プラン通りに試合は進んでいた。115分にネットを揺らされるまでは…。
勝てば53年ぶりのメダル確定と史上初となる決勝進出が決まる準決勝。ここまで勝ち進んできた日本は、強豪・スペインと対峙していた。
大会直前に行われたキリンチャレンジカップで対戦していたこともあり、相手のある程度の戦い方は把握できていた。ボールを握られることは承知の上。その上で、どれだけ粘り強く戦いながらゴールを奪うかが日本には求められていた。
予想通り、日本は立ち上がりから相手にボールを持たれた。ただ、それは織り込み済みで「守備に重きを置いて入った」と田中碧が言うように我慢強い守備を続けていく。
(C)Getty images特に徹底していたのは久保建英が相手のアンカーを封じること。マルティン・スビメンディにボールが入ると縦にもサイドにもボールを展開されてしまうため、久保が背中で監視しながらパスコースを限定。また、最終ラインのビルドアップには林大地や旗手怜央がプレッシングを掛け、ボールを奪い切れなくても中央を切りながらサイドにボールを展開させる守備を貫いた。
「中盤はマンツー気味にやって、そこはうまくハメながらやれていた。前半はしっかり我慢して、後半はかなり割り切ってブロックを敷いてやったし、そこは悪くなかったと思う」(遠藤航)
それでも相手はスペイン。インサイドハーフに入ったペドリとメリノが巧みなポジショニングをとって縦パスを引き出し、前を向くシーンを作っていたのはさすがと言っていい。コンパクトな守備を保ち、うまく相手の攻撃を水際で食い止めていたが、徐々に進入される場面を作られていった。
■交代策でゴールを奪いに行ったが…
(C)Getty Images苦しい時間帯が続きながらも延長戦に持ち込んだ日本は、一つの大きな手を打つ。攻撃の柱である堂安律と久保建英を代え、前田大然と三好康児を投入したのだ。
実際、堂安や久保は疲れていた。中2日の連戦に加え、守備のタスクを担って相当な運動量で試合を続けていたため、「代わって正解だなとベンチで思ってたくらい体も本当にボロボロだった」とする堂安の言葉もうなずける。
フレッシュな選手の起用は、明確にゴールを奪いに行きたい姿勢が見て取れた。「替わった前線の4人は、共通の意識を持ってカウンターのところを狙っていた」と三好が振り返るように、押し込まれる状況の中で相手のハイラインを崩すにはカウンターで得点を目指すしかなかった。
しかし、チャンスこそあれど決め切ることができないと、115分に一瞬の隙を突かれて失点。決勝進出を目前にして金メダルの夢は潰えた。
(C)Getty Images終盤まで日本は耐え凌ぎながらチャンスを探っていた。そこまで相手に決定機を与えていたわけでもない。だが、あと一歩届かなかった。田中碧はスペインとの差を口にした。
「結局、試合を決めるのはゴール。どんなに素晴らしくボールを取っても、どんなに素晴らしい縦パスを入れても、結局ゴールネットを揺らさないと勝てない。もちろんそれは誰もが分かっている。しかし、相手はワンチャンスだったかもしれないけど、それを決められたらゲームが変わってしまう。改めてチーム全体というか、個人としてどうやってそこでネットを揺らすかを追求していかないといけないと思います」
最後の最後に個のクオリティのところで試合を決められてしまった。決して組織力で下回っていたわけではない。それでも試合を決める力がスペインにはあった。
この敗戦から切り替えるのはそう簡単ではない。だが、この試合を教訓として次に生かさなければならない。今大会を笑って終えるためにも、メキシコとの3位決定戦に勝ってメダリストになる必要がある。


