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サッカー日本代表、香港戦の選手評価は?MOMは相馬勇紀もW杯メンバー入り前進は西村拓真か

  • W杯選考の観点を持って評価

     日本代表は19日、EAFF E-1サッカー選手権2022決勝大会の初戦で香港代表に6-0で快勝。多くの選手が結果を残したが、実力に開きがあった試合でのアピールはどのように査定されるのだろうか。カタール・ワールドカップ(W杯)に向けたメンバー選考という観点を持ちつつ、継続的に代表を取材するジャーナリストの河治良幸氏に評価してもらった。【取材・文=河治良幸】

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  • 20220720_Japan_performance1(C)Kenichi Arai

    GK

     GKの先陣を切ってスタメン起用された鈴木彩艶は堂々のA代表デビュー。ハイボールでやや危ないシーンはあったが、守備機会が少ない試合で後からチームを盛り立てたり、背後のボール扱いも無難だった。セットプレーのマーキングや壁を作るところでも、しっかりと声を出して対処できていたように思う。

     今回、若手3人という構成で、初招集の鈴木が最初に出番を得たということは、ここから大迫敬介と谷晃生も1試合ずつチャンスをもらえる可能性が高い。そうなると鈴木は今後ここから練習の中で、しっかりとアピールしていくしかないか。あくまで筆者の予想ではあるが、広島勢が多く先発起用されそうな中国戦は大迫、優勝タイトルがかかる韓国戦は谷か。

  • 20220720_Japan_performance2(C)Kenichi Arai

    CB

     最終ラインはキャプテンマークを任された谷口彰悟が、4−0とリードした前半だけで、中谷進之介に交代した。左CBでフル出場した畠中槙之輔も含めて、攻守両面でもっとも安定していたのは中谷だ。持ち前の統率力に加えて、局面の強さと正確なボール捌きが目に付いた。

     A代表の常連メンバーである谷口は3試合すべてで起用されて、優勝のための守備の要として、色んな選手との組み合わせをチェックされるかもしれない。畠中はマリノスの同僚も多い中で、守備の対応でもビルドアップでも、ややミスが目立ったのは気になった。クリアボール1つにしても、中途半端にセカンドを拾われてチャンスを作られるシーンも。より接戦が予想される中国戦や韓国戦で、同じパフォーマンスは許されない。

  • 20220720_Japan_performance3(C)Kenichi Arai

    SB

     左右SBではやはり常連の右SB山根視来が安定しており、クロスで町野修斗のゴールもアシストするなど、やはりここでは1つ抜けた存在ではある。水沼宏太との縦のコンビも最初は苦労していたが、ハーフタイムに話し合ったのか、後半は改善されて相馬勇紀の2点目にもつながった。

     代わって右SBに入った大南拓磨は慣れていないメンバー構成で、ファーストプレーでミスしてしまったり、ポジショニングに苦労している様子だった。それでも局面での身体能力を生かした守備は存在感がある。6−0になっていたこともあり、この香港戦で明確な評価はしにくいが、初招集という点を踏まえれば中国戦、韓国戦で起用されたときにすんなり入れるというだけでも、初戦に使われた意味はある。

     左SBでフル出場の杉岡大暉は、前半に限ればスタメンで最低評価とならざるを得ない。簡単に裏を取られたり、自陣からの縦パスがズレてロストを招いたり、少ないピンチの大半が杉岡サイドになってしまった。普段、湘南では3バックをやっている事情があるにしても、割引かざるを得ないパフォーマンスだ。しかし、後半は着実に良くなり、持ち前の強度の高いプレーも出てきていた。中国戦はサブに回りそうだが、韓国戦で存分に良さを発揮できるように、練習からアピールしてもらいたい。

  • 20220720_Japan_performance4(C)Kenichi Arai

    ボランチ

     ボランチの岩田智輝と藤田譲瑠チマ、トップ下の西村拓真、右サイドの水沼宏太は所属クラブで一緒にやっている同僚であり、実質1日しかチーム練習ができなかった中で、森保監督も連携面を“マリノス勢”で補うということは考えての起用だったはず。その意味で、単なる急造ではないやりやすさはあっただろう。

     ポジティブなのは、選手そろぞれがチームの駒になることに捉われず、自分たちの持ち味を出そうとしていたことだ。ボランチの藤田はミスもあったが、積極的な縦パスやサイドチェンジのパスを入れ、4-3-3の香港の守備をうまく外しながら、自分のところから攻撃を組み立てるという意欲を見せていた。

  • 20220720_Japan_performance5(C)Kenichi Arai

    SH/WG

     右の水沼は直接のアシストこそ無かったが、色々なタイミングで得意のクロスを上げたり、右SBの山根視来とも試行錯誤しながら、外側と内側の両方から上がらせて、うまく使っていく意識を見せた。その1つが後半の相馬のゴールにつながった。

     そうした中で、左サイドの相馬勇紀は“マリノス勢”とも絡みながら、ボールを持ったら個人で仕掛けてシュートかラストパスで終わるという意識が非常に高く、先制ゴールをもたらした直接FKもフルメンバーの日本代表に不足している要素でアピールできたのは大きい。

     全体のMOMは相馬だと筆者は考えているが、相馬の場合は左サイドのポジションで三笘薫や南野拓実がライバルになることを考えると、試合後も本人が言っていた通り、より厳しい戦いが予想される中国戦と韓国戦で、さらに輝きを見せて日本を勝利に導かなければ、カタールへの道は開けてこない。

  • 20220720_Japan_performance6(C)Kenichi Arai

    トップ下

     この試合で最もアピールしたのは西村かもしれない。2得点という結果もさることながら、Jリーグで走行距離14kmとも言われる運動量をいかんなく発揮し、チャンスメークに関わりながらフィニッシュの場面で必ずと言っていいほどボックス内や手前の"ペナ幅"に入り込んでいた。こうした動きはフルメンバーの主力ともまったく異なり、リズム変化をもたらせる。それでいて決定力もあるのだから、残り2試合でのさらなるアピールが楽しみになった。

     その他、サイドプレーヤーも含めると途中出場の宮市亮と岩崎悠人、脇坂泰斗は前半結果を出した選手たちほどインパクトを残せなかった。彼らが投入されて無得点だったのだから当然だろう。しかし、香港戦はある意味、試運転でもある。ここからチーム練習の時間も増えるので、そこから森保監督にアピールして、中国戦、監督戦の出番を掴み取ってもらいたい。

  • 20220720_Japan_performance7(C)Kenichi Arai

    CF

     上田綺世が欧州移籍で招集外となり、大迫勇也も呼ばれず、期待の武藤嘉紀が直前のJリーグで負傷して不参加となった。そうした中で、初招集の町野修斗が湘南で見せている通りのボックス内の勝負強さで、いきなり2得点と結果を出したのは大きな収穫だ。

     もちろん6−0というゲームで、日本と香港の実力差を考えれば、そのままフルメンバーのFW争いに割り込んだとは言えない。本人も「7、8割は見せられた」と語る通り、まだまだ本領発揮とまでは行っていないはず。そこは守備の強度が高い相手でチェックしていくしかない。

     それでも“マリノス勢”を含めて慣れないメンバーと少ない時間で可能な限りイメージを共有し、良い形でフィニッシュに持ち込むプレーはいかなる試合でも簡単なことではない。少なくとも中国戦と韓国戦で、この大型ストライカーがより注目されることになるだろう。

     町野がフル出場したCFだが、トップ下の西村をストライカーとして評価するならば、2列目のポジションからゴールを決めたことで、森保監督が今後どのシステムを取っていくにしても、競争の活性化に繋がりそうだ。おそらく中国戦は細谷真大の出番となるが、この刺激を結果に結びつけることを期待したい。

  • 20220720_Japan_performance8(C)Kenichi Arai

    総評

     週末のJリーグから時間がなく、しかも力の差がある香港戦ということで、この1試合で何かを明確に評価することはできない。それでも起用された選手たちの意欲、ここから道を切り開くんだという姿勢が表れ、何よりまずチームとしてE-1選手権の優勝を目指すという意欲は感じられる試合だった。

     そうした中で相馬、西村、町野が2得点を記録し、目に見える結果を出した。彼らはおそらく中国戦と韓国戦、少なくとも1試合でまた出場チャンスを与えられるだろう。さらにゴールやアシストは付かなかったが、、右サイドから持ち味を発揮した水沼も初戦としては“及第点”と言える。

     まず香港戦は初招集を含むフレッシュなメンバーの“名刺がわり”の試合の意味付けもあった。だが、次の中国戦、そして優勝をかけて戦うであろう韓国戦はチームとして勝利を目指す中での一体感もより問われてくる。みんなでE-1選手権というタイトルを勝ち取る。そのために森保監督の求めるスタンダードを出すだけでなく、それぞれの選手が持つスペシャルを発揮していけるか。

     “広島勢”の6人も加わってくる残り2試合。香港戦の評価で多少は出場チャンスにバラツキが出るかもしれないが、ここからが9月の欧州遠征、そして“狭き門”であるカタールW杯に向けた、本当のアピールの場となる。