U-23マリ代表をホームに迎えて行われた22日の国際親善試合。U-23日本代表は五輪出場を既に決めているアフリカの強豪に1-3と苦杯を舐めた。
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その唯一の1点を決めたのはFC町田ゼルビアのMF平河悠。佐賀東高校から山梨学院大学を経て当時J2の町田へと加入した遅咲きのスター候補だ。【取材・文=川端暁彦】
■「ふがいない試合」での光明
(C)Kenichi Arai丹波の山々も近いサンガスタジアム by KYOCERAには3月下旬とは思えぬ寒風が吹き込んでいた。19時20分のキックオフ時点での気温は7.5℃だが、時間の経過とともにさらに低下していった。その寒さに比例したわけでもないだろうが、日本のチームパフォーマンスも低空飛行。大岩剛監督は「ふがいない試合をしてしまった」と漏らしたが、褒められるような試合でなかったことは確かだ。
率直に言って、マリが強かったというのは確かにある。アフリカ勢との対戦は五輪チーム結成以来初めてであり、コロナ禍によってU-19・20日本代表の活動もなかった世代のため、さかのぼってもアフリカ勢との対戦経験がない選手がほとんど。このため、試合後にはマリの「身体能力の差」に驚いたことを言及する選手が目立った。
ただ、その中にあって飄々と「こんなもんでしょ」と言わんばかりに振り返っていた選手がいる。左サイドMFで先発した平河悠(FC町田ゼルビア)だ。
「(アフリカ勢相手ということは)あまり意識していなかった。仕掛けたら抜けると思っていたし、そこの壁はあまり感じなかった」
昨年になって初めて年代別日本代表に招集された平河は、これが通算4度目の国際試合(先発は3度目)。こうしたキャリアの選手がいつもと違う外国勢相手に萎縮してしまう光景も珍しくないのだが、平河にそういう様子は見えない。
開始2分、セットプレーからこぼれてきたボールを押し込んだ場面についても「たまたまたこぼれてきたので」と淡々と振り返ったが、慌てることなくしっかり流し込み、代表での初得点も記録してみせた。守備に回っても忠実にサボらず走る本来のプレーをしっかりと表現。対面のDFアーメド・ディオマンデに対しても「A代表経験もある選手だと聞いていたけど、しっかりやれたと思う」と自信を持って振り返ったように、相手の攻撃面での特長を出させなかった。
■高校から描いた成長曲線
(C)Kenichi Arai思えば、初招集となった時点からこの度胸の良さは発揮されていた。何せ国際試合へのデビューはアウェイのイングランド戦である。プレミアリーグで活躍するスター選手を揃えた相手に「思っていたよりもやれたし、自分のプレーも出せた」と振り返るパフォーマンスを披露。瞬く間に代表での序列を大きく上げた。
この遠征はJ1開催期間中だったために招集できない選手が多く、平河にチャンスが巡ってきた形だった。そのワンチャンスをしっかり掴めるのも、ある種の達観すら感じさせるこうした精神面での特長があってこそだろう。
平河はユース年代から突出したプレーを見せていた選手ではない。九州の強豪・佐賀東の主力ではあったが、年代別日本代表はもちろん、プロや強豪大学が獲得に殺到するような選手ではなかった。早生まれだったこともあり、体の成長は同学年の選手たちの平均より遅れていたことが災いしたのは確かだろう。
ただ、身体的なアドバンテージを取れなかった中で、スピードに頼ったプレーではなく技術の貯金もしており、それが山梨学院大学で開花。町田にスカウトされて大きく羽ばたくこととなった。そのキャリアパスは、同様に早生まれで埋もれそうになりながら、大学で開花したカタール・ワールドカップ(W杯)日本代表MF伊東純也を彷彿とさせるものがある。
パリ五輪の年齢制限は2021年1月1日以降に生まれた選手が対象のため、1月3日生まれの平河は「ギリギリ年齢制限内」の選手。早生まれだったことが、ここに来て幸いする形となっている。
■さらなる飛躍の年へ
(C)Kenichi Arai昨季はJ2で優勝、今季から初めてJ1でプレーすることとなったが、一段上のレベルでも問題なくやれることはここまでの試合で実証済み。首位スタートとなったチームを引っ張る活躍ぶりを見せている。
もちろん、さらにワンランク上のステージに行ける選手となるかはここからが勝負。ただ、どんな舞台に立っても慌てず騒がず堂々とプレーする精神性は、平河が備える特別な武器であり、代表チームのような場で大きなアドバンテージとなる要素。五輪予選という「真剣勝負の国際大会」の未経験のステージで、さらなる開花の予感は十二分に漂っている。



