歴史に名を残そうとする選手たちが、同じピッチに並ぶ光景を夢現に日々眺めている。アジア人初のFIFAワールドカップ5大会連続出場に挑む39歳の長友佑都とともに、FC東京には韓国代表歴代最多タイとなる4大会連続の選出に挑む35歳がいる。
取材・文=馬場康平
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取材・文=馬場康平
©Getty Images今年6月の特別移籍期間に加入した韓国代表GKのキム スンギュは、過去3度のW杯を経験し、2022年に行われたカタール大会では正守護神としてグループステージからラウンド16のブラジル戦まで全4試合でゴールマウスを守った。
しかし、さらなる記録更新に向けて2026年の北中米大会をめざす彼の前に、大きな壁が立ちはだかった。2024年1月、韓国代表として参加していたAFCアジアカップの練習中に右ひざ前十字じん帯損傷の大怪我を負ったのだ。
この時は保存療法を選択し、当時所属していたアル・シャバブ(サウジアラビア)でリハビリを続けた。そして同年8月に復帰し、10月には約9か月ぶりの代表活動にも招集される。
しかし、その行く手を再び怪我が阻んだ。復帰直後の10月24日に行われたサウジ・プロフェッショナルリーグ第8節のアル・オルーバ戦で相手選手と接触。再び右ひざが悲鳴を上げ、ついに前十字じん帯が断裂してしまった。それでも彼は再起を懸けてリハビリに専念。地道な取り組みを続けていく。
©Getty Images「早く復帰したいという気持ちが一番強かった。ただ、最初に手術を選択しなかったことでリスクがあるのは分かっていたし、絶望することはなかった。リハビリも今回が初めてだったわけじゃない。同じ箇所だったから、どうすれば早く復帰できるかを考えて、しっかりと準備もしていました」
当の本人はサラっとこう振り返るが、FC東京の山下渉太GKコーチは「リハビリメニューは相当ハードだったはず」と話す。それを伝えると、スンギュは首を横に振った。
「もともとリハビリのメニューが多かったのは確かです。ただ、手術まで1か月間ほど時間があったので、術後の回復を早めるために、ただ手術を待つのではなく、しっかりとトレーニングも積んでいました。そういったリハビリへの備えもしっかりとできていたのが良かったと思います」
最初の復帰直後に2か月間だけプレーはできたが、結果的には1年以上もピッチから遠ざかることになってしまった。ワールドカップ出場以前に、もう一度ピッチに帰れるのか──。そんな不安な日々を過ごしながら、地道に復活ロードをひた走ってきた。
「大きな目標はやはりワールドカップ出場でした。でも、正直に言えば、まずは早く復帰して、またピッチに立ちたいと考えていた。その想いが強かった」
2度目の復帰に向けたリハビリの終盤でアル・シャバブとの契約を解除し、韓国に戻ってトレーニングを再開した時だった。その練習見学にFC東京の強化部が訪れたという。その後、東京から正式オファーが届き、約2週間で移籍を決断した。痛みもなくなり、プレーできる感覚はあった。ただし、実戦感覚をどこまで取り戻せるかに一抹の不安がよぎっていた。
「東京に来たころには、コンディション的にはもう大丈夫だと思っていました。ただ、やはり試合感覚はまた違う問題でもある。その点は心配していましたが、いざピッチに立つと、思っていたよりも早く実戦感覚を取り戻すことができたし、チームにもなじむことができました」
そして、7月5日に行われた明治安田J1リーグ第23節の柏レイソル戦で、青赤移籍後初出場を飾った。16歳でプロ契約を結び、今年でプロ20年目を迎えるという豊富なキャリアを重ねてきた。染みついたプレーは、身体が忘れていなかった。
「地道に着実に進んでいくことを大事にしてきました。1、2年うまくいったからといって何かをおろそかにしてしまい、すぐに消えてしまった選手もたくさんいましたが、自分はたとえ試合に出られなくても、その後をしっかりと見据えた体調管理や、次の試合に向けて自分が出たらどんなプレーができるのかを常に考えながら日々を過ごしてきました」
「いつでも、どんな時でも、どのような準備をしていかなければいけないのか。その準備の一つひとつにこだわっていくことが大事だと思います。謙虚に学ぶ姿勢を常に忘れずにプレーしていくことがすべてでした」
これまでのキャリアで歩んできた不断の努力が、彼の復活を後押しした。積み上げた経験と実績を活かして、すぐさまチームにもフィット。青赤に不可欠な守護神として定位置をつかみ、長い怪我との戦いに別れを告げた。
©Getty Images迎えた今年9月のアメリカ遠征で再び韓国代表メンバーに名を連ね、メキシコ戦で1年8か月ぶりとなるキャップを記録。続く10月にはパラグアイとの国際親善試合にも出場し、好セーブで完封勝利にも貢献した。
東京で再び結果を積み上げたことで、閉ざされていたかと思われた視界が開けてきた。だからこそ、偉大な記録への挑戦を改めて口にする。アジア最多12回の本大会出場を誇る韓国代表でも、4大会に選出された選手はホン・ミョンボ、ファン・ソンホン 、イ・ウンジェら数える程度しかいない。今大会はソン・フンミン(ロサンゼルスFC)とともに記録達成を目指すことになる。
「それだけ難しいことでもあります。一度の出場だけで驚きがあったのに、4回目を目標にしてプレーすること自体がすごいと思っています。これはずっと残り続けていく記録なので大変光栄なことですし、この目標を必ず達成したいと思っています」
2013年8月14日のベトナム戦で代表初キャップを刻み、三度の大舞台を経験した。それでも代表のユニフォームに袖を通すことはやはり特別だという。
「国を代表してプレーすることは光栄で、特別な時間です。特にGKというポジションでプレーできるのは、一試合にたった一人しかいない。そういうポジションだからこそ、試合中は多くの責任も感じます。代表のユニフォームを着てプレーすることは、所属チームで試合に出ることとまた違った感情や感覚になります」
勝てば英雄となるが、負ければ多くの非難も浴びる。国を背負う重圧は、どの国の代表であっても変わりはない。
「以前はそうした重圧に影響を受けたことも事実としてあります。ただ、選手がピッチ外のことにとらわれると、どうしても消極的になってプレーに影響を及ぼしてしまうこともある。私はピッチでうまくできれば良いという考え方でいます。GKは良いプレーができれば称賛され、できなかったときは非難を浴びても仕方がないポジションです。まずはその瞬間のプレーに最大限集中しようと思って試合に臨んでいます」
12歳のときに見た2002年日韓大会で韓国代表はベスト4に進出した。文字どおり国を熱狂させた、あのおとぎ話の続きを期待する人たちの想いも背負う。だが、着実に地道な歩みを続ける守護神らしく、こう言葉にする。
「もちろん韓国代表の最高成績は知っています。その歴史的な成績を出したのは、あまりにも遠い過去の話です。もちろんそれを超えることができれば、韓国サッカーの歴史に名を刻むことになるでしょう。歴史に残る瞬間に立ち会えることは大変光栄なことなので、しっかりとその場に立つことができればと思っています」
ワールドカップの先にある未来は、誰にも分からない。
「代表では4回目の本大会メンバー入りに向けて良い準備をすることを一番意識しています。良い仕上がりになってきていますし、代表を引退してもチームではまだプレーできる時間が多く残っていると思っています。コンディションと相談しながらキャリアの終わらせ方を決めていこうと考えています」
地道に一歩ずつ。キム スンギュは変わらぬ丁寧な日々を過ごしている。日々のトレーニングと身体のケアにも多くの時間を使い、少しでもうまくなろうと自分のプレー分析にも余念がない。
長友佑都とともにキム・スンギュという名手がチームに在籍していることは、クラブにとっても未来への大きな財産となるだろう。歴史に名を残そうとする選手たちが小平のピッチで並んでプレーする姿を夢現に眺めている。これがどれだけ贅沢なことかと、日々かみしめながら──。
(文中敬称略)
【試合情報】
明治安田J1リーグ第35節 FC東京 vs ファジアーノ岡山
開催日時:2025年10月25日(土) 14:00キックオフ
開催場所:味の素スタジアム