■控え組に回っていたことで
セットプレーのこぼれ球からゴチャッとなったと思ったら、ボールの先にはこの男がいて、ヒーローになっている。青森山田で何度も見た光景だなと思っていたら、日本の指揮官も同じことを感じていた。
「まさに『気付いたら玖生』ってね」
U-21日本代表の大岩剛監督はそう言って微笑みつつ、「これぞ松木でしたね。あのようなセットプレーとかそのこぼれ球とか、彼が高校時代から得意としている形だったし、勝負強さを再認識しました」と喜んだ。
実は試合前日の取材でも、本人に「セットプレーとか、そのこぼれ球とかが大事になるよね?」という話を振っていたので、記者自身もまた彼に“そういうゴール”をしていたのだろうと思う。単純に難易度の高いボレーシュートを突き刺したというだけではなく、“松木玖生”を感じさせるゴールだった。
U-23アジアカップの第3戦はグループステージ突破を懸けた試合となったが、ここで大岩監督はメンバーの刷新を選択。酷暑の連戦となる中で先発10人を入れ替えてフレッシュな選手たちで勝ち点を取りつつ、ノックアウトステージに余力を残す決断を下した。松木は入れ替わってピッチに立つ側で、これが初めての出場だった。
いわゆる先発組ではない、控えに回る立場になったことに思うことがなかったはずもない。本人は「ウズウズしている」という言葉で形容していたが、大岩監督も「いろんな感情がある」とその心中を慮る。
年少組とはいえ、J1でレギュラーを張る選手としてのプライドもあるし、チャンスの巡ってきた3月のドバイカップで結果を出せなかったという悔しさも抱えたままで、モヤモヤとした感情が残っていたことは想像に難くない。ただ、こういう場合の感情を悪いほうに持っていかず、ピッチで爆発させるのも「これぞ松木」だった。
■飢えを隠さない個性
AFCこのチームの中盤の中央には藤田譲瑠チマ、松岡大起、鈴木唯人、山本理仁といったプロとしての試合経験も豊富に持つ年長の実力者が揃う。それぞれ特長とするプレーは異なるので選び方や考え方次第という面もあるだろう。ただ、本人は「出場機会を得られないのは自分の責任」とキッパリ言いつつ、トレーニングでは獣のような猛々しさものぞかせてきた。
「出たら絶対結果を残せるという気持ちもある」
冷静に考えると、ボランチを本職とする選手がここまで「ゴール」というものにこだわって、飢えを隠さず、そして本当に決め切ってしまうということを繰り返しているのも珍しいが、それこそ松木の個性でもある。
大岩監督はこうも語った。
「あのようなところで決め切る。みんなが期待しているところで。それは彼の持っているものなのかな、と思う」
■日韓戦の切り札としての期待
AFCタジキスタン戦は3-0の勝利とはいえ、内容的には「われわれのプラン通りとはいかなかった」(大岩監督)試合になった。松木個人もPKを失敗したというだけでなく、うまくいかない時間帯も短くはなかった。指揮官はそうした中で守備を締めた「献身性」も高く評価する。
常識的に考えると、準々決勝のメンバーはサウジアラビアとの第2戦をベースにしたものに戻るだろう。ただ、2歳年長の韓国は、9月に予定されていたアジア競技大会(来年に延期)の金メダルで得られる兵役免除も意識して準備されている強力なチームである。主導権を握れない中で、ある種の逞しさを求めるのであれば、「松木」の選択肢は自ずと上がってくるのではないか。
攻守で発揮される献身性と粘り強さ、そして肉弾戦でも対抗し得る逞しさ。先発ではなくとも、交代出場の勝負駒の一つとして松木の起用は現実的で、日韓戦の切り札としての期待感はある。
準々決勝の日韓戦について松木は「もちろん注目される試合になると思う」としつつ、こう語る。
「自分は自分らしいプレーをする。相手に惑わされないように。日本人らしいサッカーの立ち居振る舞いをしながらゴールに向かっていけばいい。それができれば絶対に勝てると思っているので、チームでもう一回話し合いながら、修正するところは修正していきたい」
次なる試合は12日、準々決勝の韓国戦。この決戦が終わったときに、「これぞ松木」とか「気付いたら玖生」という言葉がまた聞けることをこっそりと期待しておきたい。
[U-21日本代表次戦情報]
AFC U23アジアカップ2022
準々決勝
U-21日本代表 vs U-23韓国代表
2022年6月12日(日)22時キックオフ
DAZN独占配信
