たった6単語のツイートから、モハメド・サラーはチャンピオンズリーグ(CL)決勝を前に気合いが入っていることが分かる。
レアル・マドリーはまだサンティアゴ・ベルナベウのピッチ上に残り、準決勝のマンチェスター・シティ戦での逆転勝利を祝っていた。その時リヴァプールのエジプト人スターが、短くもはっきりとしたメッセージをSNSに投稿した。
「決着をつけなければならないことがある」
何のことかは明らかだ。
その前夜、ビジャレアルにホームで勝利したことを受けて、サラーは自身の気持ちをはっきり公言していた。
ピッチサイドで「決勝の対戦相手はマドリーがよいか、シティがよいか」と質問をされたときのことだ。サラーはきっぱりと答えた。
「個人的な意見でよければ、僕はマドリーと戦いたい。彼らには決勝で負けているからね」
正直な態度が清々しい。ほとんどのサッカー選手はこうした質問に対して「どちらも厳しい相手だ」とか「自分たちのことに集中したい」などと答え、決まり文句で明言を避けるだろう。
だがサラーは違った。サラーはマドリーと対戦したい。2018年からマドリーを求め続けていたのだ。
GettyImage4年前のキーウ(キエフ)の夜以降、リヴァプールは見事に躍進を遂げた。だが、サラーは当時のことを鮮明に覚えている。
だからこそサラーは、これまで以上にモチベーション高く土曜日にスタッド・ド・フランスで走ることだろう。「モチベーションは天井を突き抜けているよ」と語っていたとおりだ。
キーウでは、セルヒオ・ラモスによって肩を負傷し、早々に交代を余儀なくされた。サラーは今もその痛みを覚えているという。
「僕のキャリアで最悪の瞬間だった。フットボールに関して、そんな風に感じたことはそれ以前にはなかったんだ」
■当時を忘れない…
サラーの負傷交代も影響し、リヴァプールは栄光を手にすることができなかった。この無力感も覚えている。悪役となったセルヒオ・ラモスがその後サラーの不幸をネタに大喜びしていたことに対して感じた苦々しい怒りも忘れられない。
涙も、感情が麻痺した。ロッカールームの外で頼まれた、「ソルトベイ」として知られるヌスレット・ギョクチェとのセルフィーは当時のことが鮮明に分かる写真だ。サラーは腕を吊り、リヴァプールのジャージを羽織っている。そして、やたらと高価なステーキに塩を振りかけることで有名な、注目を集める見た目の人物が決め顔で隣に写っている。
サラーはなにかに取り憑かれたような、ぼんやりした目をしている。
翌年のトッテナムとの決勝戦の前に、サラーはこの写真のことを振り返っていたという。当時を思い出し、モチベーションとしたサラーは先制点を挙げ、初のビッグイヤーを掲げていた。
「このことを覚えておかなければ、と思ったんだ。あの出来事をモチベーションにしたのさ」
サラーが鼻を明かしてやりたいと思っていた男・ラモスが昨夏レアルからパリ・サンジェルマンに移籍していたとしても、今回リベンジを果たしたいという気持ちがあることをこれほどまでに公言している。サラーがこのように考えていると知れば、それほど驚きではないだろう。
だが、サラーの発言について批判する者もいる。
(C)Getty Imagesレアル・マドリーのMFフェデ・バルベルデはサラーについて、13度の栄冠に輝いた王者の「エンブレムを軽んじている」と糾弾する。また、2005年にリヴァプールでCL優勝を果たしたディートマー・ハマンは、そういった話は試合後にすべきだと指摘した。
ジョーダン・ヘンダーソンは水曜日の記者会見で、リベンジについて聞かれると一笑に付した。
「本気で言ったわけじゃないだろ?モー(サラーの愛称)」とレッズのキャプテンが笑うと、隣に座っていたサラーはただただニヤッと笑った。
ユルゲン・クロップも、サラーの「並々ならぬモチベーションの高さ」について質問されると、こう答えた。
「私自身はリベンジと思ってはいないが、理解はできるよ。モーが言ったことも分かっている。正しい方に向かいたいと思っているんだろう。私たちもそうだ」
■サイドでの攻防が注目点

キーウでの結末と逆の結果を得るためには、サラーは重要な存在となりそうだ。だが最近のサラーは調子を落としている。
日曜日に行われたウルヴス戦で挙げたゴールで、サラーの今シーズンの得点は全コンペティション合計31得点に達し、プレミアリーグでも3度目の得点王に輝いた。だが、2月以降の19試合に限ればわずか4得点に留まっており、対照的に、それ以前には31試合で27得点していた計算になる。
他の選手であればこれは懸念材料であったかもしれないが、サラーには当てはまらない。サラーが次の挑戦に向かうときの切り替えこそ、特別な才能を持つ選手としての抜きん出た能力の一つなのだ。
「心の中では、いつでもポジティブに考えようとしているんだ」と語る彼は、ヘンダーソンがCLのトロフィーをパリで掲げる瞬間をすでに思い描いているのだという。そして、「次に僕に渡してくれるといいな!」と微笑んだ。
決勝の雌雄を決するであろうバトルの中でも、リヴァプールの右サイドとレアル・マドリーの左サイドは最も重要な要素となるだろう。
サラーとトレント・アレクサンダー=アーノルドが爆発すれば、クロップのチームが成功を収めるだろう。そうならなければ、輝かしい才能を持つヴィニシウス・ジュニオールに苦しむことになるかもしれない。
何が起ころうと興味深い一戦になることは間違いない。リヴァプールはカップ戦3冠を達成しようとしており、ラ・リーガ35度目の優勝を果たしたレアル・マドリーはCL14度目の優勝も今年の業績に加えようとしている。華やかな色めき、スタイルの衝突、2つの強豪の出会い。パリは盛り上がることだろう。
そして今回、サラーは自分がノックアウト・パンチを叩き込むことを望んでいるはずだ。




