Ousmane Dembele PSG journey GFXGetty/GOAL

デンベレはバルセロナでの失敗を経てようやく大人に? PSGでCL優勝の導き手となればバロンドールへの期待も

年明け、かつてモナコやパリ・サンジェルマンの中心選手として活躍した元フランス代表のリュドヴィク・ジュリはフランス『Telefoot』でデンベレのような選手がリーグ・アンでプレーするのがいかに幸運なことかをこう説いた。

「彼は素晴らしい足とスピードを兼備した信じられないほどのドリブラーだ」

一方で、決定力の物足りなさも指摘し、「もっとフィニッシュの精度に磨きをかけられたら」とも。そこが改善されれば、「リーグ・アンでも最高の選手になれるはず。さらにはバロンドールだって獲りうるよ」と述べた。

だが、それから半年が経ち、デンベレはそのステージにいるといえる。というのも、フィニッシュの精度が高まる上、頭の部分も整理できた状態にあるからだ。

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    「この子は特別だ」

    デンベレは常に類まれな才能を秘める選手だった。レンヌの元スポーツティレクターであり、自身が現役時代のマンチェスター・ユナイテッドでクリスティアーノ・ロナウドとチームメイトだったミカエル・シルヴェストル氏が天賦の才に恵まれたティーンエイジャーと評せば、ドルトムント時代の指揮官であるトーマス・トゥヘル現イングランド監督も「驚異的なスキル」を目の当たりにするのが喜びだと表現している。

    バルセロナ時代の同僚だったマルティン・ブライトバイテに至ってはただただ圧倒され、スペイン『Tot Costa』で「彼のような才能の持ち主は見たことがない。これはマジだ! レオ・メッシは別格だけど、彼のほかでデンベレのような選手なんて見たことがないよ。彼は特別な選手さ」と言及。あのリオネル・メッシでさえも「ピッチ上のフェノメノ」と言ったが、問題はピッチ外が酷かったことだ。

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    「何の規律もない」

    スペインに渡った当時、まだ若かったというのを考慮しても、デンベレはバルセロナでの6年におよぶキャリアをプロ意識の欠如によって台無しにしてしまった感があり、本人もそれを認める。チームミーティングへの遅刻を繰り返したが、それは早朝までゲームに夢中だったためといわれ、食生活においてもプロアスリートとして恥ずべきものだった。ある関係筋は『GOAL』に選手の自宅から数多くのファストフードの容器が見つかり、シェフが用意した魚料理などのヘルシー食が捨てられた状況だったと証言している。

    当時のシェフだったミカエル・ナヤはフランス『Le Parisien』で「めちゃくちゃな生活」と言い放ち、「酒を飲む姿は見たことがないけど、休める気がまったくもってない。何の規律もないんだ」と語り、事実、バルセロナに在籍中のデンベレはほぼすべての期間で調子とフィットネスの両面で苦戦。デンベレは後のスペイン『ムンド・デポルティボ』で「頑張らないと、フットボールを楽しめない。あまり試合に出られず、ケガをしてしまうしね」と自己管理の乏しさを認めた。

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    バルセロナに背を向ける

    だが、デンベレは万全の状態であっても、バルセロナが信頼し続ける理由を正当化できず、依然として謎めいた存在だった。

    アンドレス・イニエスタが「足もとの天才」と評したのは正しいものだったが、デンベレの頭のなかを理解するのは常に難しかった。ジョアン・ラポルタ会長から「特別扱い」を受けるにふさわしいとの主張がなされるなど、公の場で何度も擁護されたが、実力を発揮する機会があったにもかかわらず、2023年夏にパリ・サンジェルマン移籍を決断。事実上、バルセロナを裏切った格好ともいえるだろう。

    当時の指揮官だったチャビ・エルナンデス氏も「彼のことをとても大切に育ててきたと思うし、つらいよ」との言葉を残す。

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    コミットメントの欠如

    そんなパリ・サンジェルマン行きはバルセロナにとって財政面でも痛手だった。というのも、バルセロナは1億4800万ユーロもの高額な移籍金で獲得したにもかかわらず、パリ・サンジェルマンは5000万ユーロを支払ったのみ。しかも、デンベレとの契約内に移籍金を折半する条件があったため、バルセロナは2500万ユーロしか回収できなかった。そのため、バルセロナは契約の見直し交渉を試みたが、失敗に終わっている。

    こうした背景もあり、ラポルタ会長の相談役を務めるエンリク・マシップ氏はスペイン『スポルト』で「良い選手のことは好きだが、献身的な選手の方がもっと好きだ。デンベレは契約を更新しなかった時点で、すでにコミットメントの欠如を示した」と辛辣な言葉を飛ばす。

    「ゴールを決めたり、SNSで嘘をつくのは簡単。もっと稼ぎたいと思うのは当然だが、コミットしているのなら、金に目もくれることなんてないし、今日と次の日で発言が違ったりもしない。だから、ラ・マシアだったり、日々のトレーニングで全力を尽くす選手を使いたいよ。9割のパフォーマンスを披露したかと思えば、次の日は3割程度しか披露しない選手よりもね」

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    メンバー外

    一方で、当時のバルセロナではこれほど苛立たしいほど一貫性のない選手などいなくなった方がましだという意見も。デンベレの退団は確かに痛手だったが、カタルーニャではパリ・サンジェルマンの新たな問題という認識が一般的だった。実際、パリ・サンジェルマンもそれの解決までに長い時間を要している。

    今季のデンベレは昨年9月の段階でも才能を最大限に発揮するだけの規律や決意の欠如を感じさせる出来。移籍1年目のリーグ・アンでたったの3ゴールしか決められなかったなか、好調な出だしだった2年目の今季だが、ルイス・エンリケ監督は10月のアーセナルとのチャンピオンズリーグでメンバーから外すひと幕もあった。

    当時のスペイン人指揮官は具体的に理由を説明するのを嫌ったが、「チームの要求にそぐわなかったり、尊重しない選手はプレーする準備ができていないということ」ときっぱり。それはバルセロナ時代のデンベレからあるプロ意識を欠いた行動に通じ、メンバー外の理由とされる指揮官との口論はトップレベルでのキャリアを終わらせるものではとの見方もあった。

    だが、これが結果的に転機となった。

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    天才的なポジション変更

    デンベレは12月下旬あたりから調子を上向かせ、年明けからの活躍ぶりは見事としか言いようがない。この2025年の欧州5大リーグでデンベレほどゴールに直接関与(31ゴール)した選手はおらず、自身では公式戦25ゴールをマーク。スペインでの6シーズンでリーグ戦に限れば24ゴール止まりだったのを踏まえても、驚異的な数字といえる。

    それもこれも天才的といえるセンターポジションへの配置転換がヒットした背景があるが、エンリケ監督自身はこれほどまでうまくいくとは思ってもいなかったようだ。フランス『RMC Sport』で「昨季はサイドでの彼をよく見たが、こうして9番での起用が多くしている。それによって、我々全員が恩恵を受けているし、満足しているよ」と話しつつ、「しかし、驚くべきはボックス内での絶え間ない動きだ。ずっと求められるポジションにいて、ボールを受けてはワンタッチでゴールを決めていける」と驚きの声もあげる。

    デンベレの活躍により、キリアン・エンバペがいなくなってからの得点力という部分は今季も欠けず。エンバペはこの事実に落胆するどころか、フランス『レキップ』で「僕は彼の一番のサポーター。14歳の頃から彼の才能を知っているんだ。精神面で大きく成長したと思う。そのおかげでゴール前でもよりリラックスできる状態になったね。トッププレーヤーさ!」と喜ぶ。

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    トロフィーが手の届くところに

    デンベレはこうして今やバロンドールを掴むチャンスが舞い込んでいる。パリ・サンジェルマンをリーグ・アン優勝に導き、すでに今季のリーグ戦における年間最優秀選手に。31日にミュンヘンで行われるチャンピオンズリーグ決勝で、パリ・サンジェルマンはインテルと対戦し、初のビッグイヤーを掴み取るチャンスを目の前にする。

    エンリケ監督が言う通り、デンベレは周囲の素晴らしい選手から大きな恩恵を受けているわけだが、今季のアンフィールドやエミレーツ・スタジアムでのノックアウトステージで証明したように、現在のパリ・サンジェルマンにおけるタリスマンと化す。

    指揮官も「子供の頃したゲームだと、ウスマンは試合の流れを変えたいときに選ぶタイプの選手。クリスマスには何を食べたいか聞いてみないとわからないもの。去年から好調だったが、2025年はさらに素晴らしい。それに非の打ちどころのない姿勢もある」

    バロンドールに輝くかどうかはさておいて、フランスフットボール界のアンファン・テリブル(恐るべき子供)がようやく大人になったようだ。