Qatar vs USA; 2021 Gold CupQFA Twitter

「アスパイア・アカデミー、科学的なアプローチ、長期計画」ティム・ケーヒルが語る、カタールをアジア最高峰のチームに押し上げたノウハウ

2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)は、ホスト国としてカタール代表が初めてW杯本戦に参加する大会となる。カタール代表が予選を突破した経験はないが、ホスト国とならなければ今大会に出場することができなかったかと言われれば、判断は非常に難しい。

なぜなら、カタールは現アジア王者だからだ。2019年アジア杯ではイラク、韓国、日本といった強豪を倒し、頂点に上り詰めた。また、2023年アジア杯予選を兼ねていたため、同代表はW杯アジア2次予選にも出場した。そこでカタール代表は印象的な結果を見せた。予選グループを無敗で勝ち抜けたのだ。

2019年コパ・アメリカや2021年CONCACAFゴールドカップのような他の大陸の大会にも招待国として参加し、立派なパフォーマンスを見せた。コパ・アメリカでカタールはパラグアイと引き分け、敗れはしたがコロンビアやアルゼンチンとも僅差の戦いを見せた。ゴールドカップでは、なんと準決勝まで勝ち進んだが、惜しくも世界ランク10位のアメリカに敗れてしまった。

現在カタールはW杯ヨーロッパ予選に参加している。グループにはポルトガル、セルビア、アイルランド、アゼルバイジャン、ルクセンブルクが入っている。このグループにおいてカタールの試合は親善試合の扱いだが、2022年W杯のテストとしては非常に厳しい戦いになるだろう。この大会によってカタールの競技力の向上が期待される。

カタールがサッカーで地位を高めていることに全く驚いていないと語るのは、エヴァートンでプレーしたオーストラリアのスター、ティム・ケーヒルだ。現在41歳のケーヒルはオーストラリア代表として3度W杯に出場し5得点を決めた経験を持つが、現在はカタールに住んでおり、カタールのスポーツアカデミー「アスパイア・アカデミー」でチーフ・フットボール・オフィサーという役職に就いている。

Tim Cahillsc.qa

ドーハにあるアスパイア・アカデミーこそが、カタールが大陸の強豪国となった大きな理由だ。このアカデミーは世界トップクラスの施設を誇り、トップレベルのコーチを擁する。カタールの現代表チームに多くの選手を輩出しており、現在はすでに次世代の育成にも着手している。ケーヒルは、アカデミーが代表選手の主な供給源になっているのは、システマティックなアプローチと長期を見据えた計画があるからだと語る。ケーヒルは『Goal』に対して以下のように語る。

「僕はカタールに2010年から旅行で来ていたんだ。エヴァートンにいたときにはオフシーズンに来ていたものだ。そして今またここに戻ってきて、アスパイア・アカデミーでフルタイムで働いている。ここで学ぶことは子どもたちの成長と成熟について。そして全てのフットボーラーのことだ。ここには230人の子供がいる。アカデミーでは子供の成長について、世代ごとの側面を見ることもできる。僕がいつも言っているのは、アスパイア・アカデミーがなければ今の代表チームも存在し得ないだろうということだ」

カタールがどのように現在の代表チームを作り上げたのか。ケーヒルはさらに説明を続ける。代表チームには現在、30人程の選手の中にアスパイア・アカデミー卒業生がほぼ20人在籍している。カタールが開催国に決まってから、アカデミーに集められた選手たちで、彼らは代表チームの一員となるべく作り上げられた。アルモエズ・アリやアクラム・アフィーフたちは皆『アスパイア』が輩出した選手だ。

Almoez Ali of Qatar; 2021 Gold CupQFA Twitter

「現在、代表でプレーする30人のうち20人がアスパイアの出身だ。彼らは長い間ずっと共に過ごしていた。そして、下の世代の若い選手たち(現在アスパイアにいる選手たち)は巣立っていった選手たちを見ているから、彼らが成し遂げたことを分かっているんだ」

「カタール代表チームは、ひとつのユニットだ。選手が一緒に成長するのを見ることができ、化学反応やリーダーシップを見ることもできるユニークなチームだ。代表のチーム編成に関しては交渉の余地はなく、一切手を抜くこともない。僕はそれを目にしているよ。窓の外を見ると、トップチームの練習や若手の練習を見ることができて、細かく様子を見ることができるようになっているんだ」

次にケーヒルは、選手たちが享受している成功について、カタールサッカー協会(QFA)の長期的なビジョンを高く評価した。

「ビジョンがある国に強いリーダー達がいて、彼らがビジョンを描くことができれば、それが結果につながると思うんだ。人口のことを考えてみるといいよ。オーストラリアの人口は2400万人だったかな?カタールは280万人だ。だけど、ひとつの地方に住んでいるのはおそらく35万人から40万人くらいだ」

「だからアカデミーを始めるにあたって、選手を選ぶのに数少ない集団から選ぶことしかできないとしたら、細かくいろいろ見ていかないといけないんだ。左を走るのが好きか、右を走るのが好きか、3年間で3センチ背が伸びそうかどうか・・・そういうことを知らないといけない。基本的に全ての練習に参加しないといけないし、コーチ陣と協力しなければいけないし、科学的な面も検討しないといけない。数字の話をすると、W杯でプレーすることで彼らの成功とサッカーへの投資につながるんだ」

Aspire Academy, QatarGetty Images

ただ金銭をつぎ込んだというわけではなく、重要なのは正しい分野に投資することだとケーヒルは述べた。カタールはそれを上手くやってのけ、競争力の高いチームを作り上げたのだ。カタールは、他の協会が将来サッカーチームを成長させたいときに参考になるとケーヒルは思っている。

「カタールはW杯出場に値するチームだと思っているよ。ゴールドカップではアメリカに負けたが、準決勝まで進む成果を見せた。PKを外して事態が上手く転ばなかった。彼らに運が向かない日だったんだ。けれど、どの試合でもよく戦ったし、ほとんどの試合を支配していたよ」

「だから、他の国の協会がカタールをよい手本とできるのではないかと思っているんだ。そしてこう言うだろう。『ちょっと待って、たしかに彼らは多くのお金を投じているけれど、どのように使ってきたんだろう。彼らからどんなことを学べばいいだろうか?』とね」

カタールは2022年W杯で健闘すると言ってよいだろう。決勝トーナメントに進出は少々厳しいかもしれないが、古参チームに簡単にやられることもないだろう。そこまでの実力を培うことができた理由のほとんどは、QFAのビジョンと実行力、そしてアスパイア・アカデミーの専門知識とノウハウによるものなのだ。

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