知雄
今年も味の素スタジアムに熱く盛り上がる東京の夏がやってくる。
一時期は勝ち星に恵まれず、残留争いに巻き込まれつつあったFC東京が、6月から右肩上がりに復調。4バックにシステム変更を図り、一気に魅力的なサッカーを展開するチームへと変貌を遂げつつある。
その最大要因が今シーズン途中に加わった選手たちの存在だ。今シーズンから就任した松橋力蔵監督の下、ボールを保持しながら鋭いアタックを織り交ぜるスタイルを掲げてきた。キャンプから積み上げてきたサッカーに、6月の中断期間で新しく加入した選手がピンポイントでチームを押し上げる存在となり、選手個々が持つ力が引き出されるようになっている。
まずチームにメンタル面と戦う部分で大きなプラス材料をもたらしたのが、ドイツから戻ってきた室屋成だ。2020年夏にハノーファー96へ移籍した元日本代表サイドバックが今年6月に約5年ぶりとなる復帰を果たすと、気迫のプレーで青赤をけん引。圧倒的な球際の強さが周囲に伝播し、チーム全体の戦う姿勢を何段階もアップさせた。彼自身は「戻って来る前とは比較できないけれど、自分の持ち味はそういった戦う部分。実際にピッチに立っていても、みんなから勝ちたいという気持ちが伝わってくる。東京らしさが出せている感覚はあるし、チームにいい効果をもたらせているかなとは思う」と復帰に伴うメリットを口にする。
そしてピッチ内で“潤滑油”となっているのが、浦和レッズから期限付き移籍で加わった長倉幹樹。あらゆるプレーをハイレベルでこなして周りの良さを引き出し、チーム全体の連動性を活性化。仲川輝人とのコンビは的確なタイミングのポストプレーでポゼッションサッカーのポイントになるだけでなく、前線からの連動したプレスのスイッチとして鋭いカウンターの起点にもなっている。今節の浦和戦は契約の関係で出場できないが、彼の加入でチーム全体に躍動感が生まれ、取り組むべきサッカーが明確になったことは間違いない。
後方には抜群のビルドアップ能力と空中戦の強さを併せ持つアレクサンダー・ショルツ、韓国代表GKとして3度のFIFAワールドカップ出場経験を持つキム・スンギュも加わった。ショルツにとって今節の浦和戦は2024年夏まで約3年間にわたって在籍した古巣との対戦。2023シーズンにJリーグベストイレブンを獲得した実力者が、かつてのチームメートにどんなプレーを披露してくれるのかにも注目だ。
©Getty Imagesまた、昨年5月から負傷離脱していたバングーナガンデ佳史扶の復帰も大きな“補強”と言える。一瞬で局面を打開する彼の左足は、あらためてチームの大きな武器になっていくだろう。
新戦力が既存のチーム力を大きく底上げし、各ポジションで個と組織の融合が見られるようになってきた。クラブの根幹でもある戦う姿勢を前面に押し出して戦えるようになってきたことも、今後に向けたポジティブな変化と言っていい。
東アジアE-1サッカー選手権の直前に行われたJ1第23節の柏レイソル戦では、球際の強さやスピードと厚みを兼ね備えた攻撃で首位争いをする相手と互角以上の試合を展開した。ただし、この試合では勝負どころで決めきれず、一瞬のスキを突かれて敗戦を喫している。
好ゲームを展開しながら勝ち点こそ手にできなかったという現実にしっかりと向き合い、この浦和戦から“あと一歩”の部分を突き詰めていかなければならない試合が続く。
一方の浦和にとっては、FIFAクラブワールドカップから戦いの場をJリーグに戻しての初戦となる。世界の舞台では3連敗という厳しい結果に直面したが、2024-25シーズンのUEFAチャンピオンズリーグでファイナリストとなったインテル・ミラノ(イタリア)を最後の最後まで追い詰めた。
世界標準を肌で感じた選手たちは口々に「この経験をJリーグでどう活かすか。世界を経験できたのは自分たちだけ。これを日常に還元してレベルアップしていかなければならない」と話し、「もう一度あの舞台へ立ちたい」という想いを強くしたという。こちらも世界を経験したからこそのサッカーを披露するべく、気持ち新たに臨む試合となるだろう。
5月17日の前回対戦は、東京が2度のリードを守れずに2-3で逆転負け。終盤、反撃に出る浦和の勢いに呑まれる形でリーグ戦3連勝を逃し、悪い流れを断ち切れずに5戦未勝利という長いトンネルに入ってしまう苦い経験を味わった。東京にとっては夏場の反攻に向けて、キッチリと借りを返し、新しくレベルアップしたサッカーを披露するべきゲームとなる。
©FC TOKYO大熱戦必至の大一番。FC東京はこの試合から夏場のホームゲーム4試合を『TOKYO SUMMER NIGHT』と銘打ち、夏ならではの様々な仕掛けを用意。『ぴあ Day』となる浦和戦では、『FIREWORKS NIGHT supported by Paidy』として、18時50分頃の選手紹介から選手入場までピッチレベルのバックスタンド側にて炎による演出を行い、ハーフタイムには屋根上からの特殊効果花火、ムービングライト、炎でスタジアム全体の戦う気持ちを盛り上げるという。
リーグ前半戦は多くのチャンスを作りながら決めきれず、勝ちきれず、負のスパイラルに陥るような形で悔しい時間を過ごした東京。その一つの要因となってしまった浦和戦で成長を示し、ホームで結果を残すことで新たなターニングポイントとしたい。もう下を向く選手はいない。青赤の戦士たちが意地と誇りをピッチで表現し、味の素スタジアムを熱狂させる。
青赤の熱い夏が、ここから始まる。