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日本人選手は"掘り出し物”? イギリス人ジャーナリストに聞く「ヨーロッパ屈指のアタッカーの一人になれる」

ベルリンを拠点にするイギリス人ジャーナリスト、エド・マッケンブリッジ氏。日本人選手を高く評価するジャーナリストの一人だ。ロンドンでは『FourFourTwo』でイギリスと世界のサッカーを取材し、ドイツではDFL(ドイツサッカー連盟)の記者としてブンデスリーガも担当している。

「応援するフラムが2002年から2シーズン、元日本代表の稲本潤一をローン移籍で獲得したんです。当時日本人選手は珍しかったので、すぐに虜になりました。イギリスの子どもにも発音しやすい名前で、とても優れた選手でした」と振り返るように、同氏が初めて日本人選手を意識したのは10歳のころ。以後、20年以上注目してきたという。欧州新シーズンのスタートに際し、あらためて同氏に話を聞いた。

取材・文=浅野凜太郎

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    セルティックを新たなレベルへ引き上げた

    稲本選手はUEFAインタートトカップ決勝・ボローニャ戦の1stレグと2ndレグで計4ゴールを決め、フラムファンの人気者になりました。あの大会はなくなってしまいましたが、子どものころの私にとっては懐かしい思い出なんです。彼の後にも、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド/2012-14)、吉田麻也(サウサンプトン/2012-20)、そして2015-16年にレスター・シティのプレミアリーグ優勝に大きく貢献した岡崎慎司といった日本人選手がイングランドで活躍しましたね。

    しかし欧州のサッカーファンが、多くの素晴らしい日本人選手の存在を認識するようになったのは、最近のことです。

    アンジェ・ポステコグルーが2021年にセルティックの監督に就任し、多くの日本人選手がスコットランドでプレーするようになりました。オーストラリア出身のポステコグルー監督はアジア市場を熟知しており、旗手怜央や前田大然、 古橋亨梧(バーミンガム)、岩田智輝(バーミンガム)、井手口陽介(ヴィッセル神戸)といった選手を獲得しています。

    旗手と前田は、セルティックのスコティッシュ・プレミアシップ連覇に大きく貢献しました。前田は24-25シーズンの最多得点選手となりました。その勇敢さ、ハードワーク、フィニッシュはファンに愛されています。キョーゴ(古橋)もセルティックでは素晴らしいゴールスコアラーでした。セルティックのファンは、フィジカル的にもタフなスコットランドのサッカーに、小柄な日本人選手が適応したことに驚いたと思います。非常に勤勉で、誠実で、勇敢。欧州でプレーするプレッシャーを感じさせなかった彼らの技術力は、セルティックを新たなレベルへ押し上げたと思います。

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    三笘、遠藤の影響力

    現在のイングランドサッカー界における日本人選手の好例は三笘薫(ブライトン)ですね。彼はチェルシー戦での見事なゴールで、クラブの年間最優秀ゴール賞を受賞しました。その技術レベルはイングランドのサッカーファンから高く評価されており、三笘はこれまでプレミアリーグでプレーした日本人の中で、最高の選手だと思います。

    また、リヴァプールの遠藤航もヨーロッパでの日本サッカーの知名度向上に貢献しました。謙虚で誠実なところも魅力です。先発できず、たとえ5分しか出場機会がなかったとしても、常に100パーセントの力を発揮できます。その姿勢がファンの心をつかんでいます。2024-25シーズンのプレミアリーグ優勝は、リヴァプールのどの選手にも劣らないほど、遠藤にふさわしいものでした。

    日本人選手は卓越した技術と知性、そして優れたリーダーシップと勇敢さを備えていますね。小柄ですが、そういったフィジカル面のディスアドバンテージを補う体力と粘り強さを持っていることが評価される理由でしょう。

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    堂安律のドイツでの存在感

    私はドイツサッカーの記者も務めていますが、ブンデスリーガでの日本人選手たちの活躍も目覚ましいと思います。特に、2024-25シーズン、フライブルクで10ゴール8アシストを記録した堂安律(フランクフルト)。彼は知的で勤勉なアタッカーであり、ボールを持てば正しい選択をしてくれる非常に優れたフィニッシャーです。

    そして、降格圏に沈んだホルシュタイン・キールでリーグ戦11ゴールを記録した町野修斗(ボルシアMG)。下位チームのキールで多くのゴールを決め、チームのサッカーの質を高めました。この夏、彼に興味を持つクラブは少なくないでしょう。町野は移籍に値するだけの力を発揮したと思います(7月、ボルシアMGに移籍)。

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    久保建英の可能性

    私は、5月にラ・リーガの招待を受けて、バスク地方で行われたレアル・ソシエダとアスレティック・クラブのダービーを観戦する機会に恵まれました。この試合のハイライトの一つは久保建英だったと思います。彼のダイレクトな走りと的確なコントロールは、相手ディフェンダー陣を翻ろうしていました。

    もちろん、久保については以前から知っていました。今回初めて間近で彼を見られて本当にうれしかった。ただ、久保は素晴らしいアタッカーですが、スーパースターになるためにはまだまだ磨きをかける必要があるとも思いました。

    24歳という若さを考えれば、これから多くの成長が期待できます。移籍が噂されていますが、レアル・ソシエダに引き続き所属したとしても、ソシエダには彼の成長に最適な環境があると思います。若手選手に信頼を寄せる文化があり、トレーニング施設もワールドクラスです。久保は今後3、5年の間に、ヨーロッパ屈指のアタッカーの一人になれると確信しています。

    また、浅野拓磨もラ・リーガでプレーしていますね。私は浅野がマジョルカに移籍する前のブンデスリーガ時代、熱心に追っていました。ドイツではシュトゥットガルト、ハノーファー、ボーフムでプレーしましたが、勤勉で戦術的にも優れたFWとして強い印象が残っています。オフ・ザ・ボール時の運動量の多さと、苦戦するクラブで得点に貢献する才能が高く評価されていました。

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    日本人選手は"掘り出し物”?

    欧州のクラブは、ヨーロッパの選手と比較して安価に獲得できる日本人選手に注目しています。サッカー界に真の掘り出し物は残っていませんが、日本人選手はたびたび掘り出し物となります。三笘は川崎フロンターレからブライトンに300万ユーロ(約3億9000万円)で移籍したとされていますが、これはまったくもって法外な金額です。今、彼を売却すればその価値は5000万ユーロ(約80億円)程度になるでしょう。もちろん、クラブは売却したくないと思いますが…。

    英国とドイツのサッカーファンは、多くの日本人選手を尊敬しています。なぜなら彼らはプロフェッショナルであり、コンディションに気を配り、チームのためにすべてを捧げます。そして高いレベルの技術力とゲーム理解力を発揮してくれるからです。欧州新シーズンも、多くの日本人選手がプレーします。私もその動向を追い続けようと思います。