女子ワールドカップ(W杯)2023の準々決勝・スウェーデン戦で自ら得たPKのチャンスをものにできず、悔し涙を流したFW植木理子は、大会後の今月12日にFA女子スーパーリーグのウェストハムへの移籍を発表。そして、23日に行われたなでしこジャパンの国際親善試合・アルゼンチン戦で、W杯のリベンジに当たるPKを成功させている。
■W杯スウェーデン戦での悪夢
北九州スタジアムで、80分に相手のペナルティエリア内で後ろから倒されPKを獲得した植木の姿は、W杯の準々決勝・スウェーデン戦を彷彿させた。
8月のニュージーランド。0-2と追う展開で52分に投入されると、相手DFの間を割っていく積極的な仕掛けからPKを獲得。しかし、自ら足を振り抜いたボールはクロスバーに阻まれた。その後チームは1点差まで迫ったものの及ばず、ベスト8で敗退した。試合後、植木は人目もはばからずピッチ上で泣き崩れた。
あれから1ヶ月以上がたった。アルゼンチン戦で、キッカーに指名されている長谷川唯から譲られボールを手に取ると、今回は右隅に落ち着いて流し込んだ。アンダー世代の代表からともに戦ってきた同い年のDF高橋はなは言う。「絶対決めるな、と思っていました。本人的にはもしかしたらいろんな思いがあったかもしれないけれど」。高橋は、PK直後、背番号9に駆け寄り抱きしめた。
チームは8-0で大勝。試合を終えた植木は「もちろん、引きずってはいますけど」と苦笑いしつつ、「ゴールを決められて安心しました。それ(W杯のPK失敗)を払拭できたのは本当によかったし、次につながるPKだったのかなと思います」と、心残りが一つ晴れた表情を見せた。
■得点王3冠も、感じた自身の甘え
GOAL昨季、日テレ・東京ヴェルディベレーザでWEリーグカップ、リーグ戦、皇后杯で得点王の3冠を達成した植木は、W杯が終わって1カ月、10代の少女のころから約11年を過ごしたクラブを離れ、ウェストハムへの移籍を発表した。
「自分が何かをやれている実感というのをあまり感じたことがなかった」と振り返るように、国内では得点を量産していたものの、代表にしてもクラブにしても、パサーが自分のスタイルを分かってくれている環境に甘えてしまうことを常々感じていた。たからこそ、海外に出て「受け手」としてのスキルを磨いていきたいのだという。
「自分を知らない選手から、劣勢な状況でもボールを引き出せれば、なでしこに戻って来た時に、もっとチームに必要な選手になれるんじゃないかなと思います」
現状、なでしこジャパンで出場機会を得ているが、完全な先発とは言えない。このアルゼンチン戦も交代出場であり、W杯での先発出場はグループステージ第3節のスペイン戦のみだった。「スタメンで出たい気持ちはある」ゆえに、「(ゲーム)作りの部分や、そこでの関わりはもっともっと必要だなと思います」と自らの課題も認識している。
来年のパリ五輪に向け、10月、アジア2次予選が始まるが、メンバーに入るための競争は当然ある。それは新天地・ウェストハムも同様で、「自分も新しい環境になりましたし、そこで結果を残し続けることが必要だと思います」と気を引き締める。
25日、ウェストハムが発表した植木の背番号は「9」だった。日本のストライカーから、世界のストライカーへ。チームにとって必要不可欠な選手になるために、「修行に行くイメージで出た」植木理子は、結果にこだわり続ける。
取材・文=伊藤千梅


