Kees Smit NXGN GFXGetty/GOAL

キース・スミットというAZの若きプレーメーカー:目指す究極の完成形はデ・ブライネ?【NXGN】

オランダはしばしば“世界で最もフットボールの才能が溢れる工場”と称されるとおり、これまでもマルコ・ファン・バステン、ヨハン・クライフ、ルート・フリット、フランク・ライカールト、デニス・ベルカンプ、アリエン・ロッベンといったレジェンドを輩出してきた。いずれも“トータルフットボール”の体現者であり、今のオランダ代表もそのモデルを貫いている。

そんなオランダ代表も個々と見ると、1人で流れを変えていけるような選手が欠けるが、海外メディアであるスペイン『ムンド・デポルティボ』から新たな“トータル・フットボーラー”として注目される選手がいる。その選手こそAZでプレーする19歳MFのキース・スミットだ。

最近ではレアル・マドリー、バルセロナ、リヴァプール、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、バイエルンが関心を示すとの噂が浮かび、オランダ代表への招集話も。AZからすれば長らくチームにとどめていくのが難しい情勢になりつつあり、そう遠くないうちにもっと大きな舞台で力を試す機会がありそうだ。

今回はオランダの新たなスーパースター候補を紹介していく。

  • すべての始まり

    スミットは2006年1月21日、オランダの北ホラント州にあるヘイローという町で生まれ、両親の後押しを受け、地元のクラブであるデ・フォレスターズにて幼き頃からオランダのフットボール文化に身を投じた。

    当時の指導者であるミロ・ブライ氏はスミットが将来有望なのを早くから感じたといい、オランダ『NH』で「おとなしい子だったが、足の動きがすべてを物語るものだった。まだ7歳だったが、すでにボールの扱いも優れたものがあったよ」と振り返っている。

    そうしてスミットの才能にを目つけたのがAZで、U-12カテゴリーの選手として獲得。その当初から、若さからは想像しがたいほどの成熟ぶりを示すほか、リーダーシップも発揮し、最終的にキャプテンマークを任されるまでになっている。

    スミットは成長ぶりはバイエルンの興味をも惹きつけたたが、2021年1月にAZとのプロ契約を決断。その後、『de Volkskrant』の取材でバイエルンからのアプローチに「少し考えたよ」と揺れ動いた気持ちを認めつつ、「今はここで良い状況にある。若いうちに海外に渡って苦労している選手が多いのも知っているしね」と述べている。

    それは結果的に賢明な判断だった。2022年12月からAZでトップチームのトレーニングに参加するようになり、17歳の誕生日からわずか3日後にはヨングAZでデビュー。16分間のプレーだったが、忘れがたい瞬間となった。

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  • 大きな転機

    スミットはAZの19チームで2022-23シーズンのUEFAユースリーグ優勝に大きく貢献し、あのバルセロナやレアル・マドリーを圧倒したほか、大会のハイライトとなるゴールもマーク。得点は超がつくほどのロングシュートによるもので、公園で友達と楽しみながらフットボールをしているかのような、自然なプレーを披露した。

    UEFAユースリーグでインパクトを残したにもかかわらず、AZでのトップチームデビューが巡ってこない状況が続いたりもしたスミットだが、2024年3月に18歳48日でついにエールディビジデビュー。その機会を与えたのは現在も指揮を執るマールテン・マルテンスで、昨季に入ると、頻繁に使うようになっていった。

    ヨーロッパリーグのグループステージ、フェネルバフチェ戦では1得点1アシストの活躍で勝利に貢献し、エールディビジを舞台にしてもスパルタ・ロッテルダム戦やヘラクレス戦で印象的なプレーを披露。マルテンスは「彼は他の選手が見ていないものを見ている」と言わしめるほど、絶賛した。

  • 右肩上がりの調子

    だが、2025年に入ってからの3カ月はやや失速し、マルテンスも出場時間をコントロールしていくようになると、スミットは『NH』で「僕はただプレーがしたいだけ。先発できなかったり、交代で出られない理由は理解しているけど、あまりにも我慢できない」とフラストレーションを爆発させた時期もあった。

    公の場で指揮官の采配批判ともとれる発言をするのはさらに自分の首を絞めかねない行為だが、スミットの強い人格はシーズンが進むにつれ、マルテンスの信頼を掴むきっかけに。その証拠にエールディビジのラスト8試合で6試合に先発し、チームの5位以内フィニッシュに貢献したほか、KNVBカップ決勝に出場した。

    さらに、シーズンを華々しく締めくくる機会としてU-19欧州選手権のオランダ代表に呼ばれ、ドイツ、ノルウェー、イングランド、ルーマニアを相手にゴール。決勝戦ではマン・オブ・ザ・マッチに輝く活躍でスペイン撃破に貢献し、ゴールデンブーツ賞と大会最優秀選手賞も手にしている。

  • Tottenham Hotspur v AZ Alkmaar - UEFA Europa League 2024/25 Round of 16 Second LegGetty Images Sport

    最大の強み

    AZのOBであるケネス・ペレスは「彼は特別な選手だと思う」と賛辞を惜しまず。「彼は脚力がとても強い。常にボールを呼び込み、ずっと素晴らしいプレーを披露する。説明がつかないようなプレーもあるが、たまたまではないのは明らか。1つひとつの動きの裏に彼のアイデアが込められている。すべてがうまくいくとは限らないが、彼のプレーを見ていると…他とは明らかに違う」と語っている。

    それはトッププレーヤーとして成功する上で求められるフットボール知能を備えていることの表れと言えよう。常に相手よりも一歩先を読み、ドリブル、パス、シュートにおいて両足を自在に操る卓越したボールコントロール技術がある。

    さらに、一対一でも力を出せるスピードと力強さのほか、狭いスペースでもプレーできる判断力や落ち着きも兼備。それでいてエネルギー切れの様子がほとんどない点も欧州主要リーグのような激しい環境で活躍する上で大きな強みとなる。

    スミットがその一歩を踏み出すまでポテンシャルの限界がどこなのか正確にわからない部分もあるが、現時点ですでにエリート選手としての資質をすべて備えていると言っていい。

  • FBL-EUR-C3-FERENCVAROS-ALKMAARAFP

    改善の余地

    スミット本人もまだ成長過程にある純粋な才能の持ち主であるのを認めているが、その向上心は尽きることがない。5月に『Voetbal International』で「もっと試合をコントロールする必要がある。圧倒的な存在感を示し、大胆にプレーしないとね。一切の妥協は許されない。若い頃からこの精神だけど、このレベルでもそれを発揮する必要がある」と話し、来季へは「すべての試合に出場したい。これまで以上のパフォーマンスを発揮したいね。今季は単にチームのスタイルに慣れるための期間だった。来季こそ、キース・スミットという選手の実を証明したい」と誓っている。

    これまでのAZでもすでにその技術的な才能を証明してきたスミットだが、U-19欧州選手権でさらにプレーの完成度を高めた。来たる2025-26シーズンでは所属クラブを問わず、より安定した得点とアシストを最優先の課題としたいところだ。

    だが、あえて最大の弱点を挙げるとすれば、守備面か。まだタックルのタイミングを正確に掴めておらず、不必要なファウルがしばしば。ヨーロッパリーグのガラタサライ戦では終盤に2度の警告を受けて退場処分を強いられている。次のレベルへと進むためにはより厳格な戦術方針を持つクラブに移籍するならなおさら、より規律あるプレーを身につける必要があるだろう。

  • Kevin De BruyneGetty Images

    次のデ・ブライネ?

    現在のスミットはオランダ出身の同胞であるフレンキー・デ・ヨングと比較されがちだ。確かに同様の鋭いパスセンスがあり、ゲームを読む能力も同等のレベルにある。だが、スミットに至ってはファイナルサードでさらに大きなポテンシャルを秘めている。

    マルテンスのもとでは主に守備的なMFで使われているが、代表では10番としてプレー。このポジションで複数のディフェンダーをかわす俊敏さとあらゆる角度から味方にパスを供給できる視野を兼ね備えている。フロリアン・ヴィルツにも通じるものがある。

    だが、本人いわく、好むポジションは8番。スミットにとって、ボックス・トゥ・ボックスの動きはすべての長所を発揮でき、マンチェスター・シティのレジェンドである現ナポリのケヴィン・デ・ブライネにも似たところがある。外見に関してもベルギーでプレーする頃のデ・ブライネを想起させる。

    熟練したボールキャリーや、プレッシャーにも動じないブレーぶり、そして常にピッチ全体を視野に収める立ち振る舞いも含め、基本的なスキルセットはすでに確立されており、マンチェスター・Cを長らくリードし、より洗練された決定的なプレーメーカーへと成長したデ・ブライネこそが究極の目標となるはずだ。

  • Kees SmitImago

    順調にいけば来夏にも

    そんなスミットは契約を2028年まで残しており、AZは移籍市場に出るとなっても交渉で強くいけるポジションだ。『Transfermarkt』によると、AZは現時点で移籍金として2000万ユーロ(約34億6000万円)の値をつけているとされる。

    獲得を考えるクラブにとってはリスクがある一方で、見返りも計り知れないものとなる可能性があるなかで、スミットがどのクラブよりも希望するクラブが1つある。バルセロナだ。

    4月の『Volkskrant』でバルセロナについて「現実的かどうかはこれから次第」とした上で、「彼らは本当に素晴らしいフットボールをしている。美しくて魅力的だ」と話す。また、海外でのプレーにも「海外でも1人でやっていけるし、楽しめると思う。運転免許もあるし、食事の支度もできるよ」と明かしている。

    とはいえ、スミットはすぐに海外へという気もないようで、もう1シーズンのAZ残留意向も示しており、『NH』に対して「今はここでここで自分の力を証明するのみだ。バルセロナやレアル・マドリーの関心はありがたいけど、今移籍するにしても、試合に出られるかどうかわからない」との言葉を残す。

    したがって、スミットの理想的なシナリオはAZで不可欠な存在になってから新たな挑戦に向かうこと、だろう。スミットは成熟した物事の考え方もでき、現在の限界を認識してもいる。順調にいけば、来夏には単なる有望株ではなく、最高峰で頭角を現す準備の整ったトップクラブの選手とへなっているはずだ。