過去数週間の活躍により、カリム・ベンゼマが注目の的になりつつある。レアル・マドリーのストライカーは2022年のバロンドールの最有力候補となるだろう。
だが、ゴールキーパーのティボー・クルトワも、レアル・マドリーが大記録であるチャンピオンズリーグ14度目の優勝を果たすために同じくらい重要な選手であることを示しつつある。
クルトワはゴール前で選ばれし者の大会を楽しんでいる。その強さと、ピッチの両端に最高の選手がいることをもって、現在のレアル・マドリーは、リオネル・メッシとマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンがチームの強さの両輪であった、ポストMSN時代のバルセロナを彷彿とさせる存在だ。
この2人は2017年から2019年の間にバルサに勝利と栄冠をもたらしたが、その間チームとしての力は衰えていった。
2人のチームへの貢献度は、たとえばルカ・モドリッチとヴィニシウス・ジュニオールのコンビと比べても過小評価されるべきものではない。だが、レアル・マドリーでかけがえのない2人と言えば、ピッチの両端にいる選手である。
「ベンゼマとクルトワが今のレベルにいれば、レアル・マドリーの14回目の優勝は確実」との見出しがスペイン『マルカ』に躍った。4月7日(水)、チャンピオンズリーグ準々決勝のファーストレグで、レアル・マドリーがチェルシーに3-1で快勝した後のことである。
(C)Getty Imagesチャンピオンズリーグにおいてレアル・マドリーは相手GKのミスを容赦なく突いてきた。パリ・サンジェルマンではジャンルイジ・ドンナルンマ、チェルシーではエドゥアール・メンディが犯したミスをベンゼマがスマートに得点へとつなげている。
それとは対照的に、レアル・マドリーのゴールキーパーはここまでノーミスである。
特にパリ・サンジェルマン戦ではキリアン・エンバペのシュートを見事にセーブし、元バルセロナのライバル、リオネル・メッシのPKも止めた。
『マルカ』の言葉を借りるなら、「クルトワのセーブは、ベンゼマのゴール量産と同じ価値をレアル・マドリーにもたらした」のだった。
■マドリー加入の経緯
(C)Getty Imagesエスタディオ・ベルナベウに来たばかりのクルトワには苦難の時期もあり、チャンピオンズリーグを3度制したGKケイラー・ナバスを懐かしむファンも多かった。しかし、現在29歳のクルトワのコンディションはかつてないほどよく、2011年から2014年にかけて、レンタル移籍していたアトレティコ・マドリーで素晴らしいパフォーマンスをみせたときをしのぐほどである。
そのときのラストシーズン、2014年のチャンピオンズリーグ決勝はクルトワにとって苦い思い出となった。対戦相手はレアル・マドリーで、「デシマ」、すなわち10回目のチャンピオンズリーグ制覇を達成されてしまったのである。
このときクルトワは、ロス・ブランコスがトロフィーを掲げる姿を目の当たりにしたが、そのときすでに、いつかはスペインの首都に戻り、今度はアトレティコ最大のライバルチームであるレアル・マドリーの方に加入してプレーすると思っていたかもしれない。
その気持ちは、チェルシーに所属していた時代も変わらなかった。それもあって、その非の打ち所のない才能にもかかわらず、ブルーズファンは彼を完全には好きになれないでいた。ファンはクルトワが心からチームを愛しているとは思っておらず、クルトワもたびたび自身の子供が母親と暮らしているスペインに帰りたいと漏らしていた(訳注:クルトワと子供の母親は事実婚で2016年に破局)。
2018年の夏には、クルトワはスタンフォード・ブリッジを離れざるをえないと思うようになっていたようで、レアル・マドリーとの契約が具体化した。世界一のゴールキーパーの一人を加入させるためにレアル・マドリーが支払ったのはたったの3,500万ユーロ(約48億円)だった。
その代わりにやってきたのはケパ・アリサバラガ。移籍金7,200万ポンド(約120億円)と鳴り物入りで加入したが、クルトワには遠く及ばない出来に終わっている。
■“傲慢”な一面も?
(C)Getty Imagesクルトワはチェルシーで2度プレミアリーグを制し、カラバオ・カップも1回優勝しているが、隠されていた当時の恨みがファーストレグでは表面化した。
ファンの一部が過激なチャントで煽り、他にも「蛇」と呼んだり、ボールに触るたびにヤジが飛んだ。そうしたファンにとって残念なことに、クルトワは何度か決定的なシュートを防ぎ、レアル・マドリーは大きな勝利を土産にスペインに帰ることになったのである。
クルトワは試合後、「もちろん、チェルシーのファンが友好的ではないことはわかっていた、特にスタジアムではね。ただ、それもサッカーの一部だ。残念なことに、彼らは僕の退団について、事実とは違うように想像している」と話した。
険悪なムードの中にあっても、クルトワをリスペクトしなければならないようなシーンもあった。後半、セサル・アスピリクエタのシュートを阻止した抜群のセーブは、まさに決定的瞬間であった。
「クルトワはレアル・マドリーのエアバッグだ」と『アス』は表現。つまり「カーブを曲がりきれずに飛び出しそうになっても、クルトワが救ってくれる」からだ。
クルトワは自分の能力を自覚しており、その様子はしばしば試合後のインタビューに表れている。4月第1週のセルタ戦では決定的なセーブを何度も見せ、チームを2-1の勝利に導いた。直後にクルトワは「僕が前半に2回ビッグセーブをしなかったら、勝てたかどうかわからないな」と話し、こうも続けた。
「僕が一番だってことは、他の人に言われなくてもわかっている。僕は自信を持ってプレーし、自分が何者かをわかっている。人がどういうかは、あなた方メディア次第だ。セルタ戦では、(チアゴ)ガリャルドのシュートをセーブしたけど、自分に自信が持てないでいたらあれはできなかったと思う。僕は自分に自信を持たなければならないと言ったが、それが結実したんだ」
この自信過剰にも見える姿に対し、「傲慢だ」と言う人もいる。だが、これはゴールキーパーにとって重要な要素だ。GKはたった一人で大勢に立ち向かうポジションであり、決して欠点とはならないだろう。
■セカンドレグでも存在感
Gettyディフェンディング・チャンピオンのチェルシーは、12日のセカンドレグでがむしゃらに点を取りにきた。どしゃ降りのスタンフォード・ブリッジでベンゼマにハットトリックを決められ、後がなかったからだ。
敵地サンティアゴ・ベルナベウでは堂々たるパフォーマンスを見せ、クルトワを3度破ってみせた。しかし、そこからクルトワは立ち直り、初戦ではゴールを許したカイ・ハヴァーツのヘディングをセーブ。結果的にベンゼマの“決勝弾”を呼び込み、準決勝進出を決めた。
チャンピオンズリーグで3試合連続ゴールを挙げているベンゼマは確かにマドリーにとって欠かせない存在だ。だが、クルトワも彼と同等か、それ以上重要な選手となっている。
ピッチの両端に最高の選手を抱え、マドリーにとって14度目の栄光は射程圏内に入った。




